映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』ネタバレ感想|おいしい大阪と割を食う神戸

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こんにちは。織田です。

埼玉をディスりにディスった「空前絶後のディスり合戦開幕!」から4年あまり。
『翔んで埼玉』が帰ってきました。

▽前回の感想記事はこちら▽

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映画『翔んで埼玉』ネタバレ感想〜あなたの都会指数は?〜

2019年3月14日

今回はタイトル『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』の通り滋賀県など近畿がメイン。
埼玉をはじめとした関東の話だった前作とは舞台の比重が少し異なります。

本記事では下記の点から映画の感想を書いていきます。よろしければお付き合いください。

  • 滋賀県の扱い
  • 美味しい役どころは?
  • 埼玉への不変の愛

私自身関西に縁が薄いのもあって拾えない小ネタも多々あったとは思うんですが、相変わらずくだらないことを大真面目にやっている麗たちに笑いました。

感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



あらすじ紹介

かつて東京都民から迫害されていた埼玉県民は自由を求めて立ち上がり、麻実麗(GACKT)や壇ノ浦百美(二階堂ふみ)をはじめとする埼玉解放戦線の奮闘によって通行手形制度が廃止される。こうして埼玉は平和な日常を手に入れたはずだったが、さらなる自由と平和を求め、そして再び埼玉の心を一つにするため、埼玉解放戦線は次なる野望を実現させようとしていた。やがて関西にも及んだこの事態は日本を東西に分かち、全国を巻き込む大騒動へと発展する。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督 武内英樹
原作 魔夜峰央
脚本 徳永友一
麻実麗 GACKT
壇ノ浦百美 二階堂ふみ
嘉祥寺晃 片岡愛之助
神戸市長 藤原紀香
京都市長 川﨑麻世
滋賀解放戦線
桔梗魁
近江美湖 堀田真由
近江晴樹 くっきー!(野生爆弾)
滋賀のジャンヌダルク 高橋メアリージュン
埼玉解放戦線
下川信男 加藤諒
おかよ 益若つばさ
大宮支部長 矢柴俊博
浦和支部長 西郷豊
与野支部長 水野智則
深谷支部長 廻飛呂男
川口支部長 沖田裕樹
上尾支部長 佐野泰臣
川越支部長 川口直人
熊谷支部長 西岡ゆん
埼玉の路線族
埼京線代表 山中崇史
京浜東北線代表 ゴルゴ松本
西武新宿線代表 杉山裕之
西武池袋線代表 谷田部俊
東武東上線代表 デビット伊東
東武伊勢崎線代表 はなわ
現代パートの埼玉県人
若月依希 朝日奈央
依希の母 和久井映見
依希の父 アキラ100%

※赤字の名前は同県出身

前回以上に埼玉で固めてきた印象もありますね(笑)。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



滋賀県の扱い

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

滋賀県の画像

滋賀県。県土の約6分の1を琵琶湖が占めるとのことです

今回、抑圧からの解放を求めて戦うメインどころとなるのは滋賀県です。

滋賀を象徴する固有名詞としては、飛び出し注意のために設置された「とび太くん」、たくあんをマヨネーズであえた「サラダパン」、スーパーマーケットの「平和堂」などが登場。晴樹(くっきー!)と美湖(堀田真由)の“近江きょうだい”に関しては「メンターム」で有名な企業を連想させます。

また、滋賀解放戦線のリーダー・桔梗(杏)のキャラクターも“滋賀のオスカル”の異名通り印象的なものでした。前作で百美(二階堂ふみ)が担っていた麻実麗(GACKT)へのアプローチも含め、彼の言葉で物語を進行させる重責を全うしています。

なぜ滋賀なのか

前作の主役は、東京(&コバンザメ状態の神奈川)からの差別を受け、千葉との熾烈な抗争状態に身を置く埼玉。ださいたま、くさいたま、辛気くさいたま…と様々な罵倒を受け続けます。ポスターで百美が掲げる旗には「何も無いけどいい所!」と書かれていました。

今回の舞台・滋賀もその存在感が希薄だとして迫害を受ける側になる訳ですが、「何も無い」とはちょっと違います。何も無い、の前には「琵琶湖以外」という前置きがつくはずで、日本一大きな湖があるがゆえに「琵琶湖しかない」という扱いを受けます。

滋賀は京阪へのアクセスが良好でベッドタウンとして定着しているのも埼玉と似ている部分。
人口増減率も2022年のデータ(※)では全国5位の数字(1位が東京、以下2位沖縄、3位神奈川)で、近畿地方ではトップの数字になっています。埼玉は一つ上の4位なので、この点も大都市圏に近接した内陸県同士で似ています。

※参考資料:総務省 人口推計

日本全体が圧倒的に減少傾向の中、すごい数字です!

決して田舎ではないのですが、大阪、京都、神戸(兵庫)という強烈な個がある以上、滋賀、さらに奈良と和歌山は近畿において弱者扱いされています。
ゲジゲジや滋賀作などといった悪口はもちろん、現代パートでNACK5を聴くお母さん(滋賀にルーツあり)が「和歌山でさえ出てきたのよ!」と言っていたのも印象的でした。

ちなみに“三重は近畿地方を脱退して中部地方へと移った”という話題が出ていましたが、7地方区分(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州)だと、現在も三重は近畿地方に含まれています。
ただ、静岡、愛知、岐阜と同じ東海地方として括られることが多く、三重県北部は名古屋圏と密接に結びついているため、中部地方としてとらえる機関もあるそうです。

※参考資料:帝国書院 三重県は近畿地方なのですか。

GRANDE滋賀

不当なディスを受け続ける県人たち──とはいえ、今回の舞台は滋賀です。
滋賀のオスカルのもと、県人たちは立ち上がります。

1500万人近くの生活を支える“近畿の水がめ”を有する彼らは、「琵琶湖の水を止める」という選択に出ました。
大阪府、京都市、神戸市で使われる水はそのほとんどを琵琶湖から引いてきており、京阪神にとって文字通りの死活問題となります。

一方で琵琶湖の水を外に流さないということは、琵琶湖が洪水となるリスクをはらんでいます。
国土交通省近畿地方整備局による「琵琶湖の洪水の歴史」を読むと過去にも大規模な洪水が起きていたことがわかり、本作品の“水没”も誇張にはみえません。

大きな犠牲を払ってまで戦い抜き、守りたいものがある。
前作の埼玉に比べると滋賀の戦いはスケールの大きなものに感じました。あんまり“馬鹿馬鹿しさ”がないんですよね(笑)

大いなる琵琶湖、グランデ滋賀。
とび太の献身と湖岸地域の浸水を引き換えに勝ち得た誇り。滋賀は紛れもなく本作品の主人公でした。

なお私がこの映画で一番笑ったのはシーンのテイストが急に変わった鳥人間の場面です!

美味しい役どころ

本作品の主人公は滋賀でした。

一方で、今回一番インパクトを放ったのはやはり大阪ではないでしょうか?

大阪の画像

出典:djedjによるPixabayからの画像

前作の東京は埼玉や千葉を見下すヒエラルキー強者としての側面が強かったですが、本作品の大阪は強者側であることをアピールする個性の圧が凄い。その中でも特に執念を感じたのが“白い粉”“某在阪球団”です。

白い粉と某球団

まずは白い粉について。
これはたこ焼きやお好み焼き、串カツなど大阪のグルメを支える小麦粉のことです。しかし、この粉の存在感は単なる原材料にとどまらず、たこ焼きなどを食べた人に常習性、依存性をもたらす魅力があることが示唆されています。

食べた者は言葉遣いをはじめとして大阪人のように振る舞う症状に陥ってしまうため、いわば洗脳の一種でしょう。最初の登場時から“白い粉”として麻薬的な扱いをされ続けていました。しかもその製造は一般人の知らない地下で、労働者が身を粉にして働く地下で行われています。まさに秘密兵器。

府知事の嘉祥寺(片岡愛之助)がこの粉を世界大阪化計画につなげようとしたのも当然でしょう。

某球団──ご存知の通り阪神タイガースですが──のインパクトについても同様です。

大阪戦線のキーカラーは黄色と黒、あるいは黒と白のタテジマ。至る所でタイガースカラーの隊員(?)がサングラスの中から睨みをきかせ、不穏な動きを見せるものをつまみ出そうとしています。楯突く者が処分されるのは前作と同じ。処刑場としてタイガースの本拠地でもある“甲子園”が使用されています。

これの何が凄いって、阪神タイガースと甲子園球場を「大阪の所有」と言えるところだと思うんですよね。
先述の阪神カラーの隊員はもちろん、兵庫県西宮市にある甲子園球場を庭のように使い、さらには「府民じゃないくせに阪神を応援して道頓堀に…」というファンへの処罰も描かれています。

ことし阪神が優勝したことでタイミングも良かったですねw

大阪に根付く阪神タイガースという文化。映画内の描写に私たちも疑問を持たないことから、その文化の持つ濃さはうかがいしれます。
阪神という存在が(いまや強豪となった)オリックス・バファローズや、セレッソ大阪、ガンバ大阪に置き替わることもありません。残念ながら。

甲子園

嘉祥寺が庭のように扱う甲子園も印象的でした。

甲子園というと阪神タイガースの本拠地であり、高校野球の全国大会が行われる球場ですが、その文脈も踏まえた上で大阪の要塞として存在感が際立ちます。

全国大会には白鵬堂学院も東京代表として出場。大阪代表・西成に35-0(記憶違いでしたらすみません)という大差で敗れ、涙ながらに甲子園の“砂”を持ち帰ります。なお冒頭の埼玉ビーチ計画から一貫して、この映画は「砂」へのこだわりをみせていました。

グラウンドで球児が正々堂々の勝負を繰り広げる一方、地下にあるのは作業エリア。某工場のパロディや、●の名は。をもじった看板を執念深く刷り込んでくるここでは、上で紹介した“白い粉”がせっせと作られています。
本家の甲子園歴史館にインスパイアされたであろう手書きスコアボードには阪神、巨人の往年の選手の名前が描かれています。「殿馬」もありましたよね?

手書き時代のスコアボード
こちらのwithnewsさんの記事が面白いので野球好きな方はぜひ!
「甲子園文字」地味にスゴイ伝統芸 職員泣かせ「伝説の難読校名」

負けへんで大阪

本作において、大阪の扱われ方は圧倒的勝ち組だと思います。

粉もんをはじめとした文字通り“美味しい”グルメの街としての性格、甲子園や阪神といった野球の文脈、“白い粉”にも付随するコミュニケーションの様式美、さらには“阪流ブーム”と銘打たれたトレンドの発信(大阪出身の北村一輝さんが全部主演なことに笑いましたw)──。

私は大阪に詳しくないので梅田のダンジョンやだんじり云々くらいしか拾えなかったんですが、地元ならではの小ネタもたくさんあったでしょう。
前作の東京と同じく支配的な立場のヒールでしたが、今回の大阪は「自分たちがいかに魅力的か」(偉いか)をゴリゴリに出してくるので、ある意味主人公的な扱いに見えました。

一方で、京都神戸の場合は前作の神奈川的なポジション、強い奴の腰巾着的な要素が強かったのではないでしょうか。

「洛中」の差別や、建前と本音の翻訳シーン(あれって本当にあるんですかね…?)が出てきた京都はまだしも、神戸(兵庫)はお高くとまってる印象しかなくて、一番割を食ってるポジションに見えます。活気づいたのは郷土出身有名人比べの場面くらいでしょう。

奈良和歌山も「滋賀と同等の迫害を受けている」程度の描写にとどまりますが、やはり決戦の舞台で繰り出した有名人自慢対決、そしてそこに至る前の決起集会が強烈でした。

お前たちはこれだけ迫害されてきたじゃないか!今こそ立ち上がるんだ!みたいなやつです(笑)

ありとあらゆる悪口を散々言われてましたけど、よく笑わないで演じられるなと感嘆しました。



埼玉への不変の愛

最後に本作『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』における埼玉の描写についての印象をお話しします。

今回は麻実麗(GACKT)たち解放戦線の面々が白い砂を求めて関西へ赴きました。
よって埼玉県内での話題は、都市間を東西で繋ぐ武蔵野線構想と埼玉悲願のビーチとなるしらこばと水上公園、また埼玉が誇る“秘密基地”的存在、そして現代パートの県内市町村対抗・綱引き大会に限定されました。

今回の主役的存在は滋賀と大阪です。

安定と安心の埼玉ディス

とはいえ、とはいえです。
話題が埼玉に移った途端、やはりこの映画はより活き活きとしはじめます。水を得た魚のように。

東武東上線と西武線が清瀬、秋津、成増、赤塚…と都下の駅で争い、百美(二階堂ふみ)が白目を剥く路線族の抗争もそうですし、綱引き大会ではラグビー集団の熊谷、相撲部屋がある川口を“あついぞ!熊谷”のキーワードの下に葬り去ります。

街単位ではなく県単位の「埼玉」として扱われる関西パートでも、埼玉解放戦線の面々は都道府県魅力度ランキング アンダー40’sというカテゴリーに入れられて足蹴にされます。というか、埼玉だと製作側が安心して蹴っている印象すら受けます。

映画内同様、2023年10月に発表されたランキングでも埼玉は45位でした(参考資料

さいたまダービー

綱引き大会は浦和大宮による決勝戦に。
埼玉県知事(村田雄浩)をはじめとした上層部が危惧していた通りの、因縁バチバチのカードになってしまいました。

この「浦和vs大宮」も公開前からわりと煽られた構図。
浦和が赤、大宮がオレンジというのは、Jリーグの浦和レッズと大宮アルディージャを投影したものであるのは明らかですが、浦和側はレッズの応援番組『REDS TV GGR』で司会を務める水内猛さんが、大宮側はアルディージャのクラブアンバサダーを務める塚本泰史さんが出演しています。
(※水内さん、塚本さんの情報は2023年12月時点のもの)

浦和レッズも大宮アルディージャも、特に今年の秋あたりは特に厳しい時期を過ごしたんですよね。

レッズは11月にYBCルヴァンカップの決勝で敗れ、優勝の可能性が残っていたリーグ戦でも望みを絶たれ、12月にはACLでもグループステージ敗退の憂き目にあってしまいました。

アルディージャはもっと悲惨で、J2からJ3への降格が決定。2024年の浦和(J1)と大宮(J3)は2つ違うカテゴリーで戦うことになり、「さいたまダービー」の色はどんどん薄れつつあります。そんな中で浦和vs大宮の対決構図が見られるのは貴重だと思いますし、作り手側も結構ノリノリで描いていたのではないでしょうか?

そこにあるのは埼玉をこき下ろしてもいいという埼玉への信頼であり、また「愛」であると思います。
この映画の副題は「琵琶湖より愛をこめて」。埼玉にはその通りの「愛」が注がれていました。くだらないことを大真面目にやる──前作同様、圧倒的な茶番劇は健在。その埼玉自虐は麻薬的ですらあります。

千葉への信頼

埼玉にとってのライバル・千葉についても少し触れさせてください。

私個人の話を失礼すると、東京都民(白鵬堂学院ではおそらくC組)だった前作公開時から4年を経て、現在は千葉県で生活しています。
なので今回は少し千葉贔屓の目線で鑑賞させていただきました。

本作品において、千葉の出番は決して多くありません。
浜野さざえ浜野あわびの二人が大出世を果たしているものの、嘉祥寺(片岡愛之助)には「塩っぱい女やった」と片付けられる始末です。

ただ、麗が「阿久津はどうした?」と問うたシーンは(浜野のリアクション含めて)最高のエンターテインメントだと思いますし、最終盤では某・夢の国が武蔵野線開通の副産物として挙げられていました。

この千葉に対するアプローチも、埼玉ほどではないにせよ製作陣の信頼を感じさせるものでした。和歌山の白浜から砂を輸入しようという契機になった「千葉の(海の)砂は黒いぞ」も笑えます。

ちなみに今回鑑賞した映画館は舞浜のシネマイクスピアリ。帰りは武蔵野線で西船橋まで出たので、映画のストーリー同様に開通の意味を感じられる鑑賞体験でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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