映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』ネタバレ感想|一番怖いのは…

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2021年公開の映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』をご紹介します。

妻が描く漫画は現実そっくりの不倫物語…。これは虚構なのか現実なのか?
ドロッドロの不倫復讐物語…とは一味違う終盤の大展開が見事な映画でした。

この映画は、漫画家夫婦の佐和子(黒木華)俊夫(柄本佑)、佐和子の編集者・千佳(奈緒)、佐和子が通う自動車教習所の教官・新谷(金子大地)佐和子の母(風吹ジュン)の5人でほぼ物語が完結しますが、「不倫」の構図関係としては

  • 夫・俊夫と編集者・千佳
  • 妻・佐和子と教官・新谷

この2組で物語が進んでいきます。

ただその不倫が真実か虚構かどうかはなかなかわかりません!

この記事では、壮絶な復讐劇において誰が一番怖かったのか?という部分に注目しながら感想を書いていきたいと思います。
ネタバレを含みますので映画未見の方はご注意ください。



あらすじ紹介

黒木華と柄本佑が演じる漫画家夫婦の虚実が交錯する心理戦を描いたドラマ。漫画家・佐和子の新作漫画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」。そこには、自分たちとよく似た夫婦の姿が描かれ、さらに佐和子の夫・俊夫と編集者・千佳の不倫現場がリアルに描かれていた。やがて物語は、佐和子と自動車教習所の先生との淡い恋へと急展開する。この漫画は完全な創作なのか、ただの妄想なのか、それとも夫に対する佐和子からの復讐なのか。現実そっくりの不倫漫画を読み進めていく中で、恐怖と嫉妬に震える俊夫は、現実と漫画の境界が曖昧になっていく。

出典:映画.com

スタッフ、キャスト

監督・脚本 堀江貴大
早川佐和子 黒木華
早川俊夫 柄本佑
佐和子の母 風吹ジュン
桜田千佳 奈緒
新谷歩 金子大地

映画内の漫画は、佐和子のパートがアラタアキ先生、俊夫のパートが鳥飼茜先生ということです。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



キャラクター別に考える

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

さて、『先生、私の隣に座っていただけませんか?』。鑑賞後にどんな感触だったでしょうか?

俊夫側からすると、
妻がリアル路線で漫画を描き始める→
浮気してたのがバレたくさい→
ってか妻が新しい男に恋をし始めた?→
わかった認めるよ、浮気してたよ!→
許してもらえた?良かったぁ〜→
あれ?妻は?えっ?えっ?

って感じですよね。

僕は俊夫(柄本佑)側の目線から見ていたので最後の展開は「うそーん!」って感じでした。

どいつもこいつも結構やばいやつだったんですが、誰が一番怖かったのか、そんな観点から見ていきます。

俊夫:いい人の仮面の奥には…

まずはこの不倫物語のきっかけとなる事を起こした人間その1.俊夫(柄本佑)です。漫画家でありながらも休載4年。

人当たりは良く、妻・佐和子(黒木華)の体を思いやり、義実家にも積極的に赴き、モラハラ的なこともなくで、傍から見れば良い旦那。傍から見れば。

ただ当事者の佐和子からしてみると、裏切りの不貞行為を働いたことで彼の信用は墜ちてしまうわけです。結婚5年目となった自分とは一緒の部屋で寝ることもしばらくなかったのに。

俊夫の問題点は不倫がバレたっぽい…ってなった時にあっさり認めなかったことかなとも思うわけですが、そもそも認めたところで佐和子が許したかというとそれは違う。

結局浮気を働いた時点で、俊夫には許されない未来しか待っていなかったんですね。

俊夫の一番やばい点は鈍感さです。
佐和子が俊夫からの突き放しと受け取った(※後述)、「もう免許取れないかと思った」という言葉とか、彼女の服装の違いに気がつかなかったこととかは仕方ないとしても、不倫相手(兼・妻の仕事担当者)の千佳(奈緒)に妻とのプライベートで連絡を取るのはおかしいですし、彼女が自分の義実家に突撃してきたら精一杯追い返さなくてはいけませんでした。

大事なことだったら外で話すべき。帰りの足がない?タクシーで帰れや!

繰り返しますが、傍から見れば良い旦那さんなんですよ。でもその良い旦那っていうのは彼が自分を気持ちよくするために演じていることで、妻とはちゃんと向き合っていないわけです。

このへんは『ミセス・ノイズィ』の夫とも似ていますね…

千佳:鈍感なのか肝が据わってるのか

そんな俊夫の不倫相手となった千佳(奈緒)。俊夫への好意を隠そうともせず、挙げ句の果てには「俊夫さんに会いたい」一心からどアウェイの佐和子実家に単身で乗り込んできます。いや、バカなの?この人?

千佳はコミュ力が高いですよね。自分の恋敵(のようなもの)の実母に対してもあっさりと取り入り、初対面の新谷(金子大地)に対しても早々にタメ口で話すなど、相手の懐に入り心を掌握することに長けています。
自信もあるんでしょう。修羅場がある程度予想できるにも関わらず、その場に居座ろうとする千佳。勝ちを確信してなかったらこんなことできないですよ普通。

めんどくさいことに巻き込まれるの嫌だから帰ります!にならずにとどまろうとする、その図太さが怖い。ドロドロ大歓迎。好戦派。
他人の家で俊夫にいちゃつこうとするのもやばすぎです。

演じたのは奈緒さんですが、彼女は様々な温度のキャラクターを表現できる俳優ですね。

今回の千佳は佐和子(黒木華)にとって泥棒猫のような存在なんですけども、秘密の背徳行為をしているような意識が千佳からは感じられません。堂々と相手の要塞(実家)にも乗り込んで来ます。

危機意識の薄さなのか、俊夫は自分のものだというみなぎる自信なのか、千佳のこの強心臓ぶりはある意味怖かったです。繰り返しますけど、普通なら愛人の妻の実家に行くなんてできないですよ。笑

佐和子:ちゃんと復讐したいんです

続いて、この映画の主役となった佐和子(黒木華)です。

彼女が描く漫画を挿入することで、この作品は虚構と現実の境界が曖昧なものになっていました。
つまり、佐和子が行なっている新谷先生との行動や、彼女の感情はどこまでがリアルなのかわからないんですよね。

真意が読めないという点では、黒木さんが宗教団体の幹部役を演じた『星の子』とも近いものを感じました。

夫・俊夫の浮気の決定的現場を目撃した彼女は小さな復讐心を胸に灯していきます。
そして、免許取得に励む中で夫にかけられた「よかった、もう免許取れないかと思った」という言葉を夫からの決別(もう自分が一緒にいなくても大丈夫)と捉え、佐和子の心はさらに乖離していきました。

「私、夫にちゃんと復讐したいんです」
「さて、夫はどんな顔をするのだろう」

このへんのワードはなかなか刺激的でいいですね!

アクセルを踏み込んで

そんな折、車校のイケメン教官・新谷先生に出会ってしまった佐和子先生。

シートベルトを締め、安全確認をし、ギアをDに入れてサイドブレーキを下ろし…いざブレーキから足を離してアクセルへ…
足を‥
足を…

踏めない…!アクセルが踏めない!

「アクセル踏まないと始まりませんよ」
と新谷先生に言われてしまいます。

その後に新谷先生の手取り足取りの指導で佐和子は無事に免許を取得するわけですけど、彼女にとって車を運転できるようになるということは、今まで運転してくれた俊夫からの独立を意味します。

俊夫から離れて行くという行為、感情を「ブレーキから足を離し、アクセルを踏む」という行為で表現しているわけです。

まああの車は俊夫の車なので、佐和子が乗って去って行くのはどうかなと思いますが、一度目の「ドライブ」に佐和子が一人で出かけた際は、俊夫(と佐和子の母)はあの実家から身動きが取れなくなります。

車校で実家の場所を言った際の新谷先生の反応を見ると、佐和子の実家は田舎の中でもとりわけ車がないと動けない場所にあることがわかりますよね

虚構か現実か。握り続ける主導権

不倫漫画の原稿を俊夫が読んでしまって以来、佐和子はずっと俊夫に対して主導権を握り続けます。
これフィクションだよね?本当じゃないよね?と確認する夫に、生返事で答え、漫画の続きを書くことによって俊夫を不安にさせたり安心させたりします。

リアル新谷先生が家に現れ、「佐和子さんと外で会ったのは今日が初めてです」などと言われ、俊夫が安心したのも束の間。漫画は原作を佐和子が遠隔で送り、作画が俊夫という形で執筆することになり、映画の結末は俊夫にとってのバッドエンドとなりました。
むしろそこから連載が始まると考えれば、バッドエンドどころか地獄は始まったばかりです。

じわりじわりと俊夫の余裕を奪っていき、束の間の安心を与えた後に奈落の底へ突き落とす。しかも俊夫は、これからも別れた佐和子と共同作業をすることを余儀なくされる。

「ちゃんと復讐したいんです」の内容がこれですから、相当大掛かりかつ綿密な復讐計画ですよね。

新谷:演技派共犯者その1

その復讐計画を遂行する上でポイントとなったのが、佐和子の不倫相手・新谷先生(金子大地)です。

青春作品の青年役が多かった金子大地さんですが、この作品では見事に謎多き車校教官を演じていましたね!

この新谷先生は、佐和子が好意を寄せている対象であることはわかるんですけど、二人の間に恋愛感情が介在しているのかが漫画の中の虚構なのか現実なのかは私たちはわからなかったわけです。俊夫の目線と同じですよね。

んで、佐和子が家に新谷先生を連れてきて、さあ修羅場の始まりだとなったものの、新谷先生は佐和子が俊夫の負担を軽減するために車校に通うという理由や、自分は佐和子と何も関係がないだとかを俊夫に話します。安心し、自分の早合点を恥じる俊夫。

いやいや、何のために新谷先生はこの家に来たんでしょうか?

着いた途端に俊夫からは目の敵にされ、「外では初めて会う」存在に過ぎない車校の生徒の母親と、よくわからない編集者(奈緒)と初対面で膝を突き合わせて夕飯を食い、しかも唯一の知り合いである佐和子は早々に部屋へ引き上げてしまって、どアウェイに一人残されるわけですよ?ほぼ部外者ですよ?誰得だよ。何のために来たん?

いやいや、新谷先生かわいそう!!!
とか思ってたら、最後に新谷は佐和子の共犯者であることが明らかになります。俊夫を安心させるために言った言葉も、佐和子とは車校以外では関係がないんですと言ったのも全部演技です。うそーん!!

とんでもないイケメン教官ですね。もはや怖さを通り越して清々しい。超絶演技派。
無知を装って俊夫や奈緒を安心させるメガネの奥には、戦略的な企みが隠されていたわけです。

佐和子の母:演技派共犯者その2

ただ、一番怖えなと思ったのは佐和子(黒木華)のお母さん(風吹ジュン)なんですよね。

実家に帰って来た娘・佐和子に俊夫さんって完璧に見えるけど弱点無いの?と聞き、浮気性?という問いを否定しなかった娘から何かを悟るものの、特に娘側につくでも俊夫のことを疑うなどもせずに、佐和子のお母さん、またあの屋敷の家主というキャラクターにとどまっています。

ただし、最後にお母さんは「最初から(俊夫を)許すつもりなんてなかったのね」と佐和子の真意を見透かしたようなことを言っていました。全部知ってたんですね、この人も。娘の思ってることはわかった上で、俊夫や千佳に対して何も知らないような態度を取っていたんです。

思い返せば新谷先生と出会った佐和子がきちんとメイクをして、普段履かないスカートを履いて、色気づいていることに気づいたお母さんは、「あの子スカートなんて履くのね」と俊夫に言い、気づかなかった俊夫に対して何かを察していました。ああこの人こういうとこね、と気づいた感じでしょうか。

俊夫の不倫も、佐和子と新谷先生の関係も全部知っていたと考えると、お母さんの行動は本当に凄いですよ。最後の突き落としへつなげるために、何も知らないふりをしていたんですよ。

俊夫は佐和子の車校送迎以外ずっと家にいて、お母さんは義理の息子とも顔をあわせる機会が多かったはずです。その中でも疑念を抱いたり探りを入れたりすることもなく、ただただ娘の“その時”を待ち続けた。教習所での免許取得が最短2週間と考えると、その期間ずーっとお母さんは変化を見せなかった。何なら若干俊夫側に寄り添う立場を装うまでありました。

佐和子が出ていき、残された俊夫と千佳に、お母さんはどんな態度を取るのでしょうか。考えただけで怖い。

 

この映画ではフィクションと現実を曖昧にしながらの構成が素晴らしく、かつわかりやすかったわけですが、気になったのは夫が妻から心を離してしまう(浮気してしまった)だけの理由がどこにあったのかです。

ニート状態の夫が妻の仕事相手と不倫し、義実家で生活しながら不倫の事実を隠し通せるかどうか怯えている。妻は新たな恋愛対象を見つけ、夫の元を去っていく。原因は間違いなく夫の不倫にあるわけで、良い悪いで言えば10:0で夫が悪いでわけですけど、夫の不倫が確定事項として明示されている以上、なぜ俊夫はその判断に至ってしまったのかが知りたかったような気もします。

理由があれば浮気してもいいなんて思いませんが、俊夫の犯した裏切りが、柄本佑さんの狼狽と怯えによってコミカルに中和されながら描かれているのは(俊夫にとって)少しアンフェアだったかなと。彼の言い分も少し聞いてみたかった気もします。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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