映画『殺さない彼と死なない彼女』ネタバレ感想〜未来の話をしましょう〜

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

「この映画を観て本当に良かったなあ」

そう思える作品と出会えることが年に何回かあります。

穏やかな、と表現するにはいささか暖かすぎた日々から一転して北風が吹きすさぶようになってきた令和元年の秋、Twiiterを眺めていた僕はタイムライン上でとある作品を目にしました。

『殺さない彼と死なない彼女』。

生死を意味する直接的な言葉を題名にとったこの映画に対し、鑑賞した方たちの感想はとても温かくて優しく、鑑賞意欲が掻き立てられました。そして僕は衝動に突き動かされるように映画館へ向かいました。
期待を膨らませながら。



自分好みの映画だろうな、と思いつつ、一方でその期待感が鑑賞ハードルを上げていったことも確かでした。
それでも、『殺さない彼と死なない彼女』はそのハードルを軽やかに越えていきました。

理解してくれる人がいるかどうかはわかりませんが、この種の超越はとっても気持ちいいもので、他者の評価への共感、自分なりの新たな発見、そして作品を「さらに」好きになることができる。そんな特権だと思います。

予告編を観て抱いていた予想とは少々違うアプローチで、涙は僕の視界をぼやけさせていきました。
まぎれもなく、「年に数度」の衝撃を与えてくれた青春の傑作でした。

この出会いにありがとう、と映画に、そして作品の魅力を拡散してくださったフォロワーの皆さんに、まず最初に感謝したいと思います。

自分語りの前置きが長くなってしまいましたが、作品の感想に移っていきたいと思います。

『殺さない彼と死なない彼女』のスタッフ、キャスト

監督・脚本:小林啓一
原作:世紀末
小坂れい:間宮祥太朗
鹿野なな:桜井日奈子
地味子(宮定澄子):恒松祐里
堀田きゃぴ子:堀田真由
大和撫子:箭内夢菜
宮定八千代:ゆうたろう
鎌瀬犬子:安倍乙
イケメンくん:金子大地
サイコキラーくん:中尾暢樹
さっちゃん:佐藤玲
きゃぴ子の母:佐津川愛美
小坂ママ:森口瑤子

原作は世紀末のコミックです。鑑賞終了後に初めて読んでみましたが、よくこれを忠実にスクリーンに落とし込んだな…と製作側に感心するばかりでした。
原作未読の方でも特に問題はないと思います。

小林啓一監督を迎え、主演には『ホットギミック』間宮祥太朗と、『ママレード・ボーイ』の桜井日奈子がダブル抜擢。

『虹色デイズ』『凪待ち』などでの演技が印象的だった恒松祐里らも出演しています。
また、小坂と鹿野の同級生として出演していた鎌瀬犬子役の安倍乙の演技も、印象に残ったことを付け加えさせていただきます。
作品情報にあまり掲載されていないので、鑑賞後に気になった方もいるかもしれません。

鎌瀬犬子(咬ませ犬…)はもちろん、地味子きゃぴ子撫子(原作では君が代)などかなり独特なネーミングがされており、こちらは原作の影響でしょう。地味子は本名は澄子というようですが、作内では一貫して地味子と呼ばれ続けます。きゃぴ子に至っては本名の設定です。(キラキラネームだよねと陰口を叩かれていましたね…)

公式サイトなどで採用されている「殺カレ死カノ」というキャッチフレーズと、「シカノ」(桜井日奈子)も当然結びついていると思われます。

主演級の役者さんはおしなべて凄かったですが、個人的には間宮祥太朗が最高に素晴らしかったです。
この点についてはネタバレを含んだ記事の後半部分で解説します。

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2019年8月25日

あらすじ紹介

高校3年生の小坂れい(間宮祥太朗)は、退屈な学校生活を送っている。ある日彼は、教室でハチの死骸を埋葬しているクラスメートの鹿野なな(桜井日奈子)を見掛ける。リストカットを繰り返し「死にたい」が口癖の割には、死んだハチの命を重んじる彼女に小坂は興味を示し、鹿野も小坂に心を開く。やがて二人にとって一緒にいることが当たり前になる。

出典:シネマトゥデイ

上で紹介したあらすじでは小坂(間宮祥太朗)と鹿野(桜井日奈子)に限定されていますが、作内では八千代(ゆうたろう)と撫子(箭内夢菜)のエピソード、きゃぴ子(堀田真由)と地味子(恒松祐里)のエピソードも同じくらいの比重を割いて描かれています。
その理由は、映画の後半部分で明らかにされていきました。

ちなみにこの作品では大半が「小坂&鹿野」「きゃぴ子&地味子」「八千代&撫子」のセットで描かれています。
鑑賞前の情報として、この3組の組み合わせは頭に入れておいても損はないと思います。

これまでの邦画で量産されてきた(現在でも量産されている)「青春」という概念が得意ではない、という人は一定数いると思います。
感動の押し売り。時に不幸な事象にすら昇華させる恋における障壁。すれ違い。恋敵。既定路線のストーリー。

その意味で本作はステレオタイプの青春作品とは一線を画しています。逸脱しています。

山戸結希監督の『ホットギミック』も相当にエッジの利いた「青春」を描いていましたが、この『殺さない彼と死なない彼女』も全く新しいタイプの青春映画です。
「どうせ邦画の青春作品なんてつまんないでしょ」と思っている方にぜひ、観てもらいたい映画になっています。これは声を大にして言いたい。

またMIHOシネマさんでは本作の作品情報などと合わせて、鑑賞前に観ておきたい作品などもリストアップした記事を公開されています。
こちらもよろしければぜひご覧ください。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

仰々しい言葉遣い

本作『殺さない彼と死なない彼女』の特徴として、口語体とはかけ離れたセリフの応酬が見られます。これは原作の漫画をリスペクトしたからと予想でき、その非日常的な響きはスクリーンの中と僕たち観客との間に一線を引く役割も果たしていたと思います。

『いなくなれ、群青』でも同じような感想を書きましたが、本作のセリフの半分以上はあくまでもセリフであり、日常会話でなかなか聞くことのできないものでした。

ともすれば棒演技に映ってしまいがちなところでそうならなかったのは、登場人物たちがこの上なく愛すべきキャラクターばかりだったからなのではと感じます。個人的には宝塚歌劇などの舞台を観ている感覚に近い部分がありました。

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2019年9月20日

撫子と八千代

最たる例が、撫子ちゃん(箭内夢菜)と八千代くん(ゆうたろう)の会話です。

 

八千代くんに「好き」を伝え続ける撫子ちゃん。
その想いが届かなかったとしても、届かないと知っていたとしても、彼女は春も夏も秋も冬も笑顔で八千代くんに告白を続けます。

そんな撫子ちゃんの口調は「〜わ」「〜なのよ」「〜かしら」と演劇チックな語尾が際立つものでした。内面描写でも八千代くんのことを「あなた」と表現したり、言葉遣いが一貫して現代の日常会話からかけ離れています。
きゃぴ子(堀田真由)の言葉遣いも「演じている」濃度が高いものでしたが、きゃぴ子は心の声で口語が多く用いられています。
またきゃぴ子の場合は、会話の主な相方である地味子(恒松祐里)の口調に非日常要素が薄かったことも大きかったと思います。

一方で撫子ちゃんの会話相手である八千代くんは、こちらもまた堅苦しい言葉遣いで撫子ちゃんの告白をスルーし続けていきます。
「八千代くん」「八千代くん、好き!」と年がら年中呼びかける撫子ちゃんに対して、「君」という二人称で八千代くんは接していきます。

そんな八千代くんが(作内で)初めて撫子ちゃんの名前を呼んだとき。
僕は不意に涙がこぼれました。

『君の膵臓をたべたい』でも評しましたが、キミ呼びは文法的であり詩的であり、余計な感情の排除にも作用します。

「キミは『(僕のことを好きと言う)キミのことが好きじゃない僕』を好きなんじゃないかい?」と言い放つ八千代くん。
極めて現実的かつ意味深な思考回路とは裏腹に、その言葉尻は低温の劇口調でしたね。繰り返しになりますが、『いなくなれ、群青』の七草もそんな感じでした。

だからこそ心がこもっていないように見えるキャラクターに明らかな温度が宿った時、観る側は心を動かされるのでしょう。

鹿野と小坂

桜井日奈子が演じた鹿野はどうでしょう。
蜂の死骸を花壇に埋めに行く道中で小坂に絡まれ、「虫は嫌いだよ。でも虫の死体をゴミ箱に捨てるような奴はもっと嫌いだよ」「私が一番嫌いなのは私自身だよ」と、語尾「〜だよ」を彼女は多用します。

時間が経つにつれてその口癖は消えていくものの、冒頭部分の鹿野にはよそよそしさだけではない、明らかなセリフ口調が見て取れました。
一方で、間宮祥太朗の小坂は一貫して(口の悪い)口語で鹿野に応対していきます。

「死ね」に慣れてはいけないけれど

「殺す」が口癖。
そんなキャッチフレーズで予告編に紹介されていた通り、小坂は「殺すぞ」「死ね」を乱用します。

隙あらば「殺すぞ」です。隙がなくても言います。息を吐くように死ねと言います。
2回目の鑑賞時に何回「死ね」「殺すぞ」と言うか数えてみようと試みたのですが、早々と諦めました。

「殺す」とか「死ね」とか。間違いなく気軽に口にしてはいけない言葉ですし、言う相手を間違えれば脅迫で訴えられてもおかしくはありません。
さらに言えば、別にこの作品は「死ね」を肯定する映画でもありません。

けれど、日常に絶望して「死」に対して人よりも少し多くの思いを抱いていた鹿野は小坂の「殺すぞ」に怒ったり傷ついたりはしませんでした。

「じゃあお前本当に殺してみろよ」

彼女は「殺すぞ」が口癖の小坂に対してそう言い返します。

小坂の家でゲームをしている時にトイレに立ったシーンだったでしょうか。鹿野に小坂が言い放った「死ね」に対して「死ね」と言い返す場面もありました。小坂の「殺すぞ」「死ね」と言う言葉には、麻痺して逆に聞かないと不安になる中毒的な要素さえ感じてきてしまいます。

思い返せば、中学時代の僕たちはちょっと悪ぶることがかっこいいと思っていた時代背景も相まって、それこそ小坂と同じように「反論プラス死ね」を日常的に挨拶感覚で使っていました。
サッカー部の試合でも、ポジション争いや競り合いの際に「殺すぞ」「死ね」とか小声で言い合っていたのを覚えています。

そう考えると決して褒められた言葉ではないんですが、軽々しく「死ね」「殺すぞ」と口にすることは、成熟していない少年少女の表現手法の一つであり、彼らの成熟してないが故の特権の表現とも考えられます。
大人になったら使えませんからね。

ちなみに小坂はある時を境に、「死ね」「殺すぞ」を言わなくなりました。これは既に鑑賞した人向け。

また、「殺すぞ」という言葉に対しての小林監督のインタビューが朝日新聞さんの記事でありました。
こちらも鑑賞した人向けかもしれませんが、興味があれば読んでみてください。

「お前」呼びのリアル

「殺すぞ」「死ね」に過剰反応しない鹿野は、小坂と言葉遣いがほぼ変わりません。これは自らを可愛く見せることに全精力を注いでいるきゃぴ子とは大きく異なりますし、もちろん先述した撫子ちゃんの仰々しい口調とも異なります。

そして「八千代くん/君(撫子ちゃん)」と呼び合っていた撫子と八千代、「地味子ちゃん/きゃぴ子」と呼び合っていたきゃぴ子と地味子の2組と小坂と鹿野のセットが決定的に違うのは、互いが「お前」と呼び合うところです。目の前に相手がいないところでは「アイツ」です。
鹿野なな、小坂れいという名前は、二人の間でほぼ意味をなしていません。

上で書いた「キミ」呼びとは対照的に、この「お前」呼びは対象との距離を近づける作用を持っていると思います。
もちろん「お前」と呼ばれて嫌な人はいるでしょうが、「お前」呼びを許す相手がいる人も少なからずいるはずです。そして「お前」呼びが許された誰かは、その人にとって気の置けない大切な人であるはずです。

小坂と鹿野の距離の縮め方はとても自然に感じられましたが、エピソードを断片的に切り取っていくと実は結構突発的にも見えます。この点ではむしろ、八千代くんの撫子ちゃんに対する心情変化の方がオーソドックスに描かれていました。

そんな中で小坂と鹿野がお互いを信頼していくようになったのは(特に鹿野の)「お前」呼びが効果的だったと感じています。

間宮祥太朗の小坂が最高すぎる

キャスト紹介の部分で書いたように、この作品で個人的に素晴らしいと思ったのは小坂を演じた間宮祥太朗です。

もともとサッカー部に所属していた小坂は怪我でドロップアウトし、やさぐれ、一年留年したという過去を持っています。
鹿野以外で唯一話しかける描写がある鎌瀬(安倍乙)からは「小坂先輩」と呼ばれています。

誰に対しても偉そうで、上から(しかも斜め構え)目線で物を言い、鹿野に対してニヤニヤしながら絡んでいく一方で、ちょっと残念で「世界で一番めんどくせーぞ」な一面も持ち合わせているオレ様くんです。女の子に対しても平気でブス呼ばわりする奴です。

「一年留年している(=一年他の人たちよりも人生経験がある)」という部分がポイントで、鹿野は「これからも私の前を歩いてほしい」と自らの道しるべとして小坂を見ていることを明確に発言しています。
肉まんが食べたいだとか、花火がしたいだとか、甘えるのはいつも鹿野からです。

この一年分の「余裕」みたいなものが間宮祥太朗の小坂には感じられたし、彼のかっこつけな部分も、長すぎる前髪も、照れた時に首の後ろを掻く仕草も、女の子の髪の毛をぐしゃぐしゃとする(本人はやってる俺カッケーと思っているのでしょう)姿も全てが、19歳の少し老けた男子高校生としてリアルに感じ取ることができました。

ヒュン!って感じで「死ね」と言う口の悪さも最高でした。鹿野が埋めた蜂に墓標を立ててやる思いやりも、花火の先端を鹿野側に向けない優しさも最高でした。

この作品で唯一とも言える口語表現を貫いた存在だった小坂。彼がちょっと痛いオレ様な間宮祥太朗に命を吹き込まれていて本当に良かったです。
一方で、仏頂面でブツブツと毒づきながらもたまに「ニタァ」って感じで気持ち悪く(褒めてます)笑う桜井日奈子も素晴らしかったですね。



鑑賞後の雑感

ここからは映画を観て気づいたこと、気になったことなどです。ただの感想の羅列です。

ロケ地から見る青春生活in千葉

この作品は、おそらくシーンの大半が千葉県で撮られたものです。
鹿野たちが通う世紀末高校(世高)は八千代西高校がモデルとして使用されており(役名の八千代くんは多分千葉の八千代とは出元が異なります)、何度も出てくるショッピングモールはおそらく柏の葉のららぽーとでしょう(クレープ屋さんに「柏の葉店」と記載あり)。

地味子と八千代の実家と思しき風情ある街並みは佐原地区の水郷と思われますし、小坂と鹿野が肉まんを食べていたのは香取神宮でしょう。

きゃぴ子が男と別れた駅はつくばエクスプレスでしたし(時間が12時頃でしたがつくばエクスプレスの終電は早いのでお昼の12時と思われます。そうなると「今日は楽しかったよ」の別れが早すぎる気も?)、茨城に近い千葉北部を舞台にしたシーンが多く見られました。

極め付けは八千代くんと撫子ちゃんがデートで訪れたシネマイクスピアリ。デートスポットに東京ではなくて舞浜を選ぶのが素敵すぎますね。
僕は1回目を錦糸町で観たのですが、いてもたってもいられなくなって2回目はイクスピアリで鑑賞しました。
いつまでイクスピアリでの上映が続くかわかりませんが、舞浜で鑑賞するカップルさんはビッグサイズのドリンクとポップコーンを携えて鑑賞してもらえると映画の中に入り込んだ疑似体験ができると思います。

いわゆるご当地映画とは違って「千葉」を前面には押し出してはいないものの、この映画は千葉(下総地区)の人が観たら確実にどこかしらで響きます。ぜひとも千葉県内の映画館には頑張ってロングラン上映してもらいたいものですね。

ぷよぷよ

次にぷよぷよです。小坂が家で鹿野とゲームをしているシーンで、ぷよぷよの画面が一時的に映されます。鹿野を倒した直前のBGMを聞くに、小坂は結構な大連鎖を組んでいたことがうかがえます。

また、屋上で寝そべりながらスマホをいじっているシーンでも、小坂はぷよぷよをやっています。これもBGMの音で彼が大連鎖を組んでいることがわかります。連鎖が大きくなってくると電子音のキーが上がるゲームです。

一方のやり込められた鹿野は、自分もスマホアプリのぷよぷよをダウンロードしてプレイします。
小坂に甘える一方で、小坂の好きなものを自分も好きになろう、そんな思いが見えたようで、いろんなものが「嫌い」だった彼女に成長を感じた嬉しい演出でした。

『恋の渦』ではパーティーゲームとしてぷよぷよがシーンに用いられていましたが、本作の小坂はガチ勢でしたね。僕も子供の頃から大学生くらいまでずっとやっていたシリーズなので親近感を感じました。

小坂ママ

最後に、生意気な小坂おぼっちゃまのお母さんです。作内で唯一鹿野の下の名前「なな」を呼ぶ人物です。
旦那さん(小坂の父)はすでに亡くなっており、母子家庭で小坂を高校に通わせていることが、小坂の発言から明らかになっています。

鹿野が小坂の家でゲームをしたシーンや(制服を着ていたので放課後でしょう)、テストで酷い点数を取り「今日お前んち泊まるわ」と話したシーンなど、高校生の異性間交際としては異常なほどあっさりと「家」が出てきました。

一つ目のゲームのシーンで、僕は小坂が親に隠れて鹿野を呼んでいるのかと思いました。
二つ目の「今日お前んち泊まるわ」の時は小坂が一人暮らしをしているのでは?とすら邪推しました。
でもそれは間違いでした。

小坂は(どういう紹介をしたのかはわかりませんが)きちんとクラスメイトとして鹿野を母親に紹介し、親公認の仲としました。それは鹿野が結局家に泊まらず「ななちゃん?来てないわよ」と小坂に返したお母さんの返答や、鹿野が小坂ママとLINEの連絡先を交換する間柄になっていたことからも明らかです。
小坂は母親と凄く良い関係にあったのだろうなと想像できるシーンでした。

だからこそ、鹿野が“あの後”に小坂のマンションを訪れ、玄関を開けたお母さんが部屋の奥に向かって小坂を呼んだシーンには涙を禁じえませんでした。正直、鑑賞していて一番泣いたのはここです。
前述したように小坂ママは旦那さんをすでに亡くしています。それを考えると彼女の今後の人生に、鹿野が少しでも寄り添ってあげることができたらいいですね。

誤解を恐れずに言えば、『ホットギミック』などと同様に、万人にお勧めできる作品ではないかもしれません。この作品は恋愛の山場が描かれている映画ではないですし、手持ちカメラやボケの強いカットの好き嫌いも別れるかもしれません。

ただし僕は上述したように、Twitterでの口コミから興味を持ってこの作品に出会い、好きになることができました。構成上、小坂と鹿野の部分の叙述が多くなってしまいましたが、撫子ちゃんと一緒に一喜一憂したし、自己承認欲求が強すぎるきゃぴ子の気持ちもわかりました。

素直に良い映画だと思います。この記事を読んでくださった人に少しでも響いてくれたら嬉しいです。

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