映画『台風家族』ネタバレ感想|緻密なキャラ設定はどこ行った?

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こんにちは。織田です。

今回ご紹介するのは、2019年公開の映画『台風家族』。Amazonプライム・ビデオで鑑賞しました。

監督は『箱入り息子の恋』などの市井昌秀さん。主演は草彅剛さんが務めています。

ワケありな両親の葬儀に集まった、長男(草彅剛)をはじめとする“家族”たちの騒動をブラックユーモアを交えて描いた作品です。

  • 人間の本性が出る葬式という環境
  • 綿密なキャラ付けが勿体無い
  • 印象的な俳優陣

この記事では、こちらの3つの点について感想を書いていきます。



あらすじ紹介

銀行強盗事件を起こし2,000万円を奪った鈴木一鉄(藤竜也)と妻・光子(榊原るみ)が失踪する。10年後、いまだに行方知れずの両親の仮想葬儀をして財産分与を行うため、妻子を連れた長男の小鉄(草なぎ剛)、長女の麗奈(MEGUMI)、次男の京介(新井浩文)が実家に集まるが、末っ子の千尋(中村倫也)は現れない。空の棺を二つ並べた見せかけの葬儀が終わったころ、見知らぬ男がやって来る。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督・脚本 市井昌秀
長男・鈴木小鉄 草彅剛
小鉄の妻 尾野真千子
ユズキ
(小鉄の娘)
甲田まひる
次男・京介 新井浩文
長女・麗奈 MEGUMI
三男・千尋 中村倫也
登志雄 若葉竜也
小鉄たちの母 榊原るみ
小鉄たちの父 藤竜也
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



葬儀が炙り出す人間の本性

10年前に2000万円もの強盗事件を起こし、所在不明となった鈴木家の両親(藤竜也、榊原るみ)

加害者遺族として人生を狂わされた子どもたち4きょうだいは栃木の実家に集まり、両親の葬儀を行いました。

けれど、4きょうだいの叔父や叔母、いとこなどもいるでしょうに、そういった親族は姿がありません。
それもそのはず、本題は両親の遺産相続についてでした。直系の家族しかお呼びでないわけですね。

職も失った長男の小鉄(草彅剛)
やり手の実業家となった次男の京介(新井浩文)
バツイチとなった長女の麗奈(MEGUMI)
フリーターの末っ子・千尋

千尋を除く3人と、小鉄の妻(尾野真千子)と娘(甲田まひる)、また麗奈の彼氏の登志雄(若葉竜也)が集まり、財産分与について揉めに揉めます。

遺産は実家の土地代の約800万円。4等分で一人あたま200万円でいいよなという京介(新井浩文)の提案を、長男・小鉄(草彅剛)はあっさりと拒否します。

彼の言い分としては、京介は4年制の大学に、麗奈と千尋は2年制の専門に進学させてもらったのだから、生前贈与を受けている。だから高校中退の俺が全部もらう権利がある、とのことです。

お金への執着が垣間見えますよね…

葬式というのは誰かの人生の“終わり”を意味するものですけど、遺された者にとってはそこから“始まる”ものがあります。相続のことです。

『台風家族』の葬式は擬似的な形を取っていたものの、そこに集まった遺族たちは遺産(または負債)の相続という“始まり”を手にする立場です。これまでの生活を変えるワンチャンが訪れたと言っても過言ではありません。

金が絡むと人は変わると言われますが、小鉄(草彅剛)の執着ぶりは凄かったですよね。
カネに汚い彼の本性が、次々と暴き出されていきます。

ここで感じたのが、もっと「家の中」に特化した舞台劇としての作り方でも良かったのでは?という疑問でした。

綿密なキャラ付けがもったいない

『台風家族』の公式ツイッターでは、登場人物たちに細かいキャラ付けがされていることが明らかにされています。

ただし、この設定が映画ではほとんど説明されていないんですよね。裏設定にとどまってしまっています。もったいない。

基本的に『台風家族』は、栃木の実家に集まった“遺族”たちが、一つの部屋の中で激論と暴露を繰り返していく作品です。

新しい事実が後出しで明らかになっていき京介(新井浩文)登志雄(若葉竜也)千尋(中村倫也)銀行員(相島一之)富永(長内映里香)と、時間を追うごとに新たな人物が登場してきます。

どうせ後出しジャンケンなら、もっと密室型の会話劇を強めても良かったんじゃないかなと思うんですよね。

一人一人に細かい設定があるんですから、それぞれが新しい事実をカミングアウトしていき、えっ?そうなの?の連続でいいと思います。

両親を詐欺にはめた富永の回想も、銀行員の転落のくだりも、全部会話の中だけで済ませられると思うんですよ。ATMのシーンも、勤務中の富永を意味深に映したシーンもいらない。

突然登場してきて誰おまえ?でいいと思うんですよ。どうせ身の上を説明するわけですからね。

生配信とか「ゲスで結構!」(コケコッコーと掛けてたの?)とか、包丁持ち出してワイワイとかどうでもいいから、千尋がなんでそこまでキャッチーになりたいのか、注目を浴びたいのか、とか、お金を欲しがる小鉄や麗奈のバックグラウンドがどうなっているのか、とか、履歴書のようにこれだけ細かく設定されているなら生かせばいいのになと思ってしまいます。中村倫也さんの使い方損してるでしょう、あれは。

引用した公式ツイッターには(当然ながら)新井浩文さんの京介は載ってないわけですけども、彼の設定もマジで気になります。
家業の手伝いにこき使われた後に、大学進学して今はやり手の実業家。さらには最後に子供が生まれたとカミングアウト。どんな手法で財を築いたのか。兄・小鉄とは何か過去に諍いがあったのか。

新井さんの血も涙もない冷徹なポーカーフェイスが最高だっただけに悔やまれます。

 

終盤はホラーでしたね。

山奥のキャンプ場で白骨化した両親を発見。いやよくあんなに綺麗に残ってましたね!
そしてタイミングよく白骨は流される。大雨で川が増水するなんて栃木ではよくあることだと思いますが、このタイミングで流される。

流れる遺骨を車で追う台風一家。そして台風一過の海へ出るわけです。利根川かな?外房っぽい感じの大海原は『万引き家族』を想起させます。そこで家族写真です。大団円。はい良かったですね。

すごいホラーですよ…。

金の亡者を信じる尾野真千子が良い

俳優陣は次男役の新井浩文さんに加え、小鉄の妻・尾野真千子さんが印象に残りました。

夫の小鉄は人に歯向かい、人を騙し、さらには自販の釣銭をくすねるほどには金の亡者です。かっこ悪い。
どうせなら詐欺にひとつ噛んでるくらいだったら良かったですけどね。スケールが小さいんですよ。

で、この尾野真千子さん。遺産800万円を4等分ではなく、進学で生前贈与を受けていない俺が総取りだ理論をかます小鉄を、うんうんと小さく頷きながら眺めています。そうだそうだと言わんばかりに。ここが一番面白かった。

どんなに屁理屈で卑劣でも小鉄の言うことを信じたいと思っているのか、それとも彼女の入れ知恵なのか。後者だったら色々と妄想が捗りますよね。

娘のためだったら、私はあんたと組んで悪魔にだってなれる!とかだったら面白かったですけどね。まあそういう話ではないです。

ブラックユーモアを交えたコメディとはありましたが、どこを面白いだろう!と狙って作ってきているのか正直なところよくわからない映画でもありました。
藤竜也さんの介護シーンが抜群に良かったです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。