映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』ネタバレ感想|葬式ってマジでめんどい

おじいちゃん、死んじゃったって

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は、2017年に公開された森ガキ侑大監督の作品『おじいちゃん、死んじゃったって。』をご紹介します。Amazon プライム・ビデオで鑑賞しました。

岸井ゆきのさんの映画初主演作品。この作品で「第39回ヨコハマ映画祭」の最優秀新人賞を受賞しています。
原作は映画の脚本も担当した山﨑佐保子さんの書籍ですね。

『おじいちゃん、死んじゃったって。』は家族ものの映画において独特の視点を見せてくれる作品です。
おじいちゃんの葬儀をきっかけに、様々な事情を抱えた“家族”たちが久しぶりに顔を合わせ、繋がりを再確認していきます。

死を悼むというよりも祖父の死をきっかけとして「この際だから言うけど…」と本音をぶつけ合う部分を描いています。
普段だったら首を突っ込まないであろうことまで聞く「この際」。そんな「際」が与えられるのも、やはり家族だからなんですよね。




あらすじ紹介

彼氏とのセックスの浅中に祖父の訃報の電話を受けた春野吉子(岸井ゆきの)。そのことにぼんやりとした罪悪感を抱きながらもあわただしく進んでいく葬儀の準備。久しぶりに集まった家族たちもなんだか悲しそうじゃない。

失業を秘密にする父・清二(光石研)、喪主を務める叔父・昭男(岩松了)、その元妻・ふみ江(美保純)とひきこもりの従兄(岡山天音)、高校生の娘・千春(小野花梨)。 地元を離れた独身の叔母・薫(水野美紀)、東京の大学に通う吉子の弟・清太(池本啓太)も駆けつけ、祖母(大方斐沙子)は家族の顔もわからないほどボケている。 葬儀が進むにつれ、それぞれのやっかいな事情が表面化し、親たちの兄弟ゲンカがはじまると、みっともないほどの本音をぶつけ合いはじめる家族たちに、呆れながらも流れに身を任せていた吉子はーー。

出典:公式サイト

映画の予告編はこちら。

青々と広がる田園が印象的な舞台のロケ地は熊本県人吉市。懐かしさの香る原風景が、田舎に“帰ってくる”登場人物たちにノスタルジックに訴えかけていきます。
また、主人公の吉子(岸井ゆきの)が「駅前」の旅行会社で働いているという描写から、駅前に旅行会社の支店がある程度には大きな規模の地方都市ということがうかがえます。

『おじいちゃん、死んじゃったって。』のスタッフ、キャスト

スタッフ、キャスト

監督:森ガキ侑大
原作・脚本:山﨑佐保子
春野吉子:岸井ゆきの
春野清二:光石研
春野京子:赤間麻里子
春野清太:池本啓太
春野昭男:岩松了
野村ふみ江:美保純
野村千春:小野花梨
春野洋平:岡山天音
春野ハル:大方斐紗子
春野功:五歩一豊
春野薫:水野美紀
圭介:松澤匠

おじいちゃん(春野功=五歩一豊)の死を知らされ、葬儀に集まる親族たち。
春野家に関わる人たちの中でほぼ完結する物語なので、余計な脱線をせずに進みます。

登場人物についてはこの後のネタバレのところで詳しく紹介していきます。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

映画の設定や展開に絡めながら、感想に移ります。
春野家の親族でほぼ完結する映画だと書きましたが、登場人物たちが細かいところまでキャラ立ちしていてとても良いです。
ここではおじいちゃんを送る立場となったおっさん二人と、彼らの子供たち4人をキャストと合わせてご紹介していきます。

春野吉子(岸井ゆきの)

岸井ゆきのが演じた吉子。本作品の主人公です。

そんな吉子は駅前の旅行会社で働き、お父さん(光石研)、お母さん(赤間麻里子)との実家暮らし。
彼氏・圭介(松澤匠)とお部屋デートしている最中に電話がかかり、おじいちゃんが亡くなったとの報を受けました。

喫煙者です。自然な煙の吐き方が、煙草を実に美味しそうに見せます。

『愛がなんだ』
『金星』
『前田建設ファンタジー営業部』

などでも印象的な演技を披露している岸井ゆきのさん。
『おじいちゃん、死んじゃったって。』でも岸井さんらしい体温のこもった演技で、魅力的な吉子を演じています。喪服がまた似合うこと似合うこと。

個人的な見どころは、車内で「トシだからな。みんないつかは死ぬからな」と発言した親父に向かって言った「そう言う問題?」というセリフです。言い放った後もルームミラーで親父の顔をじっと見つめ、それからゆっくりと窓の外に流す視線。

本当にそう思ってんの?逃げんなよ。
話さなくとも横顔だけで思いを伝えることができる岸井さんらしい一コマです。

また、お坊さん(菅裕輔)に罪悪感、煩悩を相談するシーンも、吉子の素直な部分と小悪魔的ないたずらっぽさが同居したやりとりでしたね。

家族をテーマにした岸井さんの出演作では『友だちのパパが好き』という映画もおすすめです。
倫理的にかなり胸くそなテーマですが、ダメ親父とのコミュニケーションや信頼できる彼氏との温かい触れ合いも本作と共通するところがあります。

タイトル画像

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2019年12月29日

春野清二(光石研)

吉子、清太(池本啓太)の父親・清二を演じたのは光石研
庭いじりをしているときに、「おじいちゃん、死んじゃったって。」の一報を受けます。
なお会社を早期退職し、失業中。彼の秘密です。

おじいちゃんの死、葬儀に対して事務的な態度を取り兄の昭男(岩松了)から叱られるシーンも。バタバタの葬儀に追われ、昭男とステテコ?姿で爆睡しているシーンも特徴的でした。

ドライな態度が強調されていましたが、外の目を気にするところはしっかりしているようです。昭男の離婚歴や職を見下したり、昭男がとちって自分たちが恥をかかないように喪主の挨拶文を用意したり。
おそらく家族外の人間から見れば、落ち着いている(おじいちゃんの)息子さんという風に見えるのでしょう。
けど、「内側」の家族に見せる姿はだらしなく、情けなく映ります。告別式の日の夜に妹の薫(水野美紀)に対して繰り出した暴言はセクハラの域をもはや超えていました。

ちなみにこの後は怒った薫が、「(あんたみたいに)田舎で適当にお見合いして結婚して…」と言い返すわけですが、あれも清二の奥さん(赤間麻里子)に対してめっちゃ失礼な言葉ですよね。
あの場でキレなかった吉子たちのお母さんには感動しました。偉すぎます。

光石さんがちょっぴりダメ親父を演じた作品では『彼女の人生は間違いじゃない』もおすすめです。
タイトル画像

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2020年1月18日

春野清太(池本啓太)

池本啓太が演じた吉子の弟・清太は実家を出て東京の大学に通っています。

都会的なファッションに触れており、首元が開き肩の落ちたカットソーに総柄のレギパンといった出で立ちで帰省。
「ってか何その服。女みたいじゃん」と姉にバカにされ、「姉ちゃんは田舎モンだからセンスとかわかんないんだよ。たまには雑誌とか読めよ」と応戦します。

岸井ゆきのの心のこもったディスをそのまま跳ね返せる強さ!このシーンの池本さんの熱演が素晴らしいです!
人様の事情に不用意に踏み込まない「デリカシー」という表現も、後々あぶり出される両家の本音に対する大事な伏線でした。

金髪に重ための前髪、黒縁メガネと、喪に服すには少々ちゃらい格好ですが、葬儀では落ち着いた様子で立派でした。叔母さんにあたる薫(水野美紀)と話すシーンや、親族での食事中の話の振り方にも高いコミュニケーション能力がうかがえます。こういう甥っ子は愛されるはずです。
だからお願い、童貞とか言わないで。

絶対終身雇用される会社に勤めてやる!と、ダメ親父たちを反面教師にした安定志向も頼もしいですね。
自分の“家族”にいたら絶対仲良くなれるよねと思えるキャラクターでした。

春野昭男(岩松了)

清二の兄であり、吉子たちにとってはおじさんの昭男岩松了が演じています。
妻のふみ江とは離婚。現在は、長男の洋平が自分と同じ春野姓を名乗っているようですね。

後頭部にハゲがあるのか、娘(小野花梨)にヘアスプレーでシューッと隠してもらうのが人前に出るためのルーティーン。それが裏目に出て、墨汁みたいな黒い汗を額に垂らすシーンは最高でした。

喪主の責任感が強く、病院でも、お家に戻されてからも、おじいちゃんに寄り添って長男としての務めを果たします。
一方で家族に対しては自分の思う通りにいかないと声を荒げたり、息子を真っ先に疑ったり、娘の喫煙をふみ江の監督不行届けだと言ったり、うざい親父ぶりが際立ちます。いま一緒に暮らしていない娘の千春に対しては年齢を間違えます。

光石研の清二もそうでしたが、昭男は脂ギッシュで汗くさそうで、見るからにオヤジ臭が漂ってくるキャラクターです。
でも。真夏に喪服を着て、慣れない葬儀の手配をして、普段会わない親族たちとの共同作業に気を遣う。それってすごくエネルギーを必要とすることで疲れることなんですよね。

汗水垂らしてバタバタ慌てて、かっこ悪いところも晒しながら、“家族”たちと大切な人を送り出す。それって葬儀が持つ大切な意味なんじゃないかなと思います。
だから葬式ってめんどくさいんです。本当にめんどくさくて騒がしい行事なんです。

春野洋平(岡山天音)

岡山天音が演じた、浪人中の引きこもり息子・洋平。吉子たちにとっては従兄弟にあたります。

ゲーム中にかかってきた父(電話帳登録は「おやじ」)からの電話を一度は着拒し、出たはいいけど「俺、喪服とかないんだけど」の一言。
結局コンバースの黒いオールスターをつっかけ、曲がったネクタイを締めてだらだらと葬儀へ向かいます。

ネクタイ結ぶのって初めてだとマジで難しいですよね…

洋平は自分を信用していない親父(岩松了)との関係に悩むシーンが多かったですね。薫おばさん(水野美紀)が車上荒らしに遭った時も、清太(池本啓太)の推理した一言から親父に犯人扱いされてしまいました…

後で謝った親父に向かって「手伝ってほしいから謝るっておかしくね?」は名言でしたね。

野村千春(小野花梨)

昭男の娘であり、洋平の妹である千春(小野花梨)。お母さんのふみ江(美保純)と暮らしている高校3年生です。
セーラー服を着て平気でタバコ吸う喫煙者。なんなら人前で平気でビールも空けます。

一歩間違えればやさぐれた不良少女だったところですが、“家族”たちの滑稽で小っ恥ずかしい姿を彼女が実は一番冷静に見れているのではないかなと思ったりもします。引きこもりでコミュ障のお兄ちゃんを見捨てることもないし、ブツブツ言いながらもちゃんとダメ親父の頭にもヘアスプレーをシューしてあげる優しい千春ちゃんです。

男子トイレの手洗い場で親父にシューしてあげるシーンでは、男子トイレに並ぶ小便器に一瞥。そりゃ見ますよね。

ちなみに薫(水野美紀)も含めて、映画では千春、吉子のタバコミュニケーションが目立ちました。葬儀という慣れないイベントの時間つぶしには喫煙は確かに重要なんですけど、昨今の流れを考えると少し時代にそぐわないかもしれませんね。

圭介(松澤匠)


春野家の人間ではありませんが、吉子(岸井ゆきの)の彼氏として登場した圭介(松澤匠)も、作品にとって重要な役割を果たしていました。居酒屋勤務。LINEの登録は「けーすけ」。

吉子はおじいちゃんの訃報を受けた際に彼と身体を重ねていたことで間の悪さと言うか罪悪感を感じていたわけですが、そんな吉子のモヤモヤを少しずつ晴らしたのが小坊主であり、おばさんの薫であり、そして彼氏の圭介だったんですね。

親父の在宅中に彼女の家でお部屋デートをし、映画の終盤には留守番お願いねと吉子の母親から声をかけられていることから彼女の親公認の仲だと分かります。吉子の食を心配したり、朝早くから彼女の元へ車を走らせて愛してあげたり。
いい彼氏さんです。

吉子は車の中で彼にきちんと愛されたことで、自分の中のモヤモヤを消化することができました。
訃報があったときに“あんなこと”をしていた、と自分で悩んでいたわけですけど、圭介とすることは“あんなこと”程度の言葉で足りるものではなかったんですね。

演じた松澤匠さんは『恋の渦』というDQN映画で演じたユウタという役柄が本当に素晴らしく、『オーバー・フェンス』でも血気盛んな青年を演じるなどちょい悪なお兄さんの印象が強いんですが、この『おじいちゃん、死んじゃったって』で見せた好青年ぶりもまた素敵でした。



葬式って本当に面倒くさい

『おじいちゃん、死んじゃったって。』で描かれている訃報に対する他人事感。
吉子は「全然悲しそうじゃないじゃん」と言っていましたが、実はこれって結構あるあるって気がしませんか?

僕自身もおじいちゃんを吉子とか清太くらいの歳ごろに亡くしましたが、春野家の人間と同じように淡々と、そしてせわしなく葬儀をこなしました。棺が火葬場に運ばれた時も、なんか別の世界の出来事に立ち会っているような感じでした。

「ああ本当に死んじゃったんだな」と実感するのは、初七日を終えてひと段落してからだった記憶があります。

親族が集まって喪服で食べる寿司。
故人との思い出を出したもん勝ち的な、あの空気。
大きくなったわね、前会った頃はこんな小さかったのよ、と言うばかりの叔母さん。
“他人”な人たちと“家族”として一緒に寿司をつまむこと。
他人行儀が許されない息苦しさ。

 
場を和ませようとして行うイジりは、身内が対象になることも往々。
他人(親族)の詮索心を利用して、親が子供の秘密を詮索することもよくあります。

だから親子喧嘩とか夫婦喧嘩とか兄弟喧嘩とか、わざわざ他人の前ですることないようなことが起きるわけです。
昭男と清二の兄弟ゲンカも、昭男とふみ江の痴話喧嘩も既視感だらけです。
マジ家でやっとけよ案件ですよね。

でも、親戚が集まって気が大きくなったのか緊張感からなのか。なぜか大人たちは「この際だから言うけど」的な暴露大会を始めるんです。
あれ、子供からしたらマジで迷惑なんですよね。
デリカシー持とうよと。知らない勇気と言わない勇気を持とうよと何度思ったことか。

ただ、『おじいちゃん、死んじゃったって。』で描かれているように、あのかっこ悪くて情けないぶつかり合いも、本当の親族になるための通過儀礼なのかもしれません。

面倒だけど。しんどいけど。
家族だから。

 
「死」をきっかけに新たな「生」が動き出す。新鮮なパターンのホームドラマでした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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