こんにちは。織田です。
今回は2019年公開の映画『火口のふたり』をご紹介します。
Amazonプライム・ビデオで鑑賞しました。
荒井晴彦監督。柄本佑さんと瀧内公美さんのほぼ二人芝居で進む映画です。
ポルノ映画と言ってもいいくらい、過激な性描写がなされていた映画でした。
好き嫌いは分かれると思います。
- 性描写への執着
- 東北の描写
今回はこの2点について感想を書いていきたいと思います。
あらすじ紹介
東日本大震災から7年目の夏。離婚、退職、再就職後も会社が倒産し、全てを失った永原賢治は、旧知の女性・佐藤直子の結婚式に出席するため秋田に帰郷する。久々の再会を果たした賢治と直子は、「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」という直子の言葉をきっかけに、かつてのように身体を重ね合う。1度だけと約束したはずの2人だったが、身体に刻まれた記憶と理性の狭間で翻弄され、抑えきれない衝動の深みにはまっていく。
スタッフ、キャスト
監督・脚本 | 荒井晴彦 |
原作 | 白石一文 |
永原賢治 | 柄本佑 |
佐藤直子 | 瀧内公美 |
モザイク上等。性描写への執着
この映画は基本的に賢治(柄本佑)と直子(瀧内公美)の二人芝居で物語が進みます。
その多くが、二人のベッドシーンや、淫らな愛情表現です。
離婚も退職も経験したプー太郎(賢治)が、親戚の年下女性(直子)の結婚式のために故郷・秋田に帰り、かつて肉体関係にあった彼女を再び抱いたところもうすっかり取り憑かれてしまいました。
ざっくり言えばこんなお話です。
直子は北野という自衛隊員と結婚が決まり、二人で暮らす戸建も購入していました。(築20年で500万だったかな)
その新居に訪れた賢治は、そこで直子に誘われ、彼女を抱き、直子とのセックスの快楽にはまっていきました。
誘ってんじゃん!
賢治と直子はどうやら同じ家で何年間か暮らし、東京でも恋人関係にあった親戚同士のようです。
年齢は賢治が直子の5歳上。
直子は「お母ちゃんいなくなったけど、お兄ちゃん(賢治のこと)出来たんだよね」と述懐します。
そんな直子が故郷で結婚することになり、里帰りした賢治は久々に彼女と会いました。
ヤマダ電機でセールだった大型テレビを買い、賢治に新居へと運んでもらった直子。
そこで彼女は「今夜だけあの頃に戻ってみない?」と、真新しい愛の巣で賢治を誘います。
とんでもねぇ人ですね。
「あの頃」っていうのは東京で付き合っていたときのことでしょう。
セックスの快楽にはまり込み、時にアブノーマルなプレイも繰り広げる二人の映画でしたが、最初に誘ったのは直子なんですよね。
ここまでこだわる必要あった?
さて、ラブシーンです。
直子が賢治を誘って、くちゅくちゅとキスをして、燃え上がる二人は、まだ旦那が触れたこともない新しいベッドへ。
二人は服を脱ぎ捨てます。脱ぎ捨てたんですが。
びっくりしましたよ。この映画、めっちゃぼかし処理が出てきました。やば。そういう映画なのか。
隙あらばセックス。息をするように処理。何だこれ。
「これでこのベッドの筆下ろしも完了ね」と言う直子。AV以外で筆下ろしって使う人初めて見ましたわ…。
賢治は初夜こそ遠慮気味でしたが、翌日も直子の家に向かい、彼女を押し倒します。
ご無沙汰で眠っていた獣が体を重ねる喜びを思い出し、本能を呼び覚まされた感じ。もう抗えません。我慢できません。
「ほんっとうにきもちいいな、セックス。忘れてたよ」 (賢治)
「ケンちゃん昨日した時すごい臭ったよ。この人全然セックスしてないんだなぁって臭い」 (直子)
「あの人(旦那のこと)が鉄板ならケンちゃんは蛇みたい。抱き合ってるうちにその蛇は鞭に変わるの」 (直子)「そんなの他のどの女にも言われたことないぞ。自分の体は自分が一番よく知ってる」 (賢治)
「ケンちゃんが知ってるケンちゃんの身体と、私が知ってるケンちゃんの体は、違うの」 (直子)
二人は全裸でベッドに腰掛けながらセックス論を語り合いました。
ここでもカメラは容赦なく直子の下半身部分を映し、ぼかしが画面にチラチラと踊ります。
結局この二人は、直子の旦那の自衛隊員が帰ってくる日まで1週間弱ひたすらやり続け、脳の記憶以上に体は記憶しているだとか、賢治と直子は血が繋がっている(いとこ)だから良いだとか、そんな感じの描写が続きました。
ケンちゃんとやることに負い目がないんですよね。直子は。
生々しくてエロくない
求めあう性の悦びにあふれた二人。
人間が動物である以上大事なことの一つだと思いますし、セックスがたまらなく悦びである人も多いとは思いますよ。思いますけど、正直ここまで性描写に執着する意味って何だったのかなとも思います。
賢治と直子の本能の発現は、ベッドの上だけにとどまりません。
祭りに向かう高速バスの座席や、建物の間の細い路地裏で、二人はアブノーマルなプレイを行います。まあそういう人もいますよね。確かに。
この二人の間には、一緒にテレビを見たり、カフェでお茶をしたり、散歩をしたりという“普通の恋愛映画”に出てきそうなシーンが、ほとんどありません。外でご飯を食べているときでさえ、賢治は性的な発言を行います。
食事のシーンが多かったですけど、食欲以上に性欲への振れ幅がすごい。
めちゃくちゃ動物的というか、本能的に求めあってるんですよね。
賢治は「体の言い分」という言葉で表現していました。
そこにエロさとかいやらしさとか求愛は、まるで感じませんでした。
綺麗に撮るとか艶めかしく映すっていう概念からは外れているのかなと思います。生々しいとも言い換えられます。
個人的にはあまりハマらなかったというのが本音でした。
東北の「ついてない」歴史
舞台となった秋田、そして東北という地域の捉え方についても考えてみました。
2011年に起こった東日本大震災の後を描いている作品ですが、賢治(柄本佑)が話していた東北に対しての後ろ向きな発言が印象に残ります。
古くは朝敵、こないだは震災
賢治と直子(瀧内公美)が一緒にいる夜、割と大きめの地震が起きました。
その後に二人はお風呂で地震、震災を回顧します。
「さっきのより、栗駒の時はもっと揺れた。高3の時」 (直子)
「震災の時はどうだった?」 (賢治)
「栗駒の時よりは大きいなって思った」 (直子)
この「栗駒」というのは、2008年に起きた岩手・宮城内陸地震のことです。最大震度は震度6強。
直子は栗駒地震のことを踏まえつつ、2011年の東日本大震災では同じ東北でも秋田は被害がなかったために負い目みたいなのあるよと話します。
石巻など沿岸部の知り合いがリアルな被災者となっているのを知っているだけに、自分が当事者ではないという負い目ですね。
そんな直子に賢治は、東北がいかに「ついていないか」を語りました。
東北ってついてない。ずっと。
平安時代には蝦夷とか呼ばれて朝廷に征伐されて、明治維新のときには会津が朝敵にされて、奥羽越列藩同盟を結んだけど負けて、白河以北一山百文と呼ばれて、遅れた東北にさせられてきた。
そこに津波だもの。ついてない東北。
白河以北一山百文というのは「福島県白河地方から北は、一山に百文の値打ちしかない」という軽視です。
「他人事みたい。ひどくない?」という直子に、「だって他人事だろ。被災者になったふりはできるけど、被災者の身にはなれない」と賢治は返しました。確かに。
印刷会社に勤めていた賢治自身も、震災の影響で八戸や石巻にあった製紙工場が被害を受け、自粛で広告を打てない流れが続いて会社がつぶれてしまった経験があります。が、それも間接的なもので賢治の中では被災者ではないんですよね。
遅れた東北にされてきた
自分自身の話をすると、父方のルーツが東北なんですが、僕は祖父や父親から東北の「負の歴史」について聞かされてきました。
親父は野球が好きだったので、甲子園で東北の高校が優勝できないこととかも負い目にあったんでしょう。
自虐的に繰り返される発言の主語は、青森とか宮城とかではなくて「東北」でした。
これは神奈川で生まれ育った僕には理解できない大きさでした。「関東」っていう単位で勝ち負けを考えたことなんてないですから。
賢治のセリフにあった、アテルイ時代の蝦夷征討もそうですし、源義経を匿って栄華を誇った平安時代の奥州藤原も兄・源頼朝によって滅ぼされ、戊辰戦争でも奥羽越列藩同盟が敗れ。東北は負の歴史を刻んできたんですよね。
東北を表す「みちのく」というのも中央から見た奥地・辺境ということです。
賢治が言う「遅れた東北にされてきた」のもそういうところです。
僕自身は東北という単位は九州とか関東とかと同じ物差しに過ぎないですし、東北地方を一まとめに考えたこともないんですけど、この映画内で出てくる「東北」への後ろ向きな発言に対しては、そういう文脈の考え方を持っている人もいるんだよとお伝えしたいと思います。
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泣く子はいねぇが
最後にご紹介するのが、同じく秋田を舞台にした「泣く子はいねぇが」(2020)です。
映画終盤で賢治が食べている秋田名物・ババヘラアイスは、『泣く子はいねぇが』内でより象徴的に描かれていますし、賢治と直子がこれからの日本を語り合う風力発電所の浜辺も同様に描かれていました。
『火口のふたり』では西馬音内盆踊りという黒頭巾を被って踊るお祭りがフィーチャーされていた一方で、『泣く子はいねぇが』は伝統芸能・なまはげが物語の主軸で描かれます。
仲野太賀さん、吉岡里帆さんに加え、秋田県出身の柳葉敏郎さんも出演しています。
賢治や直子が生きる町とはまた違う地域が描かれているので、気になる方はご覧になってみてください。
『火口のふたり』は結構周囲の評価が高かったんですが、個人的にはイマイチ乗り切れませんでした。ちょっと悪口みたいになってすみません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。