映画『モテキ』を10年後に再鑑賞する面白さとは(ネタバレあり感想)

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

映画というのは当時の世相を鮮やかに映し出す側面を持っています。
その再現度の濃淡によって、観た人の評価や共感度も大きく変わってくるのではないでしょうか。

では、何年も前に公開された映画を再び鑑賞した時、どんな印象を持つでしょうか?

公開当時のトレンドにノスタルジーと時代の変化を感じるのか。
それとも現在も変わらない普遍性を感じるのか。

今回は2011年に公開された『モテキ』を改めて鑑賞して、10年前の映画に対して思ったことをご紹介します。

上映当時『モテキ』には、散りばめられた最先端に圧倒的な衝撃を受けました。あれからもう10年です。

  • 『モテキ』に出てくるソーシャルメディア
  • 前時代的な描写について
  • るみ子について

この記事ではこの3点について感想を書いていきます。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



あらすじ紹介

三十路前のモテない男・藤本幸世が、ある日突然、モテはじめたことから起こる騒動を描き、2010年にはTVドラマ化もされた人気コミックを実写映画化。主演はドラマ版に続き森山未來。ドラマ版から1年後を舞台に、原作者・久保ミツロウによるオリジナルストーリーが展開される。派遣社員を卒業し、ニュースサイトのライターとして正社員になった幸世に、ある日突然「第2のモテキ」が到来。新たに目の前に現れた女性たちと過去の女性たちとの間で揺れ動く幸世は……。幸世を取り巻く新たなヒロインたちを演じるのは長澤まさみ、麻生久美子、仲里依紗、真木よう子。監督はドラマ版の演出も手がけた大根仁。

出典:映画.com

『モテキ』のスタッフ、キャスト

監督・脚本:大根仁
原作:久保ミツロウ
藤本幸世:森山未來
松尾みゆき:長澤まさみ
桝元るみ子:麻生久美子
愛:仲里依紗
唐木素子:真木よう子
愛の母:りりィ
墨田卓也:リリー・フランキー
山下ダイスケ:金子ノブアキ

藤本幸世、31歳、セカンド童貞

この映画の主人公・藤本幸世(森山未來)は1980年生まれのセカンド童貞。映画内の2011年時点では31歳です。

「セカンド童貞」というのは、2010年に放送されたドラマ版を受けての表現なわけですが、映画の『モテキ』では31歳になり、派遣社員を卒業した幸世くんが新たに4人の女性と巡り会い、恋の嵐が訪れる?的な内容になっています。

幸世くんの前に現れるのは、趣味が合い見た目もストライクど真ん中、ただし彼氏持ちのみゆき(長澤まさみ)・26歳、みゆきの友達でフリーのるみ子(麻生久美子)・33歳、ガールズバーの店員・愛(仲里依紗)、幸世の働くナタリーの先輩社員である唐木(真木よう子)の4人。

恋愛に発展するのは実質みゆきとるみ子でしたよね

2011年当時、僕自身は23歳でこの映画を観て、めちゃくちゃ打ちのめされたんですよ。

サブカル野郎の幸世くんはコミュ力低めの卑屈な男なんだけど、決してキモくはなくて、何なら初対面のみゆきちゃんに「ハハッ!何だカッコイイじゃん!」なんて言われるくらいにはシュッとしてて。

テーラードジャケットの中にインパクト抜群の勝負Tシャツを着込んでスキニー履いて、って今の子たちが見たらダセェって思うんでしょうが、あれは確かに10年前の王道コーデだったんですよ。

むしろこんなかっこいいのにディスられるなんて大人は大変だなぁみたいな感じで観ていたんですよね。

で、あれから10年が経って。

様々な出会いだったり恋をして、ミネラルウォーターの口移しとかガールズバーとか転職とかも経験して、みゆきちゃん(26)の歳を経て、幸世くん(31)の歳を経て、るみ子さん(33)の歳になりました。
るみ子さんとみゆきちゃんの関係みたいな、7つ歳の違う友達も出来ました。

そんな2021年、『モテキ』を久しぶりに鑑賞して思ったことについての感想です。



10年前のソーシャルメディア

ツイッターの画像

出典:Pixabay

SNSという単語が一般化した現代ではTwitterやInstagram、LINE、facebook、YouTubeといった色んなソーシャルメディアが隆盛を誇っています。

この中でインスタ(2010年リリース)とLINE(2011年リリース)については映画『モテキ』では登場しない一方、映画内のコミュニケーションの大半はTwitterで行われており、Twitterの認知度を上げることに一躍買ったのではと思っています。

趣向を凝らしたエンドロールではメインキャストのクレジットの横に(映画内で使われていた)Twitterのアイコンが添えられています。当時のアイコンは四角だったんですよね…懐かしい。

facebookは出てこないものの、幸世くんが働く「ナタリー」編集長の墨田(リリー・フランキー)は映画『ソーシャル・ネットワーク』に影響受けた的なことを言っていましたし、あの映画はfacebookをテーマにしたものです。

またYouTubeに関して言うと、エンドロールの映像は明らかにYouTubeを模したものだった一方で、るみ子が幸世くんに「神聖かまってちゃんとかYouTubeでちゃんと聴くからァ」と泣きながら縋り付いているあたり、YouTubeっていうのは幸世くんみたいな感度高めの人たちが主体的に好きなモノを取りに行くツールだったと思うんですよ。今ほど認知度の高い、情報を発信するメディアとしてのプラットフォームではなかったんです。

10年前のYouTubeを思い出すと、僕は好きなアーティストのライブ映像を観たりだとか、サッカーの応援歌の動画を観たりとか、そういう使い方をしていたと記憶してます。

るみ子はサブカルに造詣が深い幸世くんやみゆきちゃんと違い、最先端を追っている人ではありません。

いま再鑑賞してみると「何で神聖かまってちゃんを“YouTubeで聴く”とわざわざ言うのか」っていう感覚があるんですけど、当時は自分の守備範囲外の音楽に触れようと考えると、エムオンとかスペースシャワーみたいな専門チャンネルを見るか、YouTubeに転がっているのを見つけに行くか、選択肢はそこらへんだったなぁと思うわけで。

だからるみ子のセリフに出てきた「YouTube」は、今ほど誰もが当たり前にアクセスするツールではなかったんですね。

 

ちなみに幸世くんがみゆきちゃんと初めて会った夜に「進撃の巨人」トークで盛り上がりましたが、幸世くんは「進撃の巨人知ってんの?」という言葉を発しています。

進撃の巨人は、世間一般ではアニメが始まった2013年から爆発的なブームとなりましたが、2010年末に「このマンガがすごい!」のオトコ編1位に輝いています。(参考:コミックナタリー 「このマンガがすごい!」1位は「進撃の巨人」&「HER」

なので映画公開当時の2011年、「進撃の巨人」はオタク界隈の知る人ぞ知る的な位置付けだったんですよね。
上で書いたように、みゆきちゃんや幸世くんの評価通り、その後この作品は圧倒的な名声を獲得していくことになります。

「なう」時代のTwitter

Twitterに話を戻します。

映画『モテキ』では幸世くん(森山未來)がみゆきちゃん(長澤まさみ)とTwitter上で知り合い、DMを重ね、オフ会の形でリアルに会って恋に落ちていきます。
みゆきちゃんのツイートを隈なく読み込み、彼女がいま何しているかを探る幸世くん。監視型ストーカーかよ。

さらにるみ子(麻生久美子)も幸世くんの「なう」をTwitterのTLで見てカラオケに誘い、その二人が一緒にいたことを、みゆきちゃんもまたTwitterで知るわけです。加えて、みゆきちゃんの友達の彩海ちゃん(山田真歩)も「Twitterやってるんだよね?あとでフォローしとくわ」と言っていたように、Twitterは友達と連絡をとるためのものだったんですね。

文字通り「いま、どうしてる?」をつぶやくツールで、タイムラインを見れば「いま」その人が何をしているのかがわかる。暇そうだったら誘ってみる。ある意味個人情報だだ漏れでしたね。

でも、10年後のTwitterってどうなんだっけ?と考えると、いかに共感へといざなえるか、多くの人を動かす情報を発信できるかっていう部分が大きくなってると思うんですよ。

「いま、どうしてる?」を思いつきでつぶやくだけではなく、何らかの意図を持って発信するツールになってると思うんです。バズるっていう言葉も2011年当時にはありませんでした。

『モテキ』では「ナタリー」の採用面接で幸世くんが「(御社は)Twitterの運用も積極的で…」みたいなことを言っていましたけど、今では企業がマーケティングとしてTwitterやインスタを利用するのは当たり前になりましたよね。

だから今再鑑賞してみると『モテキ』の中で幸世くんたちが使っているクローズドな関係性でのTwitterには時代を感じます。けど、あの当時「なう」を呟きまくっていたツイ廃の幸世くんは確かに最先端だったんですよ。フォロー数345、フォロワー数3、ツイート数34,211(ナタリー採用面接時)。

iPhone勢

幸世くんたちが持ってる携帯に注目してみても結構面白いです。

幸世くんがみゆきちゃんとやりとりしていたTwitterのDMが実は「ナタリー」社内に筒抜けでした、というシーンではナタリー社員が一斉に自分の携帯をすちゃっと取り出します。

で、これがまたみんながみんなスマホでもないんですよね。幸世くんや墨さん(リリー・フランキー)はiPhoneでしたけど、ガラケーの人もそこそこいます。見た感じ4割くらいでしょうか。
先輩社員の真木よう子もスライドのガラケー勢です。

総務省によると、2011年当時のスマホ普及率は29.3%。前年は9.7%だったので大きく増えていった時期です。20代に限ると50%近いですが、30代は大体30%、40代は20%を下回っています。
(参考資料:総務省 数字で見たスマホの爆発的普及(5年間の量的拡大)

トレンドへの感度の高い幸世くんやみゆきちゃん、墨さんはiPhoneを使っている一方、るみ子はガラケーでしたよね。

自分も当時は20代前半でしたが、まだパカパカのガラケーを使っていました。スマートフォンに移行したのは翌年です。

ガラケーにはアプリなんていう概念がなかったのでtwtr.jpっていうサイトをブックマークして「いま、どうしてる?」を呟きまくってた記憶が。るみ子がつぶやくガラケーのインターフェースなんて今見たらなんじゃそりゃですけど、当時は確かにあれだったんですよ。笑



前時代性は感じるが

『モテキ』を再鑑賞してみて“時代”を感じたと書きました。
服装とか音楽のようなトレンドシーンもそうですが、もっと枠組み的なところで言うと「おひとりさま」行動と、幸世くんに対する童貞いじりの部分です。

「一人カラオケするぐらい」

るみ子(麻生久美子)みゆきちゃん(長澤まさみ)に連れられてナタリー編集部の飲み会に合流。みゆきちゃんは一次会が終わると「るみ子置いてくんで」と言って、猛々しいメンズの中にるみ子を一人残してドロンします。

男どもプラスるみ子の軍団は二次会のカラオケへ突入し、ここで幸世くん(森山未來)はるみ子にカラオケが好きじゃないのか話しかけます。カラオケとか好きそうじゃないよね、みたいな先入観丸出しで。

「逆なんです。一人カラオケするぐらい大好きで」

るみ子はこう返し、幸世くんは「俺も一人カラオケするよ!」と連帯意識が芽生えるわけですが、ここで注目したいのは「一人カラオケするぐらい」のところです。

「するぐらい」っていうのは「カラオケがどれぐらい好きか」の程度を表すものですが、この表現は一人カラオケがまだ珍しいものとして見られている証だと思うんですね。

実際後日のシーンで一人カラオケでB’zを熱唱するるみ子に対して、部屋の外から覗くカップルはドン引きしていましたし、何なら合流してB’zメドレーを一緒に歌った幸世くんも「本当にやってんだね、一人カラオケ」とさりげなく驚きを口にしています。(この幸世くんのセリフ「本当にやってんだね」には、るみ子を彼が見くびっていた部分があると思うんですよね)

コロナ禍になって以降カラオケに行く機会が減ったとはいえ、10年経った現代において「一人カラオケ」は珍しいものでも何でもありません。動画を撮影して上げている人も多々いますし、何人かで入って部屋は別々っていう人も多いですよね。

カラオケに限らず、おひとりさま行動に伴うハードルがグッと低くなっています。
るみ子が吉野家で牛丼を豪快に頬張っておかわりを貰い、周りの男性客から拍手喝采となるシーンも前時代的に感じました。

一人カラオケにしろ、女性の一人牛丼にしろ、『モテキ』公開当時には物珍しいものっていうバイアスがかかっていると思うんですね。

圧倒的パワハラ案件

もう一つ、幸世くんに対する童貞いじりも前時代性を感じたシーンです。

「ナタリー」へ出向いた幸世くんは採用面接で墨さん(リリー・フランキー)や先輩社員から「童貞だろ」「絶対童貞っすよね」とからかわれ、墨さんは挙げ句の果てに「童貞がこの会社を歩いてることが嫌なの。俺がね」などと抜かします。

ドSの先輩社員(真木よう子)はもっと酷くて、事あるごとに幸世くんを「これだから童貞は」と罵ります。

(「よく見ると結構エロい女の子」に声をかけたものの彼氏風情が現れて撃沈した)幸世くんがフェス取材で写真を取り忘れたときなんて特に酷かったですよね。

「これだから童貞はよォ!チッ!」「童貞に仕事任せんなよ!」

もちろん仕事をすっぽかしてしまった幸世くんは責められるべきだし、彼が作品の中で「セカンド童貞」という位置付けである以上、真木よう子さんが「童貞」に対してやんや言うのはわかるんですけどね、それにしても酷い。金やるから風俗行ってこいよとか言ってましたよね?笑

僕が新卒で入った職場は世間一般でいうところのNGワードが飛び交うところだったんですけど、2013年くらいから外部からコンサルみたいなのが人事部門に入ってコンプラに厳しくなったんですね。

で、女性経験のない若手社員にふざけ半分で「チェリー」「おい、チェリー」って連呼してた上司がパワハラ告発を受けて飛ばされたんですよ。

多分今のご時世で言えばその判断は然るべきものだったと思います…

でもこれって、墨さんとか唐木さん(真木よう子)とかと同じなわけで、あの人たちもパワハラ認定されてもおかしくないんですよね。

一方で童貞=恥ずべきものみたいな風潮が10年前はまだ残っていたのも確かで。だから童貞っていうキーワードをフックにした『モテキ』という作品が人気を博したわけです。

おひとりさまへのアプローチも、童貞いじりも前時代的だと思います。
でもそれを古いなぁ、時代だなぁって思えるのって、我々の選択肢が広がったことを意味するわけで、時代錯誤に見受けられる感覚は幸せなことなんじゃないかなと感じました。

頑張れるみ子

最後に『モテキ』を再鑑賞し、るみ子(麻生久美子)について思ったことを書いてみます。

公開当時に見た印象でいうと、るみ子に対してはそんなに感情移入しなかったんですよね。重い人だな、その重さが怖いな、くらいとしか思わなかったんです。

ただ、10年が経ってるみ子と同じ歳になってみると、彼女の見せる重さとか、切羽詰まった感じが身に染みてきました。リリー・フランキー演じる墨さんは「るみ子ちゃんは頑張り屋さんなんだね」なんてことを抜かしやがってましたね。くそおやじです。笑

重いと感じる理由

幸世くんが「っていうか重い!」と突き放したように、るみ子は重いです。確かに重い。
その一番の理由はあのカラオケの夜の日の、次の朝にあると思うんですよ。

B’zメドレーを熱唱した後の帰り道、ジュディマリのLOVER SOULに乗りながら幸世くんに「特別に好き」と告白し、るみ子は歌詞そのままに“あなたの体に溶けてひとつに重なり”、夢の中へYeahします。

で、その後。朝の光がカーテンの隙間から挿し込み、メイクの落ちた顔を「嫌!」と恥じたるみ子は逃げるように浴室へ行きました。

シャワーを借り、顔も直して、自信を取り戻して戻ってきたるみ子。

「タオル借りたね?」が独特で好きです。笑

ここでるみ子は「お茶かコーヒー淹れる?それか朝ごはんつくろうか。冷蔵庫開けちゃっていい?」と、ベッドの幸世くんに提案しました。

もう一晩で彼女ヅラですよ。
この距離感に幸世くんは苛立ち、戸惑い、「あぁぅぁあいいよやめ…」と拒否ったわけです。

るみ子と「ごめん」

幸世くんとの乖離を察したるみ子は、「…ごめんなさい」と謝ります。謝られた幸世くんは幸世くんでまた自己嫌悪。

後日、幸世くんはるみ子に「付き合うとか無理!」「だって俺たち合わないじゃん」「っつか重い!!」と罵り、それに対してるみ子は「ごめん…」「ごめんね‥」と謝り、私努力するからB’z聴くのもやめるし幸世くんの好きなもの勉強するし、神聖かまってちゃんとかYouTubeでちゃんと聴くからぁと、セリフ全てに濁音がついたような声で咽び泣き、だから離さないでほしいと幸世くんを押し倒し縋り付きました。これは精神的にではなくて物理的に重い。

そうやってすぐ謝って自分を低く見積もるところとかが幸世くんとしてはまたイラつくんでしょうけど、彼も彼で自分を好いてくれるるみ子への甘えですよね。

「格好悪いふられ方」が引用されていましたが、この幸世くんは格好悪いふり方だと思います。

どうしてるみ子はこうも「ごめんなさい」を連呼してしまうのかと考えると、尽くし型としての特性に加えて、自己肯定感の低さがあると思うんです。

どうせ私なんて、どうせ私の好きなことなんて、理解されない。
だから自分を発現するよりも、まず相手ファーストで相手に合わせて好きになってもらう。だからすぐに「ごめん」って言っちゃう。

謝らなくていいんですよ。飯作るねって言っていらないって言われたら、あっそう、でも私お腹すいたから何か食べるねって言うくらい堂々としてていいんじゃないかな。

ちゃんと需要ありますよ

みゆきちゃん(長澤まさみ)なんかは(意識的にか無意識的にかわからないけど)男性を魅了して自分を中心に置く立ち位置の取り方がわかっています。ナタリー勢との飲み会の最中もそうだし、終わった後の「ドロンしまーす!シュシュシュシュシュシュ」なんかも主役じゃないと出来ないですよね、あんなん。笑

そんな太陽みたいなみゆきちゃんがいる一方で、るみ子はそこまで強烈な自己を顕示出来るわけでも、幸世くんやみゆきちゃんみたいに「好き」なことへ深い造詣を持っているわけでもありません。

でもそんな大して魅力的ではないと思っていた自分の「好き」を、変形型ミニカーを凄いと言ってくれた幸世くんを(余談ですが、あのシーンでみゆきちゃんが見せていた目は“中心”を射止めたるみ子への敵意だと思っています)、大好きになってしまったんですよね。

幸世くんがみゆきちゃんのことを好きなのは知った上で。
知った上で好きになっってもらおうと努力はしてみたけど、ふられてしまう。不憫。

幸世くんに失恋して、傷心につけ込むようにお誘いをしてきた墨さんとの一夜を経て(この作品で一番のクソ野郎は墨さんだと思います。笑)、これからは色んな男とやったほうがいいんじゃないの?とかわかったような口をきくおっさんを尻目にシェラトンホテルを出て、吉牛を頬張るるみ子は確かに新たな一歩を踏み出したんだとは思います。

でもそれって上で書いたように「女の一人吉牛」が枠からの脱出だよね、みたいな先入観に基づいているわけで、彼女の救いにはなっていないと思うんです。不憫すぎますよ。

この作品で好きなのがガールズバーの嬢・愛(仲里依紗)が「藤本さんみたいなタイプって、ちゃんと需要ありますよ?」って言うところなんですけど、恋愛関係においての需要と供給って、歳を重ねれば重ねるほどに大事な側面だと思います。自分が歳とってからは特に感じます。

「だって俺たち合わないじゃん」で片付けられてしまったように、るみ子は幸世くんの需要に合わなかったかもしれない。
だったら、るみ子を求める人と需要と供給がマッチするワンシーンが欲しかったなと思いました。

同じく大根監督が後年に撮った『恋の渦』では、彼氏の幸せが私の幸せ!みたいなドM女子が、しがらみから独立し、別の相手と需要と供給を満たす様が描かれています。

不憫な形で終わってしまった『モテキ』内のるみ子に、意のままに振る舞える幸せな未来が待っていますように。もう「ごめん」なんてすぐ言わない貴女になりますように。

頑張れるみ子、負けるなるみ子。

そんな思いを持ちながらの再鑑賞でした。

10年経って観てみると時代を感じたりすることも多々ありましたが、やっぱりめちゃくちゃ面白い作品だったと思います。

当時iPhoneをスワイプしながらツイッターにいそしむ幸世くんは確かに最先端でしたし、エッジの利いた幸世くんやみゆきちゃんに数年後の世間が追いついて、そこからSNSはさらに発展を遂げていったと今でも思っています。

在りし日の歴史資料としても秀逸でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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初めの15分が不愉快かもしれませんが(笑)頑張って乗り越えて観てください。面白いです!

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