映画『花とアリス』ネタバレ感想〜後年の『殺人事件』と合わせてどうぞ〜

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こんにちは。織田です。

2004年の映画『花とアリス』を鑑賞しました。
こちらはウェブ上で配信されていた岩井俊二監督のショートフィルムの劇場公開版で、ショートフィルムでは描かれることがなかったエピソードも盛り込まれた作品になっています。

奇妙な三角関係を形成する女子高生の花役に鈴木杏、アリス役に蒼井優、またお相手の先輩男子・宮本役に郭智博が抜擢されています。



『花とアリス』のスタッフ、キャスト

監督・脚本:岩井俊二
荒井花:鈴木杏
有栖川徹子(アリス):蒼井優
宮本雅志:郭智博
猛烈亭ア太郎:坂本真
黒柳健次(アリスの父):平泉成
有栖川加代(アリスの母):相田翔子
加代の連れ:阿部寛
堤ユキ:木村多江
荒井友美(花の母):キムラ緑子
現場担当の編集者:広末涼子
リョウ・タグチ:大沢たかお

岩井監督が脚本、音楽、編集も担当しています。
蒼井優、郭智博、大沢たかおは岩井監督の『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)でも起用されていましたね。

また上記に載せなかったキャストもそうそうたる名前が並びます。
ルー大柴、アジャ・コング、大森南朋、テリー伊藤、叶美香、虻川美穂子。

豪華な出演陣がどのようなちょい役で出ているのかも注目してみてください!

あらすじ紹介

幼なじみのハナ(鈴木杏)とアリス(蒼井優)。ハナは落語研究会に所属する高校生・宮本(郭智博)に一目惚れ。同じ部活に所属し、なんとか宮本に近づこうとするハナ。そしてある嘘をついたハナは、宮本と急接近する。しかし、その嘘がバレそうになり、さらに嘘をつくはめに。しかもその嘘がきっかけで宮本がアリスに恋心を抱いてしまい……。

出典:シネマトゥデイ

個人的な印象では嘘を嘘で塗り固めるというよりも、一目惚れの相手に花(鈴木杏)が大掛かりな洗脳を施していくという方がしっくりきます。記憶の塗り替えといった方が正しいでしょうか。

荒唐無稽な押し付けの設定を完遂しようとしていく強引さと、いつバレるのか、嫌われたらどうしようかと不安に押しつぶされそうな感覚と。滑稽にも見える花ですが、鈴木杏が上手に演じていたと思います。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

11年後には前日譚が公開

本作に触れる前に、2015年に公開された『花とアリス殺人事件』について紹介します。

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映画『花とアリス殺人事件』ネタバレ感想〜キミ呼びの緊張感〜

2017年10月16日

『花とアリス殺人事件』は岩井俊二監督の下製作されたアニメーション作品で、声の出演に『花とアリス』のキャスト陣をそのまま起用して公開されました。

こちらの『花とアリス殺人事件』は高校を舞台にした『花とアリス』の前日譚で、中学に転校してきた有栖川徹子(アリス・蒼井優)が引きこもりになってしまった花(鈴木杏)と仲良くなって彼女を再び外の世界へといざなっていく映画になっています。

公開は『花とアリス』よりもだいぶ後になったものの、時系列としては『花とアリス』の前になります。僕は先に『花とアリス殺人事件』を観ていたので、順番としては作品世界内の時系列に則りながら鑑賞した形になりました。

『花とアリス』ではアリスの同級生・風子(黒澤愛)が花の過去を物語のように語りますが、それはそのまま『花とアリス殺人事件』のストーリーになっています。
また、本作品で蒼井優が見事な演技を披露しているバレエのシーンも、『花とアリス殺人事件』ではより印象的に描かれていました。

アリスを象徴する要素の一つだったバレエが、高校入学後にどのような位置付けとして彼女の強みになっていったのか。『花とアリス殺人事件』から先に鑑賞すると、そのような楽しみ方もできるのではないでしょうか。

バレエの要素を生かしている蒼井優の映画は『オーバー・フェンス』もおすすめです!

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映画『オーバー・フェンス』ネタバレ感想〜タバコを愛する気怠き男たち〜

2019年12月7日



蒼井優の助演感が秀逸

本作『花とアリス』で一番すごいと思ったのはアリスを演じた蒼井優です。

ストーリーは宮本(郭智博)に恋をした花(鈴木杏)に主眼が置かれ、彼をどのようにして落としていくかの策略が張り巡らされていきます。物語の主人公は誰かと言われれば、花だと僕は思います。
アリスはあくまでも花の恋愛を成就させるための引き立て役で、(宮本にとっての)仮想元カノな訳です。

それでありながらもアリスが花と並立、それ以上の主人公感を醸し出したのはやっぱり蒼井優の演技に依るところが大きかったはずです。

仮想元彼・宮本に「君は僕のことをなんと呼んでいたんだい?」と聞かれた時のアリスの反応。
彼氏(阿部寛)とデート中の母親(相田翔子)に隣人を装われた時のアリスの反応。
離れて暮らす父親(平泉成)と久々に会い、次第に変化していくアリスの反応。

花の一途で身勝手な恋心とか、オーディションがうまくいかないアリス自身の鬱屈とか、彼女の家庭の問題とか、いろいろなことを飲み込んで、何もなかったかのように仮想元カノを演じてあげている蒼井優は見事に有栖川徹子としての個性を没しています。圧倒的助演女優賞です。

そんなアリスが花のためにやっていたであろう、宮本の過去の記憶の塗り替え作業。
彼女は「これ覚えてる?」と言って思い出を捏造していきますが、“花のために”やっていたはずの「これ覚えてる?」を、徐々に自分の思い出をたどるためのツールとして利用していったのは凄く良かったです。

宮本を使って父親との思い出をたどろうとするエピソードは、ストーリーの中で最も胸を打たれたところといっていいかもしれません。

岩井俊二エッセンス満載

アリスたちは石ノ森学園中学から手塚高校へと進学します。
校名は言わずもがな石ノ森章太郎さんと手塚治虫さんからとられたもので、手塚高校の文化祭では鉄腕アトムのかぶりものをした生徒やアトムの巨大バルーン人形が登場。演劇部の題目はジャングル大帝でした。

また駅標にも主張の強いネタが織り込まれており、「石ノ森学園駅」の両隣は「木会田(きえだ)」と「来田(らいだ)」。「藤子駅」の両隣は「野比田(のびた)」と「須根尾(すねお)」、「水木駅」の両隣は「北廊」と「塗壁」(もはや振り仮名を振る必要もありませんね…)。

『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』でもそうでしたが、岩井監督のファンタジックな手法によるリアルからの脱出ですね。

小ネタに加えて音楽や映像も主張が強いものとなっています。
音量の大きなピアノに、存在感がありすぎる寄りのカット。まるでミュージックビデオのように叩きつける雨や海辺や手漕ぎのボートたち。
あまり映画に詳しくない僕ですら、あぁ岩井俊二監督らしいなと感じるほどには主張が強い撮り方をしています。映像美という点では、21世紀初頭とは思えないほどレトロさを感じさせません。
このクセの強さに辟易とするか面白いと思うかで評価は分かれそうです。

全体的に物語のプロットを楽しむ類の作品ではありませんでした。
とはいえこだわり抜いた小ネタと、これでもかと繰り出す「これを使いたいんだ!」的な画の数々に、岩井監督の(いい意味での)変態性は見て取れました。

また『花とアリス殺人事件』でも触れましたが、この作品に漂うキミ呼びはやっぱり素敵。
返す返すも、前日譚を先に見ておいて良かったと思います。