映画『7s セブンス』ネタバレ感想〜もう一つの「カメラを止めるな!」〜

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

昨年、邦画界を揺るがす大ヒットとなった『カメラを止めるな!』

30分以上に渡るワンカットからの上手な構成はもちろんのこと、「映画を撮る映画の撮影」という重層的な面白さ、そして「映画を作る」作業に伴う現場レベルの苦難や障壁、妥協点の見つけ方などを体感できるところが高評価を集めました。

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映画『カメラを止めるな!』ネタバレ感想〜最後まで席を立ってはいけない〜

2018年8月14日

今回紹介する映画は2015年の藤井道人監督の作品『7s』
夢にあふれた青年監督と役者が中心になって映画を制作する作品です。

「映画を撮る映画」という点では、『カメラを止めるな!』よりもさらにリアルな本作。
Amazonのプライムビデオで鑑賞してみたら予想以上に面白い作品でした。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



『7s』のスタッフ、キャスト

監督:藤井道人
脚本:川原田サキ、藤井道人、アベラヒデノブ
サワダ:アベラヒデノブ
サナガワ:淵上泰史
カブラギ:深水元基
イムラ:須賀貴匡
ゴギョウ:サンガ
ベラ:竹井洋介
なずな:小林夏子
スズシロ:佐々木卓馬
セリ:網川凛
ナツメ:坂井裕美
斎藤工:斎藤工

あらすじ紹介

自主映画監督のサワダは、同級生と一緒に作った映画でインディーズ映画祭のグランプリを獲得する。その賞金をもとにさらに大きな映画を作ろうと意気込む。書き上げた脚本は「7s」という題名で、7人の天才詐欺集団が世の為、人の為に詐欺を行うという映画だった。スタッフも集まり「7s」がクランクインする。序盤の撮影は順調そのものだった。しかし徐々にその空気に暗雲が立ち込める。俳優の遅刻、スタッフ内の喧嘩、制作部の失踪、キャストの突然の降板…。そして、ついには撮影したデータが消えてしまう。資金も底をつき、映画「7s」は未完のまま撮影がストップしてしまった。3年が経った。スタッフ、キャストはバラバラになり、だれも「7s」の話をすることはなくなっていた。ある日「7s」の主演を務めていたカブとサワダが再会したことにより「7s」が思いもよらぬ方向に動き始める…。悔しい思いをしていたのはサワダだけではなかった。キャスト、スタッフみな、完成させることができなかった映画「7s」に対して後ろめたい気持ちを持っていた。そして再び「7s」の映画撮影が始まるのだった…。

出典:Filmarks

 

以下、感想部分で作品の展開に一部触れていきます。未見の方はご注意ください。

映画のネタバレ感想

青年監督・サワダ(アベラヒデノブ)は自主映画でインディーズ映画祭のグランプリを受賞し、その賞金で7人の天才詐欺師集団が主人公の映画『7s』の制作を開始します。
助監督のサナガワ(淵上泰史)、撮影部のナカイ(木村啓介)らと制作チームを組み、出演陣には売れない小劇団の劇団員を中心に抜擢。
夢と野心にあふれた製作陣、役者が体当たりで映画を作っていく丁寧なストーリーです。

キャストとキャラクターの背景

この作品は、あまり有名ではない俳優を多く起用しているのも特徴的。
出演陣のキャラクターを把握することで、さらに楽しめる映画です。

サワダ(アベラヒデノブ)

青年監督。温めていた天才詐欺師集団『7s』の映画を企画します。
熱意がほとばしるあまり、周囲をキレさせることも。熱量だけでは周囲を引っ張るリーダーにはなれないところが悲しい。これも現実でしょうか。

iPhone、Macを使用。声変わりしてないの?ってくらい声が高い。映画前半の主役。

サナガワ(淵上泰史)

ドラマ『昼顔』で一躍注目を集めた淵上泰史が助監督役で出演。
サワダからは「サナちゃん」と呼ばれ、信頼を置かれている模様です。

助監督が映画制作において何をする役割なのか。そういう部分もサナガワを通してこの映画で知ることができました。
映画終盤の主役級存在。

カブラギ(深水元基)

普段はモデル業を主に務める鏑木正春。通称カブ。
とはいえ「履いたら●cm背が伸びた!」という広告など、本人の希望とは乖離した仕事を持ってこられることが多く、不満を抱いています。

セリフを覚えることが苦手で、撮影でのNGシーンも多め。彼女持ち。

イムラ(須賀貴匡)

モデル仲間のカブラギの誘いで劇団に。
本人の不安とは裏腹に、着実に俳優としてステップアップを果たしていきます。

カブラギを先輩として慕っており、「カブさん」と懐いています。作品内でちょいちょい髪型が変わリます。

ゴギョウ(サンガ)

ゴギョウダンスなる奇抜なダンスで一世を風靡したダンサー芸人。漢字は五行。
自己中心的な行動で、非常に敵が多そう。この人の周りの人間は注視しておいてください。

演じたサンガは、2019年1月現在、「三代目パークマンサー」と改名。本名は三箇一稔。
「学校へ行こう!」の軟式globe・パーク・マンサーとして現実世界でも一世風靡した「あの人」です。

「あの人」というキーワードは、作内におけるゴギョウを表す際にも重要になってきます。

ベラ(竹井洋介)

ラーメン店主。妻子持ち。
夢を諦めきれず、本業の傍らで劇団に所属しています。

多分誰よりも演じることを愛し、プライドを持っているベラ。結果がついてこないところもまた現実。
ボウリングシャツがよく似合います。名前は倍良と書くようです。

なずな(小林夏子)

イムラやベラたちと同じ劇団に所属。
劇団の女性では常にトップであると自負しています。

映画の中では、数々の男性から「女性」として対象に見られているのも印象的。目ヂカラが強めです。

スズシロ(佐々木卓馬)

俳優兼バンドマンとして登場するスズシロ。
その特徴的なルックスからか、俳優業では死体役を多くこなしています。

親孝行な一面も見せる一方で、鬱屈した思いをかなり溜め込んでいる描写も。キレたらヤバそうなキャラクターです。

セリ(網川凛)

芹沢雅人。普段はドラマなどのアクション指導の黒子役を務めるセリさん。
自らも演じてみたいという情熱を持ち、作品に参加します。

ほとんど表情を変えず、物静かなセリさん。こんな人を笑顔にできたら楽しいだろうな、と思わせてくれるキャラクターです。

ナツメ(坂井裕美)

制作チームのアシスタントをこなす女の子。
涼しげな瞳が印象的で、記憶に残る役者さんでした。劇中、サワダに強い口調で罵られてしまいます。

斎藤工(斎藤工)

友情出演で斎藤工が登場。
作品内でも本人役を演じています。

この斎藤工の本人役としての起用が、この映画にかなりリアリティを与えてくれました。


写真説明
(前列)左からセリさん、スズシロ、ゴギョウ。
(後列)左からなずな、カブ、ベラさん

劇団員のリアル。配役を勝ち取るまでに

藤井監督が自らの経験を基にして描いただけに、ストーリーには説得力があります。
『カメ止め』では映画に出演する役者たちの素顔(アルコール依存症だったり、家庭環境だったり)を描写していましたが、本作品では出演までの内なる戦いにもフォーカスを当てています。

竹井洋介が演じたベラさんが象徴的。
舞台やコマーシャルのオーディションに出るための選考が、彼の所属する劇団では定期的に行われます。
しかしそこで、ベラさんは劇団内の競争に勝つことができません。

これは望む仕事を与えられないカブラギ(深水元基)も同じです。

その一方で、演技経験のないモデル出身ながらも、そのスター性を見出されてトントン拍子に出世していくイムラ(須賀貴匡)のような人もいます。

悔しさ、不甲斐なさ、ポテンシャルへの嫉妬。
色々なものを噛み締めながら、ベラさんは必死にチャンスを待ちました。
役者を探していたサワダとの出会いはきっと、彼にとって運命とも言えるものだったでしょう。

アクション指導をしながら、自らもアクションをしてみたいと思っていたセリさん(網川凛)、汚れ役ばかりだったスズシロ(佐々木卓馬)も同じです。
ずっと待ち望んでいたチャンス。自分が一発逆転を狙えるチャンス。
『7s』の撮影を拠り所に、彼らは陽の当たらない毎日を頑張って生きていました。
それでも夢に届かないことを知って、現実に引き戻される。

コメディ要素の強かった『カメ止め』と比べて、この辺りの現実感はとてもシビアに描かれています。

ちなみに、この作品はiPhoneの描写がとっても上手です。

着信音、バイブの使い方。スワイプの仕草。
電話のかけ方、動画の再生。電話帳の名前の登録。
アラームに至るまで。

普段の生活でスマホがどのような役割を果たしているかを忠実に再現していました。
携帯の使い方が上手くない映画も散見される中で、藤井監督の撮ったスマホは極めて自然。
YouTubeの出し方も秀逸でした。

映画監督は居酒屋店員

撮影側はどうでしょうか。

監督を務めたサワダは、普段居酒屋のホール店員としてバイトをしています。
インディーズ映画祭でグランプリを取るような期待の新鋭ですら、バイトをしないと生きていけないのが現実です。
撮影が頓挫し塞ぎ込んだサワダが口にした「お金持ってきて」というセリフは、何よりもリアルに映画制作を表したシーンでした。

役者陣に負けないくらい、いや、もっと大きな夢がサワダにはあったのでしょう。
映画のプロットを話したり、ナツメたちに当たり散らすサワダから伝わってきたものは、エゴイストというよりも映画に対する熱量でした。
これはアベラヒデノブの演技によるものも相当に大きく、夢にあふれ、夢があふれすぎてしまった青年監督を上手に演じていたと思います。

サワダは不器用だと僕も思います。
みんなが同じ方向を向いている中で、自分の計画にトラブルで狂いが生じたときの術(すべ)を彼は持っていませんでした。
チームとしての一体感を壊す言動に、周りは愛想を尽かして離れていきました。

才能豊かな青年監督が、だんだん裸の王様になっていく残酷なストーリーを、本作は炙り出しています。
これもまた、とっても現実的なところでした。

部活だったり、文化祭の出し物だったり、仕事のプロジェクトだったり。

熱さのあまり、時に暴走してしまうリーダー的存在を、目にしたことはないでしょうか。
その時に頭を冷やして、しっかりと全体を立て直す助言をできる人に、会ったことはないでしょうか。
本作品で言えば、それがサワダと、助監督のサナガワ(淵上泰史)でした。

夢から現実に。夢が現実に。

映画の撮影から3年という時間軸をベースにして、この作品では成功した者と凋落した者、変わらない者、変わった者をはっきりと描き分けました。
おそらく成功者の部類に入るサナガワにとって『7s』とはどんな存在なのか。
夢のような時間だったのか、辛かった過去を思い出させる現実なのか。

淵上泰史の演技にぜひ、注目してみてください。

映画が好きな人には是非観てほしい作品。
役者さんを把握しながら観ていくと、さらに楽しめると思います。

 

7s セブンス(Prime Video)

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