映画『浜の朝日の嘘つきどもと』ネタバレ感想|ドラマ版と二本立てで上映してほしい

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2021年公開の映画『浜の朝日の嘘つきどもと』をご紹介します。

タナダユキ監督、高畑充希さん主演のこの映画は、実は2020年に放送された同名ドラマの前日譚。

封切りはドラマ→映画の順番でしたが、作品内の時系列に則って、映画→ドラマの順番で鑑賞しました。

ドラマ版はAmazonプライム・ビデオのレンタルで観ました。他のVODでも取り扱っています。

今回は映画版について、下記の3点から感想を書いていきます。

  • この映画と福島について
  • 南相馬が迎えるのは再興か、新興か
  • 圧倒的な高畑充希

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



あらすじ紹介

福島県南相馬に実在する映画館を舞台に、映画館の存続に奔走する女性の姿を描いたタナダユキ監督のオリジナル脚本を高畑充希主演で映画化。100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた福島県の映画館・朝日座。しかし、シネコン全盛の時代の流れには逆らえず、支配人の森田保造はサイレント映画をスクリーンに流しながら、ついに決意を固める。森田が一斗缶に放り込んだ35ミリフィルムに火を着けた瞬間、若い女性がその火に水をかけた。茂木莉子と名乗るその女性は、経営が傾いた朝日座を立て直すため、東京からやってきたという。しかし、朝日座はすでに閉館が決まっており、打つ手がない森田も閉館の意向を変えるつもりはないという。主人公・莉子役を高畑が演じるほか、大久保佳代子、柳家喬太郎らが顔をそろえる。本作と同じタナダユキ監督&高畑充希主演で、福島中央テレビ開局50周年記念作品として2020年10月に放送された同タイトルのテレビドラマ版の前日譚にあたる。

出典:映画.com

スタッフ、キャスト

監督・脚本 タナダユキ
浜野あさひ
(茂木莉子)
高畑充希
森田保造 柳家喬太郎
茉莉子先生 大久保佳代子
バオくん 佐野弘樹
岡本貞雄 甲本雅裕
クリーニング店店主 六平直政
市川 神尾佑
浜野あさひの父 光石研
川島健二 竹原ピストル
松山秀子 吉行和子

ドラマ版では、あさひ(高畑充希)、森田(柳家喬太郎)、川島(竹原ピストル)、秀子(吉行和子)、ドラマ版の新キャラ(小柳友)の5人でほぼ物語が完結します。

その他で映画版に引き続いて出ているのは多分、六平直政さんくらいですね。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



この映画と福島

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

この映画は福島県の南相馬にある、つぶれかけの映画館を存続させ、再生させましょうという物語。

東日本大震災(に伴う原発事故)による傷だったり、震災後の身の振る舞い方だったり、あるいは令和に入ってからのコロナ時代だったり。逆風にさらされてきた福島から目をそらすことなく描いた作品だと思います。ドラマ版では除染廃棄物とか立入禁止区域の話も出てきます。

そもそも主人公の浜野あさひ(高畑充希)が自分の名前を「浜通りの浜」と表現している時点で、訴えかけている対象がわかります。

福島県の地図

福島県の地図

引用元:福島県ホームページ 県内59市町村情報リンク

福島県は47都道府県で3番目に面積が広いんですけど、県内を会津地方(西部)、中通り(中部)、浜通り(東部)に区分しているんですね。

浜通りっていうのは太平洋側の沿岸部のことで、この映画の舞台になっている南相馬市は浜通りの中でも北部に位置します。

福島原発があるのはもう少し南の大熊町です。

震災成金と代償

主人公の浜野あさひ(高畑充希)は高1の時に東日本大震災を経験しています。10個年の離れた弟がいるらしいです。

で、東日本大震災に伴う原発事故で大きな被害を受けた福島県・特に沿岸部ですが、タクシードライバーだったあさひの親父(光石研)は独立。

浜野朝日交通というタクシー会社を立ち上げ、機動力を奪われた被災地域で仕事を獲得しました。

親父は働いた分だけ儲けました。
儲けたんですが、特需にあやかった震災成金と呼ばれて後ろ指をさされ、THE 中流階級だった浜野家はバラバラになってしまいました。

お母さんも放射能のことでノイローゼみたいになってしまい、おかしくなってしまったと、あさひは述懐しています。

『希望の国』(2012)でも同じような描写がありました。

震災を利用して稼いだと周りに白い目で見られた親父同様、「浜野朝日交通」と会社名の由来となったあさひも、厳しい目に晒されることになりました。

安積第一高校

あさひは安積第一高校という県内屈指の名門校に入学したものの、そこでも親父のことで差別を受けて人生に絶望しています。

そんな浜野あさひを救ったのが、映画であり、映画を教えてくれた茉莉子先生(大久保佳代子)だったんですね。

余談ですが、安積第一高校のモデルは福島県立安積高校です。

福島県の地図

福島県の地図

引用元:福島県ホームページ 県内59市町村情報リンク

先ほども引用した福島県の地図に照らし合わせると、安積高校は「県中」地域の郡山市にあり、福島高校(県北・福島市)や磐城高校(いわき市)などと並ぶ県内有数の進学校です。読み方は「あさか」。

映画に出てくる洋館風の校舎は安積高校の旧校舎で、現在は安積歴史博物館として国の重要文化財に指定されています。
地元の方なら一目でわかる感じだと思います。

ドラマ版でも「安積第一高校」は謎多き茂木莉子の数少ない「真実」としてキーを握っています。

つまり何が言いたいかというと、浜野あさひが通っていた安積第一高校は進学校だったということですね。
映画内で茉莉子先生が「うちの高校入るくらいだから(浜野は地頭はいいのね)」と言っていましたけど、それくらい言わせるだけのステータスが安積第一高校にはあるわけです。

しかし、浜野一家は成金の父親をめぐる悪評に耐えきれず東京へ移住。そこでも馴染めなかったあさひは母親といよいよ反りが合わなくなり、茉莉子先生のところ(郡山でしょう)に避難してきます。

茉莉子先生への違和感

彼女の最後のセリフから逆算すれば、茉莉子先生は大久保佳代子さんである必要があったんだと思いますが、個人的にはどうだかなと感じてしまいました。

この映画の大きな魅力として、大久保さんの茉莉子先生を挙げる人が多いのはよくわかります。ただ、それは結局「タレントとしての大久保佳代子さん」っていう前提が評価を左右しているんじゃないかなとも思うんですよね。

僕はテレビを観ないので大久保さんが普段エンタメの世界でどういう立ち位置なのかとかは知りませんし、別に好印象も良くない印象もないんですけど、田中茉莉子先生役の人は俳優として一段落ちるなと思いながら観ていました。
これは演者さんの文脈を知っているかそうでないかの問題になってきますが、「知らない」側としては別の俳優さんで良かったのでは?と思います。

▲ちなみに茉莉子先生がジジイとバトった「二本立て」についての柳家さん、大久保さんのセレクトです。



復興か、新興か

『浜の朝日の嘘つきどもと』で描かれる南相馬の町は、東日本大震災と、集落の高齢化や不況、そしてコロナでの打撃と、結構な逆境が続いています。

朝日座も不況のあおりを受け、採算性が取れないことから、リハビリテーション施設を併設したスーパー銭湯に建て替えられることが決まっています。

それをどうにかできませんかねぇ?と高畑充希が奮闘し、南相馬の現状と「映画」が持つパワーの限界に直面していく話でした。

南相馬に限らず、災害などで「被災」した地域は「復興」を目指すと表現されます。
とりわけ東日本大震災で被害を受けた岩手、宮城、福島は「がんばっぺ東北」という感じで「復興」が常について回っていたと思います。

ただ、津波で甚大な被害を受けた宮城県の女川町などは、復興といった「元の姿に戻る」のではなく、ガラッと新しい町に生まれ変わっています。

女川町の画像

女川町。2021年筆者撮影

元の姿を取り戻すのか、新生させるのか。
朝日座の存続や跡地の候補を考えると、なかなか興味深かったです。

映画の復権か町の再生か

『浜の朝日の嘘つきどもと』では、映画の現状を危惧しています。

廃業寸前に追い込まれた「100年くらい続いた」地元密着型の映画館。

デジタル配信、YouTubeと新たな鑑賞形態が定着し、今「映画館」である意味は本当にあるのかということ。

映画に限らず、エンタメは常にユーザー・お客さまの可処分時間をいかにして頂戴するかの勝負。

「映画館を経営するなんて博打みたいなもんだろ」と支配人のジジイ(柳家喬太郎)からは白旗宣言が飛び出し、そもそもこの時代に映画という娯楽が必要とされているのだろうかと、厳しい現実が突きつけられます。

茉莉子先生(大久保佳代子)の働いていた映画配給会社は5年でつぶれました。
あさひの入社した映画配給会社もコロナでつぶれました。

映画好きとしてはかなり耳の痛い話ですよね…

そんな中、存在価値が問われる映画館を閉め、跡地にスーパー銭湯とリハビリ施設を建設しようと息巻いたのが、オフィスアイ・市川(神尾佑)でした。

「僕、飯舘の出身なんですよ」

市川はこう言います。飯舘とは南相馬の西隣に位置する村です。

福島県の地図

福島県の地図

引用元:福島県ホームページ 県内59市町村情報リンク

最初は伝統ある映画館を潰して、新しいものにするなんて酷いやつだと思ったんですよ。でも、彼の言い分は圧倒的に正論であり、彼がこの町(南相馬)を救おうとしていることも欺瞞ではないことがわかってきます。

市川が唱えるスーパー銭湯は、まず年齢や性別の敷居がありません。これは映画と同じですし、お風呂でくつろぐことの重要性が人それぞれで変わってくるのも映画と同じです。

しかしそこにリハビリ施設を併設することで、高齢社会の南相馬において価値の重さは変わってきます。
リハビリといっても色々なレベルがあって、負傷した若者が病院で歯を食いしばって行うようなものもあれば、ストレッチやお手玉を使ったようなものも(主に高齢者向けの)リハビリです。

そしてリハビリ施設にはトレーナー・指導員の雇用が生まれるわけです。スーパー銭湯も含めて。

朝日座の借金450万円はともかく、解体にかかるお金は1000万円。
そこにも雇用が生まれます。居抜きではなく解体するからこそ生まれる雇用です。

雇用を生みだして町が活性化すれば、南相馬を出ていった子どもが帰ってくるかもしれない。そんな期待も住民には生まれます。

「結局血の繋がりかよ」と絶望するあさひ(高畑充希)に対して、秀子さん(吉行和子)は「家族なんて幻想かもしれない。でもね、その幻想にみんなすがりたいのよ」と諭しました。これは「家族」を「映画」に置き換えてみても合致しますね。

付け加えると市川役の神尾佑さんは福島県いわきの出身なんですよね。
フィクションにおいて出演者の出身地がどうというのは野暮かもしれませんが、市川を単なる嫌な奴で終わらせない意味があると感じました。



圧倒的・高畑充希

僕がこの映画を好きな理由はもう圧倒的に、高畑充希さんの存在感に依るところが大きいです。

『まともじゃないのは君も一緒』の清原果耶さん然り、『日本で一番悪い奴ら』の綾野剛さん然り、口の悪い登場人物が好きなんですよね。俳優さんによって言葉を紡ぐリズムが違ったり、舌打ちとかアドリブも入ってきたり。個性がダイレクトに感じられて。

で、『浜の朝日の嘘つきどもと』の高畑充希さんは、パワーワード「ジジイ」を頻発することで心をつかんでいきました。

口悪すぎて草

浜野あさひ(高畑充希)は朝日座にやってくると、フィルムを燃やそうとしている森田(柳家喬太郎)を阻止。

何すんだ、誰だよオメェと怒る森田に対して「わかんねージジイだな、誰だっていいだろ」と応戦します。「名前くらい名乗れよ」しつこく名前を聞くジジイに茂木莉子と偽名を名乗り、朝日座先代支配人の縁でどうたらこうたらと苦しい嘘を並べながらも、強引に朝日座のもぎりバイトになりました。脅迫といってもいいです。

この人きっと親戚の葬式で休みます的な感じで嘘つくタイプですよね…笑

何処の馬の骨かもわからない茂木莉子(推定20代中盤)は息を吐くように嘘をつき、朝日座に自分が導かれた運命をそれっぽく語り、薄給ながらも地道なビラ配りで住民の心をつかみ、町に馴染んでいきます。圧倒的コミュ強。

朝日座を紹介するテレビ番組に映ったジジイ・森田保造さん(57)の年齢に、嘘だろw75だろwと本気で突っ込み、かくいう自身も茂木莉子さん(26)と偽名で堂々と看板娘として出演。
一言で言えば図々しいんですよ。清々しいまでに我が物顔で振る舞ってて草。

ドラマ版の導入部では、
「映画好きの祖父がこの名前つけてくれたんですけど、今思えばこの名前って運命なのかな。この映画館、曽祖父が作って祖父(森田のこと)が必死にここ守ってて、老体にムチ打ってやってるんですけどアルバイトも雇えなくて孫の私がモギリを」
的なことをダーっと喋っています。

アルバイトも雇えない、くらいしか正しいことは言ってません。さりげなくジジイ(森田)を75歳扱いして自分の祖父に設定しています。

マシンガン口撃でアドバンテージをとっていくパターンは論破とか畳み掛けとか、いくつかありますけど、高畑充希さんは(言葉の)殴り合い上等な感じで自分の立ち位置の優位性をとって行く感じですね。息継ぎをちゃんとしながら単語量の多い台詞を自分の言葉として吐いていきます。いやもう大好き。

ちなみに映画『町田くんの世界』では猫かぶり高校生役として、前田敦子さんと抱腹絶倒のバトルを繰り広げているのでこちらも是非観ていただきたいですね。

そんな茂木莉子に影響されたのか、はたまたこの人も最初から嘘つきだったのかはわかりませんが、森田のジジイも「息を吐くように」嘘をつくようになっていきます。特にドラマ版。

ドラマ版では映画のタイトル『浜の朝日の嘘つきどもと』の「嘘」の部分が回収されていくので是非映画版の後に観ていただきたいです。

浜野あさひの10年間

で、そんな口の悪い茂木莉子、もとい、浜野あさひですが、彼女は最初から乱暴な言葉遣いだったわけではないんですよね。

  • 高2の転校前
  • 高3時の家出
  • 25歳(現在から1年前)

この映画では浜野あさひの人生が3地点で描かれます。ただ高校生時点のあさひからは、今のような強心臓ぶりは感じません。むしろ生きることに絶望して卑屈になっていました。

「家族」に絶望し、放り出され、茉莉子先生(&その男たち)と過ごしていく高校生あさひ。高2の時、茉莉子先生と屋上で会った時は「死んだような顔」だったんですよね。人生を閉業することも選択肢に入れていました。

それが謎の生徒指導室チックなところで秘密の放課後を過ごすようになり、東京へ転校した1年後には茉莉子先生を恩師と頼り、彼女の恋人(大人)相手に、いかに茉莉子先生が人気教師であるかを懇々と喋り続け、先生と映画鑑賞する毎日に救われて夢を見つけ、そして先生の遺志を受け継いで森田の元に現れました。先生が託した「センスない二本立ての、支配人のジジイ」の元へ。

1年前、郡山の病床に伏せる先生を見舞ったときに、あさひは随分垢抜けたと言われています。確かに。高3の時はいつも同じショートパンツ履いてましたからね。

この映画の茂木莉子のファッションは衣装からピアス、髪型やメイクに至るまで超絶センスがいいんですが、彼女がどのようにしてここまでガッツリと垢抜けたかに思いを馳せるとまた面白い。

あそこまで妥協なく自分の着たいものを着るのって、相当自己分析して好きなものだったり似合うものを突き詰めないと無理だと思うんですよね。普通の人がじゃあこの衣装着ましょうね、ってなっても服に着られるんですよ。

でも浜野あさひ25歳は自分を表現する術として、強気な性格へキャラ変し、個性的なファッションを自分のものにしました。

大学に行って、社会人になって、感度の高い人たちと出会って、彼女はどんな風に自分のアイデンティティを固めていったんだろう。どんな作品に影響を受けていったんだろう。
映画内では描かれなかった浜野あさひの“余白”の部分をそんな風に考えると何とも胸熱でした。

返す返すも本作品の高畑充希さん、もう圧倒的に可愛かったです。素敵でした!

 

この映画では最後に“いつまでもあると思うな親と金”のように、家族や映画がある日常をいつまでも当たり前だと思うなよと登場人物が言っていました。特に良かったのがジジイの「解体するって言ってから惜しまれてもねェ」ですよね。

これは映画館に限らず、結局人々は失ってからじゃないとその喪失感に気づかないんですよね。失って初めて惜しむ。あるいは失うことがわかってから初めて惜しむ。
閉店セールで名残を惜しむ光景がよく見られますが、そんなに惜しむんだったら平常時にもっと行っとけよと思うんですよ。そうしたら閉店しなかったかもしれないんですから。

だから大切なものがちょっとやばいかなと感じた時点で手を差し伸べてあげてほしいし、後の祭り状態になる前に、行動を起こしてほしいんですよね。

 

ドラマ版でも茂木莉子とジジイが最高の掛け合いを見せています。ぜひ映画をご覧になった後に観てみてください!

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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