16年の映画『クリーピー 偽りの隣人』を鑑賞。
黒沢清監督。出演は西島秀俊、竹内結子、香川照之ら。
『クリーピー』のスタッフ、キャスト
監督:黒沢清
原作:前川裕
脚本:黒沢清、池田千尋
高倉:西島秀俊
康子:竹内結子
早紀:川口春奈
野上:東出昌大
澪:藤野涼子
西野:香川照之
監督は『トウキョウソナタ』などの黒沢清。
あらすじ紹介
刑事から犯罪心理学者に転身した高倉(西島秀俊)はある日、以前の同僚野上(東出昌大)から6年前の一家失踪事件の分析を頼まれる。だが、たった一人の生存者である長女の早紀(川口春奈)の記憶の糸をたぐっても、依然事件の真相は謎に包まれていた。一方、高倉が妻(竹内結子)と一緒に転居した先の隣人は、どこか捉えどころがなく……。
原作とは異なるようだが…
公開当初から評価が低かった本作。
理由としては、ストーリーの筋が通ってないとか、伏線を匂わすわりに回収されないとか、原作からの大幅な改変とかが挙げられていました。
原作は前川裕の小説で、未読だったので鑑賞後にいくつかネタバレサイトを回って原作の内容を把握しました。
なるほど、これは大きく違います。
でも小説の設定通りに映画を撮るのは多分厳しくて、連続ドラマの形で再現したほうがいいタイプの作品でしょう。
それほど原作のヤマは大きすぎたし、そのヤマに焦点を当ててしまうと描きたかった「偽りの隣人」がぼやけてしまいます。
悪を西野(香川照之)一人に限定した映画の作り方は正解だと思いました。
映画が物足りなかった人は原作を読んでみればいいと思います。何を描きたいかで相反しそうな原作と映画です。
マインドコントロール
高倉(西島秀俊)が警察を辞めるきっかけとなった冒頭の首切り魔に代表されるように、この作品においてはサイコパスが一つのテーマとなっていて、恐らく香川照之の西野もサイコパスとして描かれています。
ここでサイコパスの意味をウィキペディアから引用すると
・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・慢性的に平然と嘘をつく
・行動に対する責任が全く取れない
・罪悪感が皆無
・自尊心が過大で自己中心的
・口が達者で表面は魅力的
(ウィキペディア:精神病質・定義の項より)とあります。
西野もこの定義通りに描かれているわけですが、サイコパス=凶悪犯ではないので、この作品が怖いのはサイコパス西野のマインドコントロールにあります。
彼はとある家族を乗っ取り、自らが水田、西野と一家の主人を名乗りました。
動機はお金と、立地する家の位置関係です。
【6/18公開まで、あと三日】
映画『クリーピー 偽りの隣人』https://t.co/ND9GkkoLuy #香川照之#謎の隣人役#ヤバい#ヤバいヤバい#ヤバいヤバいヤバい#西野のモノマネ流行りそう pic.twitter.com/NIlBmS8Yd8— 映画『クリーピー 偽りの隣人』 (@Creepy_2016) June 15, 2016
西野はいつも同じ黒い服を着ています。気持ち悪い。
西野家の主人と息子を始末し、妻を監禁、澪を自らの娘役として生活させていた西野でしたが、一家を蝕み消失させていく様は、北九州一家殺人事件と類似していました。
僕は数年前にこの事件に興味を持ち、色々な資料な書籍を読んだんですが、思い出したくもない吐き気と恐怖に襲われました。
以下ネタバレ含みます。
北九州一家殺人事件との共通点
「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」
ポスターにも使用されている澪の言葉。
じゃあ逃げればいいじゃないか、と思うかもしれません。
でも逃げられないんです。
逃げて見つかった時の痛みと恐怖を知っているから、彼女は逃げることができない。
これも北九州事件のマインドコントロールと同じ。尼崎事件とも近いですね。
言葉による洗脳
「康子さん、と読んでもいいですか?」
西野は高倉の妻・康子(竹内結子)にも悪魔の牙を剥きます。
康子にとって隣人・西野の第一印象は最悪でした。しかしそれすらも西野の計算内であり、ネガティブからポジティブの反動を利用して康子の心の隙を突いていきます。
香川照之さん演じる謎の隣人・西野のクリーピー過ぎる場面をちょっとだけGIF動画で特別公開!【②】#香川照之#謎の隣人役#犬なでてるだけなのにヤバすぎ#ワンちゃん逃げて!#ヤバい#ヤバすぎる西野無限ループ pic.twitter.com/uIW6jXSump
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監禁状態にあった澪の母親が半狂乱になり、たまらず頭を撃ち抜いて殺した西野は澪と康子に遺体処理をさせ、責任を押し付けます。
「お前が殺したんだ」「悪いのはお前だ」
文字にするとただの責任転嫁にしか見えませんが、その状況、主従関係を加味すると西野の言葉は洗脳に近い形で二人に刷り込まれます。
そして、二人はより西野の掌握下に置かれてしまいました。
北九州事件の主犯・松永と同じ手口です。
松永は妻の実家一家を言葉巧みに支配し、主人として君臨、しまいには家族同士で殺させました。おそらく目的はお金と支配欲でしょう。
サイコパスの部分が強調される香川照之の西野もきっと同じです。
高倉夫婦への第一印象の悪ささえも自然に計算されたものであり、一方で警察の野上(東出昌大)が家を訪問した時の対応などは怪しさを全く感じさせないものでした。
【6/18公開まで、あと三日】
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隣人の田中が西野のことを「鬼」と評するのも、北九州事件と関連して考えればよくわかります。
仮面を被りながら、実は人の心を失った狂人という点では『凶悪』の「先生」にもよく似ていますね。
そして、『凶悪』と同じように本作の西島秀俊も正義感と好奇心に動かされる異常者でした。
川口春奈が演じる女性への聞き取りはその最たるもの。
西島の演技はぶっきらぼうな、温度の感じられないものだったが、それもまた高倉の異常ぶりに一役買っていました。
北九州殺人事件については、『愛なき森で叫べ』(2019)という作品でもっと直接的に取り上げられていますが、個人的には『クリーピー』の方が再現性の高さで上だと思います。
豹変する竹内結子が恐ろしい
康子を演じる竹内結子は、クライマックスの叫ぶシーンが印象的でしたが、個人的には階段で隠れるようにして電話をしていた場面を推したいです。
何故居間で電話しないのかと問うた高倉に、康子は物凄い形相で怒鳴り、乱暴にテーブルの上のミキサーを回します。
【6/18公開まで、あと三日】
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豹変する康子は恐ろしく、それは夫婦間で積み重なった不満というだけではなく、やはり西野に支配されていたところが大きいです。
ミキサーを用いたのも破壊やリセットというテーマが透けて見えているようでとても怖い……
扇風機の前で無気力に過ごす描写も同様。ここまで行くと洗脳と言っていいのかな。
ちなみに西野の部屋にも扇風機が置いてあり、因果は説明されていなかったものの何らかの依存症なんだろうなとこちらに勘ぐらせる作り方でした。
一種のサイコパスである高倉は西野の術中にハマりませんでしたが、最も西野を警戒していたはずの康子が陥ってしまい、夫の高倉がそれに気づいていなかったのも闇が深いです。
R指定なしの功罪
この作品はR指定がなされていません。
だからこそスピーディーに物語が進んだとも言えるし、凶悪性が生ぬるかったようにも思えます。
後者に関しては、遺体を真空パックするシーンの先を描いたり、西野が康子を誘うシーンがあっても良かったのかなと。
凶悪殺人犯にありがちな丁寧な遺体処理。恐らく西野はそれを徹底する類の狂人です。
支配下に置くやり方が薬物というのも少し腑に落ちなかったし、西野が暴君として君臨する理由のお仕置きももっと見てみたかったですね。
北九州事件の松永は家族同士でいがみ合わせ、罰を与える方法として通電というやり方を持っていました。
ただ、あくまでこれは僕が凶悪犯罪に興味があるからで、こんな気持ち悪い描写を用いたら間違いなくR指定作品になってしまうし、作品として刺激が強すぎてしまうでしょう。
低評価の理由もわかりますが、それ以上に凶悪犯の潜在的な恐ろしさを描いた作品。
2時間ドラマといったほうが近いですかね。
好きな映画でした。
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トウキョウソナタ