映画『ハケンアニメ!』ネタバレ感想|刺され、頑張るあなたへ。ガチの大傑作!

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2022年公開の映画『ハケンアニメ!』をご紹介します。

主演は吉岡里帆さん。監督は『水曜日が消えた』の吉野耕平監督。原作は辻村深月さんです。

アニメ業界に飛び込んだ新人監督(吉岡里帆)が、壁にぶつかりながら周りと一つになって作品を作っていくお仕事ムービー。とても良かったです!!!

「刺され、誰かの胸に!!」がこの映画のキャッチコピーなんですけどメッチャ刺さりました!!

本記事では下記の3点から感想を書いていきます。

  • お仕事映画について
  • “届ける”ために
  • “形容詞”の必要性

アニメ業界に詳しくない私が観ても全く問題なかったので、アニメ製作への予備知識とかは特にいらないと思います。

「好きをつらぬく」人たちにとっては業界問わず、普遍的なお仕事ムービーといえます。



あらすじ紹介

最も成功した作品の称号を得るため熱い闘いが繰り広げられている日本のアニメ業界。公務員からこの業界に転身した斎藤瞳(吉岡里帆)は、初監督作で憧れの監督・王子千晴(中村倫也)と火花を散らすことになる。一方、かつて天才として名声を得るもその後ヒット作を出せず、後がない千晴はプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)と組み、8年ぶりの監督復帰に燃えていた。瞳はクセが強いプロデューサーの行城理(柄本佑)や仲間たちと共に、アニメの頂点「ハケン(覇権)アニメ」を目指して奮闘する。

出典:シネマトゥデイ

要は同じ曜日の同じ時間帯に、A局とB局がアニメを放送することになりましたという話です。

A局のアニメは監督が吉岡里帆で、プロデューサーが柄本佑。
B局のアニメは監督が中村倫也、プロデューサーが尾野真千子。

こういう構図です。

スタッフ、キャスト

監督 吉野耕平
原作 辻村深月
脚本 政池洋佑
斎藤瞳 吉岡里帆
行城理 柄本佑
王子千晴 中村倫也
有科香屋子 尾野真千子
宣伝プロデューサー 古舘寛治
制作デスク 前野朋哉
並澤和奈 小野花梨
群野葵 高野麻里佳
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



お仕事ムービー

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

映画『ハケンアニメ!』はアニメ業界で奮闘する人々を描いた作品です。
成功=ヒットを目指して登場人物が試行錯誤を続けていく、「お仕事映画」としての側面が強い映画でした。スポ根とも近いものがあります。

なぜそんなに頑張れるのか

ここで描かれる業界の現場は、正直言ってホワイトではありません。家には寝に帰るだけ、みたいな感じでしょう。

「睡眠時間を削る」なんて言葉も普通に出てきます。アニメーターの並澤(小野花梨)はデート中に仕事の発注が緊急で入り、現場へ直行しています。

プライベートと仕事のワークライフバランスという観点でいえば、明らかに下位のレベルです。

ではどうしてそんな厳しい労働環境でも頑張れるのか。

お金もらってる仕事なんだから頑張って当たり前でしょっていう意見も当然ありますが、前提としてこういう業界の人たちは、自分の好きなことを仕事にしています。夢を叶えた側の人間です。

『ハケンアニメ!』に限らず、例えば映画業界を描いた『映画大好きポンポさん』(2021)や漫画家を主人公にした『バクマン。』(2015)、出版業界の『騙し絵の牙』(2021)などでは、自分のライフポイントを削りながらも成功に向かって走り続ける様が描かれています。

その走り続ける原動力になるのが、自分の夢だとか「好き」っていう気持ちだと思うんですよね。もはや「仕事」という言い方は正しくないのかもしれません。

このあたりの作品は記事の最後にまとめてご紹介します。

そんなわけで『ハケンアニメ!』もアニメの頂点=覇権を取るために、自分の全てを投げ打って注ぐ、熱量の高い映画でした。王道と言っていいでしょう。

この後は、その中でも印象に残った部分をご紹介していきます。

“届ける”ために

『ハケンアニメ!』でとにかく強烈だったのが、主人公の新人監督・斎藤瞳(吉岡里帆)と組むチーフプロデューサーの行城(柄本佑)でした。

いつも思いますが…柄本さんのスーツ姿はホントに色気あって良いですね‥。

それ、私の仕事ですか?

この行城プロデューサー、くせ者として映画では描かれていて、瞳に対して無茶ぶりとも思える指令を数々出していましたよね。コンテを進めたい監督の真意などつゆ知らずという感じで、淡々と冷酷なまでに瞳を製作現場の「外」に引っ張り回しました。

・会議があるので資料に目を通して、自分の意見をまとめておいてください
・アニメをPRするために監督の撮影をします
・取引先との食事会に行きます
・SNS用の写真をください

製作の「現場」を預かる瞳としては、「なんで私が?」「それ私が行く必要ある?」なわけです。

私自身も瞳と同じようなタイプのスタンスなので気持ちはめっちゃわかるんですよ。そんなことに時間使うんだったら、自分の仕事に充てたいと。

さらに瞳の預かり知らぬところで、彼女たちのアニメのセリフ「何でも…あげる!」「何でも…揚げる!」と、カップラーメンとタイアップしていました。これは作品の生みの親である瞳にとっては屈辱的です。安売りされたと捉えてもおかしくないです。

「あなたがこの子たちの親なんですね…」と恍惚たる表情で瞳に語りかけた並澤(小野花梨)とは雲泥の差です。

私も瞳の立場だったらムカつきます。ムカつくんですが、行城の狙いを考えると、彼のやっていることは至極真っ当でした。

“刺さる”までの前段階

瞳(吉岡里帆)王子千晴(中村倫也)にとって、自分たちの仕事は見てくれる人に“刺さる”アニメをつくることです。

瞳がこの業界に転職したのは視聴者に「魔法をかけるため」であり、王子は「納得できないものを世に出したら終わり」という表現で、見た人の心を動かすような作品をつくり出すことに心を砕いていました。

クリエーター側の心理からするとそうですよね。ナンバーワンのものをつくりたいし、見る人の心に残るためにはオンリーワンも必要になってきます。

それがオヤジギャグみたいにキャッチフレーズを切り取られ、カップラーメンとのタイアップに使われていたら、「私はこんな形で利用されるのを望んでつくったわけじゃない!」となるのはよくわかります。

けれど、誰かに“刺さる”ためには、前提として誰かに“届く”ことが必要になってきます。
どんなに素晴らしい作品でも、それが誰にも認知されなければ、評価される土俵にすら立てないわけです。

行城(柄本佑)はどんな手段を使っても、まず視聴者に届くことをマストとして様々な策を講じました。
100個アイデアを打って、そのうち一つでも届けばいい。

作品を、さらに言えば斎藤瞳という新人監督をも「商品」と捉え、“届ける”ための矢印の数を増やし続けていきました。滑稽と見られることも厭いません。全ては“刺さる”誰かを獲得するためのきっかけづくりです。

そもそも私自身『ハケンアニメ!』を今観ようと思ったきっかけは、Twitterのタイムラインで高い評価を目にしていたことと、公開2週目で上映館が減るよという情報を見ていたからです。

結果的に自分にはこの映画がものすごく“刺さった”わけですが、それもTwitterの口コミによって“届いた”からです。

目線を下げる

“刺さる”までの前段階で様々な施策を講じた行城や有科(尾野真千子)の貢献についてはもちろんですが、そう考えると、王子と瞳の対談イベントでピントの外れた進行をしていた司会者の人の気持ちもわかります。

瞳たちの『サウンドバック』に対して「トウケイ動画らしい、少年少女が活躍する爽やかな青春アニメですね!」と表現して瞳の怒りを買い、「1億総オタク化」「アニメは普通の人のものになった」的なことも言って王子に反論されていましたけど、あれだけ強引に「サバクとはこういうアニメ」、「アニメとはこういう立ち位置」というレッテルを貼ったのも単なる無知が原因とは思えないんです。

あのイベントの来場者は、コア層と呼ばれる人たちです。ほっといてもアニメを観ます。

けれどもそこまでの熱量を持っていない層に『サバク』と『リデル』を周知させるためには、目線を下げて一般化する必要があったと司会者、あるいはイベントの運営元は考えたんじゃないでしょうか。

その一般化の手段として『サバク』を(瞳からすれば不本意な)「トウケイ動画らしい」という表現に当てはめ、アニメ業界の拡大を「普通」という言葉を使って言い表したんだと思うんですよね。

ピント外れというよりも意図的だったと思います。訂正しなかったですからね。笑

ただし、目線をどこまで下げるか、っていうのは大事な部分になってきます。あまり下げてしまうとコア層じゃない人たちから見ても「今さら何言ってんの?」な状況になります。

あの司会者の言葉の選択が適切だったのかは正直わかりません。彼女がこの先、瞳監督や王子監督と共演NG(出禁)にならないことを祈ります…。



“形容詞”は必要なのか

斎藤瞳(吉岡里帆)は7年前に転職してアニメ業界へやってきました。

国立大を出て県庁に就職してからの転身とあり、異色の経歴として取り上げられていました。

瞳からすれば自分の経歴なんてものはどうだっていいから作品の中身に注目してほしいって話ですよね。

ここではどうして「異色の経歴」などの形容詞がつきまとうのかについて考えていきます。

差別化するための形容詞

結論から言うと、異色、つまり色が異なるということは他者との差別化につながるからです。
その差別化は、対象が注目される理由を生み出します

これは以前スポーツメディアで働いていた時、毎日のように実感しました。

『ハケンアニメ!』の斎藤瞳は新人監督なわけですけど、この「新人」(初)という冠はとても強力です。
「初監督作品」とか、「新人」っていう括りは一生で一回しか使えないからです。

スポーツの話、例えばプロ野球のケースだと、バッターの「プロ初安打」とかピッチャーの「プロ初勝利」が大々的に報じられるのを目にしたことがありませんか?

それは「初」に価値があるからです。その選手にとってプロ初安打だったりプロ初勝利だったりというのは人生で一度きりの出来事です。
報じる側のメディアがニュースバリューを判断する上でも大きな材料になります。

同じように、プロ野球ではルーキー(新人)の選手が大きく取り上げられる傾向があります。
これは前提として、新人「なのに」こんなに活躍するなんて凄い!っていう意識や、将来性への期待に基づいているはずです。高校野球で1年生の選手が活躍すると注目されるのも同様です。

で、その新人選手の中で「異色」の経歴、例えば元大工さんだったりとか、ソフトボールの出身だったりとかっていうキャリアを歩んだ選手がいると、さらに独自性は強まります。

形容詞が生む偏見

『ハケンアニメ!』に話を戻すと、「新人」であり、「国立大→県庁からの転身」である瞳には、他の人が持つことのできない形容詞があるわけですね。

行城(柄本佑)は「ちょっと可愛い」とビジュアル面についても言っていましたが、それも他者が判断する差別化の一つです。“届ける”ためにPRする戦略のひとつになります。

ただそういう形容詞はあくまでも一次的な宣伝材料に過ぎなくて、瞳が言っているように大事なのは作品の中身です。

「新人監督」や「女性監督」を理由に瞳の陰口を言っていた制作デスクの根岸(前野朋哉)みたいな人間にはなりたくないですよね。

数字が取れない理由探しを監督のプロフィールに求めるのは違くないですかね…?

一方でこういう色眼鏡的な視点は瞳にも言えて、彼女は『サウンドバック』でトワコを担当した群野葵(高野麻里佳)に対して厳しくダメ出しをしています。

物足りないのはわかるんですけど、瞳が放ったトゲのある言葉には葵がアイドル的な立ち位置だからレベルに至っていない、という偏見があったと思うんですよね。ただし瞳の場合は葵の“中身”に迫ることで、それがバイアスだったと認められたのが凄かったです。

新しい挑戦をする上で自分を形づくる形容詞は、個性という強みを生み出します。一方でその個性は偏見を生み出すことも往々にしてあります。

フィルターのかかった視点で判断される立場、判断してしまう立場。
どちらにも転がる可能性がある中で、フェアな視点で相手と向き合っていかなければと改めて思い知らされました。

最後に

私自身、瞳たちと同じように(幸いにも)好きなものを仕事にすることができた人間です。

『ハケンアニメ!』「好きを、つらぬけ。」がテーマになっていますが、私もお客さんに負けない、それ以上の「好き」の熱量を提示できるように日々取り組んできた、つもりでした。

けれど『ハケンアニメ!』で描かれる奮闘ぶりを見ると、自分が仕事に対して注いできたエネルギーは果たして十分なのか?と問いかけられた気がします。まだまだ全然足りない。

もっと「好き(仕事)」に対して時間も頭も使っていかなければいけないし、一緒に働く周りの人たちとももっと真摯に関わっていかなければいけない。足りないことだらけだなと痛感しました。

『サバク』と『リデル』が社会現象的な対立構図になり(中吊り広告の週刊誌で取り上げられるくらいですからね笑)、こんなにたくさんの人がリアタイ視聴をして話題にもしてくれている光景は幸せだと思います。羨ましい限りです。

現在は多種多様なエンタメが可処分時間の取り合いをしている中、『ハケンアニメ!』の世界は目標の一つになりましたし、そのためにはもっともっと「つらぬいて」いかなきゃいけないですね。頑張ります!

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