映画『そこのみにて光輝く』〜池脇千鶴の肉感的情事〜

2014年公開の映画『そこのみにて光輝く』を鑑賞しました。

監督は『オカンの嫁入り』の呉美保。出演は綾野剛、池脇千鶴ら。

函館の短い夏を舞台に撮られた作品。函館で暮らす人たちの市井を描いた『海炭市叙景』と同じく佐藤泰志さんの小説が原作になっています。
鉱山で働いていた達夫(綾野剛)は仕事を辞め、アパートで一人暮らし。ある日、パチンコでライターをあげた縁から拓児(菅田将暉)の家に招かれ、拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会った達夫は彼女を強く意識するようになります。

しかし彼女は家庭的な環境面によって自由を奪われており、恋愛や人生に諦観していました。

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▲拓児(左・菅田将暉)と彼の家に向かう達夫(綾野剛)。拓児の家で千夏の作ったチャーハンを食べました。 (C)2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

いかにも邦画らしい、重厚で示唆に富んだ映画でした。ただ、時折その重さと意味ありげに提示だけされるワンシーンの解読に疲れてしまう映画でもありました。

個人的な作品の評価は★★★☆☆になります。

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拓児と薬の関係は?

拓児と千夏の一家は、寝たきりになりながらも性欲だけが残り奇声をあげる認知症の父が居間の隣にいます。

性欲を抑える薬があるらしいのですが、それは脳の劣化を進めるものということで母(伊佐山ひろ子)は使用せずに父の性欲を消化させています。

家は見た目にも貧しく、拓児のご飯の食べ方や服装などからも育ち方が見てとれました。過去に喧嘩を起こし保護観察中の拓児は月に何回かの日雇い労働のみであり、母も拓児とともにパチンコに興じてタバコを吸って、と家庭環境は決して良くありません。

売春宿で働く千夏の収入によって日々を過ごしている。それが彼ら一家でした。

一方の達夫は鉱山の事故で心に深い傷を負いながらも、戻る場所は残されていました。

同僚の松本(火野正平)が何度も、もう一度一緒に仕事をしないかと誘いに来ます。松本の身なりやお金の使い方を見る限り、鉱山の仕事は高い所得を得られそうなものでした。

父親の薬に話を戻すと、千夏が作る父の料理に母が何かしらの錠剤のようなものを入れるシーンがあります。鍋に入ったその料理を、帰ってきた拓児がつまみ食いして、これは美味いとむしゃむしゃ。
千夏と母は気がついていないのか、拓児に何も言いません。果たしてあれは何の薬だったのか。映画の終盤で、凶行に及んだ拓児に薬の相互関係はあったのか。

このあたりは描かれていないのでわかりませんが、「示唆に富んだ作品」と評した理由の一つでもあります。
海産物の加工品工場を映したり、他にも意味ありげで回収されなかったシーンはいくつもありました。

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▲終盤に暴走してしまった拓児 (C)2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

菅田将暉のキャラが素晴らしい

菅田将暉は、素直と粗野が同居した拓児を熱演していました。タバコの火の付け方一つとってもガサツな部分が表れていましたし、先述した通りご飯をがっついて食べる様もまた然りです。

▲町の食堂で話す拓児、達夫、千夏。3人がともに笑っている貴重なシーンです。 (C)2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

拓児は保護観察の身であるため、千夏の幼馴染みで町の権力者である中島(高橋和也)のもとで日雇いとしておべっかを使いながら働きます。
しかしその現状に少なからず不満ややるせなさを抱いていて、彼は復職する達夫と鉱山に出ることを希望しました。達夫が覚悟を決め、拓児も一緒に山へ連れて行くことになったのが上の食
堂のシーン。3人が笑顔で話しているところが印象的でした。
この作品の最も希望に満ちたシーンといってもいいかもしれません。

綾野剛の演じた達夫は、いまいち事故を起こした鉱山の仕事へのスタンスがわかりにくいものでした。彼の心に深い傷を負わせているのは間違いないんですが、悪夢にうなされるだけで彼が今どのように思っているか知ることができません。
千夏との会話のきっかけに鉱山の話題を切り出すなど、過去の失敗を告白して同情を誘うような描写にとどまったのは残念でした。

これは役者の問題ではなくて脚本側に責任があると思います。達夫はそのよくわからなさが魅力になっていたため綾野剛の感情を殺した演技はとても良かったことを付け加えておきます。

作品の冒頭と最後には彼の妹から手紙が届き音読されます。妹とは誰なんだというのは置いておいて、こちらも達夫の情報を観る側に示す役割を果たしていました。

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▲達夫はよくタバコを吸います。歩きタバコもご覧の通り (C)2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

達夫はよくタバコを吸います。僕は喫煙者なので彼のタバコを吸いまくる気持ちがわからんでもないですけど、吸わない人からしたらどうなんでしょう。時代錯誤の描写と思う人がいるかもしれません。

不倫関係を手放せない男

本作の一番の見どころは池脇千鶴でしょう。
(語弊があるのは承知で)生活苦に陥っている田舎の家庭を風俗で支える長女を演じています。
服装、無造作に搔き上げる髪。二の腕や肩、少しブラジャーが食い込む背中が肉感的に誘うその身体。その全てがやるせない千夏の境遇を表現していました。
これは男性目線からの意見ですが、お客さんが求める風俗嬢の魅力が池脇千鶴の千夏には詰まっていたと思います。そして、それは多分艶めかしさとか美貌とかではないんだと思います。

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▲無造作に乾かした髪、ムチっとしたむき出しの肩や二の腕。池脇千鶴の描き方が凄いです (C)2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

千夏と不倫関係になっていた中島を演じた高橋和也にも触れておきます。
保護観察中の拓児の身元引受人に近い形で彼を雇い、千夏との関係を切らさないための口実に使う中島はとても小さい男で、千夏たち一家を苛む元凶として描かれています。

町の権力者という立場を利用しての振る舞いには小物感が滲み出ていますが、この町では大物なんですね。彼のおかげで生活できている人は決して少なくないと思います。
妻子を持ちながら千夏の前では「お前がいないと(不倫関係がないと)ダメなんだ」と甘える情けない男に、時に物を投げたり恫喝したりするどうしようもない男に、「こうはなりたくない」と思いながらも心のどこかでその痛みに共感してしまう男性もいるのではないでしょうか。

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▲中島(右)はとても臆病なサディスト。高橋和也が上手に演じています (C)2014 佐藤泰志/「そこのみにて光輝く」製作委員会

そんな中島が手放せない千夏には、やはり特有の安心感があったのでしょう。愛人としての安心感が。
でも千夏は、困窮と支配から抜け出すための光を達夫に見出し、それを信じてみようと決めました。おそらく彼女の中には「こんな私が男の人と普通の幸せな人生を送っていいのだろうか」という迷いがあったと思います。その迷いを断ち切ったのは達夫の真っ直ぐさと綾野剛の演技だったのでしょうね。

彼女が浮かれて鼻歌を歌うシーンなどはまさに有頂天という言葉がふさわしく、ああ良かったなと素直に思いました。
トータルでは冗長な場面も多く高評価にはしませんでした。でも、達夫と千夏がお互いの光となって未来を照らしていく様は見事であり、そのコントラストとなった拓児の結末は胸が詰まりました。
役者の演技が光った作品。また、方言がかなり高いレベルで再現されているのでそちらにも注目していただきたいです。

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