こんにちは。織田です。
2018年の映画『ここは退屈迎えに来て』をAmazonプライム・ビデオのレンタルで鑑賞しました。
監督は廣木隆一監督。橋本愛、門脇麦、成田凌がトリプル主演の形をとっている青春群像劇です。
また、富山県でほぼ全てのロケが行われたことも印象的な作品。
「ここは退屈」の「ここ」が富山であること自体は明示されていませんが、地方都市に生まれた若者たちが、東京への憧れを抱えながら生きていく姿は、地方から東京に出た経験がある人にとって何かを重ねあわせることができるのではないでしょうか。
今回は合わせて観たい作品や、本作『ここは退屈迎えに来て』の特徴的な作風について考えていきます。
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
『ここは退屈迎えに来て』のスタッフ、キャスト
監督:廣木隆一
原作:山内マリコ
脚本:櫻井智也
私:橋本愛
あたし:門脇麦
椎名くん:成田凌
椎名朝子:木崎絹子
新保くん:渡辺大知
山下南:岸井ゆきの
森繁あかね:内田理央
サツキ:柳ゆり菜
まなみ先生:瀧内公美
なっちゃん:片山友希
皆川光司:マキタスポーツ
須賀さん:村上淳
登場人物の整理は鑑賞前に!
公式サイト出典:
上で、橋本愛、門脇麦、成田凌のトリプル主演として書きましたが、この作品はこの3人が主演というほど突出していないことが特徴的です。
登場人物の描写を平等にばらけさせて、あえて散漫にしている手法です。
最初は多数の人間のエピソードがバラバラに羅列されていきます。
時間が経つにつれて関係性が少しずつわかっていきますが、登場人物の名前と顔の一致させる程度は鑑賞前にしておいたほうがいいでしょう。
また、相関図には入っていませんが、皆川(マキタスポーツ)という中年男性と、なっちゃん(片山友希)という女子高生も映画を構成する上で大きな一部分を占めてきます。
上で引用した相関図の中心に描かれているように、物語の中心となるのは成田凌が演じる「椎名くん」です。
「椎名くん」が高校時代にどんな存在だったのか、周囲の人々の回想によって描かれていきます。
そして「私」(橋本愛)とサツキ(柳ゆり菜)は、カメラマンの須賀(村上淳)とともに「現在の椎名くん」がどうなっているのかをこの目で確かめにいきます。
みんなの人気者であるキャラクターを、周りの証言によって浮き彫りにするやり方は『桐島、部活やめるってよ』に近いかもしれません。
あらすじ紹介
東京への憧れを胸に上京したものの、そのまま10年が経ち、なんとなく地元へ戻ってきた27歳の「私」。ある日、ひょんなことから高校時代に仲の良かったサツキと一緒に、当時みんなの憧れの的だった椎名に会いに行くことに。その椎名と高校時代に交際していた「あたし」は、別れた後も彼のことが忘れられずにいた。それでも、自分に好意を寄せる遠藤と何となく体の関係を続けていた「あたし」だったが…。
合わせて観たい廣木監督の2作品
東京と地方都市、震災後という時代設定、そして舞台装置の一つとしてラブホテルが出てくる点。
この3つにおいては廣木隆一監督の他の作品との共通点が見てとれます。
2015年の『さよなら歌舞伎町』と、2017年の『彼女の人生は間違いじゃない』です。
冒頭(2013年)に私(橋本愛)は「何でこっち戻って来たの?」と聞かれ、「震災起こったから」と答えます。
一見何でもないシーンですが、東日本大震災が人々にどのような影響を与えたかを表現した、廣木監督ならではのエピソードといえるでしょう。
また、MIHOシネマさんの記事では、本作品を観る前に観ておきたい映画をピックアップされています。
門脇麦の演技のトーンが近い『二重生活』は必見。
こちらの方も、合わせてご覧いただけると楽しめるかと思います。
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
映画のネタバレ感想
以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
時系列の操作
公式サイトでも紹介されているように、この作品は時系列の順番がばらけており、難解になっています。
私(橋本愛)が東京から帰って来た「2013年」が「現代」として描かれている一方で、高校を卒業した後の「2008年」、「2010年」、そして高校在学当時の「2004年」のシーンが煩雑に入れ替わっていきます。
全ての登場人物が全ての時代に出てくるわけではないというのも、この作品の難しさに拍車をかける一因かもしれません。
私(橋本愛)と時間軸
橋本愛が演じる「私」と、柳ゆり菜の「サツキ」は、2013年(現代)と2004年(高校在学時)の2シーンに登場します。
東京に出ていくことができずに、アラサーの現在も東京への憧れを口にするサツキ。
一方で東京に出て行ったことで、東京がどの程度のものかを知り、地元に帰って来た私。
高校時代のサツキはクラスのカーストで少し「私」よりも上位に位置していたように見えましたが、現代においては「私」が美味しいところを持って行っている描写も面白かったですね。
新保くん(渡辺大知)と時間軸
渡辺大知の演じる新保くんは「私」と同じく、現在の2013年と高校在学時の2004年の2つの時代に登場します。
新保くんはからかわれていた高校時代に、カースト最上位である椎名くん(成田凌)に助けてもらいました。
サツキや「私」が椎名くんに高校の人気者」という印象で興味を持ち続けていることに対して、新保くんは「僕にとっての大事な人」というアプローチです。
そのアプローチは興味というよりは愛情表現に近いかもしれません。
新保くんは、「高校を卒業してからの椎名」の人生に自分が関与したことを、自慢げに「私」たちに話します。
シーンとしての描写はないものの、2004年から2013年に到るまでの状況を把握しているという意味では、新保くんが一番かもしれません。
アラサーになってもなお、地元の寂れたゲーセンでコインゲームを女性のユーザーネームで楽しむ彼は、今なお椎名くんという存在に依存しているようでした。
椎名くん(成田凌)と時間軸
物語の中心人物となる椎名くん(成田凌)は「私」や新保くんと同じく、2004年と現在の2013年に登場。
とはいえ2013年の登場は最終盤になるので、映画の大部分では「高校当時スーパーヒーローだった椎名くん」と周りからの評価として語られます。
高校を卒業した後の彼を知っているのは新保くんと「あたし」(門脇麦)と現在の配偶者となった南(岸井ゆきの)。
幾多の女性や新保くんを虜にした彼が、歳を取って地味な南と結婚したこと。
それは学年のスーパーヒーローが10年後もスーパーヒーローであることが約束されているわけではないという証明です。
高校時代に学校の中心人物だった男子・女子が10年後にどのような立ち位置にあるのか。
これは高校卒業後の10年間を過ごした人にとっては、誰しもが理解できるテーマですね。
ちなみに成田凌は、元カノを演じた門脇麦と『さよならくちびる』で、今カノ(結婚)の岸井ゆきのとは『愛がなんだ』で2019年に共演を果たしています。
ダメ男の部分も演じることができる貴重な役者ですが、彼のキャラクターを形成するうえでもなかなか面白い役どころだったのではないでしょうか。
あたし(門脇麦)と時間軸
門脇麦が演じる「あたし」は、高校在学時の2004年と、卒業して数年が経った2008年に登場します。
主要キャラでありながら、「現在」に登場してくることがありません。
高校時代は人気絶頂だった椎名くんの交際相手だった「あたし」でしたが、高校卒業後に椎名と音信不通となり、2008年の段階では遠藤(亀田侑樹)という腐れ縁と体の関係を続けています。
椎名の妹・朝子(木崎絹子)に対して「全然椎名と似てないね」と言い放つなど、自信強めな女性として描かれていましたが、その自信が崩れ落ちる様が印象的に描かれていました。
高校時代の自分が2008年段階の遠藤と同じ「付き合ってもらっている」ものだったと気づいた「あたし」。
彼女の「現在」を潔く省いたことで、「あたし」が今どこで何をしているのかは、観る側の創造に委ねられることになりました。
なっちゃん(片山友希)、皆川(マキタスポーツ)と時間軸
片山友希が演じる「なっちゃん」とマキタスポーツが演じる皆川という中年男が出てくるのは2004年のみ。
女子高生とおっさんの援助交際ですが、その単語には疑わしいほどの本気度を持って、なっちゃんは皆川に接していました。
そして、本気の恋に破れてしまいました。
椎名くんを巡る一連の群像劇に関与していないように見えるなっちゃん。しかし、皆川の車内で椎名のことを「いるだけで周りが明るくなる」ヒーロー的な存在だと明かしています。
それと同時に学校なんてつまらないよ、はしゃげないよ、と椎名に興味がないこともアピールしています。
終盤に出てきた高校時代の回想シーンで、新保くん、「私」、椎名くんが次々とプールサイドから水面へ飛び込んでいきましたが、椎名くんを笑いながらプールに突き落としたのは、なっちゃんでした。
「学校ではしゃげない」と皆川に愚痴をこぼしていた、なっちゃんでした。
あかね(内田理央)、南(岸井ゆきの)と時間軸
ファミレスでガールズトークをするシーンが印象的な森繁あかね(内田理央)と山下南(岸井ゆきの)は、基本的にこの二人の間で関係が完結しています。
あかねは2004年の在学当時、東京で活躍するモデルとしてサツキたちの話題に上ります。
いち早く「退屈なここ」から東京へと出てモデル業に挑戦したことで、彼女は「私」(橋本愛)より先んじて東京の現実を知ることになります。
南とあかねのガールズトークは2010年に2回、現在時点となる2013年で計3回出てきます。
地元にずっととどまっている南は、あかねのことを「違う世界を知っている人」として見ていましたし、あかねの中でも「男にあまり不自由しない私と、あまり彼氏づくりに興味のない地味な南」という対照的な立ち位置がやんわりと見えてきます。
この3回のガールズトークで、南は恋愛に興味がない女として2010年の夏・冬は描かれていますが、2013年には彼氏どころか、椎名という男と結婚していることを明かします。
一方のあかねは2010年時の夏→冬の間に資産家の彼氏をお見合いでつくり、2013年には結婚を果たしていました。
そのお相手こそが、なっちゃんが恋していた皆川(マキタスポーツ)。
2010年冬のランチの際に、南もあかねの携帯画面をチラ見して旦那・皆川の顔を認識します。
なっちゃんと南
上で書いたように、他のキャラクターはある程度高校時代の描写がされています。高校卒業後にどのような道を歩んだかもある程度は描かれています。
その一方でなっちゃん(片山友希)は高校卒業後の消息がぱったりと止まり、南(岸井ゆきの)は高校時代の描写が全くありません。
いまいちクラスになじめずに中年男への恋心を燃やすなっちゃんと、地味な恋愛遍歴を生きてきて、最後に椎名と結婚した南。
極論すれば、二人のエピソードがなくてもこの映画は成立します。椎名くんの結婚相手は名も知れぬ女性ということでも成立したはずです。
なっちゃんは皆川に椎名のことを話した一方で、そんな人気者の椎名よりも皆川のことが好きだと明かしました。そして、恋に破れて以降であろう夏のプールサイドで、彼女は椎名をプールへと落としました。
南は婚約者・皆川の映るあかねの携帯をチラ見し、次にあかねと会ったときには椎名と結婚したと明かしました。そして、椎名のことを「つまらない男だよ」とあかねに説明しました。
「私」も「あたし」もサツキも新保くんも、みんなが羨み英雄視していた「椎名くん」を、なっちゃんと南は冷めた目で見ていたし、見ているんですよね。
もしかしたら南も「私」たちとどこかで、友達の友達くらいの距離で繋がっているのかもしれませんし、なっちゃんも今も地元で普通に繋がっているのかもしれません。でも映画内ではなっちゃんは「私」たちの「あれから」に介在してきませんでした。南は「私」たちの「あの頃」に出てきませんでした。
圧倒的カースト上位の椎名くんが結婚したのは、彼のことを「つまらない男だよ」と表現できる南でした。他の子たちが退屈だと嘆く地元のヒーローを射止めたのは。
もしも「なっちゃん=南」だとするならば。
彼女は、愛した男が数年後に友人の旦那となったことを知り、自身は高校の時に気にも留めていなかったクラスの人気者と結婚した、ということになります。
以前の投稿でこのような妄想を書きましたが、さすがに暴論が過ぎたので削除しました。ご了承ください。
全体的に見れば、難解な時系列の並べ方と長回しの撮り方も相まって、意図的に「退屈な」印象をこちらに植え付ける映画でした。
切り口次第では『桐島、部活やめるんだって』に匹敵する傑作になりえた可能性もあったと思います。が、残念ながらそこまでには行き着きませんでした。
同じ山内マリコさん原作の映画に『アズミ・ハルコは行方不明』という映画があります。
こちらも時間軸が複雑な作品ですが、本作が好きだった方はぜひご覧になってみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。