映画『何者』〜何者と何様は紙一重?〜

2016年の映画『何者』を鑑賞しました。
脚本、監督は『愛の渦』の三浦大輔。朝井リョウの同名小説を原作にしている作品です。
朝井さんが平成生まれの作家として初めて直木賞を受賞した作品としても有名ですね。

就職活動。
僕にとってはもう10年前のことで、原作者、朝井リョウさんも実際に就活をしていたのはその2年後くらいだと思います。

この映画版『何者』では2016年新卒が舞台となっており、朝井さんや僕、また現在就活に取り組んでいる人たちとも少し時代感覚が違うかもしれません。

画一的なスーツに身を包み…(C)2016 映画「何者」製作委員会

主人公の二宮拓人(佐藤健)は、就活真っ只中の大学生。仲良しの光太郎(菅田将暉)とともにルームシェアをして暮らしています。
演劇サークルに所属し、自ら脚本も書いていた拓人の武器は、客観的な分析力と洞察力。
一方で就活本格化の直前ギリギリまでバンドサークルに所属していた光太郎は、ふところに飛び込むような人懐こさが魅力的。

同じく就職戦線を戦う、光太郎の元カノ・瑞月(有村架純)、その友達の理香(二階堂ふみ)、理香の彼氏の隆良(岡田将生)を交えながら、話は進んでいきます。

就職活動をテーマにした本作品ですが、Twitterを取り上げながらSNSであぶり出される就活生の内面も描いています。

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就職活動とは一体?

以前、圧迫面接をフィーチャーした『シュウカツ』という作品を取り上げたことがありました。
就職活動というと、やはり面接の部分が印象的に映るかもしれませんが、実は面接は就活の一部分、それも序盤戦を勝ち抜いた者に与えられる後半戦の一部分でしかないんです。

合同説明会。略してゴーセツとみんな言っていました(C)2016 映画「何者」製作委員会

就活ナビ会社のサイトオープンを合図に就活戦線は幕を開け、企業の採用サイトなどからプレエントリー、広い場所で数社〜数十社が集まりブースなどを出す合同説明会などで情報収集をしつつ、志望業界や企業を探っていきます。

同時に、自分がなぜその会社、業界を志望するのか説明ができるように、自分自身を見つめ直していく「自己分析」や、筆記試験、エントリーシート(ES)の対策も進めていきます。僕の時は「絶対内定」という参考書をみんな持っていましたが、今でもやはりあるんですね。

この履歴書的なESが一次試験のような形、それに筆記試験やウェブテストを絡めて、企業は膨大な志願者たちをふるいにかけていくわけです。そこを通過して面接が行われる場合がほとんど。
作内では理香(二階堂ふみ)がESに手こずっているという描写がありましたが、頭の良さや見栄えの良い経歴に頼らないテクニックもESには求められるはずです。

ウェブテストは時間制限がある一方で、監視下にないため答えを探したり教えてもらったりということも可能です。拓人(佐藤健)が光太郎(菅田将暉)の計算問題を半分やってあげて「これも就活のテクニックだ」と言っていたのは僕らの頃と変わりませんでした。

就活本格化ギリギリまで髪を染めてバンドをやっていた光太郎(C)2016 映画「何者」製作委員会

就活は準備段階がとても大事とはよく言われていて、実際の選考が始まる前にインターンシップやOB/OG訪問をする学生も数多くいます。

ここでも当てはまるのが理香。誰々に会ってきて勉強になったと得意げに語る彼女は、就活への意識が高い学生として描かれています。光太郎の引退ライブにスーツで訪れていた拓人と瑞月(有村架純)も決して低くはないでしょう。

そんな彼らが、スタートダッシュで差をつけたはずの光太郎が、トントン拍子に選考を突破し、先に内定をもらう。これもまた運と実力と適性によって起こりうる逆転です。
就職した今となっては、内定の順番に一番も逆転も先を越されたのもないのはよくわかるんですが、やっぱり当事者は焦るんです。自分のやり方に間違いがあったのかとか、なんであいつが、とか。

充実アピールと痛烈批判と

『何者』では登場人物のツイートを頻繁に引用しながら、そのキャラクターの就活の進捗状況を補強していきます。
象徴的なのは拓人、理香、隆良(岡田将生)の3人。いずれも自己顕示欲の高い3人です。

拓人は就活とはこう戦うべきだ、大事なのはここだ、というように就活のノウハウのような分析型のツイートを多めに投稿します。
彼が大学時代に精を出した演劇サークルでの脚本家としての分析眼に基づいたものです。

分析系のツイートが多い拓人(C)2016 映画「何者」製作委員会

理香の場合は自分ごとに引き寄せたツイートが主で、「今日は何々で刺激を受けた」「これをやった私頑張っているよね」的な投稿。
理香の彼氏である隆良は、企業への就活が当たり前になっている社会の風潮に一石を投じるなど、他のみんなとは違う道を自分は歩んでいきたいと自己表現します。

理香と隆良の暮らす部屋を就活対策本部として拠りどころに(C)2016 映画「何者」製作委員会

理香と隆良のTwitterは都合の悪いことや弱音などは出さずに、キラキラとした耳当たりの良い理想論に見えてしまいます。
そして、それに気づいた拓人は彼のサブアカウントで2人を冷静に切り捨てます。心の中では嘲笑と、自分は彼女らとは違うという自信を持って。

現実見ろよ。綺麗事並べて気取ってんじゃねえよ。

5人で話している時すら、拓人は、理香は、隆良はTwitterアプリを開き、投稿する(C)2016 映画「何者」製作委員会

この作品が面白いのは、拓人がサブアカウントで他者を見下していることが理香にバレるところ。

理香が(おそらく隆良も)不安に押しつぶされそうな自身をなんとか支えるために、“充実しています”アピールを安定剤代わりに投稿することと同じように、拓人も自分が間違っていないことを“誰かを批判すること”によって確認できる風刺的なツイートを投稿します。

また、先んじて内定を得た瑞月の内定先の風評を理香が、光太郎の内定先の風評を拓人が、それぞれこっそりと検索していることも明らかになります。「評判」ではなくて「風評」です。悪い情報があるという前提での検索です。

しんどいのは自分だけじゃない。
あの人の成功は、成功じゃないかもしれない。
自分は間違っていない。

極端にいうと他人(に降りかかるであろう)の不幸をエネルギーに変える、自尊心をつなぎとめるセルフマウンティングですね。

まくし立てる二階堂ふみは本作一番の見所(C)2016 映画「何者」製作委員会

光太郎と瑞月は、理香と隆良に向ける拓人の見下した目線に、本当は気づいていたのかもしれません。
それでも「拓人得意の分析!」と笑って聞いていたのは、2人が優しいのと、そういう人が企業から選ばれるということを意味している気がします。

あなたは彼らのTwitterを笑えますか?

『何者』については、僕は原作小説を映画化前に読んでいて、実は劇場で公開された段階で観ていました。
ただ演劇のシーンの強さがどうも邪魔をして、原作から受けた何とも言えない印象を感じることができませんでした。正直言って、あまり好きな作品ではありませんでした。

今回、思い立ってもう一度原作を読み、映画を観てみました。
そして、原作で味わった感想の意味がわかりました。

それは「他者批判、自己肯定の快感」と「それがマウンティングであることに気づいた時の恐ろしさ」です。

理香という自己顕示欲の強いキャラクターをしっかり受け止めてあげましょう(C)2016 映画「何者」製作委員会

最初に原作小説を読んだ時、僕は理香というキャラクターを嫌だなコイツという目で見ていました。
拓人ほどに彼女の粗を探して批判しようとも思いませんでしたが、彼の理香についてのツイートに同意の「いいね」でも押す感覚です。
むしろ(世間の荒波から逃げて)枠にハメられたくないと粋がっている隆良に対して、かなり近い考えを持っていました。別にもう終身雇用でもないんだし、みんな一斉に就活シュウカツって気持ち悪いよねって。

だから理香から拓人が反撃を受けた時、単純に「サブ垢バレるってこえーなぁ」くらいにしか思いませんでした。うるさい女が主人公の男をごちゃごちゃやり込めてるな、程度でした。

一旦論破を始めると止められない拓人(C)2016 映画「何者」製作委員会

今回もう一度読んでみて、映画を観て驚いたのは、自分が圧倒的に拓人の傍観的・一般的批判をする立場にシンパシーを感じてしまったことです。

あらゆる事象に対して答えを用意し、粗を探しながら批判を完成させて自分の正しさを構築していく拓人を、正しいと思ってしまう自分がいました。
そして理香にブーメランだと指摘された時に、泣きたいくらいに恥ずかしくなりました。

僕はサッカーが好きなので、様々なサッカーにおける事象の「是非」をTwitterで発信してきました。片方を下げて、もう一方を肯定する。
僕の他にもきっとしたことがある人はいるでしょう。ヤフーニュースのコメント欄も9割方がその類です。

でも、傍観を装って是非を判断し、主観(自分自身)がマウントを取っているだけということに気づいた時に、どう思うでしょうか。
他者をこき下ろしてまで、誇示する必要のある正義でしょうか。

それでも間違っているものは指摘しないと許せないんだ!という人はそれでもいいんだと思います。
ただし、そこにマウント合戦を必要としない人にとっては「何様」という目で見られることもあるはずです。

1年生の時から、人の揚げ足をナチュラルにとっていた拓人(C)2016 映画「何者」製作委員会

一見安全なところ(Twitter)から、一般論を盾にして振りかざす批判。それがどれくらいの傷や憎悪のエネルギーを、相手に植え付けているのかがよくわかる映画だと思います。

常に自分の考えや感情などをTwitterにつぶやいている人は、ドキッとするところがあるのでは。
SNSのリテラシー教材で使ってほしいレベル。

余談ですが、大学生役の有村架純が最高に天使なので好きな人はぜひ。
また、菅田将暉の演技の上手さが群を抜いています。声だけで感情を表現できているところも、彼の稀有な能力を再確認させていただきました。

★★★☆☆。

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