映画『桐島、部活やめるってよ』ネタバレ感想|邦画史に残る傑作

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昨日は12年の映画『桐島、部活やめるってよ』を鑑賞。吉田大八監督。主演に神木隆之介、原作は朝井リョウの同名小説。

一年以上前とはいえ、小説を読んだので何となく筋は覚えている。

劇場版も評価が高かったので気になっていたが、CATVで放送されたので鑑賞する機会に恵まれた。

あらすじ紹介

田舎町の県立高校で映画部に所属する前田涼也は、クラスの中では静かで目立たない、最下層に位置する存在。監督作品がコンクールで表彰されても、クラスメイトには相手にしてもらえなかった。そんなある日、バレー部のキャプテンを務める桐島が突然部活を辞めたことをきっかけに、各部やクラスの人間関係に徐々に歪みが広がりはじめ、それまで存在していた校内のヒエラルキーが崩壊していく。

出典:映画.com

スタッフ、キャスト

監督・脚本:吉田大八
原作:朝井リョウ
前田涼也:神木隆之介
東原かすみ:橋本愛
沢島亜矢:大後寿々花
武文:前野朋哉
宮部実果:清水くるみ
詩織:藤井武美
梨紗:山本美月
沙奈:松岡茉優
竜汰:落合モトキ
友弘:浅香航大
風助:太賀
菊池宏樹:東出昌大

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



回想を補う多角的視点

この作品のいいところは多角的な視点を通したオムニバスと、スクールカーストを描いた世界観である。

小説ではその章ごとにフィーチャーされた人物に、主眼を置いて進んでいったが、この映画には人物によるナレーションはなく、ある意味客観を貫いている。

不親切といえば不親切かもしれないが、人物の関係図さえ頭に入れば、原作を未読の人も入り込めると思う。

原作の形式とは異なり、時間軸で区切ったオムニバスの形をとっているが、複数の視点から切り取った同じシーンという面白さは残っている。

同じシーンでも女子4人組が見たものと前田(神木)が見たものとは違うし、片方のシーンでは写り込んでいない(片方側の視点では認識されていない)台詞などが、キャラクターの人となりや、心情を際立たせていた。

さらに特筆すべきは、全く回想シーンがないところ。

前述の同じ場面を複数の視点によって重ねることはあっても、過去の回想シーンや妄想シーンで説明を補強するパターンがない。

だから、スクリーンの中で起こっていることは全てが現在進行形で、それでいて視聴者を置き去りにしない工夫がシーンの重ね合わせだと感じた。

スクールカースト

さて、スクールカーストはどうだったか。

これも小説に匹敵しうる出来でした。

そもそもスクールカーストって何や?というと、校内、ひいてはクラスや部活動や、もっと小さいコミュニティでも当てはまる序列関係。

本作ではクラスという範囲は越えているにせよ、放課後にバスケをやる宏樹、竜汰、友弘(帰宅部&野球部幽霊部員)という男の子3人組と桐島、女子は桐島の彼女である梨紗と宏樹の彼女である沙奈、バドミントン部のかすみと実果といったあたりが上位のカーストグループである。

主演の神木隆之介は映画部という所属がゆえに下位のカーストに属する生徒として位置付けられている。

沢島という吹奏楽部長を演じた大後寿々花(明日ママのオツボネ役)も、女子のその他大勢の序列である。

このスクールカーストは上手に描かれているのだけど、

学内の序列関係と聞くと上位グループが下位グループをパシリにしたり、いじめたり、という光景を思い描く人もいると思う。

でも、朝井リョウの生きた高校生活ではそれは違ってーー僕も彼と歳があまり変わらないのでわかるけどーー上位カーストと下位が接点を持つことは基本的にない。

桐島を描写した数少ないシーンで、彼女の梨紗(山本美月)がバレーボール部員に「(桐島は)元から貴方たちのことは眼中に無いんじゃないの」と言い放つシーンがある。

原作よりも明らかに桐島に対しての描写が乏しいので、これを鵜呑みにされても桐島が可哀想なのだが、梨紗の感覚ではそうなのである。

上位カーストにとって下位の連中とは、自分たち以外の何者か、であり眼中に無い。もちろん下位カーストもそれを自覚している。

その最たる例が体育のサッカーのチーム決めであり「取りっぴ(これ方言ですかね?)」で最後まで残った2人が映画部の2人だった。体育のサッカーは彼等下位が活躍できる場ではなく、むしろそこで活躍できるような人間は上位カーストに入れてもらえるのだろう。

また上位カーストにとっての何者かが眼中の範囲に侵入した場合も沙奈と沢島(大後寿々花)を例にとって描かれている。

沙奈を演じたのはあまちゃんのGMTで人気を博した松岡茉優。彼女はカーストを描く上で一番のキーパーソンで、上位に存在するステータスを気にしながらの学校生活を送っている。
ハタから見たら嫌な奴だが、やり過ぎていないので現実味がある。

桐島のキャラクター像描写を大幅に省略したのでテーマに焦点が絞れて良かったと思う。
実写版を見ることで、文章の飾り部分に目がいった原作もやっぱり良い視点で書いているなと僕は再評価できた。

校内での立ち位置、発言権、居場所、恋心。そういうのって自由でありそうで実は全然自由じゃない。

撮り方も含めてとても良い映画でした。
かすみを演じた橋本愛が可愛い。

かくいう僕は、、、というと、うちの学校も比較的序列はあんな関係。

僕は帰宅部で、上位とも下位とも普通に話すんだけど、グループで行動するわけではないので結果的に居場所というのは凄く狭かった。

ただ、女子の上位カーストに仲の良いのがいたので、特に本作の沙奈的なキャラとは結構ウマが合ってよく話していた。そんなところも沙奈が好きだった一つの理由。

視聴者の「あるある感」を高度な演出力で刺激した作品。
小説読んで、また観直したい。