こんにちは。織田です。
2017年の映画『全員死刑』をAmazon Primeで鑑賞しました。
小林勇貴監督の商業映画デビュー作で、主演には間宮祥太朗。R15指定。
2004年に福岡県大牟田市で起こった、残虐な強盗殺人死体遺棄事件がベースになっています。
実際に起きた事件をかなり忠実に描いており、観る側もダメージを食らう作品です。
この後でリンクを紹介する事件の概要を把握することで映画の理解度は増すと思いますが、端的に言って閲覧注意です。極めて残虐かつ凶悪です。
痛いシーンが苦手な方はお控えいただいた方がいいかもしれません。
『全員死刑』のスタッフ、キャスト
監督:小林勇貴
原作:鈴木智彦
脚本:小林勇貴、継田淳
首塚タカノリ(次男):間宮祥太朗
首塚サトシ(長男):毎熊克哉
首塚テツジ(父):六平直政
首塚ナオミ(母):入絵加奈子
カオリ(タカノリの彼女):清水葉月
ハルカ(サトシの彼女):護あさな
パトラ(吉田家の母):鳥居みゆき
カツユキ(吉田家長男):落合モトキ
ショウジ(吉田家次男):藤原季節
オカダハルキ:松田陸
ドロちゃん:中村祐太郎
ケンちゃん:一ノ瀬ワタル
運送屋:仁科貴
風俗店の客:中野マサアキ
コンビニ店員:前原滉
徘徊老人:ジジ・ぶぅ
これまで本物の不良少年たちを使いながら映画を撮っていた小林勇貴監督の商業映画デビュー作品です。
『冷たい熱帯魚』に参加していた千葉善紀さんや、西村喜廣さんがスタッフとして名を連ねているところも注目。容赦なくヤバい映画になる予感がたっぷりです。
またアクション監督は『TOKYO TRIBE』で抜群のアクションを見せていた坂口茉琴さんが務めています!
主演のタカノリを務めたのは間宮祥太朗。
狂気と乱暴の狭間に普通の若者らしさを垣間見せる難しい役柄でしたが、抜群でした。
傑作の『殺さない彼と死なない彼女』とはまた違う間宮祥太朗の凄みが、ここにあります。
目で殺すという言葉がぴったりの怪演でした。
あらすじ紹介
首塚タカノリは弱小ヤクザ一家の次男坊。一家は莫大な借金を抱え、上納金も払えず追い詰められていた。そこで小心者の父テツジ、ヒステリックな母ナオミ、小狡い長男サトシは、近所の資産家パトラから金を奪う計画を立てていた。
ところがサトシはその金を独り占めしようと、両親に内緒でタカノリをたき付け、パトラ家へ現金強奪に向かわせる。しかしクスリでハイになっていたタカノリは、居合わせたパトラの次男をいきなり絞殺してしまうのだったが…。
原作と大牟田殺人事件について
原作となったのは鈴木智幸の『我が一家全員死刑』。
福岡県大牟田市で起こった4人殺害事件についての、次男(本作のタカノリにあたる)による獄中手記です。
事件の概要はこちらの東洋経済オンラインさんの記事がわかりやすいと思います。
大牟田4人殺害事件はどれだけ残酷だったか
鑑賞後に読んでみると「あの映画そのまんまじゃん…」と鳥肌が立ちました。
またWikipediaやNaverには事件の経緯がかなり詳しく書かれていますが、こちらをじっくり読み込むのは精神衛生上あまりオススメできません。
実話ベースの(閲覧注意)映画については過去にもレビューで触れてきましたので興味のある方はどうぞ。
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
映画のネタバレ感想
以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
実話と違うところは?
この物語は事実に基づいたフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は全て架空のものです。
このような前置きから始まるものの、『全員死刑』は、基本的に大牟田事件の時系列を忠実に再現しています。
家族構成から犯行の手口まで。
実際の事件を知れば知るほど、その再現性には驚きました。
タカノリ(間宮祥太朗)が車内でパトラ(鳥居みゆき)に手をかけるシーン。
サトシ(毎熊克哉)の行動などはさすがに脚色かなと思って観ていましたが、あの「ひとごろし」と窓に指でキュッキュする仕草も実際にあったものです。狂っていますね。
そんな中で映画としての、創作としてのオリジナリティを出した部分。
それがショウジ(藤原季節)の亡霊が醸し出すホラーと、役者たちの独特な言葉遣いだったと思います。
『全員死刑』のキャラクターたちが操る、オリジナルの方言について見ていきましょう。
大牟田方言ではなく、静岡弁?
実際の事件は福岡県大牟田市で発生したことから、当事者たちは大牟田地区の方言を使っていたと想像されます。
博多や北九州の言葉とは少し異なり、筑後の方言ですね。原作本も恐らくそちらの方言がベースかと思われます。
しかし『全員死刑』では、小林監督の故郷である静岡の方言を混ぜたオリジナルの方言を用いています。
NEWSポストセブンさんの記事で、小林監督はこのように語っています。
小林:バイオレンス映画であり田舎ホラーにしたかったんです。そのためにはまず、方言であるべきだと決めていました。原作にある「○○ゾ」と語尾がカタカナのゾになっている感じはすごく好きなんですが、知らない土地の言葉です。だから、生活の中で聞いた変な言葉、変な言い回しを合体させて、オリジナルの方言を作ることにしました。そうすれば、方言指導をどうするかという制作上の都合も解消されます。それに、聞いたことがある日本語なんだけれども、聞き慣れない、よく分からない言葉にしたかった。
出典:NEWSポストセブン
静岡の言葉として有名な「〜(だ)ら」の語尾のほか、語尾の「ね」、その前の「だ」などを組み込み、どこの方言かよくわからない独特の地域性を描き出していました。
ちなみに「ぶっさらう」は、静岡や山梨で使われる言葉になります。
この「舞台がどこなのかよくわからない」異質さは作品の怖さに磨きをかけていたと思います。
恐らく一番よく出てくるであろう「わりいっけ」(=すまんね、ごめんね)を中心に、このオリジナル方言に心をつかまれた方もいるのではないでしょうか?
やばすぎ!間宮祥太朗と毎熊克哉
最後に極悪兄弟を演じた間宮祥太朗(タカノリ)と毎熊克哉(サトシ)について触れます。
極悪とは書いたものの、僕はこの作品を鑑賞している間、凶悪犯であるタカノリ、サトシの立場に立って場面を追っていました。
やっていることは確かに極悪ですし、彼らを犯行に駆り立てた気持ちがわかるわけでもありません。
でも、被害者側ではなく加害者側に立つ視点。
これは『冷たい熱帯魚』や『クリーピー』ではありえなかった感覚でした。
タカノリやサトシを心底恐ろしいとは思いませんでした。
なぜでしょうか。
田舎の怖い兄ちゃん
その理由として、彼ら二人はいわゆるサイコパス的なキャラクターではなく、人間の血が通った乱暴者だったことが挙げられます。
ショウジに対しては冷たく高圧的な態度に出ていたタカノリでしたが、彼はあの時クスリをキメていました。
実際に吉田家の面々(とオカダ)に手をかけていくとき、タカノリは少々の惑いを抱えながら犯行に及びました。快楽犯とは違います。
サトシは特に顕著で、彼は自分の手を汚すことを嫌がりました。
普段は一般人に対して恫喝してイキがりながらも、最後の最後には兄という立場を利用して、タカノリに始末をさせました。
死体を見たときの反応などを見ても臆病者です。というか正常な反応です。
鬼畜にもちゃんと人間としての恐怖感とか防衛本能が備わっているんですね。
前述した方言の使用も、この兄弟が猟奇犯ではなく田舎の悪いあんちゃんであることを補強していたと思います。
💋追加登壇決定🎉
12/25(月)#小林勇貴 監督プチトークショーに、#藤原季節 さんに続き、カオリ役の #清水葉月 さんの登壇が決定😘✨しかも…なんと…サンタコスしてくださるとのこと!!!(神様ありがとう!)皆さま、鼻血を止めるティッシュを忘れずに❤️https://t.co/r7divFUv0O pic.twitter.com/bQR0pYXGb7— 映画『全員死刑』公式 (@shikei_movie) December 23, 2017
そしてもう一つ、タカノリの彼女・カオリ(清水葉月)とサトシの彼女・ハルカ(護あさな)もカギになりました。
犯罪に手を染めていく2人が、守らなければならなかったものとして描かれる「彼女」たちの存在は、彼らの人間らしさを際立たせていたと思います。
タカノリの独白として定期的に出てくる文字写しのシーンには、何度も「オンナ(=カオリ)」という言葉が出てきました。
首塚家が「全員死刑」になった後。
彼女たちがどのような人生を歩んでいったのか思いを馳せるのも面白いのではないでしょうか。
観る人を選ぶ作品ではあるとは思いますが、荒削りさと計算されたリズム、コミカルさが同居した狂気の傑作でした。
全員死刑のネタバレあらすじはMIHOシネマさんの記事でも触れられています。
こちらも興味のある方はどうぞ。