映画『星の子』ネタバレ感想|2リットル567円の水「金星のめぐみ」を信じて

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2020年公開の映画『星の子』についてご紹介していきます。
原作は今村夏子さんの小説で、監督は『MOTHER』などの大森立嗣監督。

主演は芦田愛菜さんが務めました。

芦田愛菜の現在地

芦田愛菜さんは2010年に日本テレビのドラマ『Mother』で一躍注目を集めたわけですが、特に皆さんの印象に残っているのが翌年のドラマ(フジテレビ)『マルモのおきて』でしょう。

東日本大震災が起きて日本中が自粛とか絆とかに縛られている中で、鈴木福さん、阿部サダヲさんとともに温かいホームドラマを熱演。主題歌の『マル・マル・モリ・モリ!』は一大ムーブメントを巻き起こしました。

ドラマでは『ビューティフルレイン』『明日、ママがいない』などでも圧倒的な存在感を披露。映画でも『うさぎドロップ』に出演するなど、国民的レベルの女の子として地位を確立していきました。

『明日、ママがいない』はその尖ったテーマもあり批判も多く噴出しましたが、個人的には本当に素晴らしいドラマだと思います…!

フィギュアスケートの浅田真央さんにも同様のことが言えると思いますが、芦田愛菜さんは「愛菜ちゃん」として、日本中に知られ、日本中で愛されてきました。幼い頃から知っている我が娘の、あるいは我が孫娘のような感覚で、人々は彼女の演技を愛でてきました。

愛菜ちゃんはみんなの愛菜ちゃんであり続けていました。
一方で、求められている女子児童像を完璧に遂行し続けている、そんな側面もあった気がします。多分それが“みんなの”の部分の安心感なんでしょうけど。

そんな芦田さんも今年2020年で16歳になりました。
今回ご紹介する映画『星の子』ちひろは、もう“愛菜ちゃん”ではありません。

自分自身も昔から観てきた方なので感傷的になるかなと思っていたら、いい意味で覆されました。
新鮮。というかこれが今の彼女なんですね。みんなの愛菜ちゃんからは完全に卒業していました。

芦田愛菜の現在地。それを知るとともに、ストーリー、テーマ設定としても凄く考えさせられる良い映画でした。

それでは映画の情報に移っていきます。




予告編

あらすじ紹介

父(永瀬正敏)と母(原田知世)から惜しみない愛情を注がれて育ってきた、中学3年生のちひろ(芦田愛菜)。両親は病弱だった幼少期の彼女の体を海路(高良健吾)と昇子(黒木華)が幹部を務める怪しげな宗教が治してくれたと信じて、深く信仰するようになっていた。ある日、ちひろは新任の教師・南(岡田将生)に心を奪われてしまう。思いを募らせる中、夜の公園で奇妙な儀式をする両親を南に目撃された上に、その心をさらに揺さぶる事件が起きる。

出典:シネマトゥデイ

『星の子』のスタッフ、キャスト

監督・脚本 大森立嗣
原作 今村夏子
林一家・親族
ちひろ 芦田愛菜
ちひろ(幼少期) 粟野咲莉
お父さん 永瀬正敏
お母さん 原田知世
まーちゃん(姉) 蒔田彩珠
雄三おじさん 大友康平
中学校の面々
南先生 岡田将生
ナベちゃん 新音
新村くん 田村飛呂人
宗教団体・ひかりの星
海路さん 高良健吾
昇子さん 黒木華
落合さん 池内万作
春ちゃん 赤澤巴菜乃
さなえちゃん 見上愛

中学3年生のちひろ(芦田愛菜)が知る世界。家族と学校と、礼拝(宗教)。この3つの舞台を軸に、物語は動いていきます。

配役でいうと、ちひろがゾッコンになった南先生岡田将生が演じていたのはなかなか面白かったですね。
個人的にはウェルテルというウェイ系(死語)の教師を演じていた『告白』(2010年)を思い出しました。

ちひろの姉まーちゃんを演じたのは『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『いちごの歌』などで印象的な演技を見せていた蒔田彩珠。出番は少ないながら強い印象を残しました。

宗教団体「ひかりの星」関連の登場人物は海路さん(高良健吾)昇子さん(黒木華)が幹部として出てきます。春ちゃん(赤澤巴菜乃)さなえちゃん(見上愛)は信者の家族で、ちひろと世代が近い女の子です。
落合さんというのも教団の信者ですね。

 

新興宗教をテーマにした作品ではありますが、決して宗教を忌避したり、警戒感を助長するようなものではないと思います。一方で肯定するわけでもありません。

感想部分では、そんなところも交えながら書いていきます。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

2Lで567円の水「金星のめぐみ」

時は2005年。
林家の次女として誕生したちひろ(芦田愛菜)でしたが体が弱く、さらに発疹が体じゅうにできてしまいました。病院に連れていっても治りません。両親は思い悩みます。

お母さん(原田知世)は手帳にちひろの成長録をつけていましたが、そのメモは次第に荒れ、お母さんの憔悴ぶりを表していきます。どうしたらちひろが治るのかわからない。

このちひろの症状はアレルギーのようなものなのか、虚弱体質のものなのかは明かされませんが、あらゆる手を施しても一向に子供の具合が良くならない。この精神的な苦しみは身につまされます。序盤からきっつい描写。

そんな中、お父さん(永瀬正敏)は職場の同僚・落合さん(池内万作)から“病を治す万能の水”という触れ込みで「金星のめぐみ」というミネラルウォーターを勧められます。2リットルの6本入りで3400円。一本あたり566.666円です。
通常のミネラルウォーターより高いですが、水素水とかだと同じくらいの値段がしますよね。会員価格で定期購入すると当然ながら安くなります。

「金星のめぐみ」を勧めてきた落合氏いわく、タオルに水を含ませて頭の上に乗せることで効果てきめんだそうです。風邪を引かなくなるとか。

おそらくダメもとだったとは思いますが、お父さんが「金星のめぐみ」を試してみたところ、ちひろの症状はピタリと治まり、みるみる回復していきました。
これが「金星のめぐみ」と林家の出会い、そしてその水を取り扱っている新興宗教「ひかりの星」に林家が入信する契機となります。

雄三おじさん(大友康平)ナベちゃん(新音)みたいにハタから見れば怪しさ満点の水でも、両親にとっては大切な娘を救ってくれた奇跡の水です。

10年日記と節約生活

お母さんがちひろの日々の体調を記入していた手帳は10年日記というもので、一つのページに10年分の同じ日が記載されてます。

例えば5月1日のページだと上から
2005年 5月1日
2006年 5月1日
2007年 5月1日


という具合ですね。

そして2020年、その手帳はちひろの落書きノート、主に南先生(岡田将生)の似顔絵ノートとして使われています。
10年分のうち、書かれているのは最初の数年間です。だから各ページの2/3くらいはスペースがあるんですね。日めくりなのでページ数は(少なくとも)366日はあるはずです。

ちひろがこれを使っているのは手頃なメモ帳代わりということもあるでしょうし、ページを破いて「裏にも書けるよ」と屈託なく友達に言っていたことから倹約という意味もあるでしょう。

林家は「ひかりの星」に入信以降、次第にその生活水準が低くなっていきました。
「引っ越すたびに家がどんどん貧乏になっていく」という説明がありましたが、宗教にはお金がかかります。小さな家とはおよそ不釣り合いな祭壇があり、得体の知れない振り子のようなものも机の上で揺れています。お父さんはすでに以前の職場を辞めています。

両親はいつも同じ緑色のジャージを着て信仰に励み、よそ行きの服すらもありません。
家で出される食事は特売品や落合さんからのお裾分けが主です。というか両親が交流する世界はほぼ「落合さん」で完結しています。

落合さん自身の登場回数は多くないものの、特に母親の口から出る「落合さん」のフレーズの多さといったら…。社会的に孤立している様子の上手な描写でしたね。

「自分の意思」とラストの意味

ラストシーン。

ちひろは両親とともに星空を見上げます。流れ星が見えた!とはしゃぐ二人に対し、ちひろは流れ星を見逃してしまいました。
そして映画は彼女の「まだ見えないな」で終わります。
これはどういうことなんでしょうか。

教団の集会で、幹部・昇子さん(黒木華)は、ちひろに向かって「ちーちゃん、迷ってるのね」と語りかけた後にこう言います。

ちひろは宗教団体に入信し、敬虔な信者となった両親を持ち、信者としての自分を受け入れてきました。

ただ、それを「疑いなく」受け入れていたのはおそらく粟野咲莉が演じていた幼き日のちひろの頃で、あんたん家やべえよと開けっぴろげに言うナベちゃん(新音)や、信仰に走る両親のことを「完全に狂ってる」とモノ扱いした南先生(岡田将生)といった周りの人間と関わることによって、ちひろは少しずつ自分の置かれた環境を意識するようになります。「疑う」とはちょっと違うと思うんですけど。
彼女が両親とは違い、まだ社会とのつながりを有していることが大きいですよね。

「ひかりの星」ではおそらく禁忌とされているであろうコーヒーも、ちひろは飲むことができます。これは学校の面々の影響ではなく、宗教一家となってしまった家族に嫌気がさして家出した姉・まーちゃん(蒔田彩珠)が見せた抵抗を受け入れたものです。

流れ星を眺める星空のラストシーンに話を戻します。
そういうわけで、ちひろが「まだ見えないな」と言った意味は、宗教に、そして水に入れ込んでいる両親との差別化を意味するものでしょう。
でも「まだ」という前置きを入れたことで、彼女は「これから見れる」という希望を残しているようにも見えます。「見る」流れ星とは信仰であり、信仰する両親自体でもあります。

宗教っていう信じる対象は、すなわち家族なんですよね。
個人的には、ちひろのあの一言を「自分はこの両親と一緒に、この両親を信じて生きていく」という表明と解釈します。
もし「やっぱり見えないな」とかだったら、間違いなく両親=宗教との決別だと思うんですけど。

宗教=忌避からの逸脱

記事冒頭にも書きましたが、この映画は新興宗教の危うさを主張するものではありません。
林ファミリーは敬虔な信徒となるにつれて貧乏になっていくわけですが、そこに教団から具体的な搾取があるかどうかというのも特に描かれてはいません。

その一方でナベちゃん南先生、また集会に代打参戦したツダさん(宇野祥平)といった“外”の視点を利用して、これは“一般的には”ヤバいんだよ、白い目で見られる存在なんだよっていう描写は定期的に施されました。

別にいいんですよ。
おかしいと思ったり、「林さんちのちひろちゃんとは遊ばないように」とか親御さんが子供に向けて言ったりしてもいいと思うんですよ。

ただ、岡田将生演じる南先生が、授業中に生徒の前でちひろを家庭の信仰の理由で晒し者にした公開処刑。あれは駄目です。

信仰というのはそれを必要としている人がいるから存在しているわけで、ちひろの両親にとって「金星のめぐみ」は必要なものだったんです。どう見てもインチキなまがい物であろうと。

そしてその水を信じて、信仰上で、あるいは経済的に課される様々な規定も受け入れているんです。それほどに両親にとってあの水が拠り所になっているのを、ちひろも知ってるわけです。
宗教を否定するということは、ちひろにとっては家族を否定されることと同義です。

宗教にのめり込んでいるやばい奴だと馬鹿にしたり忌避するのは勝手ですけど、そういうのは自分だけでとどめておくべきものです。本来、信仰というものは誰にも等しく許された権利だし、ちひろが学校で勧誘をしているわけでもありません。
(自分とは)異質なものだから否定しよう、排除しようという煽動は教育者として決定的に間違っています。いじめの引き金ですよ?あれは。

ナベちゃんはこのあたりの常識をわきまえていて、自身はちひろの宗教に否定的だし「金星のめぐみ」を不味いとディスるけれども、みんなの前で彼女を吊るし上げた南先生のことは「サイテーだね」と吐き捨てました。同感です。

岡田将生は『告白』に続いて痛い教師役でしたね…。

信教に対してアレルギーを抱く人が多いのは理解しています。
僕も林一家が「ひかりの星」から足を洗って、より良い水準で生活できればいいなとは思います。ちひろの立場だったら、自分は家族から離れることを多分選びます。

でも、信じるか否かを選択するのは彼らの自由です。少なくともちひろは信者であり続けることのデメリットも理解しています。その上で彼女が下す判断に対しては尊重されるべきです。

『星の子』では親戚の雄三おじさん(大友康平)たちが、ちひろだけでも抜け出させようとして下宿生活を提案しました。
もしも、ちひろがこの先、自分の“意思”で居場所に変化を求めたら。両親=信仰からの乖離を決めたら、もう一度手を差し伸べる雄三おじさんたちであってほしい。そう思いました。

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湊かなえの小説を原作とした独白型ミステリー。10年前の映画ですが、英語教師役の岡田将生の演じっぷりがお見事です。

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いくら後ろ指を指されようとも、私にとっては唯一無二の親。そういう意味では大森監督の『MOTHER』とも共通しているところがあるのではないでしょうか。
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