映画『光を追いかけて』ネタバレ感想|秋田の映像美と中島セナの空気感

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こんにちは。織田です。

今回は2021年公開の映画『光を追いかけて』をご紹介します。

過疎化の進む秋田県を舞台に、中学生の思春期を描いた作品。

CMディレクターとして活躍する成田洋一監督の映し出す田園風景がとても美しい映画でした。
美しかったんですが、青春映画として個人的に思う部分も多かったのでそんなところを交えながら感想を書いていきます。

  • 良かったところ
  • 合わなかったところ
  • この映画と似ている作品

今回はこの3つに着眼してみました。



あらすじ紹介

両親の離婚で父の故郷秋田へと引っ越した、中2の彰。転校先にも馴染めず、憂鬱な日々が続く。

ところがある日、彰は空に浮かぶ“緑の光”を目撃。田んぼのミステリーサークルへと辿り着くと、不登校のクラスメート真希と出会う。共通の秘密を持った2人の仲は近づき、灰色だった日常が輝き始める。

一方で彰たちの中学は、過疎化による閉校の日が迫る。

おとなたちも揺れ動く中、謎の“緑の光”は、彰たちに何を伝えようとしているのか?

出典:公式サイト

スタッフ、キャスト

監督 成田洋一
脚本 成田洋一、作道雄
中島彰 中川翼
岡本真希 長澤樹
奈良先生 生駒里奈
田村翔太 下川恭平
村上沙也加 中島セナ
佐々木先生 小野塚勇人
彰の父 駿河太郎
佐藤秀雄
(真希の叔父)
柳葉敏郎

主人公の彰を演じた中川翼さんは、映画『僕だけがいない街』で主人公の小学生時代を好演。『僕街』の中川さんは個人的にめちゃめちゃ良かったと思っています。

昨年公開の『浅田家!』でも主人公(二宮和也)の少年時代を演じていましたが、本作『光を追いかけて』は映画初主演となりました。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



舞台は秋田。実話モチーフ

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

秋田県の画像

秋田市出身の成田洋一監督がメガホンを取り、大仙市出身の柳葉敏郎さん、由利本荘市ふるさと応援大使の生駒里奈さん(同市出身)と、秋田ゆかりの面々が出演している『光を追いかけて』。

秋田県井川町や、潟上市、五城目町、男鹿市といった秋田県内で撮影が行われました。

この作品では空に飛ぶ「緑の光」や田んぼの「ミステリーサークル」が鍵を握ってくるわけですが、実は井川町で1991年に実際に起きた現象をモチーフにしているんですよね。
この部分は「全国町村会」のページで秋田県井川町の齋藤町長がお話ししているので、興味のある方はご覧になってみてください。

「あきたこまち」に代表されるような米どころらしく、黄金色の稲が輝く田園風景や、日本海に面した風力発電ババヘラアイスきりたんぽなど、秋田の風物詩がかなり強調して取り込まれている映画です。

秋田を舞台にした映画だと近年では『火口のふたり』『泣く子はいねぇが』などがありますが、『光を追いかけて』はかなり秋田色を強く、またポジティブに描いた作品でした。

良かったところ

素敵だったところから書いていきます。まずはキャストの演技面について。

村上さんと彰くん

『光を追いかけて』の主人公・を演じたのは中川翼さん。(おそらく親の離婚を機に)東京から父親の地元・秋田へ転校してきたという設定です。

彰が転校してきた鷲谷中学はその年度いっぱいでの閉校が決まっていて、有志の実行委員生徒を中心に、鷲谷中学最後の文化祭を「閉校祭」と命名。絶対に成功させようと準備に取り組んでいます。

この閉校祭・実行委員を務めた村上沙也加を演じている中島セナさんが実に良かったです。気の強そうな堅物委員長系女子だったんですが、上手かったですね。全然笑わないんですよ、この子は。

東京からやってきた彰のことをよそ者だから自分たちとは違う、仲間じゃない、と捉え、担任の奈良先生(生駒里奈)に対しても信用してない。敵意とか諦めとかとも違って、もう誰の手も借りずに“自分たちで”やりますよ、という意志の強さを感じます。先生を信用してはないんですけど、周りの子と一緒に悪口を言ったりはしません。

バリバリ優等生タイプなのに絵心がないというギャップも親近感を抱かせてくれます。
周りのクラスメイトからは村上「さん」と呼ばれ、若干の精神的距離を置かれていることがうかがえます。

そんな村上さんからよそ者認定されつつも、自分の絵心を生かして「閉校祭」の準備に尽力することになった彰。徐々に実行委員たち=クラスの中心人物たちの信頼をつかんでいきます。

鷲谷中は閉校が決まっているので新規生徒募集もせず、村上たち(3年生?)の1クラスしかないんでしょうね

彰も彰で鷲谷の町に「馴染めない」感じが上手いんですよね。同じく東京から親元の地方に越してきた設定として、東京→富山の『ほしのふるまち』という映画がありましたけど、あの主人公(中村蒼)は都会人としてのプライドというか、俺はこの町の人間とは違う的な区別意識がありました。

でも彰の場合、自分はよそ者であるとわかった上で、別に地元の人たちとは違うし!みたいな開き直りもなく、淡々と時間が過ぎるのを待っているような雰囲気です。早くこの1年終わらねーかなくらいの感じでしょう。彰を周囲は東京者と捉え、家族でさえも「東京」と鷲谷の違いを引き合いに出しています。

そんな彰が、友達になろうとしてきた田村翔太(下川恭平)に板ガムを渡し、田村が「これ東京の(で売ってる)ガム?」と聞いていたのは印象的でした。

あのシーンは『君の膵臓をたべたい』を思い出しましたね…笑

中川さんと中島さんの二人はこの映画に、単なる「内と外」にとどまらない微妙な距離感を与えてくれたと思います。

圧倒的な方言と農業地域の実態

『光を追いかけて』では、秋田市出身の成田監督が方言指導も務めています。
映画内では秋田県出身の柳葉敏郎さんを中心に、再現度の高い方言が繰り出されていました。

ここで面白かったのが世代間における方言使用の違いです。

ババヘラアイスを道端で売っていたおばあちゃんは訛りの強い方言を使用。アイスを買いに来た彰(中川翼)は意味を理解できず、級友の田村(下川恭平)が通訳をしてくれています。

また彰のお父さん・良太(駿河太郎)もバリバリに方言を使用していました。鷲谷出身とはいえ東京で長く過ごしていた良太ですが、鷲谷の町に再び馴染もうという気概すら感じます。一番コテコテな方言話者だったんじゃないかな。

一方で鷲谷中の生徒たちに目を移すと、村上さん(中島セナ)をはじめとした彼女たちはほぼ標準語で過ごしています。担任の奈良先生(生駒里奈)もそうです。
世代によって方言を使う頻度だったり、方言の重要性の濃度が違うんですよね。

関西方言や博多方言など一部を除いて、全国的に方言の特異性は若い世代になるにつれて薄まる傾向があります。
「使えない」のではなくて、「使う場所を選んでいる」といったほうが正しいでしょう。これは秋田に限ったことではありません。

秋田の水田の画像

出典:写真AC

方言だけでなく、過疎に悩む集落、コメ農家としての産業の限界も『光を追いかけて』では描かれています。
「1反田10万円」(にしかならない)という叙述や、次々と転校して街を去っていく生徒たち、さらには担任の奈良先生が東京の転職サイトを物色して(年収350万円以上という数字が出ていたかと…)いたシーンにも、過疎地域の現実がうかがえました。

生徒に信用されてない中でも一応“先生”をしている生駒里奈さん。良かったです!

実際、実家が農家をやっている前髪長め男子くん(名前不明)も、鷲谷中の閉校後にこの町を出て行くことになったと言っていましたね。

合わなかったところ

続いて『光を追いかけて』で個人的に合わなかったところをお話ししていきます。

秋田のイメージビデオでは…

この映画は圧倒的に画づくりが綺麗です。
黄金色に揺れる稲穂も、その中にたたずんで空を見上げる中学生たちも、一つ一つのシーンに「こう撮りたい」というこだわりが強く感じられます。

ただ、その美的感覚が強すぎたのではないでしょうか。

もうこれは人によって合う合わないの話になってくるんですけど、映画においては物語と映像の主従関係ってあると思うんです。
美しい映像が「従」として物語をさらに引き立てるのか、それとも美しい映像がまずありきで、ストーリーが「従」なのか。

『光を追いかけて』は後者だと感じました。

基本的に作品通じて美しく、かっこいいんですよ。でも、かっこつけすぎに見えるんですよ。

秋田は曇天が多い地域ですけど、その割にいつも綺麗な空の下で駆け回っているのも違和感を感じるし、コメの収穫作業で彰(中川翼)真希(長澤樹)がザ・農家って感じの服装をしてたのも、ん〜?って感じでした。もうちょっと他にあったのでは…。

その中でも一番ノイズに感じたのは劇伴の音楽。音楽の主張が強すぎてキャラクター当人たちの演技が全然入ってこないんです。イメージビデオとかミュージックビデオ観ている感覚。

ニワトリを絞めるところから始まるきりたんぽのシーンもいいんですよ。
良いんですけど、お酒片手にきりたんぽ食べるのって秋田っぽくて良いよね!の域を出ていないように感じます。彰が鷲谷の町に馴染む、この町を好きになるという側面があるんだと思うんですが、秋田ってこうだよねっていうステレオタイプを表現しているに過ぎないのかと。

ひりつくような思春期の鬱屈だったりそこからの解放を味わうには、あまりにも登場人物が「従」になってたんじゃないかなと思います。繰り返しますが、美しいんですけど、美しい秋田のプロモーション映画にとどまっていないかな?と感じました。

予定調和の中学生たち

真希が逆上してみんなの似顔絵を剥ぎ取りぐちゃぐちゃにしたシーンとかも何かなあと思います。真希の暴走を生徒たちはただ黙って見ています。「岡本は頭おかしいから…」で済ませてるにしても、普通もうちょっと怒るでしょ。自分の似顔絵をぐちゃぐちゃに丸められたら。

そもそも真希の怒りを招いたのは、田村という「彰と友達になりたかった」男の子の卑劣な成りすましツイートなわけですけど、あれにしてももう少しバレないようにやるでしょと思いました。しかも2回目は他の生徒たちがいる中で彰のスマホを強奪して、彼の携帯から自分の成りすまし垢にログインして彼の撮った画像をツイートするという。みんなドン引きでしたね(あそこのドン引きシーンは好き)。
俺がお前になんかしたかよ?と憤る彰。正論。もっと怒れ。

真希も田村も、修復不可能なレベルで大暴れした中でも、鷲谷中のクラスメイトたちは二人を恐らく許しています。ハッピーエンドですね。でもなんか現実感がないんですよね。予定調和なんですよ。

今年の春に『14歳の栞』というドキュメンタリー映画を鑑賞しましたが、14歳ってもっと色んなことを考えながら行動していますし、考えながら立ち位置を取っています。

その「考えながら」の部分が見えたのは堅物実行委員の村上さん(中島セナ)だけでした。彼女が腕に巻いてる「実行委員」の腕章とかも、準備の段階からあんなのする?って思ってしまいます。

真希に夢中な彰くんに焦りを感じる田村くんの気持ちもわかるだけに、田村くんが“やった愚行”だけじゃなくて、心の闇を田村くん自身にフォーカスを当てるところで見たかったですね。

こんな映画もおすすめ

ジュブナイル系映画の『光を追いかけて』。
この映画が好きだった方におすすめしたい作品をいくつかご紹介します。

リリイ・シュシュのすべて

2001年に公開。市原隼人、蒼井優などが出演。14歳の刹那性、不条理な世界がこちらも美しい田園風景の中で描かれています。満ち溢れる閉塞感も厨二感も圧倒的に美しい映像で彩られ、その苦しささえもが美しく映る。中学生の危うさ、みずみずしさがほとばしる岩井俊二作品。

遠くの空に消えた

空港建設計画に揺れる町に引っ越してきた少年(神木隆之介)が主人公。転校生、変わろうとする田舎町、少女とUFO、謎のミステリーサークルと、『光を追いかけて』と似た設定が結構あります。主人公の友達役を演じた、ささの友間のガキ大将ぶりも見どころ。

泣く子はいねぇが

なまはげが有名な秋田の男鹿地域が舞台。妻子に見放された情けない男(仲野太賀)が、あまりにも不器用に生きる様が愛しい映画です(一緒に観ていた女性はマジでムカつくという感想でした笑)。

随所に散りばめられるフットボール要素も注目。柳葉敏郎が古いヴェルディのベンチコートを着て出演しています。ババヘラアイスをはじめ、秋田要素満載。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。