映画『死刑にいたる病』ネタバレ感想|サイコパス榛村の魅力とは

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2022年公開の『死刑にいたる病』をご紹介します。

阿部サダヲさんがサイコパス役を演じて話題になっている作品ですね。監督は『狐狼の血』『日本で一番悪い奴ら』などを手がけた白石和彌監督です。

本記事では、主人公・榛村(阿部サダヲ)の魅力、ヤバさについて感想を書いていきたいと思います。

作品のネタバレを含みますのでご注意ください。



あらすじ紹介

理想とはかけ離れた大学生活で悶々とした日々を過ごす筧井雅也(岡田健史)のもとに、ある日1通の手紙が届く。それは大勢の若者を殺害し、そのうち9件の事件で死刑判決を受けている凶悪犯・榛村大和(阿部サダヲ)からのもので、「罪は認めるが最後の事件は冤罪(えんざい)だ。犯人はほかにいることを証明してほしい」と記されていた。かつて筧井の地元でパン屋を営んでいた旧知の榛村の願いに応えるべく、筧井は事件の真相を独自に調べ始める。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督 白石和彌
原作 櫛木理宇
脚本 高田亮
榛村大和 阿部サダヲ
筧井雅也 岡田健史
雅也の母 中山美穂
雅也の父 鈴木卓爾
金山一輝 岩田剛典
加納灯里 宮﨑優
佐村 赤ペン瀧川

死刑囚・榛村と対峙する雅也役に、『望み』『そして、バトンは渡された』などの岡田健史さん。陰のある青年を演じるにあたっては世代屈指でしょう。この映画でも見事に鬱屈した大学生を演じていました。

また、雅也と同じ大学に通う同郷の加納灯里役には、『うみべの女の子』に出演した宮﨑優さん。『死刑にいたる病』では非常にインパクトを残す役柄だっただけに、印象に残った方も多いのではないでしょうか?

白石監督作品常連の音尾琢真さんもしっかり出演しています。

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この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



阿部サダヲと榛村大和

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

『死刑にいたる病』の見どころは、何と言っても阿部サダヲさん演じる榛村大和のヤバさ。

映画をご覧になった方は、榛村の真っ黒で深い深い瞳が脳裏に焼き付いていると思いますが、その榛村を阿部サダヲさんが演じたことの印象について考えてみます。

屈託のない阿部サダヲ

阿部サダヲさんという俳優に対して皆さんが抱く印象はどんなものでしょうか。

私は初めて彼を目にしたのが2002年のドラマ『木更津キャッツアイ』の猫田という役だったんですが、阿部サダヲさんに対するイメージというのは「屈託のない笑顔で、開けっぴろげで、とっつきやすい」キャラクターなんですね。

ドラマ『マルモのおきて』は特に良い人全開なキャラクターでしたよね!

蒼井優さんと共演した『彼女がその名を知らない鳥たち』や、りんご農家を演じた『奇跡のリンゴ』、松たか子さんとの夫婦を演じた『夢売るふたり』などもそうで、そこには人当たりの良さだったり、人の心をつかむ様だったりが滲み出ていました。

一方で『MOTHER』のような粗暴な役柄だと、イメージと違うなと感じたりもしました。それくらいには相手との距離を縮めるのが上手なキャラクターの印象があります。

多くの人々に好かれる人を「人たらし」と言ったりしますが、阿部サダヲさんは間違いなく人たらしの役が似合う俳優だと思います。

榛村のハマり役

だから『死刑にいたる病』で阿部さんが演じた榛村についても、非常にハマり役でした。

彼は相手のことをよく観察して擦り寄り、警戒心を解いて距離を縮めていきます。威圧するようなこともありません。

その裏には凶悪猟奇犯という顔があるわけですが、「表」の部分は人の好さが前面に出ているため、周囲の印象はとても良い。榛村の隣に住む農夫(吉澤健)も、彼のことを「嫌いになれねぇんだよな」と言っていました。

雅也(岡田健史)や看守にとって榛村は死刑囚という事実が裏付ける「悪人」な前提があるわけですけど、彼への印象は良かったですよね。何なら彼のことを信じてあげたいというところまで心の矢印は動かされていたと思います。

そうやって心を動かすだけの説得力が阿部サダヲさんの榛村にはありました。

犯罪者をよく知る人が取材に対して「あんないい人が…信じられない」と語ることは往々にしてあります。榛村は間違いなくその類の人間でしたし、関わる人に影響を与えるだけの人心掌握能力にも長けていました。

雅也は榛村との精神的な距離が縮まるにつれて、彼と同じようなマインドを持っていると錯覚します。

ガラスを挟んだ状態で面会する雅也と榛村の構図は白石和彌監督の『凶悪』と似ていましたが、あの映画でも山田孝之さん演じる取材者が罪人から“凶悪”さを(意図せずに)引き継いでいた印象を受けました。ミイラ取りがミイラになる作品は監督の十八番であり、『死刑にいたる病』での影響の及ぼし方についてもさすがだなと唸らされます。

次は榛村の持つ「魅力」について見ていきます。



榛村の魅力

榛村(阿部サダヲ)は、パン屋「ロシェル」の明るい店主を営む一方、17、18歳の真面目な黒髪の少年少女を狙った猟奇犯としての顔がありました。

犯行はターゲットに心を開かせた上で行われ、犯行間隔は3ヶ月空け、丹念に計画を練った上でのもの。それを7年間にもわたって続ける隙のなさ。

殺人に快楽を感じるというよりも、そこに至るまでの過程も榛村にとっては喜びを感じるものだったんでしょう。距離を縮めた上で残虐な目に遭うということは被害者にとってこの上ない裏切りを受けたことになりますが、榛村からしてみれば極上の反応なわけです。

なぜ被害者たちは榛村に心を許してしまったのか。

そこにある榛村の魅力を考えてみます。

第一印象の壁を取り払う

被害者の高校生たちにとって榛村の最初の位置付けは、放課後に訪れるパン屋の店主です。

時間つぶしなり自習なりをするために休憩の場として高校生は「ロシェル」にやってくるわけですが、ここで榛村はいつも温かく迎えてくれます。頑固な職人気質の店主では決してありません。

何度か通うとサービスもしてくれます。単なる客から「顔馴染み」とか「常連」として認識してもらう段階に移行します。

サービスをしてもらって不愉快に思う客はいませんよね。

『クリーピー 偽りの隣人』でサイコパスを演じた香川照之さんのヤバさは本作品の阿部サダヲさんのそれと近いものがありましたが、第一印象から怪しさいっぱいでマイナスからプラスへと転じる振れ幅を利用した感のある『クリーピー』の彼と、最初からプラスを積み上げていく榛村は違うプロセスを取っています。

奇遇を装い日常に入り込む

女子高生と榛村のケースを例に取ると、榛村は彼女の行きつけのカフェで偶然を装い遭遇します。そしてバイト先を聞き出すと、今度は彼女がレジを打つスーパーに客として訪れます。

普通に考えればストーカーですよね…!

ただ、榛村を怪しいものとして認定しない理由はいくつかあります。

最初に遭遇したカフェでは、榛村が先に店の席についています。後から女子高生がやってきます。

これが逆だったら、自分を尾けてきたのかと警戒するところですが、先客は榛村という“順番”の状況で、警戒する選択を取る可能性はかなり小さくなります。

2021年に公開され、本作品と同じく高田亮さんが脚本を務めた『まともじゃないのは君も一緒』では、主人公の男性(成田凌)が先んじて本屋にいて、彼のターゲットである女性(泉里香)が後からやってきたことで彼のことを意識するシーンがあります。

これは男性に恋愛指南していた女子高生(清原果耶)の入れ知恵なんですけども、後か先か、というのは警戒心を解く上で極めて重要な要因になります。

『死刑にいたる病』に話を戻します。
「店の外」での接触を果たしたことで、榛村は女子高生にとって「パン屋さん」から「行きつけのカフェが私と同じのパン屋さん」へと印象が移行します。

そこでバイト先を自分から口にしたことで、榛村が彼女の働くスーパーへ“自分が働いていることを知った上で”やってくることへの理由が生まれます。榛村の立場からすると、彼女が働くスーパーに訪れて堂々と接点を持つきっかけを与えてもらったことになります。

この人は何で私のいく先々に来るんだろう?なんていう警戒心は、女子高生から抜け落ちます。

長所を肯定し、承認・賞賛

また、榛村の主張を受けて独自の捜査を開始した雅也(岡田健史)に対して榛村が距離を縮めていく様も見事でした。

雅也にとって刑務所で面会する榛村の印象は犯罪者でした。もちろん旧知の間柄ではありましたが、雅也が榛村の依頼を受けた行動原理に「恩」みたいなのはなかったと思います。

榛村の立場が立場なだけに、むしろ警戒していましたよね?

彼を動かす原動力となったのは、大学受験に失敗して鬱屈した毎日を過ごす自分にだって、行動は起こせるんだ、新しい真実を掴むことができるんだという、やり甲斐だったでしょう。

そんな雅也の心理を榛村は上手に利用し、承認と賞賛を繰り返します。

「すごいよ雅也くん」と何度榛村は口にしたことでしょうか。

受験失敗を経て家族からも承認されず、また楽しい大学生活も送れていなかった雅也にとって、あまりにも貴重で幸福な肯定です。

先述の女子高生が同じ場所に居合わせるという状況的な要因、嗜好の共通性みたいなところから距離を縮めたのに対して、雅也は自分を承認してくれる理解者としての榛村に信頼ポイントを少しずつ上積みしていきました。

人間にとって、褒められたり承認されたりすることは嬉しいことで、相手を信頼するに至るきっかけにもなります。賞賛されるということは自分を見てくれているから起こる行動です。学校での友達づくりの第一歩だったり、仕事で信頼関係を築く契機になったり。

「まず褒める」はコミュニケーションの基本であり常套手段です。

雅也と榛村の関係性には、子供と大人という立場も関係しているでしょう。榛村は悪人ではあるものの、犯行手口は実に狡猾。猟奇犯というよりは知能犯です。

そんな「ヤバい、けど凄い」相手から認めてもらうことで雅也が獲得した自信はとてつもなく大きいはずです。



榛村の支配

ここまで書いてきた通り榛村(阿部サダヲ)は圧倒的なコミュ強で、おそらくビジネスとかをやっていても成功したと思います。

彼の距離を縮める作業の先には犯行だったり無罪の証明だったりがあって、そこから逆算する形で行動を取っていきました。全ては利用するため。高校生が抱く親近感や、雅也(岡田健史)が回復する自尊心は全部榛村の想定内。支配するための過程です。

その支配の効力がなくなったと悟るや、あっさりと榛村は対象を切ります。

親から抑圧されてきた子どもは総じて自尊心が低く、操縦するのは簡単だ、雅也くんもそうだよと、君は僕の手のひらの上で転がされていたに過ぎない、もう用済みだよと残酷に告げるわけです。

雅也からしてみれば榛村のマインドコントロールから逃れた一方で、今まで行なってきた探偵ごっこは全て榛村の想定内に過ぎなかったという無力感を突きつけられるわけです。

ただでは帰さない榛村のプライドの高さが滲み出ていますね…

支配は続く

『死刑にいたる病』で特に怖いのが、加納灯里(宮﨑優)が雅也に爪への執着を明かすラストでしょう。非常に後味が悪い。

この加納さん、雅也の行く先々に出没していくわけですけど、そのアプローチの仕方は上で述べた榛村のやり口とそっくり。
視点も雅也からではなく、雅也を目で追う加納からスタートしていることで、彼女が雅也に対して何らかの意識をしていることがわかります。

正直なところ、不自然なほどの遭遇率で「雅也くん」と声をかけて関わろうとする彼女の接近は狡猾とは言えないんですが、それでも確かに加納は雅也に対して影響を及ぼしていきました。

気づいたら同じ場所にいる状況的共通項、中学の同級生というルーツの共通項、血染めの雅也の手を白い服で拭う奉仕(あれは引きました)。
歯牙にも掛けない存在だった加納灯里を雅也は次第に認識し、関係はパートナーへと進展していきます。

榛村とは別線で進んでいくように見えた加納との関係。
死刑囚と訣別した雅也にとっては日常が、しかも前までの孤独で鬱屈した大学生活とは違う日常を手にしたと思わせたところで、加納もまた榛村のコントロール下に現在進行形で置かれていることが匂わされました。

榛村の毒牙から完全に逃れたと思いきや、そうではなかった。お前だけ逃げられると思うなよと言われているようです。

何とも不穏な雰囲気で締め括られただけに、陰鬱な気持ちにさせられました。

承認されることは嬉しいことですけど、甘い言葉には気をつけないといけませんね…。どこからコントロールされているかわかりません…。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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