映画『U-31』がガチである11個の理由をサッカーオタクが語ってみた|ネタバレ感想

U-31のタイトル画像
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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

サッカーの映画・特に実写ものの作品で、「現実離れ」を感じたことはないでしょうか。

プレーのクオリティーだったり、そもそも喋りながらプレーしている選手いないよね、とか。
サッカーに限らずスポーツものの映画には、「現実感」がどうしてもつきまとう課題かと思います。

今回取り上げるのは、そんなサッカー好きの心を揺さぶる作品です。

2016年の映画『U-31』
実在のJリーグのクラブが全面協力している、「本物」のサッカー映画です。読み方は「ゆーさんじゅういち」。

この記事では『U-31』の素晴らしきガチさを、サッカーを愛してやまない人に刺さるポイントを、11個ご紹介していきます。

長文ですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。



あらすじ紹介

河野敦彦、31歳。職業・プロサッカー選手。強豪チームにクビを言い渡され、古巣の弱小チーム・ジェム千葉に戻ってきた彼は、そこで再起を賭けることにした。移籍の条件は、背番号『10』を付けること。しかし、待っていたのは、「元・日本代表」というかつての栄光をネタにしようとする経営側の考えと、全盛期を過ぎたにも関わらず背番号『10』をもらった彼に対する、若手選手たちの冷やかな視線だった。それでも、河野は黙々と練習を続ける。

出典:公式サイト

原作では27歳、映画では31歳

主人公の河野は31歳。強豪チームから戦力外通告を受けて弱小クラブのジェムに移籍することになりました。
サッカー選手としてはベテランと言われる年齢です。

もちろん35歳を過ぎてもバリバリ現役でやっている選手も多いですが、Jリーグの平均年齢はだいたい25歳前後
そう考えると31歳はベテランの域ですよね。選手としてもピークを超えて下り坂に向かっていると考えていいと思います。

ちなみに
2018年のワールドカップ日本代表で言うと、本田圭佑選手、長友佑都選手たちが32歳になる年。槙野智章選手が31歳を迎える年でした。
長谷部誠選手は34歳での出場でしたね。

原作のコミックスでは河野は27歳で移籍していますが、これは移籍時点から4年後の31歳で迎えるワールドカップに焦点を当てたからです。

映画『U-31』では31歳の“落ち目の選手”が古巣で再起をかける姿を描きました。
試合で活躍するとか日本代表には触れておらず、原作コミックス(2巻完結)の前半部分に特化しています。

『U-31』のスタッフ、キャスト

監督:谷健二
原作:綱本将也、吉原基貴
脚本:佐東みどり
河野敦彦:馬場良馬
戸澤敏行:中村優一
笠原隆輔:根本正勝
成田剛士:中村誠治郎
山咲佳奈:谷村美月
平田修:平畠啓史
木村良平:勝村政信
竹岡誠一:大杉漣

主演の馬場良馬さんをはじめ、主要な役者さんたちはサッカー経験がない中で撮影に臨んだそうです。
プレー面でのリアルさをどのように補強していったのかは後でご説明しますね。

また映画の挿入歌「vision」を歌っているのは根本正勝さん中村誠治郎さんによるユニットの「Ash」。
演技面に加えて楽曲にも注目してみてください。

それでは『U-31』がガチなサッカー映画である11個の理由をご紹介していきます。

以下、感想部分で作品の設定、展開に触れていきます。ご注意ください。



①ジェフ千葉とジェム千葉

Jリーグが好きな方はすでにお気づきかもしれませんが、この映画で主人公たちが所属している「ジェム千葉」は実在のJリーグチーム『ジェフ千葉』をモデルにしています。

映画に出てくる練習場やクラブハウス、スタジアムから、練習ウェアやユニフォームに至るまであらゆるものがジェフ千葉の使用している「本物」です。

一方で記者会見場に設置されたロゴとかは「JEF UNITED」ではなく「JEM UNITED」に変更しています。手が込んでいますね!

ジェフ千葉(正式名称:ジェフユナイテッド市原・千葉)が、クラブ25周年記念として全面バックアップしていることがうかがえます。

ジェフ千葉とは
1993年のJリーグ発足時から加盟している歴史あるクラブ。本拠地は千葉県千葉市・市原市。
ホームスタジアムのフクダ電子アリーナ(通称フクアリ)は日本有数の素晴らしいスタジアムです。

練習場:ユナイテッドパーク
スタジアム:フクダ電子アリーナ

②ジェフの宣伝映画ではない

全面バックアップしているものの、『U-31』はジェフ千葉をゴリ押しする映画ではありません。
ドキュメンタリー風の作品でもないですし、ジェフ千葉をモデルにした主人公のチームが強くなっていく物語でもありません。

ジェフサポーターの方が観ればジェフの設備やウェア、クラブハウスの壁に飾られた選手のプレートなど細かいディテールに気づくことができると思いますし、ジェフ以外のサポーターの方でもリアルさは感じられるはずです。

普通に考えて「本物」のクラブがそのまま出てくるフィクション映画なんてなかなかお目にかかれません。

余談ですが、Jリーグのドキュメンタリー映画は浦和レッズの『We are REDS! THE MOVIE』が素晴らしいです。興味のある方はどうぞ。
タイトル画像

映画『we are REDS!minna minna minna』ネタバレ感想〜浦和レッズを愛するすべての人へ〜

2015年5月1日

③サッカーダイジェストが協力

映画では谷村美月さんの演じる佳奈がサッカー雑誌の記者として登場します。

クラブハウスのプレスルームで記者陣が談笑していたり、練習場のスタンドでカメラマンと練習を見ていたりと本物さながらなのですが、河野の入団会見で彼女が言い放つ質問はかなり際どいところを突いています。実際にあんな事を言ったら、クラブから出禁(取材できないこと)を食らうんじゃないかなと心配になりました…。

質問内容については映画本編でお楽しみください(笑)。
 

映画にはサッカー好き御用達の雑誌「サッカーダイジェスト」さんが協力。
J1優勝チームのポスターや実在の選手名鑑などが並ぶ編集部のリアルさにも、ぜひ注目してみましょう。

④『ジャイキリ』の綱本さん

原作を手がけたのは綱本将也さん

『U-31』は綱本さんのデビュー作でしたが、後年に原作を担当した漫画『GIANT KILLING』(通称:ジャイキリ)は知っている人も多いかもしれません。

GIANT KILLING
弱小クラブ「ETU」が個性的な監督・達海のもとで強くなっていく本格サッカー漫画。
サッカーの戦術面やJリーグをモデルにしたリアルな戦いに加え、選手、スタッフ、サポーター、フロントの視点からサッカー界の実情を描き出している。

ご本人はジェフ千葉のサポーター。
それもあってジェム千葉の描写や、サッカー好きに突き刺さる選手視点の描写が本当に丁寧です。

「ジェム千葉」や、河野が戦力外を通告される「東京ヴィクトリー」もジャイキリでは主人公たちのライバルクラブとして同じ名前で登場します。
東京ヴィクトリーのモデルはかつて絶大な強さと人気を誇った名門クラブの東京ヴェルディですね。

谷監督と綱本さんの対談を収録した宇都宮徹壱さんのインタビュー(一部有料)も面白いので興味のある方はどうぞ!

⑤大杉漣さんのサッカー愛

谷健二監督は大学までプレーしていたサッカー経験者。
『U-31』では至るところにサッカー愛がほとばしる中で、まず唸らされるのはキャスティングです。

具体的に言うと、大杉漣さん勝村政信さん平畠啓史さんの3人。
3人とも日本サッカーを語る上で欠かせない特別な方たちです。

ジェム千葉の社長を演じたのは大杉漣さん

2018年2月に66歳で急逝された大杉さんは芸能界屈指のサッカー好きとしても知られており、地元の徳島ヴォルティスを応援するサポーターでもありました。

画面の中では大物俳優。
けれど仕事場を離れれば、他の人と同じようにチケットを買って入場し、スタジアムのグルメを楽しみ、サポーター席で応援する。
そんな「普通のサッカーが大好きなおじさん」でした。

おこがましい言い方ですが、僕たちJリーグサポーターにとっては、尊敬する仲間という感覚かもしれません。

『U-31』で大杉さんの演じる竹岡社長は、落ち目の元日本代表・河野を客寄せパンダとして扱い、一方ではサッカーを純粋に愛する表情も見せる役どころです。河野の入団会見にはジェム千葉のクラブカラーである黄色のネクタイを締めて現れます。

選手たちの練習を見つめ、展開に一喜一憂する竹岡社長の表情。そこに演技としての脚色はありません。
サッカーを愛するおじさんの、純度100パーセントのガッツポーズです。

⑥勝村政信さんのサッカー愛

続いてジェム千葉の広報・木村を演じた勝村政信さんです。

2011年にスタートしたテレビ東京の本格派サッカー番組『FOOT×BRAIN』でMCを務める勝村さん。

『FOOT×BRAIN』でもパス回しやリフティングをする様子が映されていますし、実際にコートでもプレーされています。

大杉漣さんとも親交が深かった勝村さんは、2018年のワールドカップで大杉さんの写真を手に現地観戦したことも話題となりました。

このお二人が映画内の主要キャラクターを務めていることは本当に幸せなことで、映画のサッカー濃度を何段階も高めています。

ニコッと笑う仕草にこれだけ意味を持たせられるサッカー好きの役者さんはいません。ああ幸せだ。

勝村さんが演じる木村広報は、クラブハウスで河野にこう語りかけます。

「君たちのプレーをああでもないこうでもない言ってる連中はみんな、どこかの時点で何かの夢を諦めた人間なんだよ。もちろん諦めるのは悪いことじゃない。前に進むためには必要だからね」

この後に「夢にしがみつくのもいい」(河野の事)と続くわけですが、勝村さんのセリフには、時に「ああでもないこうでもない」を口にしてしまう人たちの気持ちが詰まっているように聞こえましたね…説得力が違います。

⑦平畠啓史さんのサッカー愛

佳奈(谷村美月)の働くサッカー雑誌編集部の編集長・平田を演じたのは平畠啓史さん

サッカー番組を数多く担当し、実況・解説も務めている平畠さんは、普段スカパーやDAZNでサッカーを楽しんでいる方にはおなじみですよね。

Wikipediaには「芸能人No.1の「サッカー通」と呼ばれている」と表記されていましたが、芸能界という枠組みを取っ払っても日本が誇るサッカー通です。ペナルティのワッキーさんもそうですね。

リヴァプールのカットソーをさらりと着こなして佳奈の企画書に目を通す平田編集長。
「なーんか違うんだよなぁ」と突き返す姿には佳奈がかわいそうに見えるものの、平畠さんを起用していることでここにも説得力が生まれます。

大杉さんと勝村さんの起用だけでもお腹いっぱいと思える中で、平畠さんまで加わるとサッカーファンにとってそれはもはや奇跡です。

ちなみに映画内でジェム千葉応援番組のリポーターを演じた末永みゆさんは2018年からジェフ千葉のプロモーションチームアキュアマーメイドの一員として活躍しています。

これもまたサッカー愛にあふれた映画がつないだ素敵な縁ですよね。



⑧プレーシーン撮影の工夫

主演の馬場良馬さん中村優一さんをはじめ主要キャストはサッカー未経験者が多かったといいます。

しかし映画を観ていて「未経験者っぽさ」を感じるシーンはそんなにありませんでした。
強いて言えば河野(馬場良馬)笠原(根本正勝)が夜のグラウンドでインサイドパスをする場面くらいでしょうか。

谷監督は俳優陣のプレー経験の乏しさを、どのようにカバーしたのでしょうか。
自分なりに考えてみました。

 

河野(馬場)や戸澤(中村優一)のプレーシーンは多くが走りながらのものでした。
要は流れの中でプレーしている姿をカメラで追う形です。

サッカー映画で素人っぽさが出るのって、多くはボールが足元に入って静止した状態でフェイントをかけたりシュートやクロスを蹴る瞬間にフォーカスしているからだと思うんです。

サッカーは確かに足を主に使うスポーツですし、「止める、蹴る」は凄く大切なことなんですけど、大切だからこそ経験者と未経験者の差がわかりやすく見えてしまう部分かもしれません。

主にパス回しの練習と思われるシーンで、カメラはボールをもらおうと動き続ける馬場、戸澤を映します。サッカー用語だと「顔を出す」動きですね。

多くのシーンは腰から上を映しており、足元にあるであろうボールを省いています。
これによってボール扱いの上手い/上手くないをわからないようにしていると思います。

さらにサッカーは走りながら行うスポーツなので「走っている姿」というのはリアルさを追求する面でも役立ちます。

とはいえボールの動きを見ながら走るというのは、サッカーをやったことのない人にはできないこと。
走る動作を違和感なく繰り返した馬場さんは、相当な練習量を積んだのではと想像します。

⑨志村選手と阿部選手

この映画では多くの選手がKappaのスパイクを履いています。
多分Kappaがジェフ千葉のオフィシャルサプライヤーを務める関係でしょう。

そんな中、仲良し選手トリオの一人である志村という選手はミズノのスパイクを履いていました。いいのかな(笑)。

実はこの志村という選手を演じた松浦正太郎さんは、高校卒業後にブラジルへサッカー留学した経験を持っています。

『U-31』での松浦さんはシュート練習で強烈なシュートを決めていました。
サッカー好きの方が見たらレベルの高さがきっとわかる、アウトサイドに少しかけたシュートです。

同じシュート練習のシーンでは、阿部という選手を演じた広瀬友祐(現・廣瀬友祐)さんも明らかに経験者とわかるシュートを決めています。
廣瀬さんも強豪・流通経済大学のサッカー部でのプレー経験を持つ元選手です。

お二人のシュートは美しく、何度も巻き戻して見てしまうほどでした。

⑩流通経済大学が協力

流通経済大学(以下・流経大と表記)は、毎年Jリーグに何人も選手を送り込む日本有数の強豪大学です。個人的には日本一のサッカー大学だと思っています。

大学サッカー
高校で競技を辞めてしまう選手も多い中、大学に入っても部活でサッカーを続けることを選んだ選手たちが集まる。
流通経済大学は全国屈指の強豪。林彰洋選手(FC東京)や守田英正選手(川崎フロンターレ)をはじめ、日本代表経験者も多い。

そんな流経大は本作品『U-31』に協力としてクレジットされています。
役者さんたちは実際に流経大サッカー部の練習に参加して、サッカーの特訓に励みました。

あまりボールを映さず、「動く」シーンにフォーカスすることでリアルさを出している点は上で書きましたが、映画中盤ではピッチ全体を映したゲーム形式練習のシーンが出てきました。引きの画なので誰が誰かはよくわかりません。
おそらくプレーしているのは流経大の選手たちです。

練習着とビブスを着た「ジェム千葉」の選手たちは、ワンタッチでパンパンとボールを狭い局面で繋ぎます。

明らかに玄人(くろうと)です。
最終ラインの選手のボールの持ち方を見ただけでも明らかに玄人です。

結果、このシーンは左サイドから上がった山なりのボールに、走りこんできた選手がスライディングで合わせて(!)ゴールを決めるという形で終わります。異常にレベルが高い。
ちなみに廣瀬さんや松浦さんのシュート練習のシーンも、最後はクロスボールに中の選手がドンピシャのヘディングで合わせて終わります。

超絶に気持ちいいゴールでシーンが終わるこの爽快感。

僕がサッカーをやっていた当時、シュート練習で「綺麗な形」のシュートが決まると盛り上がったり、その一本で練習が「上がり」(終了)になることが多かったんですが、サッカーをやっていた方は同じような経験がないでしょうか?

『U-31』で用いられている練習中のファインゴールは、場面の気持ち良い切り替えと、サッカー好きを驚嘆させるクオリティの2つを合わせ持っていました。

⑪プレー面以外も細部まで凄い

最後にプレー面以外でサッカー愛を感じたシーンをいくつか紹介します。

まずは練習中のものから。

サイドステップを踏みながら両手を頭上に動かすウォーミングアップや、体幹トレーニングなど、実際にサッカーチームの練習で取り入れられているメニューが『U-31』では出てきます。

練習の指示を出すコーチの掛け声や、シュート練習で飛び交う掛け声も非常にリアルです。
主演の馬場さんがスパイクを脱いで(靴下で)ジョグをしているのも、練習風景あるあるですね。

 

続いて試合前のロッカールームのシーンについて。

試合前のロッカールームって緊張感が極限まで高まった、トゲトゲしくて神聖な場です。

ジェム千葉の選手たちはスパイクのヒモを念入りに結んだり靴下のシワを伸ばしたり足首をグリグリとマッサージしたりゲームパンツを腰のところで何度も上げ下げして微調整したりしています。無言です。

お前らどんだけ靴ヒモ結ぶの時間かかるんだよ!って思うかもしれませんが、これって試合前に集中する凄く大切な時間なんですよね。

 

そして谷監督のこだわりを一番感じたのは、クラブハウスでスパイクを磨きながら会話する選手たちのシーンです。何回か出てきます。

練習後のコミュニケーションを表すシーンはいくつか選択肢があったはずです。
マッサージもそうだし、シャワーを浴びた後とかも場面としては適切です。

その中で(想像ですが)あえてスパイクを磨くシーンを繰り返した理由。もちろん原作にそのシーンがあるというのも大きいですが、この「スパイク磨き」には監督なりのメッセージが込められていたのではないでしょうか。

言うまでもなく、スパイクはサッカー選手にとって最も大切な商売道具です。




最後に

サッカー好きが「わかる」部分について長々と書いてきましたが、この記事で触れなかったストーリー面については、本編をご覧になって泥臭いガチっぷりを確かめてみていただけると幸いです。

正直、4年前に劇場で観ればよかったと後悔しました。
と同時に30歳を超えた今、この映画に出会えて幸せだとも思えます。

夢にしがみついてもがく姿や、キャリアの下り坂に差し掛かって訪れる不安、ジレンマ。
それはきっとサッカーが好きな人だけでなく、色んな人にとって身近なテーマだと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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