映画『君が世界のはじまり』ネタバレ感想|関西弁で毒づく中田青渚が美しい

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は今年2020年に公開された『君が世界のはじまり』についてです。
主演は松本穂香さん。

ふくだももこ監督自身が書いた小説『えん』と『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』の2作品を、脚本の向井康介さんが再編しています。

閉塞的な地方都市(大阪の端っこ)で生きる高校生たちの絶望と希望。それは昔17歳だった自分も知っているようで、でも決して体験できなかったもので、眩しさに溢れていました。

エモいという言葉では足りないほどに、眩しくて切ない、高校生活が詰まった映画でした!関西弁の軽妙なやりとりも本当に心地よい作品です。



予告編

あらすじ紹介

大阪のある町で暮らす高校2年生のえん(松本穂香)は、恋人を次々と変える親友の琴子とつまらない毎日を送っていたが、琴子がサッカー部のナリヒラを好きになったことで距離ができる。同じ高校のジュンは、母が家を出たことに向き合おうとしない父親に何も言えず、学校が終わった後ショッピングモールで過ごしていた。やがて、ナリヒラの秘密を知り彼と急接近するえん、それを見て見ぬ振りする琴子、転校生の伊尾と深い仲になるジュンらの思いが交錯する。

出典:シネマトゥデイ

映画の舞台とベルモール

舞台は大阪の郊外・東雲町。登場人物が京都でデートをしたことから、大阪の中でも比較的京都に近い北東部ではないかと予想します。

田舎ではないんでしょうが、「ベルモール」という閉店間際の大きなショッピングモールが街の根幹を成しています。
宇都宮のモールみたいですね。

グルメも遊びもショッピングも、生活が全てそこで完結する一方で、「その他」の選択肢を無くしてしまうショッピングモール。
郊外型のモールがある町で育った方には既視感のある文化ではないでしょうか?

この「ベルモール」アリオとかのモールに近いのかなと。
ルミネやマルイのような駅近型のデパートや、越谷レイクタウンのような巨大施設とはまた違うんですよね。地元の人だけが来るから、どうしてもその土地の匂いや文化が染み付いているわけです。
それを若い子たちは閉塞感と捉えることもあるでしょう。

この映画は、そんなショッピングモールのある町育てられ、一方でショッピングモールしかない町に縛られながら過ごす高校2年生が「ここではない、どこか」を探そうとする物語でもあります。
ここは『思い、思われ、ふり、ふられ』にも似ているのかなと思います。

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2020年8月30日

ただ高校生ぐらいの世代って、私立に行くとかで町を出る子もいるわけで、自分がずっとここにとどまっていて良いのか、自分がこの世界しか知らなくて良いのかを煩悶する時期でもあります。その意味では普遍的なテーマかもしれませんね。

『君が世界のはじまり』のスタッフ、キャスト

監督・原作 ふくだももこ
脚本 向井康介
えん/松本縁 松本穂香
中田琴子 中田青渚
片山純 片山友希
伊尾大地 金子大地
業平哲平 小室ぺい
岡田翔真 甲斐翔真
琴子の母 江口のりこ
純の父 古舘寛治

役名と俳優名をご覧になって気づいた方もいるかもしれませんが、『君が世界のはじまり』の面白いところは、キャラクター名と演じる役者さんの名前がリンクしているところです。

大体は「えん」「琴子」「伊尾」「業平くん」「岡田」という風に役名と一致していない方の苗字や名前、というかそもそも「お前」とか「あんた」とかそういった二人称が多く使われていましたが、中田青渚さんが演じた中田琴子は、担任教師・桑田(板橋駿谷)に「中田ァ!!」と怒鳴られるシーンがありました。

この琴子というキャラクターについてはネタバレ部分で詳しく感想を書いていきます。

この後、本記事は展開や設定についてのネタバレを含みます。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品の設定や展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

『ここは退屈〜』との類似点

『君が世界のはじまり』を観ていて感じたのが、『ここは退屈迎えに来て』(2018年)という作品との類似性です。ちなみに片山友希が両作品に出演しています!

『君が世界のはじまり』では(松本穂香)、琴子(中田青渚)、(片山友希)、伊尾(金子大地)、業平(小室ぺい)、岡田(甲斐翔真)の6人が物語のベースとなるわけですが、この6人は必ずしもそれぞれ密接に結びついた6人ではないんですよね。共通点といえば同じ町に住んでいて、同じ学校に通っている、それだけです。

グループ分けすると縁と琴子がまず一つ。岡田と業平は同じサッカー部でまた一つ。縁と岡田は気心の知れあった2人ということでまた一つ。純と伊尾はやや他のメンバーからは独立した組み合わせとして描かれます。
その中で、岡田は琴子に片想いですし、琴子は業平に片想い。縁と業平もそれぞれの胸に好きな人への想いを秘めているようです。

この町は、一方通行の思いばかりだ

予告編で出てくるこの一節は、叶わない想いに悶々と悩み、絶望する登場人物の声を表したものでしょう。そして特に東京を知る伊尾は、「この町」への嫌悪感を露わにしていきました。

こんな何もないとこで生きてくなんてぜってぇ無理。早く抜け出さないと。気が狂う。
俺は優しくしたい。みなみさんにここじゃない場所でも生きていけるって教えてあげたい。世界は広いって。
絶対あっちの大学行く、青学か慶應。

『ここは退屈迎えに来て』の方に話を移します。
こちらは田舎(富山)から東京への憧れを抱きながら、それでもこの町で生きていく者、一回上京を経験した者を異なる時系列から切り取っていく群像劇でした。

この作品では実に9人もの同世代の男女をばらけさせながら、平等に描写しているのが特徴的です。そして彼女たち、彼らがみんな相互で繋がっているかというと、そうではありません。
エピソードもバラバラの羅列で、少し散漫な印象も受ける映画です。正直物語から浮いて見えるキャラクターもありました。

 

『君が世界のはじまり』のエピソードのばらけ方、特に純と伊尾が他の4人から少し浮いて見える点は、『ここは退屈迎えに来て』に似ています。ショッピングモールでの告白大会にいなかった琴子も、相互関係という意味では薄いですよね。

最初にご紹介した通り、原作は二本の小説です。おそらく「えん」を中心にしたものと、「ブルーハーツと純」を中心にしたものだったのでしょうね。

『ここは退屈迎えに来て』でも同じようなことを思いましたが、この映画も「相関図で表せなさそうな人間関係」を有している作品ではないかと思います。そしてそれは、実はすごく実践的なことなんじゃないかとも。

中田青渚という才能

本作品の舞台は大阪の端っこ。
スタバが出店しながらもつぶれたという少し残念な町です。伊尾は「スタバつぶれるとか終わってんな」と吐き捨てます。

小さな世界で閉塞感を打破しようともがく高校生たち。その中で特に印象に残ったのは、琴子を演じた中田青渚さんでした。
他の5人はベルモールで自分たちの心に忍ばせたナイフを赤裸々に語っていたわけで、僕も閉塞感の打破だとか、もがくだとか書きましたが、実はこの琴子という少女にはこの町がどうだとか、環境的な閉塞への悲壮感はありません。

彼女は『ミスミソウ』(2017年)という映画でいじめっ子の役を演じており、それが非常に印象に残っていました。

強く、凛々しく、圧倒的に悪い。
まぎれもない悪役ではあったのですが、いじめっ子ってこんな感じだよねっていうのを容赦なく演じていました。この容赦なくというのは純度の高さといってもいいかもしれません。

そんな中田青渚が今回演じた琴子は、男をひっきりなしに取っ替え引っ替えする女子高生。デートは基本、集合・家、解散・家、時々ラブホ(本人談)。

それまでのしょうもない行きずりの男どもとは違う業平くん(なりひら=小室ぺい)に一目惚れした琴子は、8人目の今カレをあっさりと振り、自分の言葉で感情を表現しながら思うままに行動していきました。強い。ゴーイングマイウェイ。私の世界は私のもの。それでこそ中田琴子。
人の男の数かぞえてんのか?暇やなぁ!

ハイライトのタバコを吸いながらやさぐれる姿は、まるで不良高校生です。まあ実際不良なんですけどね。
スカート膝上3センチ?アホか!

「クッソ」に込められた無垢さ

琴子は「クッソ」という言葉を多用します。

琴子と「クッソ」

  • 「クッソ寒いんやけど」
  • 「クッソ暑っ」
  • 「クソ校長話も世界一クソやしな」
  • 「それもクッソみたいな抽象的な言い方に変えてやろ?」
  • 「(未来、希望、夢)全部クッソ!」
  • 「クソまずいで!ここのたこ焼き!」
  • 「何わろてんねんクソ!」
  • 「意味わからんわクッソ!」

他にも自分に言い寄ってくる男子生徒を「いや誰やねん、ボケ、カス、ボケカス!」と罵倒したり、映画冒頭では冬の朝の寒さをガキっぽい下ネタで表現したりします。端的に言って口が悪いです。
オブラートなんていうフィルターは琴子の喉にも頭にもありません。

彼女は地下の隠れ家で出会った業平くんに恋をします。最初は「ギョウヘイ」(下の名前)だと思っていましたが、縁(松本穂香)に名前の読み方を指摘されます。それ多分ナリヒラだよ。

在原業平って誰やそいつ。何ワラの何処ヒラや!

そんな悪態を突きながらも、業平くんの前では子猫に豹変。明らかに高いトーンで「なりひらクン」と呼び、もじもじしながら(縁から借りた)ジャージのジップを上げ下げして、不恰好な会話をするわけです。可愛すぎますね。

 

口も態度も攻撃的な一方で、琴子は自分の気持ちに正直に進むことができる人でした。その姿はきっと、他の人から見ても眩しく映ったはずです。

縁だけではなく、岡田(甲斐翔真)「あの人ってなんか、ちゃうよな」と言っていましたし、作中で直接琴子と絡むことのなかった純(片山友希)もまた、廊下をダッシュする琴子、たこ焼き屋で叫ぶ琴子を物言いたげな目で眺めます。

そこには「またやってるよアイツ」だけではなく、羨望の眼差しも何処かにあったはずです。

『ミスミソウ』で中田青渚が演じたという生徒が、いじめという本質的にひどいことをする「悪い」冷徹な生徒だとすれば、『君が世界のはじまり』の琴子は「悪ぶって」いて感情の赴くままに言葉を発し、行動する生徒です。

ただ両者に共通するのは中田青渚の凛々しさや強さ、そして真っ直ぐな純粋さだと思います。そこには小細工とか外連味がありません。ラストシーンで泣き叫ぶ姿には、純粋と言うよりも幼児のような無垢ささえ感じました。

主演の松本穂香も凄かったんですが、この映画の注目俳優として今回、中田青渚の存在を挙げさせていただきました。

My name is yours

最後にこの映画の副題でもある「My name is yours」についてです。直訳すると「私の名前はあなたのもの」ですね。

映画が進んでいくと、本当は「ゆかり」という名前ながらも琴子からは小学生の頃から「えん」と呼ばれている縁がこの呼び方は琴子だけのものであることがわかります。

上の「なんかそれわかるわ」業平が言ったものですが、この「わかるわ」を聞いて縁の表情は曇ります。琴子と私の「えん」の中に突然入ってきた業平への戸惑いです。

そんな業平くんは彼女の思いを抑え切れずに「えんさん」「えんさんは」と連呼するわけですが、彼もまた知るわけですね。「えん」って呼んでいいのはあの人だけなんやな、って。

岡田
それを業平に打ち明けた岡田はやっぱり、この学校イチええヤツで、縁の人生史上最強レベルで人間の出来た人ですよね。

ということで、My nameは「えん」で、yoursは琴子だったことがわかりました。最後にタイトルを出す手法も素晴らしかったと思います。

ただ、もう一つ気になることがあります。
それは純(片山友希)が最後に食卓で父親(古舘寛治)の名前を呼び、お母さんの名前を呼ばせ、自分の名前を呼ばせるところです。

タダシ、スミコ、ジュン

この純というキャラクターの会話シーンは、伊尾、父親もしくは女友達(花坂椎南)に限定されていましたが、伊尾も父親も彼女の名前を呼ぶことがありません。父親がバースデーケーキを持ってハッピーバースデーを歌いながらも「(Happy birthday)Dear」の部分で歌を止めるあたりは意図すら感じましたね。笑

伊尾に対しては純は「伊尾」と言っていますが、彼からの呼びかけはありません。呼ばれない自分の名前。
(付け加えるならば、岡田も縁に対して「なぁ」とか「お前」とかで、呼称を使っていませんでしたね。)

事前情報を持たないで見たとき、
松本穂香は「えん」(←琴子)、「えんさん」(←業平)、「ゆかり」(←父親)、「ゆかりちゃん」(←かえでママ(江口のりこ)と母親)
中田青渚は「琴子」(←縁)、「琴子さん」(←業平)、「中田」(←桑田先生)
小室ぺいは「ナリヒラくん」(←縁と琴子)、「ナリヒラ」(←岡田)
金子大地は「伊尾」(←純)
甲斐翔真は「岡田」(←縁と業平)
という風にそれぞれ固有名詞の記号を与えられていきます。

けれど片山友希の演じた前髪ぱっつんの女子生徒だけは、「伊尾と仲が良くて、古舘寛治の娘」という状況的な表現しか持ち得ていません。純という彼女に与えられた名前は最後の最後まで出てこないわけです。

食卓でお好み焼きをつつきながら、父親・忠司(古舘寛治)に名前を呼ばれた純。そして片山家の門が開く音。誰かが帰ってくる音。

「My name is yours」には、純がお父さん(とお母さん)ともう一度家族として一緒になることで、失った片山家の娘という記号と自分の名前を取り戻した意味も込められているんでしょうね。きっと。

 

夢とか希望とか未来とか、青春のステレオタイプを全て「クッソ!」と吹き飛ばしたり、自分の家庭に入った亀裂や鬱屈をこの世の終わりかのように絶望したり、好きな人に思い焦がれたり、告白してみる勇気がなかったり、好きなのに嫌いって言ってみたり。

そんな爆発寸前の「たり」を真っ直ぐに問いかけてくれる素晴らしい映画でした。

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ここは退屈迎えに来て

感想部分でも紹介しましたが、立ち位置の違う複数の男女を描いた青春作品として似ているところがあります。片山友希はこちらにも出演。

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