映画『翔んで埼玉』ネタバレ感想〜あなたの都会指数は?〜

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

あなたは埼玉と聞いて何を想像しますか?

  • サッカーの浦和レッズ、大宮アルディージャ。野球の埼玉西武ライオンズ。
  • 数々のアニメの舞台となった聖地。
  • 小江戸の街並みが印象的な川越。
  • ネギで有名な深谷市のゆるキャラ・ふっかちゃん。
  • 気温が高い熊谷。
  • ファミレスのサイゼリヤやコンビニのファミリーマート、ファッションセンターしまむら

あとは……
…………………。

市の数が最多(2019年)、年間快晴日数(2015年)、ネギ生産量(2013年)、パスタ・スパゲッティ消費量(2014年)、教育費(2016年)、小学生の校則遵守率(2015年)、小学生の宿題実行率(2015年)、自転車保有台数(2008年)と購入費(2016年)、男性用洋服購入費、男性用下着購入率(ともに2016年)、ペット飼育費用(2011年)。

埼玉県が全国1位を誇るランキングの数々。地味。


出典:埼玉県ホームページ

一方で特産物や観光スポット、テーマパークなどのインパクトを欠き、人口1万人あたりの宿泊施設数(2016年)や郷土愛(2010年)ではワーストの数値を叩き出している。

それが埼玉県です。

そんな埼玉をテーマに扱った映画『翔んで埼玉』が2月下旬に公開になりました。

結論からいうと、今まで人生で見てきた映画で一番面白かったです。

僕は別に埼玉県出身でも居住者でもありませんが、ストーリーからシーンに散りばめられた細かい演出まで、全てが突き刺さりました。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



『翔んで埼玉』の概要

映画のキャッチフレーズは「空前絶後のディスり合戦開幕!」
出身地をディスるというのは本来いけないことなんですが、県民性を比較する某番組が長く続いているように、この日本において出身県(都/道/府)のアイデンティティを探したり呼び覚ましたりするのはとても面白い。
北海道にも沖縄にも、岐阜にも福井にも、はたから見た何かしらのアイデンティティがあります。

だから僕たちは初めて会った人に聞くわけです。

「出身はどこですか?」と。

ださいたま=悪

魔夜峰央さんの原作を、脚本を徳永友一さん、監督が武内英樹さんが務めて映画化された本作。
埼玉県出身者が東京都でひどい迫害を受けた歴史(都市伝説)をコミカルに、かつ丁寧に描いた映画でした。

熊谷(埼玉県北部。群馬のすぐそば)出身の愛海(島崎遥香)が、浦和出身の婚約者・春翔(成田凌)との結納に向かうため、父親(ブラザートム)、母親(麻生久美子)とともに熊谷ナンバーの軽に乗っていく道中。
その車中で流れるナックファイブ(FMラジオ)で、埼玉迫害の歴史を紐解く番組が放送され、番組の物語の中でGacktや二階堂ふみらが登場するという、現実とファンタジーの綺麗な2層構造になっています。


この作品の肝は、埼玉出身=ださいたま=悪という単純な差別構造にあります。
本当にこれだけです。

物語の冒頭。東京のバブリーなクラブで楽しんでいた埼玉県人の青年(間宮祥太朗)は、突如サイレンとともに「お前、埼玉だな!!」と連行され、処分されてしまいます。

埼玉県人=ださいたまを東京に入れてはならない。埼玉県人が東京に入る場合には通行手形を必要とする。

そんな迫害と屈辱の歴史を変えるべく、立ち上がったのがGackt演じる麻実麗でした。彼は(埼玉県人らしからぬ)完璧な知識とスマートさと寛大なる心で、埼玉県人であることを隠しながら東京都政の養成所・白鵬堂学院に転入します。

都会指数って何?

この白鵬堂学院の生徒会長を務めるのは、都知事の息子・壇ノ浦百美。こちらは二階堂ふみが演じました。
学院は「都会指数」(出身)によってクラス分けがされており、麗や百美が所属するのは青山、赤坂などのA組。新宿や渋谷がB組、八王子や田無などはE組。埼玉県民はZ組(笑)に位置付けられています。

この「都会指数」とやらがかなり強烈でして、A組の女子などは「埼玉」と聞くだけで発作が出てしまうほど。
百美ものちに「茨城」という単語を聞いて倒れてしまうなど、都会指数の高いところで育った子たちの世界は相当狭いようです。
百美の父親・壇ノ浦都知事(中尾彬)に仕える執事の阿久津(伊勢谷友介)の出身については、百美は「狛江あたりじゃないか?」と言い放ちます。前述した島崎遥香と成田凌の「熊谷&浦和」もそうですが、地域カーストを執念深くこちらに刷り込んできます。

僕は地理が好きなのもあり、関東の地名や町の規模、位置関係などはだいたい把握しています。
田無も狛江も知っているのですが、「空気を吸って東京のどこか当てる」勝負で東京都東部の某所が出てきたときはさすがにおったまげました。

芸が細かい。細かすぎる。
多分マツコ・デラックスさんとか泣いて歓喜する案件。



キャストの出身地は?

さて、ここで気になるのがキャストの皆さんはどこ出身なのかどうかというところ。
他でも散々取り上げられているテーマですが、こちらでもキャラクター名と合わせながらできる限り紹介していきたいと思います。

ブラザートム(役名:菅原好海)

現実世界で熊谷市に住む菅原家の父を演じたブラザートムは、実際に熊谷育ち
熊谷市の親善大使も務めており、経歴に玉井小学校、玉井中学校、熊谷工業高校卒と記されております。

劇中でもほとばしる埼玉、そして熊谷への愛はご自身の原点でもあったわけですね。オリコンさんの記事によると「埼玉県戸田市の特殊詐欺撲滅大使」にも任命されたそうです。

麻生久美子(役名:菅原真紀)

こちらは千葉県出身のお母さんを演じる麻生久美子。役同様、ご本人も千葉県出身だそうです。
『翔んで埼玉』の準主役は千葉。むしろ千葉県の存在が、主役の埼玉の魅力やダサさを引き立てていると言っても過言ではありません。
ブラザートムに向かって麻生久美子が埼玉を全力でディスるシーンは、ぜひ劇場でご覧になっていただきたい。

島崎遥香(役名:菅原愛海)

熊谷育ちの娘を演じる島崎遥香も埼玉出身。女性の都道府県別カップ数ランキングなる都市伝説も含めて、自虐埼玉を一番押し出しているのは彼女です。

彼氏と一緒に東京に住んで、ゆくゆくは目黒あたりに家を買いたい!と目を輝かせる埼玉都民予備軍。
親父に埼玉の良いところを挙げられながらも、東京>埼玉を貫く島崎の存在が、この作品に大事な大事な現実感をもたらしていると思います。非常に重要な役割でした。

親父同様、名前に海がついているのは、埼玉県民にとっての悲願の表れなのでしょうか…。

成田凌(役名:五十嵐春翔)

愛海の婚約者を演じる成田凌も埼玉出身。浦和出身の設定で、そのあたりも「東京>>浦和>熊谷」な愛海のハートに響いています。
彼の役名を見たときに、春翔とは春日部に翔ぶということかなと邪推したのですが、近からず遠からず。成田凌自身は浦和レッズのファンと公言しているほどザ・埼玉県人ですし、いいキャスティングだったと思います。

現実世界の人々を演じるこの4人に関しては、4人中全員が当該のルーツを持った出演者ということでした。

Gackt(役名:麻実麗)


主人公の麗を演じるGacktは沖縄出身という情報が主です。
役柄としても、「都会指数」の高いところのお坊っちゃまという設定がしっくりきますし、事実、白鵬堂学院の女子生徒たちもそう信じ込んでいました。

二階堂ふみ(役名:壇ノ浦百美)


都知事の御曹司を演じた二階堂ふみも、沖縄出身。
こちらは埼玉を忌避するだけでなく、東京都下にあっても辺境の街をバカにする傾向がありました。

かなりファンタジックな設定や言葉遣いだったとはいえ、Gacktと二階堂ふみのダブル主人公は見ていて爽快だったのが印象的。よくこんな役を引き受けたなあと。この二人があまりにも愛すべきキャラクターだったのが、僕がのめり込んだ一因にもなりました。

中尾彬(役名:壇ノ浦建造)

百美の父・東京都知事を演じた中尾彬。東京こそ至高、東京イコール日本なりを貫く役柄ですが、ご自身は木更津出身ということです。

武田久美子(役名:壇ノ浦恵子)

阿久津との穏やかでないシーンがある百美のお母さん・武田久美子は東京育ち(生まれは静岡ほか諸説あり)で都会指数高めでした。

伊勢谷友介(役名:阿久津翔)


壇ノ浦家の執事として仕える阿久津。誰もが都民として疑わない中、実は千葉の解放派急先鋒だったというキャラクターです。

Gacktや二階堂と並んで主役級の千葉県人を演じる伊勢谷友介ですが、こちらは東京出身。ご本人はいわゆる通行手形なしで東京に入ることができるわけですね。

京本政樹(役名:埼玉デューク)


埼玉解放戦線の英雄・埼玉デュークを演じる京本政樹は大阪出身。ここまで行くと京本さんの出身がどことか全く気にならなくなります。終盤までキャストが誰かわかりませんでした。

福山翔大、鈴木勝大(役:埼玉解放戦線員)

埼玉解放戦線の前線に立った若い青年たち。福山翔大は福岡、鈴木勝大は神奈川の出身でした。ここの役柄で越谷出身の佐藤健あたりを起用できたら…と思いましたが、それはさすがに高望みですね。

麿赤兒(役:麗の父)

意味深なビデオレターで登場する麿赤兒は、石川県金沢市出身。埼玉の誇りと威信を、埼玉ポーズをもって麗に示します。
関係ないですが、麿さんの次男・大森南朋が出演している『ビジランテ』は埼玉の深谷を舞台にした映画。こちらも、別の意味で地方都市の鬱屈を体感できる作品です。

益若つばさ(役名:麗の家政婦)

麗の家政婦・おかよを演じている益若つばさは越谷市出身。ここでようやく埼玉県人がきました!
子供ながらに埼玉の県名に疑問を抱いていたという、クランクインさんのインタビュー記事が面白いです!
ぜひご覧ください。

益若つばさ、「埼玉は“ダサい”」がカリスマ読者モデルの原点

埼玉各支部の代表たち

翔んで埼玉のホームページに記載されていた“誇り高き埼玉の各代表”なる支部長についても、出身地を調べてみました。

矢柴俊博(大宮支部長):埼玉県草加市出身
勝矢(浦和支部長):兵庫県出身
水野智則(与野支部長):埼玉県出身
江戸川じゅん兵(東松山支部長):兵庫県豊岡市出身
竹森千人(草加支部長):埼玉県越谷市出身
「DNAを疼かせながら(中略)戦っております」とはご本人のブログでの言葉。
廻飛呂男(深谷支部長):埼玉県出身
沖田裕樹(川口支部長):埼玉県出身
市川刺身(新座支部長):東京都福生市出身
佐野泰臣(上尾支部長):東京都杉並区出身
西岡ゆん(熊谷支部長):静岡県出身
川口直人(川越支部長):東京都出身


記載されていた埼玉支部長には11人中5人が埼玉という結果になりました。
冒頭で書いたように、市だけでもたくさんの数が存在しているので、実際のキャストはもっと多いです。

千葉解放戦線員

伊勢谷演じる阿久津が、そばに侍らせていた謎の海女さん女性二人。
浜野さざえ、浜野あわびという役名だそうです。


浜野さざえの小沢真珠は、東京都新宿区神楽坂育ちの都会指数高め。
浜野あわびの中原翔子は熊本出身とのこと。

エンペラー千葉なるキャラは、北千住出身の千葉ローカルタレント・ジャガーが演じました。
僕は初めてだったのですが、結構認知度が高いようで、登場した時には館内から笑い声が。

竹中直人(役名:神奈川県知事)

東京さまのコバンザメとなっていた神奈川県知事を演じたのは竹中直人。ご本人は横浜市金沢区の出身で、このあたりはきちんと押さえています。

白鵬堂学院の生徒たちは?

白鵬堂学院の生徒たちはどうでしょうか。限られた情報ですが、わかる範囲で書き出してみました。

A組(青山、赤坂など)

高月彩良:神奈川
田中明:神奈川
秋月三佳:東京
搗宮姫奈:愛知
山根愛:大阪
小林レイミ:千葉


B組(新宿など)

つじかりん:東京

Z組(埼玉出身)

加藤諒(役名:下川信男):静岡県
宮澤竹美(役名:昌子):練馬区


埼玉出身でZ組にあてがわれ、不当な扱いを受けている信男、昌子を演じた二人は埼玉出身ではありませんでしたが、彼らの心のこもった演技は響きました。
埼玉に希望を、誇りを持ってもいいじゃないか!俺たちは、ダサイタマなんかじゃない!

草でも食わせとけ!と罵られ、忌み嫌われるZ組の子たちが蜂起する姿には、埼玉県民ならずとも心が揺さぶられるはずです。

映画のネタバレ感想

『翔んで埼玉』を推したい理由。
それはとにかく「わかる」ポイントが節々に散りばめられているからです。「共感」じゃなくてもいい、わかればいいんです。

池袋とは埼玉県民の植民地という定説に始まり、
千葉の北部ローカル都市を結びながら茨城に向かう常磐線。
大宮と浦和のライバル関係、そこに挟まれる与野の悲哀。

埼玉県が誇る有名芸能人、千葉県が誇る有名芸能人。
春日部と聞いて想像できるもの。草加と聞いて想像できるもの。野田と聞いて想像できるもの。
山田うどんがロードサイドに立つ埼玉の風景。
所沢の僻地感。暑いぞ熊谷。
千葉外房の地引き網。本当に千葉の人間はあんなに落花生を食べるのか?

栃木と茨城は未踏の地、群馬は秘境。神奈川はとりあえず横浜かっけえ。
千葉はダサい、埼玉はもっとダサい。東京?至高だろわかりきったことを聞くな田舎者め!

ふなっしー、狭山茶、ふっかちゃん、コバトン。埼玉と千葉の県境にある緊張地帯・流山。
埼玉の中心は東松山。

埼玉を中心とした首都圏の地理関係がわかれば、相当細かい小ネタもわかります。正直全てのシーンに、何かしらの埼玉メッセージが込められているのではとすら思うほど。

だからと言ってこれが埼玉県民しか楽しめないかというと違います。
地元をディスられたことのある全ての日本国民に観てもらいたい映画なのです。

一番ディスられてるのは…

高校まで地元(横浜の郊外)で育った僕は、大学で東京に出てきて以降、出身地を聞かれてそこから話を広げていくというコミュニケーションを知りました。

「どこ出身なの?」
「神奈川だよ」
「じゃあ横浜じゃないのかな?」
「横浜市だよ」
「ええ〜おしゃれだなぁいいなぁ〜」

今までおそらく100回以上繰り返されてきたやり取り。神奈川イコール横浜イコール赤レンガと観覧車、それに時々中華街。

ハイスペックカップルならともかく、普通の横浜市民はみなとみらいや中華街へそう頻繁に行きません。

さらに言えば横浜の郊外や川崎、相模原なんていうのはただの住宅街で、観光名所、観光資源なんて埼玉と同レベルかそれ以下なのです。ラベンダーが咲き誇る嵐山も、アニメの聖地もありません。
崎陽軒のシウマイ弁当?一年に一回くらいしか食べないぞ!!

神奈川が不当に過大評価され、カッコつけていると見られる現象に名前をつけたいとかねて思っていたのですが、『翔んで埼玉』の竹中直人(神奈川県知事)からもその不当な評価は見て取れました。実はこの映画で一番ディスられているのは神奈川なのでは。

これは東京の郊外にも同じことが言えます。
白鵬堂学院のクラス分けで引き合いに出された田無、八王子をはじめとして、「千葉じゃなかったの?」と心無い言葉を受けた江戸川区西葛西。
おそらく多摩地区も同じような扱いなのでしょう。

僕はかつて合コンで「足立区と江戸川区は絶対やだ〜」と戸田(埼玉)出身の女の子に言われました。君に言われたこの言葉は忘れないぞ!!

テレビでも多々取り上げられているように、県民性というのは偏見と想像が膨らむ禁断のトピックです。
これを埼玉という舞台に落とし込んだ原作はとっても目の付け所がいいと思いますし、埼玉ならではの小ネタをこれでもかと撒き散らした製作陣の情熱には頭が下がるばかり。

鑑賞後の反応を見ると「くだらない」と言いながら笑顔のお客さんばかりでした。
「私の地元はC組かな」「私は朝霞だからZ組」と笑いあっている女の子たちも。
埼玉出身の僕の友人は「埼玉県人で良かったと思えたわ」とアイデンティティを再確認していました。
なんと愛すべき埼玉たちよ。君たちの故郷に、これほどの愛が注がれた映画が生まれて羨ましい。

ネタバレになってしまいますが、劇内で麗たちは埼玉を不当な扱いから奪還したあかつきに、最終的には「世界の埼玉」を標榜します。
かつて大学の先輩(春日部出身)が「日本の首都をさいたまに!」と叫んでいましたが、彼はこの映画を見て何を思うでしょうか。

個人的に嗜好、知識、これまで歩んできた人生観の全てを撃ち抜いた、人生最高の映画でした。
埼玉県民、千葉県民は履修必須。いや、日本国民必修の映画かもしれません。

最高の茶番劇を見てたくさん笑ってください。

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