映画『私をくいとめて』ネタバレ感想|30代の“ミニお局”が抱く結婚観

私をくいとめて タイトル画像

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

自問自答という言葉があります。

自分で問いかけ、自分で答えること。
出典:コトバンク

小さい頃から、成人して一人暮らしを始めてからも、僕はこの自問自答というコミュニケーションを少なからずしてきました。

迷ったとき、自分に「どっちがいいと思う?」って問いかけたり、
家に帰ってきて「疲れたね」と語りかけたり。
それは心の中の声だったり、時には言葉として口に出したり。

はたから見れば独り言を口走るやばい奴なのですが、まあ誰も見ていないしということで、結構頻繁にやってきました。

今回紹介する映画『私をくいとめて』は、脳内にいる自分の相談役「A」と話しながら、一人暮らしを満喫している31歳女性が主人公。

主演の黒田みつ子のん(能年玲奈)さん、彼女が気になっている年下男性の多田くん林遣都さんが演じています。



予告編

あらすじ紹介

おひとりさまライフがすっかり板についた黒田みつ子、31歳
みつ子がひとりで楽しく生きているのには訳がある。
脳内に相談役「A」がいるのだ。
人間関係や身の振り方に迷ったときはもう一人の自分「A」がいつも正しいアンサーをくれる。
「A」と一緒に平和な日常がずっと続くと思っていた、そんなある日、みつ子は年下の営業マン 多田くんに恋をしてしまう。
きっと多田君と自分は両思いだと信じて、みつ子は「A」と共に一歩前へふみだすことにする。

出典:公式サイト

「おひとりさま」という言葉は、この作品のキーポイントになってきます。

これは日テレで放送された「おひとりさま行動」の難易度を表したものですが、『私をくいとめて』の主人公・みつ子はこのピラミッドを続々と踏破していきます。

特にディズニーランドの事例を出している原作小説(綿矢りささん)は顕著です。ちなみに原作ではみつ子と多田くんは同い年ですね。

『私をくいとめて』のスタッフ、キャスト

監督、脚本 大九明子
原作 綿矢りさ
黒田みつ子 のん
多田くん 林遣都
ノゾミさん(会社先輩) 臼田あさ美
カーター
(色々濃い男性社員)
若林拓也
皐月(唯一の友達) 橋本愛
澤田さん(上司) 片桐はいり
A(声) 中村倫也

Aの声は誰?

脳内相談役・「A」の声が誰?という話なのですが、映画公開2日目にして情報が解禁されたので掲載します。
中村倫也さんです。

原作小説では、みつ子が「A」の声を「軽く子どもをあやすような、男でも女でもない中立的な立場の声」と表現しており、以下の描写があるので引用させていただきます。

思春期の頃に私を苦しめていた自意識過剰の教育ママの声と比べると、Aの声は穏やかで、ときにさりげなくホットミルクのように甘く温かい。理想の恋人の声だ。それが逆に、ちょっと後ろめたい。モテないあまり、スマホアプリの恋愛ゲームで“お前じゃなきゃダメなんだ”“おれ以上お前を愛している奴はいない”などとメロメロの甘い言葉を声優の良い声で語る理想のイケメン男子を、脳に内蔵してしまったようで。

出典:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫)

「A」がみつ子にとってどんな声かという表現は映画内では特にありません。
が、中村倫也さんの紡ぐ優しい声は確かに中立的な立場で、みつ子の人生にやってくる数多くの岐路で指南をしてくれる、原作通りの「相談役」かと思います。

天から降り注ぐ中村倫也さんの声に導かれ、子犬のような林遣都さんとの駆け引きを楽しむことができる作品ですね。

のん×橋本愛

もう一つキャストの注目ポイントを挙げると、みつ子のただ一人の友人として登場する皐月というキャラクターです。
演じているのは橋本愛さん

のんさんと橋本さんと言えば、2013年の朝ドラ「あまちゃん」で共演した二人です。
あれから7年。高校生を演じていた彼女たちが、結婚や出産を意識する年代の女性として描かれています。

共演自体も7年ぶりということでしたが、「あまちゃん」を見ていた人にとっては、のんさんと橋本さんの会話シーンにきっと感じるものがあるはずです。

言葉は多くなくとも心が通い合っている、そんな距離感が彼女たちの間にはあります。

ぜひ劇場で確かめてみてください!

オリコンさんの記事がとても見応えがあります!時間のある方はご覧ください。

勝手にふるえてろ

綿矢りささん原作、大九明子監督の作品としては3年前に公開された『勝手にふるえてろ』という映画があります。

こちらは中学時代からの片想いをこじらせ、自分語りの妄想を爆発させるヨシカという主人公のOLを松岡茉優さんが演じているんですが、これがまた衝撃的な映画でした。

『勝手にふるえてろ』をご覧になった方は『私をくいとめて』を鑑賞するにあたっての物差しにしたと思います。

『私をくいとめて』を観る前でも、観た後でも、ぜひご覧いただきたい傑作ですね。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。




映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

どこにわかりみを感じるか

『私をくいとめて』のキャッチフレーズには、
「わかりみ深すぎ、崖っぷちロマンス!」
という言葉が使われています。

脳内に相談役「A」(中村倫也)を宿らせるみつ子(のん)のキャラクターや、彼女が敢行するおひとりさま行動、あるいは年下男子(多田くん)との甘酸っぱい恋の押し引き。

自分自身と重ね合わせながら、どこに深いわかりみを感じていくか、がこの映画の醍醐味だと思います。

  1. みつ子のおひとりさま行動の描写
  2. みつ子の部屋での生活
  3. 爆発するみつ子の本心
  4. 多田くんとの関係
  5. 唯一の友・皐月との関係
  6. 会社の先輩との関係
  7. 結婚への潜在意識

本筋としてはこんな感じな中で、少し間延びしたかなと感じました。
扱ってるトピックは原作通りなんですけどね。

イタリアのシーンに思うこと

一番違和感というか、浮いていたように感じるのが、みつ子がイタリアに渡り、皐月(橋本愛)と過ごしたシーン。

イタリアに来て数年になる皐月にとっての「過去」が、みつ子にとっての現在進行形(過去の場所から抜け出ていない)だったり、一方で皐月が「近所のカフェくらいまでしか行けない」と今でもまだ馴染みきれていない様子をこぼすなど、結構グサグサくるところはあったんですけど、皐月のキャラクター描写がもう少し欲しかったかなというのが本音です。

みつ子は、皐月以外誰も味方(=言葉の通じる人)がいない非日常アウェー空間の中で、おひとりさまから「お客さま」へとなり、バカンスのはずなのに、結構気を遣って過ごしているように見えます。

一方で皐月にとっては、彼女の家は文字通りホームであり、さらに皐月は結婚してお腹の中には赤ちゃんも宿しているんですね。

みつ子の持っていないものを皐月が持っていて、その「皐月が持っているもの」に対してみつ子が色々と思うところがあるはずなんですけど、語られることがあまりなかったですね。
皐月の大きいお腹を見てすぐに祝福の言葉をかけなかった、とかの描写はありましたが。

皐月に対してはみつ子の心内独白を使って、彼女がみつ子にとってどんな存在の人なのか、彼女についてみつ子がどう思っているのか、をもう少し見たかったですね。
のんさんと橋本愛さんという役者さん自体の関係性にだいぶ助けられていた感じも受けました。

脱・おひとりさまへ

この作品は「おひとりさま(=ぼっち)」を肯定している一方で、おひとりさまが抱く、恋愛とか結婚への潜在的な意識にも触れています。

序盤、一人カフェを嗜んでいるみつ子の隣で、近況報告をし合う女性二人組。

どちらも彼氏持ちではない30過ぎの女性と見られる中で、エミリオプッチのワンピースに身を包む派手な女性(後藤ユウミ)が、ある程度主導権を持ってトークを展開していきます。

互いに恋人がいない、という並立の前提条件で、あなた「も」きっといい出会いがあるよ、というちょい上からの慰めです。微妙なマウントが介在しています。

しかし会話が進んでいくと、主導権を握られていたように思われる方の女性(山田真歩)は、年下男から告られており、付き合うかの判断保留中であることが明らかにされます。
そして「お互い彼氏いないけど頑張ろうねぇ」の並列的関係が崩れ、エミリオプッチの声が少しトーンダウンしていく様が描かれます。

それを見てみつ子は、「A」と一緒に傍観の立場からツッコミを入れました。

後藤ユウミさんの恋愛トークは『恋の渦』もオススメです。

原作小説では、みつ子の結婚に対する自意識がもっと具体的に描かれています。

プッチの話を聞いていると、結婚したいと口では言ってるけどまだ現実としては捉えられてないような、年齢にしては幼い印象を受けたけど、彼女の周りの女性が四十前にようやく結婚する人たちが多いなら、まだまだ本気で焦ってない理由もうなずける。
同じ都内で働く未婚の女性でも、私と彼女とでは周りの環境がずいぶん違うようだ。私の周りでは二十代から三十代中盤までに結婚するコースの女性か、ずっと独身のままでいる女性かに分かれる。どっちに進みたいとはっきり決めたわけでもないのに、一生独身コースを着々と歩んでいる自分は、彼女みたいにあけっぴろげに“結婚したい”とは言えない分、中途半端な欲望と諦めを抱えて日々を歩んでいる。

出典:綿矢りさ『私をくいとめて』(朝日文庫)

つまりみつ子は、呑気なミニお局(笑)という立場で会社に所属し、「一生独身コース」側の立ち位置にいます。

みつ子の上司・澤田さん(片桐はいり)が結婚していると聞いて、驚いたみつ子の描写も印象的でした。

彼女の中での澤田さんのイメージは、ヘッドハンティングされて仕事バリバリの上司。未婚。

この「上司」と「未婚」の間をつなぐものは、仕事バリバリ“だけど”未婚、なのか、仕事バリバリ“だから”未婚、なのかは人の捉え方によると思いますけど、みつ子は澤田さんの置かれた状況を自分と並列で見ていたんですね。それは幾らかの安心感をみつ子に与えていたかもしれません。
貴女も一生独身コースなのだと。

でも、澤田さんの口から「旦那」という言葉が飛び出して、みつ子はエミリオプッチと同じ立場になるわけですね。

おひとりさまだって簡単じゃない

映画の公式サイトでは、みつ子の部屋のインテリア情報が掲載されています。

実は原作ではみつ子の部屋は、見せない収納を駆使し、オフホワイトでまとめた無機質な部屋であることが描写されているんですけど、映画ではもう少し生活感のある部屋になっていました。

とはいえ、みつ子は休みの日に掃除機をかけて、いつ多田くん(林遣都)が来ても困らないレベルに部屋を綺麗にしています。

これは自分が男だからなのかもしれませんが、みつ子の生活力は本当に高いレベルにあると思うんですよね。

休みの日にしっかりとやることを決めて掃除、洗濯といった家事をして、「おひとりさま」という形容詞をつけながらも外にも出かけて、食品サンプル講座や焼肉、日帰り温泉、果てには海外旅行まで、行動力がすごいんですよ。

リッチに惰眠を貪って、夕方になってのそのそ行動を始める、なんてしないんですよね。

休みの日に家でくつろいでいる人は、そもそも外に出ないから「おひとりさま」の行動まで至らないわけです。
だから時に自虐的に発される「おひとりさま」っていうのは、独り者が誰でもなれる領域ではありません。

正しく健康的な生活を送っている時点で、みつ子は十分社会的な人間として胸を張っていいと思います。

僕はみつ子の「おひとりさま」に対して、そこまで深いわかりみを感じることができなかったんですけど、それは彼女の生活の質、QOLみたいなものが自分からは眩しく、正しく見えたからだと思います。

能年玲奈とみつ子

綿矢さん、大九監督のタッグで製作された『勝手にふるえてろ』で主演を務めた松岡茉優は、圧巻でした。
主人公のヨシカに憑依していたといっても過言ではありません。

ヨシカが松岡茉優の顔をした自我爆発キャラクターだとすれば、『私をくいとめて』のみつ子は、のんという女優自身が持つキャラクター、インパクトが強かったです。
のんさんは、彼女自身の雰囲気とか、言葉の操り方とか、役に染まるというよりも、役を自分色に染め上げる役者さんに映るんですよね。

だから悩むみつ子も、心躍らせるみつ子も、カフェで聞き耳をたてるみつ子も、全部のんさんのイメージが乗った31歳女性なんです。

原作を読んでみつ子に抱いていたのは、もう少し自分が閉じたキャラクターだったんですが、映画のみつ子は、のんさんだからこそ成立していたのでは?と思えるほどでした。

そもそも31歳にしてはあどけなさすぎだよねとか、最初は思っていたんですよ。
でも周りの31歳を見ていると、老けてる人も、童顔の人もいるわけです。

25を越えたくらいから、結構周りの人の年齢ってわからないものです。高校生みたいに制服を着れる期間とかが決まってるわけでもないですしね。

あと印象的だったのはみつ子がアップで映されるシーン。
造形美というか、本当に綺麗な顔だと改めて感じましたし、これもまたのんさんだからこそ、の部分かと。

俳優自身の色という意味では、多田くんを演じた林遣都さんも「ならでは」の配役だったと思います。

原作の多田くんは、みつ子と同い年で、大きな体の男性、というキャラクタライズがされていました。

でも、映画の多田くん、林遣都氏はイタズラっぽい笑みをたたえ、正しく可愛く、みつ子の懐に潜り込んできます。
取引先の女性社員に「ご飯おすそ分けして欲しいんですけど、いいすか?(ニコッ)」が許される子犬のような男性って、なかなか見つからないと思います。

みつ子さんの家に初めて上がる時に新品の靴下をおろし(靴は履き古したスペルガでしたが笑)、東京タワーで告白した時の前置きも心遣いが感じられて素敵でしたね。
のんさんのみつ子と同じくらいハマっていたキャスティングでした。みつ子を導く「A」に声を吹き込んだ中村倫也さんの優しい声もそうですね。

 

公開日の金曜日に観たんですが、映画館内では結構笑いも起きていて、人を笑顔にできる映画だと思います。
大瀧詠一さんの「君は天然色」も印象的でしたね。

映画はかなり忠実に作られていますが、原作小説もまた違う趣がありますので是非ご覧ください。

こんな映画もおすすめ

勝手にふるえてろ

大九監督、綿矢りさ原作。松岡茉優の演じるヨシカが中学時代からの片想いをこじらせ、自分語りの妄想を爆発させます。

もらとりあむタマ子

山梨の実家で暮らす主人公・タマ子がモラトリアムという名のニート生活を営みます。
前田敦子の演技が圧倒的なので、ぜひ見ていただきたい傑作。

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