映画『初恋』ネタバレ感想〜不死身のベッキー爆誕〜

タイトル画像
※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

こんにちは。織田です。

2020年2月公開の映画『初恋』を鑑賞しました。

監督は日本が誇るバイオレーション描写の使い手・三池崇史監督
ジャンルを選ばずにお仕事をする印象が強い三池監督にとって、意外?な初めての恋愛映画です。

主演は窪田正孝。2019年に水川あさみとの結婚を発表しましたが、もう31歳なんですね。

2008年の映画『同窓会』では窪田正孝の幼き日を鑑賞できます。プロットも面白いのでよろしければ是非!

タイトル画像

映画『同窓会』〜映画愛がひしひしと〜

2015年1月2日



『初恋』のスタッフ、キャスト

監督:三池崇史
脚本:中村雅
葛城レオ:窪田正孝
モニカ:小西桜子
大伴:大森南朋
加瀬:染谷将太
ジュリ:ベッキー
ヤス:三浦貴大
市川:村上淳
城島:出合正幸
境医師:滝藤賢一
チアチー:藤岡麻美
権藤:内野聖陽

下のネタバレ感想に少し書きますが、窪田正孝ベッキーの演技が良いです。
特にベッキーは、これまでの「うるさ型」「世話焼き好きの女友達」「いいヤツ」枠からの逸脱を大きく印象付けました。

以前は女性好感度が良かったこと、不倫スキャンダルがあったこと。
色々な要素はあると思いますが、彼女の元気な姿と女優としての新たな一面を見ることができる役柄です。

オーディションで選ばれたという小西桜子は前田敦子に似ていました。
鑑賞後にネットの感想を読んでいたら同じようなものも散見されたので、結構みなさん思うところは似ているのかもしれません。

また中国マフィアの女幹部らしきチアチーを演じた藤岡麻美は、ディーン・フジオカの実妹。こちらも主要キャラですので是非注目してみてください。

非常に登場人物が多い中で、ある程度おのおののキャラは立っています。
このキャラクター好きだわ〜的な人に出会える作品であるかもしれません。

 

あらすじ紹介

新宿・歌舞伎町。天才プロボクサーの葛城レオは、格下相手にまさかのKO負けを喫し、その後の診察では病に侵されていて余命わずかと告げられる。自暴自棄になり夜の街をさまよっていたレオは、必死で逃げる少女とすれ違い、追ってきた男をパンチ一発で倒してしまう。その男は、ヤクザと手を組む悪徳刑事だった。一方、モニカと名乗った少女は、父親の借金のせいでヤクザに囲われていた。こうしてひょんな成り行きから、モニカの逃亡を手助けするハメになるレオだったが…。

出典:allcinema

 

暴力団の抗争を描きつつも、ユーモアという調味料を一定の割合で注入。
シリアスになりすぎないように描いている手法は、園子温監督の『地獄でなぜ悪い』とも似ています。

タイトル画像

映画『地獄でなぜ悪い』〜アクション映画を作ろう〜

2014年3月1日

『初恋』が海外から逆輸入の形で日本公開されたのも、海外公開時の評価が高かったのも納得です。

やるか、やられるか。

行間を読むとか、丁寧な伏線の回収とか、コンプライアンス遵守とか、そういった芸術性や映画のしきたりみたいなものを取っ払って爽快に抗争劇をぶち抜いてきました。

人が結構簡単に死んでしまう類のマフィア映画が好きな方には特におすすめです!!

こんなあなたにオススメ

三池監督は容赦ないバイオレーションや血しぶきブシャー系が得意な監督さんですが、その一方でセクシー路線には舵を切らない監督でもあります。

本作品はヤクザをテーマにしていて、なおかつ欲望のうごめく街・歌舞伎町を舞台。加えて主役のモニカ(小西桜子)は風俗嬢と、セクシー描写を入れようと思えばいくらでも入れられるテーマでした。

にも関わらず、この作品にいわゆるお色気描写はありません。
これは本当に三池監督の才能だと思いますし、そういったシーンが苦手な人も安心して見ることができる映画です。

登場人物があっさりと死んでしまうので暴力描写を含めると『神さまの言うとおり』『悪の教典』に近いと思います。
こちらの作品が好きだった方には、結構刺さる映画なのではないでしょうか。

映画『神さまの言うとおり』ネタバレ感想〜続編は果たして?〜

2014年12月12日
悪の教典 タイトル画像

映画『悪の教典』ネタバレ感想〜強すぎるハスミンをどう見るか?〜

2020年4月19日

また、MIHOシネマさんではネタバレなしの『初恋』概要解説とともに、合わせて観たい作品を紹介されています。

興味のある方は是非ご覧ください!

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

この映画はコメディーである

繰り返しになりますが、この作品では大変よく人が死にます。
登場人物のほとんどが一夜にしてお亡くなりになられました。

銃撃されたり刀で斬られたり殴る蹴るでやられたり、あの手この手で死体が増えていくわけですが、そのほとんどはゲームで敵を撃っていくようにあっさりとした殺しとして描かれています。

観ててウワッとなるのは車で轢き殺すシーンくらいでしょうか。
 

死ぬ間際に仰々しく何かを言い残したりすることもなければ、こちらが悲しくなるような「惜しい人をなくした…」感もありません。

スプラッター要素にも重きを置いていたであろう『悪の教典』と比べると「やるか、やられるか」の部分はかなりライトで、ゲーム感覚に近いものがありました。

「えっ、それで死んじゃうの?」的な最期も特徴的でした。
殺した側のキャラクターが「嘘だろ?」といった感じで、ブチギレながら狼狽する様も面白かったですね。

加瀬(染谷将太)ジュリ(ベッキー)宅で始末を図ろうとした一連のシーンは特に秀逸。

そう。この作品はコメディーなのです。

だから染谷将太が生きてくる

『悪の教典』、『神さまの言うとおり』にも出演したほか、これまでの役者キャリアで様々なキャラクターを演じてきた染谷将太

今回は加瀬という暴力団組員の策士の役でしたが、時間が経つにつれてイカれていく様を見事に演じていました。

これはそのまま染谷将太という役者の存在価値でもあると思うんですけど、染谷将太が演じていると、どんなに現実感のないキャラクターだったり、ヤバすぎてどうしようもないキャラクターにも説得力が生まれると思うんですよね。

目ん玉ひん剥いて豹変する姿も、ネジが外れたように笑う姿も、染谷将太が演じているというだけで「あぁ、やっぱりね」と思えてしまう。
誤解を恐れずに言えば安心感という言葉に言い換えてもいいのかもしれません。

 
そんな彼の演じた加瀬が、この作品で悪目立ちしなかったのも、映画全体にこれはコメディーですよという線引きがはっきりしていたから。

加瀬はマジでどうしようもない外道でしたが、他のキャラクターもそれなりにイカれていました。
その筆頭が、加瀬に恋人を殺されたジュリ(ベッキー)です。

狂気のベッキーに注目!

初登場シーンで「お前うるせぇんだよ!」とモニカ(小西桜子)に前蹴りをかまし、恋人のヤス(三浦貴大)を殺されてからは仇討ちに執念を燃やす狂気の女。

そんなジュリを演じたのはベッキーです。

証拠隠滅を図る加瀬(染谷将太)の放火から奇跡的に脱出し、加瀬への復讐を誓う彼女の執念。

もはや執念とか絶許とかいう言葉では説明不足です。
「ぜってーぶっ殺す!!!!!!」という怒りに体と心を支配されたかのような不死身の狂気の誕生です。

生還を果たした後のジュリは、誰よりも真っ直ぐにイカれており、この作品で一番のインパクトを与えていたことは間違いないでしょう。

加瀬に復讐を果たした後も、彼女はきっと地獄の底まで追いかけていったと思います。多分いくら斬って刺してメタメタにしても彼女の怒りと喪失感は収まらないはずです。

ベッキーを語る上で外せないのが、2016年に明らかになった不倫騒動。
それまでは素直かつ真っ当な発言で、とりわけ女性からの好感度が高かったタレントでしたが、この騒動でバッシングを受けて好感度は大きく下がってしまいました。

等身大の自分をキッパリ代弁してくれるような、真っ直ぐな正しさが、彼女の魅力であり多くの方から信頼を得ている理由でしたが、世論はもうその信頼を失ってしまいました。
 

今回の『初恋』で演じた鬼気迫るジュリが、「過去の好感度を捨てた」演技とか「キャラ変した」演技として評価されるのも分かります。

でも僕はジュリの真っ直ぐなイカれぶりに好感を抱きましたし、その「真っ直ぐさ」ってやっぱりベッキーという人間が元々持っていた個性だと思うんです。

騒動後にどんな風に自分の立ち位置を変えたかは、ベッキー本人しかわからないことです。
でも、「あの騒動があったから」今回のジュリが生まれたという因果ではなく、俳優ベッキーの幅広さを見せてくれた。そんな印象です。

どんな役にせよ、真っ直ぐを貫く彼女の演技がまたすぐに見たくなりました。

窪田正孝の現実感が良い

もう一人、非常に印象に残った役者を挙げます。
本作で主人公・葛城レオを務めた窪田正孝です。

格下にラッキーパンチを浴びてダウンし、医師から余命わずかの脳腫瘍と診察されたレオは、今回のヤクザ抗争劇において部外者であり、巻き込まれた一般市民という形でした。

見るからに超ワケあり女のユリ(モニカ)を巡るいざこざに首を突っ込んだレオは、どうせ死ぬなら精神だったと思いますが、とはいえ彼女を守って死にたいとか、最後にひと暴れしてやるとか、そこまで崇高な犠牲精神ではなかったと思います。

カーチェイスに巻き込まれるまでレオはこの騒動の本質をわかっていなかったと思いますし、どこか傍観者の視点を貫いていました。
この傍観者目線は、冒頭のボクシングの試合から終盤まで一貫していました。

「どこか冷めた目で見てしまうオレ」は時として嫌みっぽかったり、格好つけすぎて見えますが、窪田正孝のレオはそうではありません。

目線を外したり下を向きながら呟いたりすることで、他者との距離を表現。
モニカに追われている理由を尋ねたりしても、「ま、別にいーけど」と自分が相手に干渉しないというシグナルを(嫌味にならない程度に)出しました。

余命が確定している人間としての自暴自棄な部分もレオにはありません。

明らかに狂い、憎悪とか欲望とか薬物によって目の色が変わっている周りにあって、レオのポーカーフェイスぶりと客観性は良い意味で異質でした。

同時に、スクリーンの中で行われている残虐な抗争劇がどこか非現実的なコメディーであると、傍観者であるこちらに再認識させてくれました。

インパクトで言えばベッキーや染谷将太の方が凌駕していたとは思います。
それでもこのどこか冷めたレオを演じきった窪田正孝は間違いなく主演だったと思いますし、脱出後の終盤にシャワーを浴びて叫ぶレオに、後日の試合に勝って感情を爆発させるレオに、主人公ならではの大きな成長を感じました。

好きだったところ

役者で言えば加瀬の企みを早々と見抜き、加瀬からブツを横取りしようとする城島(出合正幸)のキャラクターは非常に冷徹で好きでした。

特に良かったのが、計画を秘密裏に実行に移し、組の事務所に戻ってきて電話に出る加瀬を、笑いをこらえながら眺めるシーン。

あの場で唯一加瀬の企みに気づき、彼が何をやっているのか知っている優位性を表した名シーンだと思います。

少し抜けたところのある加瀬のようなキャラクターは、早々と物語から脱落すると思っていましたし、駐車場での取引シーンは城島を応援していました。
頭の良い城島がブツを横取りしていたらその先の抗争はどうなっていたのか。きっと加瀬をある程度泳がせてジュリに始末させようとするんだろうな、面白いなって。

結果的に油断してあっさりとやられてしまいましたが。
 

重要人物であろうと簡単に死んでいく、比較的命の比重が軽かった本作品。
(凄く暴力的で非人道的な表現ではありますが)「コイツ早く死なないかな?」と観る側も一緒に拳銃を懐に隠しながら使えないヤツとか嫌いなヤツの頭をぶっ放すゲーム感覚を共有できる作品でした。

その意味では、権藤に忠誠を誓う市川(村上淳)などは簡単に死んでほしくないと応援できるキャラクターでしたし、外道マル暴刑事の大伴(大森南朋)などは早く消えればいいのにと思ってしまうキャラクターでした。余裕なさすぎだろ大伴。

そんなこちらの思惑とは裏腹に、キーマンが次々と簡単に始末されていくバトルロワイヤルぶりは、この作品の一番の魅力でしょう。

乗り切れなかったところ

そんな中、イマイチ乗り切れなかったのは、作品の少々古くさい撮り方です。

権藤(内野聖陽)が服役を終えて出所してきたシーンも、歌舞伎町の写し方もあまりにもレトロすぎる。
もちろんわざとやっているんでしょうけど、古き良き時代を知らない世代にとっては、それを現代に落とし込む必要があったのかなと疑問に感じました。

加瀬が大伴との密談でスマホを取り出すまで僕は本気で昭和の舞台設定だと思っていましたし(大伴がグローバル化とか言ってて怪しいなとは思いましたが)、携帯が出てきた後も一貫して歌舞伎町の風景はどこぞやの田舎のスナック街にしか見えませんでした。

携帯を「スマホ」ってわざわざ言う言い方もどうだったんでしょう。
わざわざスマホっていちいち言いますかね?「携帯」って言いません?

GPS機能に的を絞った設定は良かったと思います。
一方でスマホを万能の機器と盲信するようなおじさんたちと、オールドスタイルこそ至高だよね的な押し付けが何となく作品から醸し出されていたのは少し苦手なところでした。

設定を20年前にするか、現代の雰囲気を色濃くするか、どちらかの方が良かったのでは。

 
無粋なツッコミどころも挙げましたが、総合的に見れば面白い作品だったと思います。
家で友達や家族と観て、色々笑いながら語り合いたい映画でした。