映画『彼女の人生は間違いじゃない』ネタバレ感想〜震災後のリアルがここに〜

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こんにちは。織田です。

2020年3月に、『Fukushima 50(Fifty)』が公開されます。

2011年3月に発生した東日本大震災に伴う、福島第一原子力発電所の事故。
あの時に現場で奮闘した人々を描いたヒューマンドラマで、佐藤浩市、渡辺謙を主演に起用した作品です。

ある種アンタッチャブルなものとされてきた原発事故を扱う映画として注目されていますが、今回は同じく震災後の福島をテーマにした映画をご紹介したいと思います。

2017年公開の『彼女の人生は間違いじゃない』
廣木隆一監督、主演は瀧内公美が務めています。



『彼女の人生は間違いじゃない』のスタッフ、キャスト

監督・原作:廣木隆一
脚本:加藤正人
金沢みゆき:瀧内公美
金沢修:光石研
三浦秀明:高良健吾
新田勇人:柄本時生
山本健太:篠原篤
山崎沙緒里:蓮佛美沙子
新潟から来たデリヘル嬢:趣里

後述しますが、廣木隆一監督の『さよなら歌舞伎町』(2015年)は本作品と同じような設定がいくつかあります。
また、東京のデリヘル店長・三浦を演じた高良健吾は2019年公開の『アンダー・ユア・ベッド』で福島のいわき市でロケを行なっています。

あらすじ紹介

東日本大震災からおよそ5年がたった福島県いわき市。市役所に勤めている金沢みゆき(瀧内公美)は、週末になると仮設住宅で一緒に暮らす父親・修(光石研)に英会話教室に通うとうそをつき、高速バスで東京へ行き渋谷でデリヘル嬢として働いていた。ある日、元恋人の山本(篠原篤)からやり直したいと迫られるが、別れる原因にもなった震災で死んだ母をめぐる彼の言葉を思い出してしまう。

出典:シネマトゥデイ

福島をテーマにした映画

この作品は福島県いわき市を舞台にして作られています。
福島県最大の人口を持つ沿岸部南部の都市ですが、原発事故のあった相双地区同様、震災以降は人口が減少している都市でもあります。

2020年3月公開の『Fukushima 50』が原発内部の人々の姿を描いたものであるのに対し、こちらの『彼女の人生は間違いじゃない』は原発事故が起きた後の市民の生活を映したものです。

津波で被害を受けた町の様子。
仮設住宅での暮らし。
原発事故の余波(放射線量)によって、人が住めなくなってしまった土地の描写。

3.11以降、いわきの人々が直面した現実が、「5年後」という設定の中で淡々と描かれていました。
東日本大震災を経験した日本人としては、観ておいて損がない映画だと思います。特にラストシーンの手持ちカメラによる撮影は必見。

福島をテーマにした作品としては、園子温監督の『希望の国』という作品もおすすめです。
こちらは震災直後、原発事故の影響にもっと特化している映画ですね。興味のある方はぜひご覧ください。

合わせて観たい映画

廣木隆一監督は2015年に『さよなら歌舞伎町』(染谷将太らが出演)という作品でメガホンを取っています。

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映画『さよなら歌舞伎町』ネタバレ感想〜あなたは誰に共感できますか?〜

2019年9月29日

実は『さよなら歌舞伎町』と『彼女の人生は間違いじゃない』はかなり共通点が多く、セットで観ていただくとより楽しめるかと思います。

被災地から東京にアルバイトへ

まず共通点としてあげられるのが、東日本大震災の被災地から東京へ高速バスでやって来てデリヘルでアルバイトをする女性の描写です。

『さよなら歌舞伎町』では主人公(染谷将太)の妹である美優(樋井明日香)が、『彼女の人生は間違いじゃない』では主人公のみゆき(瀧内公美)が、JRの高速バスに乗って東京へやって来て、風俗店で週末にアルバイトをしています。

『さよなら歌舞伎町』では主人公にまつわる一つのエピソードという程度の書き方でしたが、『彼女の人生は間違いじゃない』では作品の根幹部分として描かれています。

美優は宮城県の塩釜から、みゆきはいわきからという違いはもちろんありますが、震災後にこのような形で東京へやって来る女性がいたという描写は、互いがアナザーストーリーとして機能しているようにも見えます。

デリヘルで働いていて遭遇する危ない客とのやり取りや、そこで用心棒(風俗店店長)が助けに来るというシーンも似通っています。

また、『さよなら歌舞伎町』では美優の口から語られるに過ぎなかった震災後の被害も、本作品ではメインで描かれていました。

工場が流されてしまっただとか、除染作業だとか。当然ながら原発関連の話も盛り込まれています。

興味のある方は是非、『さよなら歌舞伎町』も合わせてご覧になっていただきたいと思います。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

仮設住宅の現実

この作品では家を震災で失い、仮設住宅に暮らす主人公のみゆき(瀧内公美)修(光石研)新田勇人(柄本時生)たちが物語のメインを担っていました。

みゆきたちの金沢家があった地域は土壌汚染によって立入禁止区域となってしまったため、保証金を受け取って平屋の仮設住宅に住んでいます。
保証金を受け取れるかどうかというのは差があるようで、詐欺まがいの勧誘をしてきた男(波岡一喜)の言葉からもそれは見て取れました。

詐欺の悪徳商法に引っかかってしまう人もいれば、精神に問題をきたしてしまう人も、そして修のように生きる気力をなくしてしまう人もこの映画では描かれています。

震災の被害というと地震や津波、また原発事故によるハード面がまず想像されますが、本作では人々の精神的な面をより描き出していた印象を受けました。

柄本時生の演技がすごい

『彼女の人生は間違いじゃない』で個人的に最も良かったのは、市役所でみゆきたちと働いている新田を演じた柄本時生です。

両親が家にほとんどおらず、一人で幼い弟の面倒を見ている新田。彼はこの作品で最も、「被災地」に対する人々の目と向き合っている人間です。

彼の行きつけのスナック(キャバクラ?)にアルバイトとしてやって来た東京の女子大生(小篠恵奈)は、被災地の現状を卒論に書きたいと言って新田から話を聞こうとしました。

カメラマンをやっている山崎(蓮佛美沙子)は被災地の風景を撮りたいと言って、立入禁止区域に入ろうと市役所にやって来ました。

二人に共通するのは、被災地を取材して自分の仕事(または論文)として発表したいということ。
意地悪な言い方をすれば、「被災地」のいわきを見るためにやって来た二人です。

現地民からしたら、自分たちの受けた被害を外から来た人に取り上げられるのは抵抗があることだって当然あります。
「被害を受けてどんな気持ちになりましたか?」なんて答えたくない時もあるはずです。

それでも新田は、彼女たちに丁寧に接し、質問に答えていきました。

家族がバラバラになり、弟は学校でいじめられているかもしれない状況。
そんなことあなたたちに分かるかよ、という言葉を飲み込みながら、彼は自分の境遇を淡々と話していきました。

新田が恐らく色々考えた末に実現した、山崎の写真を使った展示会。
あの写真展で修たち住人が前に進む希望を持てたことは、この作品最大の感動ポイントだと思います。

みゆきを演じた瀧内の体当たり演技もすごかったですが、葛藤を自分の中で消化して気丈に振る舞う柄本時生の演技は一見の価値ありです。
きっと彼のことが好きになります。

最後に詳しい起承転結が知りたい方は、下記MIHOシネマさんの記事がとても詳しいです。
興味がありましたらぜひどうぞ!