映画『子宮に沈める』ネタバレ感想|大阪、苫小牧の事件と一緒に解説

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2013年に公開された映画『子宮に沈める』をご紹介します。

若いシングルマザーと二人の子どもを軸に、彼女たちが暮らすマンションの一室を舞台にして描かれた作品です。

独特の撮り方
定点カメラからの長回しが多く、時には子供の視点のような低い位置からのシーンもありましたね。
人物の顔がフレームアウトするところも多く、起きていることをただ伝える客観的な映し方が印象的です。

育児放棄(ネグレクト)をテーマにしていて最初から最後までずっと陰鬱な気持ちにさせられる映画なんですが、この『子宮に沈める』は、実在の二つの事件をモチーフにして作られています。

  • 大阪2児餓死事件
  • 苫小牧育児放棄死体遺棄事件

大阪の事件は2010年に、苫小牧の事件は2006年に起こったものです。
いずれも幼い子どもをマンションに閉じ込め、餓死させたとしてシングルマザーの母親が逮捕されました。

今回は映画『子宮に沈める』が、実際の事件とどのような部分で共通しているのかをお話ししていきます。

また、合わせておすすめしたい映画も最後にご紹介します。




あらすじ紹介

由希子(伊澤恵美子)は、娘の幸(土屋希乃)と蒼空(土屋瑛輝)と夫の4人家族。だが、夫はめったに帰宅することなく、彼女がたった一人で幼い娘と息子の世話と家事に明け暮れる毎日。結局一方的に夫に離婚を言い渡された由季子は、子ども2人を連れてアパートで新生活をスタートさせ、良き母であろうと奮闘するものの……。

出典:シネマトゥデイ

▼予告編動画はこちら▼

映画では「mixi」という単語が出たり、登場人物が折りたたみのガラケーを使っていることから2000年代後半あたりの時代設定と思われます。

スタッフ、キャスト

監督・脚本 緒方貴臣
母・由希子 伊澤恵美子
長女・幸 土屋希方
長男・蒼空 土屋瑛輝
由希子の夫 辰巳蒼生
由希子の友人 仁科百華
カナメくん 田中稔彦

子役の二人は実際の姉と弟

由希子の子どもは、お姉ちゃんのサチ(幸)と弟のソラ(蒼空)。演じた子役の土屋希方さん土屋瑛輝さんは実際に3歳違いのきょうだいです。

撮影当時は、希方さんが3歳、瑛輝さんが1歳。映画の中盤以降は、サチがほぼ一人で映画を進行させていきましたね。すごい。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



大阪の事件との関連性

まずは2010年に大阪で起きた大阪2児餓死事件の概要から紹介します。

『子宮に沈める』の緒方監督も、この事件が映画のきっかけになったと明言しています。
(参考:fjmovie.com 『子宮に沈める』緒方貴臣監督インタビュー

事件の概要

大阪2児餓死事件

  • 事件発覚:2010年7月
  • 被害状況:3歳の女児と1歳9ヶ月の男児が、約50日間マンションで置き去りにされて餓死
  • 被疑者:当時23歳の母親

逮捕された母親は事件の1年前に離婚。
風俗店に勤務しながら、手当も養育費もない状況で二人の子どもを育てていました。

事件の発覚前から、子どもを置いたまま家を空け、交際相手のところに滞在していたことも。仕事のストレスを解消するためホストに通うようになりました。
自分の自由を求め、子供への育児放棄はかねてから行われていました。

一方で、母親自身も自分の母から幼い頃にネグレクトを受けていた過去があったことも、事件の取材から明らかになっています。

風俗店で働く母親の写真やSNSの投稿などが公開されるなど、「家庭を顧みずにホスト遊びをした母親」として、マスコミがこぞって叩いていたことを覚えている方もいるかもしれません。

つみびと
この事件を題材にした山田詠美さんの書籍もあります。興味のある方はどうぞ。

ゴミ部屋、ドアにガムテープ

幼い命が奪われた3歳と1歳の姉弟という家族構成に加えて、『子宮に沈める』は大阪の事件と多くの共通点があります。

まず部屋の状況について。
『子宮に沈める』で母・由希子たちが暮らすマンションの部屋は、次第にゴミ袋が増えていきます。

大阪の事件では部屋はゴミ屋敷で、エアコンもついていない惨状だったことが明らかになっています。2児の遺体は暑さのため服を脱いだ状態で、ゴミ袋が積まれた部屋のわずかなスペースに横たわっていました。

また映画では、由希子が外出した後、サチとソラは部屋に文字通り閉じ込められます

窓、そして玄関に続くドアにはガムテープが貼られて中から開けられないようになっていました。
サチがトイレに行きたくても行けなかった(ドアを開けることができなかった)シーンは心が痛みましたよね…。

これは実際の大阪の事件でも同様で、母親は部屋から子供が出ないように、ドアに外からテープを何重にも貼っていました。

ちなみに映画内でサチがインターホンの受話器に辿り着き、「ママ、ママ」と語りかけるシーンがありましたが、こちらも実際にあったことというのが近隣住民の証言から明らかになっています。

読んでほしい記事
大阪2児餓死事件は社会的なニュースになったので今でも検索すればたくさんの記事が出てきます。
その中でNEWSポストセブンさんの2012年の記事は被告(母親)の実情に迫ったものです。よろしければ読んでみてください。

苫小牧の事件との関連性

続いて、2006年に起きた苫小牧の事件をご紹介します。

事件の概要

苫小牧死体遺棄事件

  • 事件発覚:2007年2月
  • 被害状況:4歳の男児と1歳7ヶ月の男児が、約1ヶ月間マンションで置き去りに。弟が餓死
  • 遺棄:弟の遺体を当時交際していた男性の家へ運び、物置に遺棄
  • 被疑者:当時21歳の母親

2006年10月30日、母親が自宅に二人の息子を残して外出し、12月初旬に帰宅。
弟は餓死しており、兄は生の米やマヨネーズ、時には生ゴミすらも口にして命を繋ぎました。

その後、母親は弟の死体を交際相手(当時)の家に運び、遺棄。姿の見えない弟を心配した児童相談所の通報により、翌年2月に事件が発覚しました。

この事件も『子宮に沈める』の設定と共通点があります。
J-CASTニュースさんの記事を参照しながら見ていきます。

生き残った上の子

この事件では家に残された兄弟のうち、お兄ちゃんは生き残りました。
先ほども紹介した通り、生の米や生ゴミ、マヨネーズで飢えをしのぎ、家に帰ってきた母親を迎えました。

帰ってきた母親
約1ヶ月ぶりに帰宅した母親でしたが、その理由は近隣住民からの異臭に対する苦情によるものでした。弟の遺体の腐敗が進んだことによるものです。

山崎被告は裁判のなかで、長男が生きていることに驚き、長男は「ママ、遅いよ」と駆け寄ってきたと証言している。
出典:J-CASTニュース

「ママ、遅いよ」

映画を観た方はお分かりだと思いますが、帰ってきた由希子にサチが放った言葉と一緒ですね。

『子宮に沈める』のサチもまた、マヨネーズを口にして何とか命をつなぎました。時には生ゴミも食べていました。

さらに、苫小牧の事件では家を出る前に、母親が最後に作ったご飯がチャーハンだったことも明らかになっています。
映画では超大盛りのチャーハンがドンと机の上に置かれ、「行ってくるね」の言葉を最後に由希子は戻ってきませんでした。

弟の遺体とウジ虫

『子宮に沈める』のソラ(蒼空)は餓死し、遺体の腐敗が進みました。作品内では部屋をハエが飛び回り、帰ってきた由希子がソラの身体からウジ虫を払い落としているシーンがありました。
サチ(幸)は由希子に「ソラ動かないの」と訴えます。

その後に由希子は、ソラの腐敗が進んだ頭部をガムテープでぐるぐる巻きにしてビニール袋を被せました。

これらは全て、苫小牧で実際に起きたことです。

苫小牧の事件では遺体の口の中に大量の虫が入っており、母親が口にガムテープを貼って頭にビニールをかぶせていたことが明らかになっています。

そして苫小牧の事件で命を落とした弟さんの名前は青空(そら)くんというんですよね……

サチの「ソラ動かないの」は実際の事件でお兄ちゃんが言ったとされている言葉です。ちょっともう、何も言えないですよね。



由希子は絶対的な悪なのか

ネグレクトにおいて、子供は純然たる被害者です。

一方で、加害者となってしまった(今回の場合は)母親を、当事者ではない人間がボロカスに叩くことは果たして正しいのでしょうか。
言い方を変えれば、由希子のような立場を叩いたところで、何が変わるのでしょうか。

『子宮に沈める』では、由希子が離婚を経てだんだんと正しいママでいられなくなる様子が映し出されていました。

この映画はすごく客観的な映し方をしているので、由希子がどんな風に考えているのか内面描写はありません。
若い男(カナメくん=田中稔彦)との交際に子供が邪魔になっただとか、彼女が夜の仕事をやっているのかどうか、とかはあくまで推察でしかないんですね。
由希子がなぜ家を出て行ったのかは本人にしかわからないんですよ。

家族四人で暮らしていた頃はロールキャベツとオムライスを作り、豪勢なピクニックランチをこしらえ、離婚した後も何とかサチとソラのためにと、由希子は一生懸命に生きていたはずです。
資格の勉強もしていました。

けれど、どこかで彼女の糸がプツンと切れてしまうわけです。
「この子たちの親、やめます」状態になってしまいます。

逃げちゃダメなんだけど

母親をやめたい。それはもちろん許されません。
子供たちから逃げ出したい。もちろん許されません。

許されないんですけど、じゃあ何でそんな状況にまで由希子が追い込まれてしまったのか。それを考える必要があります。

親であることから逃げた由希子は確かに加害者です。けれど、別れた元旦那やカナメくん、また描かれていませんが由希子の肉親には何かできることがあったのではないでしょうか。

育児、またそれに伴う苦労を母親だけがするもの、母親がする当然のものだという結論になってしまうと、結局由希子のような事はあとを絶たないはずです。

虐待やネグレクトの事件が明らかになると「おまえみたいな女は子供を産むな」と言ったコメントがよく見られます。
気持ちはわかりますし、確かに育てられないなら産むべきではないです。

由希子と赤い糸
終盤に由希子が椅子に座って赤い糸のついたものを自らに押し付けているシーンがありました。
あれは編み針の先っぽを刺して堕胎していたものですね。3人目(になるはずだった)を産まない選択をしたということです。

でも、子供が生まれた時に、自分がネグレクトの道を歩むことになるとわかっている親なんていないんじゃないでしょうか。

生まれてきた子供はお母さんだけの命ではないはずです。

この子がいなくなればいいのに

余談ですが、子供を持つ友人の中には「この子がいなければいいのにと思った」と言うほどに追い込まれたお母さんがいます。それも複数。
泣き声に心を一時やられてしまった人もいます。

結局旦那さんとかご家族のサポートがあって、今では皆さん元気に子育てされていますが、「子育てもう無理」は実は誰もがなり得るものだと思うんです。

逃げ出したくなるのをとがめるのではなく、その後どうやって助けていくか、ですよね。
お母さんをバッシングしても何も解決しないんですよ。

大人んサーさんの記事
色々な考え方があると思いますが、「大人んサー」さんでこのような記事が掲載されています。興味のある方は読んでみてください。
「育てられないなら産むな!」 放置親への非難は事態をかえって悪化させる

残念ながらいまでも同じような形の事件は起きています。

ざっと検索しただけでも2020年には東京・大田区や千葉・市原で、2019年には仙台などで起きた痛ましい事件が報道されていました。

『子宮に沈める』で描かれた育児放棄は決して他人事ではありません。
鑑賞するのにかなり体力と覚悟が必要な映画でしたが、この作品を見ることができて良かったと思えます。

こんな映画も

誰も知らない

1988年に起きた巣鴨子供置き去り事件をモチーフに製作。2004年に公開されました。アパートの一室に放置された4人の兄妹。学校にも通っていない4人をドキュメントに近い形で映し出しています。

きみはいい子

今回紹介した大阪2児餓死事件をきっかけに執筆された中脇初枝さんの短編集が原作。周囲との関わり方に悩み、我が子への虐待に至ってしまう母親を尾野真千子が演じています。

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