映画『冷たい熱帯魚』〜実話をモデルにした凶悪〜

11年公開の園子温監督作品『冷たい熱帯魚』を鑑賞しました。

主演は吹越満。園子温監督の妻の神楽坂恵が吹越の妻役で出ています。

本作品はR18+指定。1993年に起きた埼玉愛犬家殺人事件をモデルにしています。

他の出演は、でんでん、黒沢あすか、梶原ひかり、渡辺哲、諏訪太朗ら。

園子温の本気を見た

まずネタバレなしの範囲での感想です。

これまで僕は園子温監督の作品をいくつか観ています。

 

園監督の映画は、良くも悪くも突き抜けているものが多く、ゆえに僕も当初は苦手だったんですが、耐性ができてくると不思議と気にならなくなってくるもの。

近年はテーマ設定に突き進む愚直さと、エロガキ度満点のスケベ具合を楽しんで観ていましたが、本作ではその真っ直ぐさがぐいぐいと胸をえぐってきます。心じゃなくて身体の臓器をぐしゃっとつかまれる感覚でした。

▲黒沢あすかが血を流しながら笑うシーン。そんな笑えません。怖い。 (画像は映画ドットコムより)

人間が傷つき、苦しみ、死に、ぐちゃぐちゃになっていく映画です。また上でも述べましたが、実話をもとにしている作品です。
その残虐な再現性に震撼し、時折吐き気すら覚えました。

単なるフィクションではなくて、このような事件は過去にあった。そして園子温はその事件をこのような形で映画にした。

凄惨さの中にどこか非現実的な要素のあった園監督の映画に慣れていた人にとっては結構ハードルが高いかもしれません。

でも僕はこの作品を観ることができて本当に良かった。

以下、ネタバレを含めて感想を書いていきます。

 

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性にのみ鬱屈からの解放を求める

吹越が演じた社本はしがない熱帯魚店の店主。妻に先立たれ後妻の妙子(神楽坂恵)と娘の美津子(梶原ひかり)と3人で暮らす生活です。

娘が新しい母に対して心を開かないというのはよくあることですが、万引きをしてつかまった美津子のところに駆けつけた妙子の格好を見ると、娘から信頼されなくてもおかしくないのかなと思ってしまいます。

映画冒頭のスーパーマーケットでカゴに冷凍食品やインスタント食品をバンバン詰め込んでいく妙子。

その描写は、彼女の日常で感じている不満や家族への思いやりの欠如を表していて、後に簡単に村田(でんでん)にマインドコントロールされる危うさを示唆していました。

以前、『恋の罪』という同じく2011年の園作品を観ましたが(未レビュー)、神楽坂恵の描かれ方はそちらに似てるかなとも。
臆病な鬱屈から性的な部分で解放される。これは神楽坂恵の肉感的なシルエットと素朴な表情を、園子温監督が上手く使っているなという印象です。
本作の神楽坂恵は人間の弱さが滲み出たような役でした。

 

 

▲熱帯魚店で魚を鑑賞する村田(でんでん)。社本家を巧みな話術で蝕んでいきます。 (画像は映画ドットコムより)

社本夫妻の弱さ

 

さて、その妙子を後妻に迎えた社本(吹越)はどうでしょうか。

彼は周りの人を人を消していく村田に対して戸惑い、怯え、死体遺棄の片棒を担ぐことになってしまいます。

原案となった事件では、社本に当たる役が告発者でもあり被害者でもあるのですが、園監督はそれに一味加えて臆病な社本を最後には狂った支配者に変えていきます。

妙子が村田に心理的な面で洗脳される一方で、社本は娘の美津子(梶原)を人質に取られるような形で村田からの抑圧を受け入れていくようになりました。

 

 

▲村田の命令に従う社本。悪党はこうやって駒を増やしていくんだなという好例。 (画像は映画ドットコムより)

死体処理をする樹海で、警察に通報してからのカーチェイスで。途中で逃げ出す機会はたくさんありました。

でもそれをしなかったのは半ば人質に取られた家族を守るため、でなはく、単純に彼が村田から逃げるのを怖がったからだと思うんです。

冴えない社本を演じた吹越満もまた見事でしたが、身勝手な臆病者という印象。

終盤の村田が乗り移った社本は美津子に向かって手を上げますが、冷凍食品ばかり食卓に出す妙子にもしかしたら不満があったのかもしれません。しかし彼は言わなかった。それは優しさではなくて諦めとか恐怖だったのではないでしょうか。

社本夫婦は双方ともに弱さが出ていました。それが人間らしさなのかはまた別の話かと。

 

恐ろしきでんでん、そして死体処理

スーパーで万引きをした美津子と店員の間をとりもつことで社本家に恩を売り、蝕んでいきます。このあたりは家庭ごと乗っ取ろうとする犯罪者に似ていますね。『クリーピー』で触れた北九州連続殺人事件の犯人にも近いものがあります。

そして血肉が目に突き刺さる死体の解体。
骨と肉を分けた上で肉を小さな塊に切り分けていきます。今年起きた座間の連続殺人も然りですが、魚や食肉をそうするかのようにでんでんと黒沢あすか演じる村田夫妻が浴室で解体するのを見て吐き気を覚えるのは社本だけではないでしょう。
でんでんと黒沢あすかは鼻歌を歌いながら遺体を切り分けていきます。

犯罪者にはいくつかの心理的段階があると思いますが、村田夫妻は恐怖や快楽を超越した仕事の一つとして楽しんでいるように見えました。

ヌードやベッドシーンがありますが、R18+指定となった一番の理由はこの解体作業のシーンでしょう。

グロテスクではありますが、殺して、布でくるんで、運んで、切って、燃やして捨てて。これは極めて実践的な殺人及び死体遺棄のやり方です。

 

 

▲自らの熱帯魚店を見せる村田(でんでん) (画像は映画ドットコムより)

 

 

でんでん演じる村田は社本を挑発した末、最終的に刺されてしまうわけですがどこかそうなること、終わらせることを望んでいるようにも見えました。

別の視点では村田妻(黒沢)も夫の限界を感じており、それが狂気じみたあの笑い声と、支配者になった社本への服従として表れたのではないでしょうか。

人物の印象的な死に方、また村田の熱帯魚店スタッフの白いタンクトップに園子温らしさは感じました。

ただし、一番描きたかったのは普通の家庭が悪魔の手によって瓦解していくところなのかなと。すぐ近くにいる人間が凶悪犯だったというストーリー。ともすれば人間不信になりそうですが、実際こういう事件は起こっているわけですからね。

自己防衛をするにはどうするか。運だけでは足りない何かを教えてくれる作品かなと思います。

★★★★★。

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