こんにちは。織田です。
今回は2006年の映画『夜のピクニック』をご紹介します。
原作は恩田陸さんの小説。
主演は撮影当時16歳だった多部未華子さん。
原作者・恩田さんの母校である水戸第一高校の恒例行事「歩く会」をモチーフにした作品です。
原作、映画ともに2006年当時に堪能しましたが、久しぶりにプライムビデオで鑑賞してみました。
あらすじ紹介
高校生活最後の伝統行事「歩行祭」を迎える甲田貴子(多部未華子)は、一度も話したことのないクラスメイト西脇融(石田卓也)に話しかけようと考えていた。2人は異母兄妹の間柄で、そのことは誰にもいえない秘密だった。一方、融も貴子を意識しながらも近づくことができず、事情を知らない友人たちが勘違いして、告白するようけしかける。
スタッフ、キャスト
監督 | 長澤雅彦 |
原作 | 恩田陸 |
脚本 | 長澤雅彦、三澤慶子 |
甲田貴子 | 多部未華子 |
西脇融 | 石田卓也 |
戸田忍 | 郭智博 |
遊佐美和子 | 西原亜希 |
後藤梨香 | 貫地谷しほり |
梶谷千秋 | 松田まどか |
高見光一郎 | 柄本佑 |
内堀亮子 | 高部あい |
榊杏奈 | 加藤ローサ |
榊順弥 | 池松壮亮 |
校長 | 田山涼成 |
2006年のキャストに注目!
映画の公開は今(2021年)から15年前。
高校生だった主演の多部未華子さんをはじめ、多くのキャストが撮影当時まだ10代でした。
加藤ローサさんの弟役として出演したのは池松壮亮さん。幼さ全開な彼は特に“時代”を感じさせてくれるキャラクターでもあります。
石田卓也さんは『リアル鬼ごっこ』などに出演。
郭智博さんは『花とアリス』などに出演。
西原亜希さんは『花より男子』で、主人公・牧野つくし(井上真央さん)の親友役として出演していたことが印象に残っている方も多いかもしれません。
西脇(石田卓也)が現代では見ないワンショルダーのリュックを背負っていたのも、懐かしいポイントです。
モデルの水戸一高と「歩く会」
映画『夜のピクニック』で描かれる「歩行祭」。24時間をかけて約80キロを歩く学校行事なのですが、オリジナルは茨城県立水戸第一高校の「歩く会」という行事です。道のりは70キロ。
水戸第一高校、通称・水戸一高は茨城の超名門校。非常にユニークかつタフな学校行事ですよね。
毎年10月に行われる「歩く会」にはいくつかのコースがあり、『夜のピクニック』で再現されたのは海沿いを歩き、また学校へ戻ってくる「東海コース」。
朝8時に出発し、仮眠時間(4、5時間)を挟み、翌朝8時に帰ってくるという超強行軍です。
1日目は白いジャージを着て、クラス単位でまとまって歩く「団体歩行」。2日目は各自が自由に移動する(走っても可)、「自由歩行」となっています。
映画内では主人公の甲田貴子(多部未華子)と親友の遊佐美和子(西原亜希)が別のクラスのため、1日目の団体歩行では別々に、2日目は一緒に歩く描写がなされています。
休憩には「小休止」と「大休止」があり、映画内で「小休止」は土手で休んでいるところ、「大休止」は体育館の仮眠所だと思います。
夜の一大告白イベント
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
『夜のピクニック』の主人公・甲田貴子(多部未華子)と西脇融(石田卓也)は、どうやら何か訳ありな距離感。
同じクラスなので一緒に集団歩行(1日目の行程)をするものの、二人の間にはどこか気まずい空気が流れています。
そんな二人をくっつけようとお節介気味に背中を押すのは、西脇の親友・戸田(郭智博)と、貴子の友達・梨香(貫地谷しほり)と千秋(松田まどか)。
何でそんなにくっつけるのに躍起になるかというと、この「歩行祭」では、夜に告白が行われることが多いからなんですね。
大学の同級生に、「歩行祭」のモデルになった水戸一高出身の友人がいたんですが、『夜のピクニック』は結構忠実に現実を描いているらしいんですよ。
その友達も夜に告白されたことがあるそうです。
僕の通っていた高校では「歩く会」なんてものはもちろん、体育祭もなかったので、文化祭が恋人を作る一大イベントでした。
放課後残って準備している時間だったり、文化祭が終わった後に在校生だけでやる後夜祭(一般的なのかな?)だったり、あるいはクラスごとに行われる打ち上げの帰り道だったり。
イベントが明けた次の日、生徒たちの話題は「〇〇と△△付き合ったってさ!」で持ちきりでした。実際僕自身も、学校行事の打ち上げの日を狙い、告白するプランを逆算をしたりしていました。
やっぱり「夜」って告白する勇気の後押しをしてくれるものだと思うんですよね。
大人になると二人で食事に行ったりだとか、大人数の飲み会の帰り道だったりだとか、シチュエーションが生まれるわけですけど、高校生だと団体行動だからそうそう他の人の目を引き剥がすことができません。
晩ごはんも大体家で食べることが多いでしょう。放課後だってなかなかフリーになれません。
一方で、昼休みに校舎の裏に呼び出して「付き合ってください!」なんてリスクが大きすぎる。だから夜、意中の人がフリーになるのを狙うにはイベント後は最適なんですよね。
本作品のタイトルが『夜のピクニック』であることも、そんな夜のマジックを感じさせます。
やっぱ特別なんですよね。
煽る外野
『夜のピクニック』の舞台となった「北高」に話を戻します。
やっぱりみんな、告白イベントが待ち構えているとわかっているから、胸を高ぶらせているわけです。
次から次へとカースト上位男子を狙っていく内堀(高部あい)みたいな強者はさておき、普通の子たちは「もしかしたら自分も」とか思っているはずです。
そんな高ぶった高校生たちは、微妙な距離感の貴子(多部未華子)と西脇(石田卓也)をけしかけていきました。
貴子と西脇からすると、「そういうのじゃないから。違うから」って話だとは思うんですが、この二人の醸し出す高校生っぽさが上手かったです。
貴子はうんざり8割、満更でもなさ2割みたいな感じでしたし、西脇はうんざり3割、残りの7割は敵意に満ちた視線を貴子に向けます。誤解されんのやってらんねえよって感じで。
二人ともそうやって煽られて、恥ずかしさがあると思うんですよ。
それをあしらえる貴子と、貴子への敵意という形で表現してしまう西脇には精神年齢の差を感じます。あんなに睨まれて貴子かわいそう。
でもまあ、高校生なんてあんな感じですよね。
多分西脇だって、悪いなとは思いながらやってると思うんですけどね。
ハイ&ローな柄本佑
取り巻きの思惑とは裏腹に、依然として距離を縮めない貴子と西脇。
するとそこに、ハイエナ女子・内堀(高部あい)が登場してきます。
学年のエース級男子を次々と取っ替え引っ替えしてきた彼女は、西脇に狙いを定めます。
いましたいました、こういう子。そしてこういうハイエナ女子にオンターゲットされた男の子は勲章でもあります。モブには来ないですから。笑
しかし、そんな内堀の野望を引き裂き、戸田(郭智博)や梨香(貫地谷しほり)たちにとっての救世主が出現します。その名も高見(柄本佑)。
薄手のニット帽をかぶり、ロックだパンクだと指を立てながらイキっている高見ですが、完全に夜行性の人間のようです。
昼間の集団歩行ではヘロヘロになり、救護バス(=リタイア)送り寸前の瀕死状態。
しかし「夜はね、やかましい俺が現れるんだい!」と息巻いてラブ&ピースを振りまきながら夜の旅路を盛り上げていきました。
高見は戸田の差し金により、内堀へ絡むよう仕向けられ、西脇を落としにかかっていた彼女のプランに闖入します。笑
クラスで浮いた存在というか、決して陽キャではない子が、イベントごとになると人が変わったように振る舞うことってありませんでしたか?
うちのクラスにもいましたよ。制服を着崩す、というにはあまりにも独創的なファッションをして普段は静かにしていながらも、クラスの打ち上げとかになると急にテンション爆上げする奴が。笑
作品のモデルとなった水戸一高は僕の高校なんかとは比べ物にならないくらいの進学校ですけど、恩田さんがああいう少年を描いてくれたのは、同じ高校生なんだなっていう同一の世界線を感じて嬉しかったです。
友達の順番
もう一つ懐かしかったのは、貴子(多部未華子)と美和子(西原亜希)による親友の特別な関係性です。
クラス単位で歩く1日目の集団歩行では梨香(貫地谷しほり)、千秋(松田まどか)と一緒に行動していた彼女ですが、2日目の自由歩行は違うクラスの親友・美和子と歩くと伝えています。
大人になると「クラス」っていう概念を忘れてしまうので、貴子にとっての序列の明示は少し驚いたんですが、高校時代を思い出すと確かにそうですよね。
一番の友達がクラスメイトじゃない場合もたくさんあります。梨香や千秋にとっての2日目の相棒も、もしかしたら他のクラスなのかもしれません。
『夜のピクニック』の美和子は、貴子の親友として然るべきというか、確かに貴子のことをめっちゃ理解していました。貴子がチェブラーシカのTシャツを着ているのが目立っていましたが、美和子も貴子もフレッドペリーの帽子を持っていましたね。
地元の名物行事感
最後に“地元の風物詩”としての歩行祭について少し感想を書きます。
『夜のピクニック』の北高生たちは、白ジャージで歩く道中、地域の人からたくさんの励ましや支援を受けています。
休憩所には実行委員の生徒、職員、それに保護者が駆けつけて、この一大イベントを支えています。
びっくりしました。
マジで凄ぇなって思いました。
自分の母校が、あるいは隣の高校が、課外活動として校外を集団で歩いていても、誰も気にしなかったですよ。
保護者が関わる学校行事なんてありませんでした。
でも北高生とオリジナルの水戸一高の生徒たちは、地域の方々に応援されている。
地域の方々も「歩行祭 / 歩く会」を年中行事として、風物詩として捉え、関わっている。
すなわち文化です。伝統です。
これは凄いことですよ。
箱根駅伝とか、(地域に根ざした)プロサッカークラブとかと同じです。
生徒も職員も、このイベントがたくさんに人の手によって支えられていることを凄く実感できるはずですし、その感覚を高校年代で知れるのはとっても大きいことだと思うんです。
それだけ映画の北高(実在の水戸一高)が地域にとって大事な存在だということもわかりますね。
誰かの応援を、時間を背負って自分たちがあることを知れることは素晴らしいです。
これは本当に羨ましいし、眩しかったです。
高校年代の距離感を感じながら、特別でちょっぴり不思議な夜のマジックを堪能できる映画でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。