映画『星ガ丘ワンダーランド』ネタバレ感想〜映像美と中村倫也を愛でよう〜

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こんにちは。織田です。

2015年の映画『星ガ丘ワンダーランド』を鑑賞しました。
CMディレクターとして名声を得ている柳沢翔監督の映画デビュー作品で、田舎町の「星ガ丘」という駅で駅員を務める主人公を中村倫也が演じています。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



『星ガ丘ワンダーランド』のスタッフ、キャスト

監督:柳沢翔
脚本:柳沢翔、前田こうこ
瀬生温人:中村倫也
瀬生哲人:新井浩文
清川爽子:木村佳乃
瀬生藤二:松重豊
清川七海:佐々木希
清川雄哉:菅田将暉
大林津奈子:
楠仁吾:市原隼人

あらすじ紹介

温人(中村倫也)が勤務する星ガ丘駅落とし物預かり所には、落とし物を捜す人々が次々にやって来る。彼は持ち主の顔や、どのようにして落とし物がここに届けられたのかといったことを想像する日々を送っていた。ある日、20年前に自分を捨てた母が自ら命を断ったことを知り、自身も知らなかった過去が判明し……。

出典:シネマトゥデイ

オリジナル脚本の本作品。
幼い頃に主人公・温人(はると・中村倫也)たちの家族を捨てたお母さん(木村佳乃)が、自殺したという知らせが届きます。母の再婚相手の連れ子(佐々木希)、母と再婚相手の子供(菅田将暉)らと関わり合いながら、母の過去に温人が想いを馳せる姿を描いていました。

出ている役者さんも魅力的で、ストーリーの事前情報を入れずに観てみました。
ただ、個人的には評価し難い映画でした。理由を探っていきましょう。

※ネタバレあります。未見の方はご注意ください



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

サスペンスにしては物足りない

自分たちを捨てた母親が、廃業となった遊園地「星ガ丘ワンダーランド」の観覧車から飛び降り自殺をしたというのが本作の転換点。自殺なのか他殺なのか事故なのかがキーポイント、のはずなのですが、あらすじを軽く読んでいないとここのキーポイントがわかりづらいのが難点です。

セリフが少なく、温人(中村倫也)のモノローグで補完されるわけでもありません。
母に捨てられた子供の頃の回想から始まりますが、シーンの描写がぼやっとしていて説明がないので状況がよく飲み込めません。

温人が母と過ごした在りし日を振り返る回想シーンを織り交ぜることで少しずつ状況の輪郭はつかめてくるものの、伏線の回収やミスリードというよりも新しい事実を後出ししてくる形。
押し付けられている感が否めず、こちらが予想したり推理する楽しさというものは、ほとんどありませんでした。

警察権力は必要だったのか

本当に自殺なのか疑っていた刑事の大林(杏)が唯一、視聴者の代弁者として事件に立ち向かってくれるのかなと思ったのも束の間。彼女と温人との絡みもあまりなく、果たして警察権力を描く必要があったのかさえ疑問に思いました。

最後に明らかになった、母親の転落の理由は最悪でした。
そもそも「どこから落ちたのか」は遺体発見状況でわかるだろうし、当事者である子供たちの弁明も何だかなぁという感じ。

基本的に、子供は可愛いから全て善であるというような固定観念があった気がしてなりません。子供たちのお母さんはどんな心境だったのでしょうか。

結局何を撮りたかったのか

物語前半。
駅員の温人は、落とし物の受付を通じて色々な人と触れ合っていきます。
温人というキャラクターを最も表す業務ですが、ここで関わった人たちは、七海(佐々木希)をのぞいて後半部分に絡んできません。

正直言って、市原隼人の無駄遣いにもほどがあります。
彼と温人の最後の会話が、温人の謎なブチギレで終わったのは本当に残念。そもそもあの日、温人が彼のところへ行く必要があったのか。
ただ鬱憤を晴らしたいだけのように見えました。

温人に初めてできた友人ぽいですが、長い尺を割いて市原隼人を出す必要があったのかは疑問です。
これは温人と市原が関わるきっかけとなった、ビニール傘を失くしたおばさんについても同様。見つけた傘をさしながら、早朝の小道をルンルンで歩く温人を撮りたいだけだったのでは?

遺失物を見て生き様に想いを馳せながら、落とし主の似顔絵を描く温人は魅力的な特徴を持っています。
でも、この個性は作品の展開にマッチしていませんでした。

温人の日常描写が続く

物語中盤まではひたすら温人の日常を追う展開です。
彼が朝起きて出勤して、帰宅するまでどんな生活をしているのかはよくわかりますし、優しい人間であることも絵が上手なこともわかりました。
ただし、その彼のキャラクター描写、そして背景(特に風景)に割いた時間と手間が物語の本筋につながっていたのかと考えると疑問が残ります。

新井浩文が演じた兄と、温人が疎遠になったこともわかりづらい。この兄弟の関係性、互いに対して抱いている思いも、ストーリーからは読み取ることが難しいように感じます。

母が新しい家族として向かった佐々木希と菅田将暉の家庭環境も、意味深ではあるものの特に作品に影響を及ぼすことはありませんでした。監督なりのアナザーストーリーがきっと温人にも哲人(新井浩文)にも七海にも雄哉(菅田将暉)にもあったのでしょうが、受け手側にはそれが降りてきませんでした。僕の感じ方が弱いのかもしれませんが。

映える素材を生かす技術が見事

一方で、この作品の良かった部分はやはり映像技術の美しさに尽きます。

暗闇のシーンが多すぎるという前置きはさせていただきますが、「画」としての美しさはさすがという他ありません。
星ガ丘駅の駅舎は、小湊鉄道の月崎駅。最も「映える」駅の一つであろう素材を、しっかりと生かしきったのは見事でした。線路に板を敷いてタップダンスを踊るおじさんや、駅でひなたぼっこをする猫。映え以外の何物でもありません。

なお舞台となった遊園地は桐生が岡遊園地、雪道のシーンは山形県最上町で撮影されたそうです。

温人を下の名前で呼ぶ、同僚の駅員さんも印象に残りました。温人をお酒に誘い、丁重に断られるおじさん。悲しいな。
この同僚さんは不器用だけど、いつも温人のことを思いやっていました。こんな先輩がいたらなんと心強いことか。

基本的に人物の個性が読みにくかった本作品において、この同僚さんは心があったかくなる素敵なキャラクターだったと思います。

温人の未完成な部分は好印象

人間らしさで言えば、中村倫也の温人も良かったと思います。
雄哉(菅田将暉)、仁吾(市原隼人)に因縁に近い形で喧嘩を売り、母親への独占欲が時々爆発し、兄貴へ懐疑心を募らせる。

この非常に不条理で説明のつかない幼児性は、視聴者のミスリードを誘う一方で、温人が本来持つ優しさとのコントラストを引き立たせました。
未完成の人間が持つ、生々しさみたいなものが温人の描写、そして中村倫也の演技からは伝わってきました。

トータルで見たら冗長な駄作だとは思います。
ただ、作り手の映像美に対するこだわりという点ではハッキリしているので、そこがハマれば楽しめる人もいると思います。

 

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