映画『アンダードッグ』ネタバレ感想|ロバート山本とともに、負け犬へ声援を送ろう

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この映画はR15+作品です。ご注意ください。

こんにちは。織田です。

今回は2020年に公開されたボクシング映画『アンダードッグ』をご紹介します。前編・後編合わせて4時間半に及ぶ作品です。

監督は同じくボクシングをテーマにした『百円の恋』武正晴監督
3人のボクサーを森山未來さん北村匠海さん勝地涼さんが演じました。

『百円の恋』

最初に触れておきたいのが、2014年に安藤サクラさんを主演に据えて数々の映画賞に輝いた、武正晴監督のボクシング映画『百円の恋』です。

32歳ぽっちゃりニートの安藤サクラが実家を出て、100均コンビニでバイトをし、ボクサー男(新井浩文)に恋をしてフラれ、自らがボクシングジムに入門。
ぶよぶよ、のっそのっそと退廃的極まりなかった女性が、みるみるうちにボクサーとして成長し、精悍な顔つきに、そして美しいステップとパンチを繰り出すようになります。

これは本当に面白い作品で、動画配信サービスでも観られるのでぜひ観てほしいんですが、この映画を超傑作に至らしめたのはやっぱり安藤サクラという俳優の凄みです。

3日間でぽちゃ体型の時期を撮り、そこから10日間で一気に減量したといいます。しかも映画では、減量シーンが一切描かれませんでした。当たり前のように彼女は肉を削ぎ落とし、ボクシングに邁進していきました。

このキャスティングはもはや奇跡です。

 

今回ご紹介する『アンダードッグ』は、そんな『百円の恋』を超える作品を作りたいという熱意の元、『百円の恋』のスタッフが再集結してつくられた映画です。

主演のボクサー・末永晃を演じたのは森山未來
ダンサーとしても活躍する彼は、身体能力の高さに加えて役作りへの執念を滲ませ、クランクインの1年前からトレーニングを積んでいたといいます。

『スマイル 聖夜の奇跡』や『モテキ』とかを観ていても思いましたけど、改めて森山未來の運動神経は凄かった。

『アンダードッグ』は「あの安藤サクラ」の傑作に全く引けを取らないボクシングの大作でした。

『アンダードッグ』は2021年1月1日からABEMAプレミアムで配信版をリリースします。
あまり上映館が多くないだけに、映画館で観れなかった方はぜひ配信でご覧になってみてください。全8話です。



あらすじ紹介

7年前にボクシングの日本タイトルマッチで敗れた末永晃(森山未來)は、デリバリーヘルスの運転手として働きながら、かませ犬としてリングに立ち続けていたが、妻の佳子(水川あさみ)と息子の太郎(市川陽夏)は家を出ていってしまう。落ちぶれた晃は、お笑い芸人の宮木瞬(勝地涼)とテレビ番組の企画で対戦することになる。ボクシングをやったことがない瞬は、芸能界引退を懸けて試合に臨む。

出典:シネマトゥデイ

前編は「静」、後編はキャラクターの背景が次々と明らかになっていく「動」という印象。個人的には前編の方がより好きでした。後半への伏線となっていった部分も含めて。

『アンダードッグ』のスタッフ、キャスト

監督 武正晴
原作・脚本 足立紳
末永晃 森山未來
大村龍太 北村匠海
宮木瞬 勝地涼
佳子(晃の妻) 水川あさみ
太郎(晃の息子) 市川陽夏
加奈(龍太の妻) 萩原みのり
愛(宮木の彼女) 冨手麻妙
宮木の父 風間杜夫
木田(デリ店長) 二ノ宮隆太郎
兼子(デリ嬢) 熊谷真実
明美(デリ嬢) 瀧内公美
美紅(明美の娘) 新津ちせ
海藤 佐藤修
タイ人ボクサー 清水伸
箕島ジム会長 芦川誠
村石 山本博

TBSでボクシング解説をしている元ボクサーの佐藤修さんが、末永(森山未來)のかつてのライバル役で出演していたり、宮木(勝地涼)のジム会長が竹原慎二さんだったりというのをはじめとして、あらゆるところでボクシング界隈の方々が登場します。
現役のボクサーの方も出演されているようです。

北村匠海さん上杉柊平さん『サヨナラまでの30分』でも共演していましたね。

物語の主軸を担う3人のボクサーをざっくりと紹介すると、

  • 末永晃(森山未來):“元”日本トップクラスのボクサー。妻子と別居中。デリヘルの運転手。
  • 大村龍太(北村匠海):晃の近所のジムにいる若手有望株。既婚。引越の運ちゃん。
  • 宮木瞬(勝地涼):ボンボン二世の滑り系お笑いタレント。崖っぷちタレント企画でボクシングに挑戦。

という感じ。

キャストについては、映画公式ツイッター(@Movie_UNDERDOG)さんのツイートを自分のTwitterのモーメントにまとめてみました。
よろしければご覧ください。

 

1月からはABEMAプレミアムで配信も行います。
無料体験期間もありますので気になった方はどうぞ!



この後、本記事は感想部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品の展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

負け犬はどこだ

「アンダードッグ」を辞書で引くと、「負け犬」「敗北者」「咬ませ犬」といった訳が並びます。

負けた後の敗者を指す「負け犬」と、やる前から踏み台にされる(=負ける)ことがわかっている「咬ませ犬」は少し意味が違う気もしますが、それが「UNDERDOG」の和訳です。

海藤(佐藤修)と伝説的な名勝負を繰り広げた末に敗れたのは7年前。
かつて日本ランキング1位になった男は、今や現役にしがみつき敗戦を積み重ねるだけの負け犬になっていました。それが末永晃。すなわち森山未來

友人の二ノ宮隆太郎が雇われ店長をしているデリヘルの運転手兼・用心棒を務め、嬢を車で送迎する隙間時間の深夜にジムでひっそりとトレーニングを行います。
サウナ屋の同僚と麻雀に興じ、昼間は金のかからない図書館に入り浸って時間を潰す夢の燃えかす。

すでに選手としての旬が去っていることは箕島会長(芦川誠)の言葉が、そして試合結果が雄弁に物語ります。

負け犬は誰だ

それでもボクシングに現役としてしがみつく森山未來を、「咬ませ犬」と突き放す周囲。
北村匠海のジムのトレーナーらしきおっさんは、末永全盛期時代にボコボコにやられた一人ですが、衰えながらも現役でありたい一心で負けを重ねる森山未來を罵倒しました。

若手有望株として頭角を現している北村匠海もまた、ガキの頃に施設で森山未來(全盛期)から屈辱的なあしらいを受けており、それが彼の拳を振る原動力になっていました。彼にとっての森山未來は、海藤に負けてもなお凄ぇと思わせる「強者」でした。

北村匠海も、彼のトレーナーのおっさんも、根っこのとこでは森山未來に対しての負け犬なんですよね。

実際に森山未來は北村匠海のことも、かつて戦ったトレーナーのことも覚えていませんでした。圧倒的勝者は圧倒的敗者のことなんて印象に残らないから。

そんなあいつが。自分を完膚なきまでに叩きのめした、あの末永晃(=森山未來)が、未だ夢にしがみついてリングに上がり、そこかしこのボクサーにボッコボコにやられているわけです。明らかに晩年を迎えているというのに。昔はあんなに強かったのに。

末永晃を育てた箕島会長を含め、彼らが人生を賭けている世界で、潔く引退せず圧倒的敗戦を重ねる森山未來の姿は、ボクシングを愚弄していると受け取るのも無理ありません。
辞めどきを間違えたおっさん。それが世間的な森山未來の評価であり、我々は夢を追いがむしゃらにもがくことが許されるタイムリミットがあることを知ります。

咬ませ犬を義務付けられて

順調に成長した北村匠海(=大村龍太)が挑んだプロテストの会場には、ロートル森山未來とはまた違った形でボクシングを舐めた野郎が現れました。

ウィリアム・テル序曲に乗り、変な軍団とカメラを引き連れて登場してきたのはタレント・宮木瞬。またの名を勝地涼です。

こいつがまたやばいんですよ。両親が大物俳優のボンボン二世でありながらタレントとして芽が出ず。
「負けたら芸能界引退」という崖っぷち芸人の番組企画としてプロテスト、そしてエキシビジョンマッチへと、神輿に担がれていきます。

こういう企画って、観ている側も、企画している側も、描いている物語の結末は同じなんですよ。
ボクシング舐めんじゃねー、芸能界舐めんじゃねーぞって言えればそれでいい。神輿に乗った当事者の勝地涼がボクシングを舐めている以上に、周囲は勝地涼を舐めているんです。

後輩との飲み会でたかられ、自宅のマンションは乱痴気パーティーに使われて。
竹原ジムでのお客さま扱いに甘んじていればいいものの、上達への色気を見せた途端に石ころ同然に突き放されて。
崖っぷちタレント・勝地涼は全方面からディスられている負け犬でした。

財布としてしか見られていない先輩。個人的には「闇金ウシジマくん」の小川純というギャル男を思い出しました…。映画では林遣都が熱演してましたね。

咬ませ犬の咬ませ犬に

そんな負け犬の、負け方が期待されているエキシビションマッチの対戦相手に選ばれたのが、かつての名選手・森山未來。
宮木に束の間の「俺、やれるかも」を味わせた上で、あとはこの半端者をボコボコに叩きのめしてくださいねというヤラセじみた台本です。昔やってたガチンコファイトクラブでありそう。

森山未來側の視点からすると、勝地涼の宮木が世間にとっての咬ませ犬として最高の負け方をするために、一発ダウンをもらってやってくれという話ですね。
一瞬の希望から絶望に追いやられ、リングで白目を剥き、竹原会長に己の甘さを吐き捨てられる勝地涼の未来が早くも見えます。

しかしであります。

試合が終わった後、咬ませ犬に、引き立て役になっていたのは森山未來でした。
喝采を浴びていたのは、勝地涼の方でした。

倒されても倒されても食らいつき、「試合にならねえよ!」と森山陣営から叫ばれてもどうにかしてもがき続けた勝地涼でした。

勝地涼の応援者

ボクシングの試合って、ライトで照らされた二人の選手がくっきりと浮き上がり、拳の応酬とともに汗と血と唾液の飛沫が、黒い背景に飛び交うんですよね。スロー映像や写真にしてなお、その熱量が伝わる競技だと思います。

『百円の恋』もそうでしたが、この『アンダードッグ』でもボクシングの持つ「映える」美しさがスロー映像などを使って取り入れられていました。

前編の晃vs宮木、後編の晃vs龍太の試合ともに、ただただすげぇ〜と魅入ることしかできない素晴らしい臨場感でした。
この感嘆には、もちろん森山未來をはじめとしたボクサー役の熱演が大いに込められてます。

そして同じように、彼らボクサーを支えるセコンド、とりわけ勝地涼に寄り添った、竹原ジムの村石という先輩ボクサーがあまりにも素晴らしすぎました。

勝地涼をディスり、軽蔑した後に彼の本気度を少しずつ認めていき、一人ぼっちの裸の王様な勝地の一番近くで本物のサポーターになってやる。

末永晃との試合前のロッカールームでバンデージを巻いてあげながら、宮木をいじるカメラクルーに出てけよと吠えたシーンは泣きました。

前編のMVPです。

エンドロールのクレジット見るまで気づかなかったんですけど、村石役を演じていたのは山本博(ロバート)

タレントとして活動する彼ですが、2008年にQさま!!の企画でプロボクサーテストに挑戦し、合格。6年後の2014年にデビュー戦をTKO勝ちで飾っています。

つまり『アンダードッグ』で勝地涼が演じる宮木に限りなく近い体験をすでにしている。これは強い。

お前ボクシング舐めんなから始まり、お前の現在地はこんなもんなんだと思い知らせた上で、勝地涼の本気度を次第に認めていきました。

「本物の試合」がどれほどしんどいのか。1Rの3分がどれだけ長く感じるのか。それを初めて体験する彼を、リングサイドから奮い立たせ続けます。

森山未來との試合の序盤、勝地涼はネタ野郎としてのテレビ映りを意識してかパンチを大振りで振り回してしまう中、ロバート山本氏は「練習通りやればいいんだよ!」と声を枯らすんです。「練習通りやればいい」ところまで勝地涼の成長を認めているからこそです。

この映画のセコンドの熱量は森山未來陣営も、北村匠海陣営もめちゃくちゃ熱かったですけど、特に山本博の村石には心を揺さぶられました。
こんなにも村石に感動したのは僕自身が勝地涼の宮木に感情移入するところが多かったのかもしれませんね。観終わった後から思うと。

負け犬なんかじゃない

性描写が多かったり、悲しくなるような境遇の描写があったり、そもそも森山未來煙草吸いすぎだろとか色々思うところはあったんですが、4時間半の尺ならではの濃度で人生ドラマを描いた映画でした。負けてから始まる世界がそこにはある。死力を尽くして拳を交えた彼らは負け犬なんかじゃないです。

森山未來さんは期待通りに凄かった。
北村匠海さんは期待以上に凄かった。
勝地涼さんも感情移入を誘う愛すべき野郎だった。
そして山本博さんのdisに、叱咤に、勇気づける言葉に目頭が熱くなった。

二ノ宮隆太郎さんや冨手麻妙さん、萩原みのりさんといった周りを固める人も含めて人情味たっぷりの映画でした。

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百円の恋

ブヨブヨの退廃的32歳ニート・一子が、ひょんなことからボクシングジムに入門。
素人が実力をつけていく姿は、『アンダードッグ』の勝地涼以上です。主演の安藤サクラが圧倒的。

あゝ、荒野

『アンダードッグ』同様、前編・後編にまたがるボクシング映画。
菅田将暉とヤン・イクチュンが演じる二人のボクサー、2021年の東京という舞台設定にも注目です。
観るのに結構エネルギーを使う映画なので心して見てみてください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。