映画『日本で一番悪い奴ら』ネタバレ感想|綾野剛の乱暴なセリフがクセになる

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こんにちは。織田です。

今回は2016年の映画『日本で一番悪い奴ら』をご紹介していきたいと思います。
監督は『凪待ち』などの白石和彌監督。主演は綾野剛が務めています。

R15指定作品です。
バイオレンス、非道徳、ラブシーン上等な映画なので鑑賞の際にはご注意ください。



あらすじ紹介

2002年の北海道警察で起こり「日本警察史上最大の不祥事」とされた「稲葉事件」を題材に描く作品。綾野剛が演じる北海道警の刑事・諸星要一が、捜査協力者で「S」と呼ばれる裏社会のスパイとともに悪事に手を染めていく様を描く。大学時代に鍛えた柔道の腕前を買われて道警の刑事となった諸星は、強い正義感を持ち合わせているが、なかなかうだつが上がらない。やがて、敏腕刑事の村井から「裏社会に飛び込み『S』(スパイ)を作れ」と教えられた諸星は、その言葉の通りに「S」を率いて危険な捜査に踏み込んでいくが……。

出典:映画.com

ミイラ取りがミイラになるという言葉がありますが、検挙実績を上げるために悪さに手を染めていく主人公の警官や、警察内部の闇を描いた、とにかく「悪い」作品でした。

その一方でキャラクターの個性をしっかり汲み取り、テンポの良い会話と緊張感によってダレることなく2時間15分を駆け抜けています。

作品内では警察の専門用語がいくつか出てきます。
これについては鑑賞前にチェックしておいても損ではないでしょう。

作品の用語説明

  • チャカ:拳銃
  • シャブ:覚せい剤
  • ホシ:犯人
  • 首なし:所持者不明の銃
  • S(エス):スパイ
  • 泳がせ捜査:違法行為が発覚してもすぐに検挙せず、監視後に検挙するやり方
  • オヤジ:組長、親分。本作品では太郎が諸星に対して使用

原作は警察不祥事「稲葉事件」

原作は稲葉圭昭著の『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』という書籍。

北海道警の現役警察官が点数稼ぎ(ノルマ達成)のために覚せい剤の取引や拳銃の売買、密輸などに手を染めていく姿、警察内部の腐敗ぶりを描いた作品です。

著者の稲葉さんが実際に警察官として経験し、逮捕されるまでを記したノンフィクション小説と言っていいでしょう。
これは後に稲葉事件と呼ばれることになります。

稲葉さんは映画内で綾野剛と共演も果たしています。
綾野剛が市電で移動する場面では隣の強面男性にぜひ注目してみましょう。

『日本で一番悪い奴ら』のスタッフ、キャスト

監督:白石和彌
原作:稲葉圭昭
脚本:池上純哉
諸星要一:綾野剛
山辺太郎:YOUNG DAIS
黒岩:中村獅童
ラシード:植野行雄
由貴:矢吹春奈
猿渡課長:田中隆三
漆原次長:勝矢
岸谷:みのすけ
小坂:中村倫也
廣田:瀧内公美
栗林:青木崇高
村井:ピエール瀧

監督は2013年の衝撃作『凶悪』を手がけた白石和彌監督。
こちらも上申書殺人事件と呼ばれる実在の事件をモチーフにした映画でした。

タイトル画像

映画『凶悪』ネタバレ感想〜悪を暴いて生まれる凶悪性〜

2015年1月2日

文字通りその凶悪性が大きな見所になった『凶悪』とはまた違った形で、『日本で一番悪い奴ら』は社会の闇を描き出しています。

史実と合わせながら「悪い人たち」を悪く、恐ろしく映し出す凄さは白石監督ならではですね。

余談ですが、『日本で一番悪い奴ら』では刑事役のピエール瀧とホステス役の松岡依都美が“濃厚な”共演をしています。
この二人は『凶悪』でも殺人犯と内縁の妻として妖しい共演を果たしています。

映画内で気になった方はぜひ合わせてご覧ください!

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

ここから映画の展開や設定に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 
主人公の諸星(綾野剛)は、柔道自慢の若手刑事。
その腕を見込まれて(警察官としての腕力ではなく大会で優勝するため)北海道警に入ったものの、なかなか実績をあげる(=点数を稼ぐ)ことができませんでした。

そんなある日、諸星は先輩の敏腕刑事・村井(ピエール瀧)にキャバクラへ誘われます。

そこで村井は諸星に「俺らは“点数”だ。ホシを挙げて1点でも多く点数稼いだやつしか認められねえからな。デカに必要なのは飛び込む勇気だ。協力者(スパイ)をつくれ」と説きます。

警察での「できる」は、いかにホシを挙げられるかで測られる。
その「成果」を手にするために、「S(スパイ)」が必要。

諸星は「キソウ(機動捜査隊)の諸星だ」と名刺ステッカーを繁華街の至る所に配り歩いて、営業活動を行い、顔を売っていきます。

座右の銘は「正義の味方/悪を断つ」
すすきのの人気者となった彼が、街で「諸星さぁん!」と道行く人に声をかけられる描写は、綾野剛が歌舞伎町のスカウト役を務めた『新宿スワン』を思い出します。

警察で結果を残すために諸星はスパイを探し求め、暴力団幹部の黒岩(中村獅童)や、彼の元舎弟の太郎(YOUNG DAIS)をSとして抱え込んでいきます。

次はチャカを検挙するためにSたちに報酬を渡して拳銃を買い、自らの手柄として押収していきますが、Sを従順なスパイとして育てるのにもお金がかかります。
Sに渡すお金が尽きてしまった諸星は、覚せい剤の取引に手を出して資金を捻出しようとしました。

チャカを挙げて手柄にする→そのために従順なスパイを育てる→そのためにはスパイに渡す報酬が必要→そのために覚せい剤の売買に手を染める

目的と手段が圧倒的にかけ離れてしまっていますが、そのおかしさに気づかないほど、諸星は使命感に満ちた警察官だったとも言えますね。

警察内のキャラクター

この映画では諸星のスパイ役だけでなく、警察の同僚もキャラクターが立っていることが特徴的です。

諸星は道警に入った後、機動捜査隊として勤務。
スパイのチクリによって情報を得て実績を残すようになり、暴力団対策課(マル暴)へ。
そして拳銃(チャカ)の検挙率の高さを見込まれて、銃器対策課へとステップアップしていきます。

機動捜査隊時代の先輩はピエール瀧の村井、青木崇高の栗林といった、いかにも悪そうな強面刑事の面々。

作品の大部分にあたる銃器対策課では、猿渡課長(田中隆三)漆原次長(勝矢)、上司の岸谷(みのすけ)、後輩の小坂(中村倫也)といった同僚たちと諸星は働きます。

なんか憎めない?岸谷さん

この上司というのがいかにも「悪い奴ら」で、課長の猿渡は度々「チャカを何丁挙げてこい」とか課の功績を上げるための無茶振りをしますし、中間管理職の岸谷も飄々としながら「やっちゃいますか」と違法捜査を黙認、むしろ推奨します。

岸谷さんは作品においてとても重要な人物。
諸星に「銃器課のエース」と言って言葉たくみに乗せたり、潜入捜査に自らの身代わりとして諸星を起用したり。

上層部や税関のメンツ(成果)と違法捜査のリスクを天秤にかけた時も平気で違法捜査を推奨します。
一歩間違えれば小者感が満載になってしまうところで、肝が座っているんですよね。まさに悪代官って感じ。

むしろ保身に走って部下に汚れ仕事をやらせた猿渡課長や、ビクビクしながら違法捜査を認めていた漆原次長の方が小者に思えます。
が、結果的に出世するのはこういう一番セコい奴らですね。

諸星の悪行が発覚した後、岸谷さんは自殺してしまうわけですが、彼も諸星同様に警察の不祥事と圧力のスケープゴートになった一人ですね。

ちなみに何かと諸星を敵対視する警視庁の国吉を演じた音尾琢真は、白石監督の『凪待ち』でも主人公の敵役を好演しています。
相手をイラっとさせる演技が非常にうまい役者さん(褒めてます)ですので、気になった方はこちらもどうぞ。

重要人物の去り際

『日本で一番悪い奴ら』はダレることなく駆け抜ける映画と書きましたが、その一因となったのは重要人物があっさりと物語から退場するところです。

具体的に言うと、機動捜査隊時代の諸星の先輩・栗林(青木崇高)、諸星に違法捜査を吹き込んだ村井(ピエール瀧)です。

栗林(青木崇高)の場合

諸星と二人でタッグを組んで犯人を追うことも多かった栗林は、諸星を出来の悪い後輩とみなします。
雑用を押し付け、隙あらば罵倒します。諸星の全てが気に入らないかのように。

とは言え、栗林が優秀な刑事かというと、そうでもありません。
村井に準備不足を指摘され、村井のレクチャーを受けた諸星がホシを自力で挙げるようになってからは彼はあっさりと物語から姿を消します。

村井>栗林>諸星
だったはずの力関係が、
村井>諸星>栗林
になり、栗林は諸星にとってうざい先輩からどうでもいいその他大勢の一人になったということです。

青木崇高の怖そうな演技も相まって、ただならぬ存在感を放っていた栗林でしたが、その後物語に絡んでくることはありません。過去の人(その1)です。

村井(ピエール瀧)の場合

刑事が点数を稼ぐためにはどうするかを諸星に教え、彼を「悪い奴ら」の道に引き入れた村井。

諸星の指導役、恐ろしい有能刑事という描写が続く中、諸星が無茶なガサ入れをして暴力団・旭真会と揉めた後は「やりすぎだ…」と腰が引けたような様子を見せます。

その後は黒岩(中村獅童)にハメられて捕まり、過去の人(その2)に。
諸星にとっては恩人とも言うべき存在でしたが、再び出てくることはありませんでした。こちらも物語からはスパッと切られています。

ただ諸星は村井が捕まった後に、タバコを吸うようになります。
村井の吸いかけのタバコ(ラッキーストライクかな?)を吸ってむせていたように、元々諸星は非喫煙者。スポーツマンでしたしね。

そんな彼が赤のマルボロ(12ミリ)を口にくわえ、タバコは諸星を表現するアイデンティティの一つになっていきます。

村井の吸いかけのタバコを、諸星が口にした喫煙所。
あそこが村井から諸星へ「できる刑事」が継承された瞬間だったのかもしれませんし、タバコというモチーフを使って諸星の中に村井を残したという考え方もできます。

ちなみに『そこのみにて光輝く』でも綾野剛は愛煙者の主人公を演じています。
喫煙がよく似合う俳優さんですよね。

こんな綾野剛は初めて

20年にも及ぶ諸星の警官生活を演じた綾野剛は、紛れもなく本作品の一番の見どころです。

体重を10キロ増やした/落としたとか、柔道で潰れた餃子耳を再現するためにヒアルロン酸注射を提案したとか、綾野剛の役者魂を語るエピソードがある中で、諸星をいくつかの段階に分けて綾野剛の凄さをご紹介していきたいと思います。

①純粋な青年時代

道警に入った後、序盤の諸星は上下関係に従順な真面目な巡査でした。
柔道をずっとやっていたこともあり、とても礼儀正しい体育会育ちの青年という感じです。

後に諸星の情婦となったホステスの由貴(矢吹春奈)は、そんな彼をこう評していました。

「うちに来る刑事なんてみんな偉そうな奴ばっかりだったけど、あんた何も知らなくて可愛くて」

「失礼しやす」と言ってキャバクラの席に着き、上司や先輩の言葉に対しては基本「オッス」

そんな諸星を村井(ピエール瀧)は「青年」と呼んで可愛がり、ウザい先輩の栗林(青木崇高)は自分の言ったことに「オッス」で返す諸星に「オッスじゃねえんだよ」と食い気味に怒ります。お前なんでも「オッス」使っとけば良いと思ってるんか?この野郎。

「オッス」や「そうなんですか?」を使いながら村井への丁寧かつスピーディーな受け答えをしていく諸星は、文字通りの従順な後輩でした。
挨拶がしっかりでき、的確に相槌を打てる、可愛い子犬ちゃんの諸星でした。

この純粋な「青年」時代をしっかり描いたことで、後の諸星のヤバい変化が際立っていくことになります。

②ワルボシへの変化

本部長賞を受けた諸星初めての手柄は暴力団組員宅への無茶なガサ入れでした。(覚せい剤と拳銃を押収)

ここで旭真会の「アニキ」(小林且弥)を締め上げるわけですが、このあたりから諸星の口ぶりが悪い奴らのそれになっていきます。

「うるせえ馬鹿野郎警察だコラァ」
「シャブ持ってんだろ出せコラァ」
「うるせえ馬鹿野郎」

これらのセリフを一息に叫ぶ綾野剛のすごさよ!
「オメェ」「テメェ」「野郎」「コラァ」を多用するワルい諸星の幕開けです。

その後、旭真会幹部の黒岩(中村獅童)に呼び出されて一触即発のタイマン対談に臨む諸星。
ここでの黒岩と諸星のテンポのいい押し問答は、作品のエンタメ性とスピード感を確固たるものにしたと思います。

③威嚇、暴言、罵詈雑言

「ハイこんちわぁ。旭真会の黒岩です」
そう言って席に着く中村獅童の黒岩。怖い。怖すぎる。

そんな黒岩に対して怖さを振り払うように、諸星はカーーーッ、ペッ!!と痰を吐きます。
震えながらダミ声を作る綾野剛が本当に上手い。
小刻みに体を震わせながら顎を上げるようにして、「良いチャカ持ってんじゃねえか」と声を絞り出します。

その後に
「あぁ!?この野郎」
「うっせぇこの野郎」
「やんのか馬鹿野郎」

とテンポの良い言い合いになっていきますが、この乱暴な言葉の応酬は緊迫感と(諸星が必死にイキがっている)滑稽さを両立した作品随一のシーンですよね。

このやり取りを境に、諸星は小者っぽさを完全に卒業し、ドスの効いた悪い声、言葉遣いを普段からするようになっていきました。

語尾は「お前」か「この野郎」のどっちか。マジで。
言葉遣いが荒い人間の極めて自然な対話方式です。素晴らしすぎます。

パキスタン出身のSであるラシード(植野行雄)にブチ切れて「この遊牧民」と罵ったり、「だから外人嫌ぇなんだよ」と喚くシーンはもはや放送禁止ワードですよね。

警察内部でも一人称は「自分」から「俺」に代わり、横暴な振る舞いを見せていきます。
もはや誰も止められません。村井も栗林もいません。いや、いても止められないか。

④シャブ中になってから

窮地に陥り、覚せい剤の売買だけでなく使用に手を出した諸星。
頬はパンパンに腫れ上がり、常にペットボトルの水を持ち歩いてだらしなく歩く姿からも、シャブ中毒者としての様子がうかがえます。

ペットボトルの水
薬物中毒者に見られる特徴の一つとして、常に喉が渇き、過剰に水分を摂取するという症状があります。

ドスを効かせて恐ろしい声色を作っていたダミ声は、もはやただのガラガラ声になってしまいました。

喋り方も下卑た感じになり、グッフッフ、エッヘッヘと口走ることも多くなっていきましたね。
乱暴な言葉を喚き散らしていた狂犬のような姿ももう見られませんでした。

繰り返しになりますが、諸星の変化を言葉巧みに、表情豊かに演じきった綾野剛は本当にすごかった。
『日本で一番悪い奴ら』は間違いなく、彼の代表作と言っていいでしょう。

最後に

主人公のモデルであり、作品の原作者でもある稲葉圭昭さんのロングインタビュー(筆者:浅原裕久さん)が、VICEさんに掲載されています。

稲葉さんの半生や事件の裏側などが事細かに綴られており、これを読めばほぼ全容を知ることができます。(無料記事とは思えないクオリティです!)

またMIHOシネマさんでは映画のあらすじが細かくわかる記事を掲載されています。
作品の展開を詳しく知りたい方はぜひ読んでみてくださいね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。