映画『青の帰り道』ネタバレ感想|溢れ出す平成後期のノスタルジー!

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大切な友達の誕生日を、覚えていますか?

大切な友達は、あなたの誕生日を覚えてくれていますか?

こんにちは。織田です。

今回は2018年公開の映画『青の帰り道』をご紹介していきます。

監督は『新聞記者』『宇宙でいちばんあかるい屋根』『7s』などを手がけている藤井道人さん。原案におかもとまりさん
出演は真野恵里菜さんをはじめとした、7人の若者を中心に描いた作品です。

群馬の高校に通っていた仲良し7人グループが歩み出す未来。地元、東京、進学、就職、浪人。
そのうちの一人が毎年夏のある日に迎える誕生日を軸に据えながらカレンダーの年をめくり、7人の人生模様を描いた青春群像劇でした。

舞台設定は2009年高卒設定なので、1990年生まれ世代の子たちですね。
彼らが高校卒業後に直面した甘くない社会の現実に加え、平成後期に日本で起こった歴史的な出来事も背景設定として混ぜてきます。

若い時こうだったなぁ〜っていう甘酸っぱいノスタルジー。大人の階段をのぼる上でのしょっぱい記憶。そして我々が通り、体験してきた平成後期の日本の香り。
自分と世代が近かったこともあり、本当に等身大の同級生を見ているようでした!自分の半生を投影できる青春作品としては、今まで観てきた中で一番かもしれません。

ちなみにこの映画はとある不祥事によって、撮り直しを余儀無くされています。
映画.comさんの記事に監督、プロデューサーの思いが丁寧に書かれていますので、興味のある方はこちらをご覧になってみてください。

“あの事件”で撮影中止の「青の帰り道」 監督&プロデューサーが語る、完成までの道のり(映画.com)

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



予告編

あらすじ紹介

2008年、東京近郊の町で、共に青春を過ごしてきた7人の若者たちの高校卒業が間近に迫っていた。歌手になる夢を抱いて上京する者、受験に失敗し浪人する者、突然の妊娠で結婚を決めたカップル。そんな彼らは、それぞれの思いを胸に新しい生活へと踏み出していく。3年後、7人の人生は大きく変化していた。

出典:シネマトゥデイ

予告編に踊る「これは 僕たちが大人になるまでの 10年間の記録」というメッセージ。全くもってその通りでした。そこには脚色も誇大化もありませんでした。
また冒頭で書いた通り、背景には日本という国の10年分の夏が映っています

引用させていただいたあらすじには「東京近郊の町」とありますが、舞台は群馬県前橋市です。また、若者たちの地元の最寄駅として、上毛電気鉄道の大胡駅が登場しています。

個人的な話で申し訳ないんですけど、大胡駅は仕事の取材で何回か訪れたことのある馴染み深い駅です。上毛電鉄さんは自転車を無料で電車内に持ち込むことができるサイクルトレインとしても知られています。

大胡駅。2019年筆者撮影

大胡から前橋を経由して東京まで大体3時間弱。高崎から新幹線を使った場合2時間。
さすがに通う距離としては厳しいため、都内の学校や仕事場に通うためには地元を出る必要がありそうですね。

『青の帰り道』のスタッフ、キャスト

監督 藤井道人
原案 おかもとまり
脚本 藤井道人、アベラヒデノブ
カナ 真野恵里菜
キリ 清水くるみ
リョウ 横浜流星
タツオ 森永悠希
コウタ 戸塚純貴
マリコ 秋月三佳
ユウキ 冨田佳輔
タチバナ 山中崇
セイジ 淵上泰史

藤井道人監督アベラヒデノブさんは2015年の『7s』でもコンビを組んでいたお二方。その『7s』で主役級のキャラクターを演じたのがアベラさんと、本作『青の帰り道』にも出演している淵上泰史さんでした。

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2019年1月21日

カナ役の真野恵里菜さんはドラマ『SPEC』や『みんな!エスパーだよ!』などを足がかりに映画でも活躍。サッカー日本代表の柴崎岳選手と結婚されたことも話題になりました。

キリ役の清水くるみさん『桐島、部活やめたってよ』で宮部実果という印象的な女子生徒を演じた彼女。

リョウ役の横浜流星さんは2020年現在最も勢いのある俳優といっていい存在ですし、タツオ役の森永悠希さん『ちはやふる』シリーズで机くんというガリ勉キャラを好演しました。本作では少し染谷将太さんに似た雰囲気だったかなと思います。

それでは以下、ネタバレありの感想に入っていきます。作品を未見の方はご注意ください。




丁寧に描かれる“あの頃”

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

『青の帰り道』で軸として描かれているのは、前橋の高校に通う(2008年時点)仲良しの高校3年生たち。
具体的にいうと、カナ(真野恵里菜)キリ(清水くるみ)マリコ(秋月三佳)タツオ(森永悠希)リョウ(横浜流星)コウタ(戸塚純貴)ユウキ(冨田佳輔)の7人です。

7人の若者は2008年を起点に、大人になるまでの歩みを1年ずつ進めていきます。その“毎年”の基準点として、タツオ(森永)の誕生日である7月18日を使いました。

さらにバックミュージックのように自然に落とし込まれる、日本が実際に直面してきた歴史的な出来事の数々。冒頭でも述べましたが、2000-10年台を振り返る意味でも、社会科の年表のような要素を持った作品でした。

2008年の7月(高校3年生)

北京五輪の開幕が間近に迫った2008年7月。3年生が具体的な進路希望を学校に提出する時期です。
タツオ(森永悠希)は①東京医大②立正大学③成城大学
ユウキ(冨田佳輔)は①青山学院大学②立正大学③成城大学
と書いています。実名の大学ですね。

リョウ(横浜流星)コウタ(戸塚純貴)は校舎の陰でタバコを隠れて吸うやさぐれ者。
この頃はまだタバコが一箱300円前後で買える時代でした。

そんなやんちゃなリョウですが、僕は彼ら7人が自転車を走らせる「青の帰り道」で衝撃を受けます。上の引用したツイートをご覧ください。

横浜流星の乗ってる自転車。なんかハンドルの角度がおかしくありませんか?

そうです。鬼ハンです。
似たようなものだとカマキリハンドル(カマハン)というのもあります。
ちなみに自転車の荷台もしっかりカチ上げて(ケツ上げという)います。

ここで2016年当時に話題になったツイートを引用させていただきましょう。

『青の帰り道』の群馬県も「北関東」です。そういうことです。
ちなみに南関東の横浜でも中学生の時は結構みんなやってましたね。高校になるとあまり見なくなりましたけど。

それでもリョウが乗っていたように、改造ママチャリをガニ股でだらだらと蛇行運転して、この世界に自らの存在を誇示するようなクソガキが愛おしくてたまりません。
エモいという言葉はこういうものに使うべきなんじゃないでしょうか?これは青いとか痛いとかではないですよ。明確にエモーショナルなユースフルデイズです。

コウタは彼女のマリコ(秋月三佳)を後ろに乗せて二人乗りしていますが、おそらく後輪のところに足置きのハブを付けてるはずです。『溺れるナイフ』でも見られたような、典型的な二人乗りシーンですね。道交法違反なんですけどね。

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2019年9月16日

18歳の誕生日。タツオは前橋公園でギターをしっぽりと練習していたところ、他の6人からサプライズでハッピーバースデーの祝福を受けます。
タツオに向けて花火を振り回すリョウたち。未成年飲酒を敢行する7人。カナ(真野恵里菜)とタツオの弾き語り。それをデジカメで動画撮影するキリ(清水くるみ)

ただし今の時代だと「不良」とみなされるかもしれませんね。
ちなみにこの数ヶ月後、リーマン・ショックとかいう大恐慌が世界を襲うことになります。

2009年 東京組と地元組

キャラクターの説明画像

リョウは2012年から東京へ

2009年7月。春に高校を卒業した7人は、別々の道を歩み始めていました。

カナは歌手を志して上京。
ユウキキリも東京の大学へと進学し、カナとキリはルームシェアをしています。

一方でコウタリョウは地元の工場でアルバイト。マリコはコウタとラブラブ継続中。タツオは受験に失敗して浪人中。
この4人が地元・群馬に残っていました。

2009年の世相を表すように、渋谷のスクランブル交差点のビジョンでは民主党への政権交代がひっきりなしに流れています。鳩山由紀夫さんです。実際の衆院選は8月下旬だったので7月時点ではまだ政権交代はしていないんですが、あの年を象徴する言葉です。

2009年の流行語
「政権交代」が流行語大賞。入選に「こども店長」「事業仕分け」「草食男子」など

また柱を仕切りとして介しながら、19歳になる7人の日常を真横から順番に移していくシーンが素敵でしたね。あの場面から、当時はビデオ&DVD内蔵型テレビがまだあったことがわかります。
同じく藤井監督の『宇宙でいちばんあかるい屋根』でもテレビデオが小道具として使われていましたが、本当にこういう細かいところの気遣いが凄いですよね。

なお地上デジタル放送に完全移行したのは2011年の夏です。以降はカナの部屋のテレビも現代風の液晶テレビに変わっていました。

7人は渋谷に集まります。ライブハウスでカナの曲を聴くために。
久しぶりにあったキリはメガネをコンタクトにして、グッと垢抜けていました。群馬から出てきた4人は高校を卒業した春とほとんど変わっていません。

カナのライブ後には村さ来で打ち上げ。歌い手ということで喉を気にしてお酒をやめたカナだけでなく、後にコウタとの結婚、妊娠を打ち明けるマリコもソフトドリンクでした。
まだ19歳でありながらお酒を「やめた」って、冷静に考えると結構凄いセリフですよね。

夜も更け、一行はカナとキリの暮らす部屋へ。1年前の弾き語り動画を楽しそうに眺めるタツオに、カナは誕生日プレゼントのお守りを合格祈願として渡しました。

2010年 俺達もうハタチだぜ?

2010年、高卒2年目の夏。

コウタリョウの働く工場では、社長(嶋田久作)が、中国はGDPで日本を抜いて世界2位になった、これからは中国の時代だと講釈を垂れていました。
実際に日本が中国に抜かれたと報じられたのは2011年初頭のことでしたね。

この年の流行語大賞は朝ドラに端を発した「ゲゲゲの…」。そのほかに「AKB48」「イクメン」「女子会」「〜なう。」などが流行語に名を連ねました。
このうち「イクメン」「なう」はTwitterで近況をつぶやく彼らのツイートとして使われています。具体的には、育児に励むコウタを撮影したマリコのツイートですね。

スマホとガラケー
2010年時点では、キリとユウキがスマホ。

コウタ、リョウ、マリコ、タツオは折りたたみのガラケーと、地元残留組は依然ガラケーだったことが描かれています。(カナは不明)

一方で2010年7月当時のスマートフォン所有率は約5%。(※)ガラケー組が遅れているというよりも、大学デビューに成功したキリとユウキが、いち早く最先端に飛び乗ったという見方が正しいでしょう。
(※参考:ITmedia

上述の通り、コウタとマリコには息子(カズオ)が生まれ、コウタは工場の正社員として家族を支える決断をします。
カナは野菜ジュースのCMキャラクター「無添加カナコ」として歌手デビューを果たし、キリはカナのマネージャーとして東京で奮闘します。ユウキはリア充の大学生活を謳歌しています。

一方でタツオは二浪、リョウはいまだに責任の伴わないバイト待遇。
二十歳を迎えた7人の現在地に、少しずつ差がついてきました。

「俺たちもうハタチだぜ?」

コウタに知ったような目線でそう諭されたリョウはイラつき、くすぶっているタツオを誘って一発逆転を狙います。

「政権交代だタツオ。見返してやんぞ全員」

ここで出ました政権交代。具体的な作戦内容は、リョウの勤務先から銅線をくすねて転売するというものです。
よくある盗品転売ですね。
リョウのセリフからもこの2010年時点で、自分とタツオが負け組に位置している認識が見て取れます。

リョウのこの転売は、バレる2012年まで続いていきました。

2011年 震災後となでしこジャパン

2011年7月。
大学3年生になり、就職活動の本番を目前としたユウキが、夏休みを利用して地元に帰ってきました。

「日本が大変な時に俺だけ就職活動なんてしてていいのかな?」とはユウキの言葉。2011年と言えば3月の東日本大震災です。ユウキの言ったような考え方は、震災後に確かに存在したものでした。

カナは依然として「無添加カナコ」として知名度を拡大。一方で「無添加カナコ」に縛られて、自分のやりたい音楽がいつまでたってもできないジレンマも抱えていました。世相としては、このカナとの絡みで2011年の流行語大賞に輝いた「なでしこジャパン」という言葉が登場します。女子サッカーのワールドカップ優勝。もう9年前のことなんですね。

キリセイジ(淵上泰史)と出会い、カナと一緒に住んでいた部屋を出て行った一方で、地元のタツオはついに受験勉強をやめて家に引きこもってしまいます。21歳の誕生日にはコウタが前橋公園で飲もうぜと連絡をしてくれましたが、父親に邪魔をされて部屋を出ることすらかないませんでした。

東京で頑張るカナ、恋に目覚めたキリ、恋人繋ぎでデートするユウキ、転売で儲けたお金で豪遊するリョウ、父親として、母親として確かに成長していくコウタとマリコ、籠の中のタツオ。
少しずつ変わっていく者、変わらない者、変われない者。秒針の音が響く中、7人の人生の動きが映し出されていきました。

スカイツリーと倍返し

2012年になると、彼らの人生はさらに大きく動き出しました。
この年はリョウもタツオも携帯をスマホに変更していました。

転売がバレたリョウは工場をクビになり、スカイツリーが開業した東京へ。今度は先輩のお店で、振り込め詐欺の電話担当として暗躍します。
カナは無添加カナコとしての賞味期限が切れてきており、未来への迷いを深めていきました。そんな折に上京したてで行く場所のないリョウが、カナの部屋を訪問。無邪気に好き放題発するリョウの言葉が、突き刺さります。そうやって言うけど理想論だよね。世の中色々あるんだよ。

一方でキリは同棲相手・セイジが隠れて預金を引き出していることが発覚。DVを受けるどん底の日々が始まりました。
そしてタツオは22歳の誕生日の日、カナにテレビ電話をかけた後に命を絶ちます。2008年のあの夏の日、前橋公園でみんなが祝ってくれた高校最後の誕生日を思い出しながら。

開業当初の東京スカイツリー。2012年、筆者撮影

翌2013年にはDV野郎のセイジが結婚詐欺で逮捕され、キリが地元へ帰ります。
カナはタツオの死をめぐる、SNSでの心ない中傷に心を痛め、酒に溺れていきます。歌手を目指して生きていくと決めた19歳のあの時、やめたはずのお酒に。

保険会社の社員として社会人1年目を迎えたユウキは、契約をなかなか取ることができずに先輩から罵倒されます。「倍返し」「じぇじぇじぇ」というキーワードで、罵倒されます。
あまちゃんと半沢直樹が大ブームとなったあの年ですね。

2013年の流行語大賞
この年は「倍返し」と「じぇじぇじぇ」のほか、「今でしょ!」「お・も・て・な・し」の計4つが流行語大賞になりました。

こうして見てきたように、『青の帰り道』では日本の通ってきた、私たちも通ってきた平成後期の世相が随所で表現されています。

ガラケーからスマホへの移行も、フラットテレビから液晶テレビへの移行も、本当に丁寧に描写されています。それはすなわち、観ている我々が自分ごとのように体感できるための演出だと言えます。



夢との折り合い

『青の帰り道』は大人になっていく若者たちを映していく中で、少年少女時代に抱いていた大志に折り合いをつけて見なきゃいけない現実が存在するよねっていうことを教えてくれます。

コウタマリコは新しい家族の誕生を機に、自分たちの幸せな人生を見つけていきました。
一方でキリカナは東京で自分たちの夢を一旦保留して現実的な生きる道を探り、ユウキは楽しすぎたリア充な大学生活と厳しくつらいことだらけの社会人生活のギャップに苦しみました。

リョウタツオは何者にもなれない自分に葛藤しました。かたや犯罪に手を染めてその場限りの快楽を享受し、かたや自分の命を絶ってしまいます。タツオは自分の絶頂期だった高3時代の甘美な記憶から卒業できていない、自分だけが大人になれていない悩みもあったはずです。

高校3年生の夏、自分たちには大きな未来が広がっていると信じていたみんな。その希望とか夢は、大人になる過程ですり減らされていくわけです。それでもみんな生きていかなきゃいけない。戦っていかなきゃいけない。

東京は甘くないんだぞっていう、単純な東京と地方の二項対立映画ではありません。そこにあるのは大人になって生きていく上での戦いです。
幸せな生活を営んでいるように見えるコウタとマリコだって、他の人たちが20歳の頃にやっていたような楽しいことを犠牲にしているわけです。東京デビューもできないし、リョウのように遊び狂うことだってできません。この二人にだけは、人生のモラトリアム期間がないんです。
映画ではほとんど描かれていないですけど、絶対にそこのジレンマはあったでしょうね。

 

現実という大人の階段の上がり方。その一歩一歩に宿る妥協と、取捨選択。

自分の人生を投影できる青春映画では過去一番かもしれません。
また映画を彩った7人の熱演も、この作品が僕にぶっ刺さった大きな要因となりました。言葉遣いも、つぶやく独り言も、自分が確かに体験してきた周りの体温そのまんまでした。

作中の子たちと同じ、1990年前後生まれの方にはきっと響くところがあるんじゃないかな。そう思える素晴らしい映画でした。

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