映画『思い、思われ、ふり、ふられ』ネタバレ感想|驚きの“提案型告白”その理由は?

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こんにちは。織田です。

今回は2020年8月公開の映画『思い、思われ、ふり、ふられ』をご紹介します。

監督は青春映画のスペシャリスト三木孝浩監督

これまで三木監督の作品は
宮﨑あおいと高良健吾主演の『ソラニン』
吉高由里子と生田斗真の『僕等がいた』
登坂広臣と能年玲奈の『ホットロード』
福士蒼汰と小松菜奈の『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
などを鑑賞。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』に至っては、人生でベスト5に入るくらいには好きな作品になりました。

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2019年5月1日

等身大のティーンというよりは、少しキラキラした“憧れるシチュエーション”での恋愛模様を作り出すのが上手な監督さんという印象です。

原作は咲坂伊緒さんのコミックス。
物語の中心を担う高校生4人のキャストには浜辺美波北村匠海福本莉子赤楚衛二といった俳優を配しています。

浜辺さんと北村さんといえば『君の膵臓をたべたい』(月川翔監督)で共演し、鮮烈な印象を残した二人ですね。

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2017年8月15日

福本さん、赤楚さんが加わり4人の青春を扱った本作品では、四者四様の想いや惑いがじっくりと描かれています。
また「思い、思われ」だけでなく「ふり、ふられ」というタイトルにもあるように、実際に「告白」という行動がもたらす効果についても描かれているのが特徴的ですね。

クライマックスに告白して、はい、おめでとう。って感じではなく、「告白した/された」のその先に、高校生たちはどう変わっていくのか。

映画『ふりふら』は高校1年生という設定なんですけど、大学1年生、何なら社会人1年目でも通用するくらいに、4人みんなが大人です。

精神年齢もそうだし、然るべき時に然るべき行動を選択することができます。何より相手のことを考えながら動くことができます。

現役のティーンの方はもちろん、甘酸っぱくて切ない恋愛を経験した大人にとっても共感できる部分が多い映画だと思います。

今回はネタバレ部分で4人のキャラクターや考え方について重点的に感想を書いてみました。

まずは映画のあらすじや作品情報です。



予告編

あらすじ紹介

恋愛には積極的で社交的だが不器用な性格の朱里。夢見がちで恋愛には消極的、自分に自信が持てない由奈。そして、朱里の義理の弟の理央と由奈の幼なじみの和臣。同じ学校に通う高校1年生の4人は同じマンションに暮らしていた。憧れ、片思い、ある秘密……4人の四者四様のさまざまな思いがすれ違いながら交差していく。

出典:映画.com

朱里(あかり=浜辺美波)、由奈(ゆな=福本莉子)、理央(りお=北村匠海)、和臣(かずおみ=赤楚衛二)の4人が中心となって物語は進んでいきます。

幼馴染み、同じマンション、といった要素を織り交ぜた青春作品としては、『ホットギミック ガールミーツボーイ』とも近いですね。

また、朱里と理央は親同士が再婚した義理のきょうだい(歳は同じで朱里が姉)です。
昔の作品になりますが『ストロベリー・オンザ・ショートケーキ』(2001年)というドラマにも設定は似ていると感じました。

ストロベリー・オンザ・ショートケーキ
滝沢秀明、深田恭子が義理のきょうだい役、同級生役に内山理名、窪塚洋介が出演。禁断に次ぐ禁断をスリリングに描いていく面白いドラマです。

『思い、思われ、ふり、ふられ』のスタッフ、キャスト

監督 三木孝浩
原作 咲坂伊緒
脚本 米内山陽子、三木孝浩
山本朱里 浜辺美波
山本理央 北村匠海
市原由奈 福本莉子
乾和臣 赤楚衛二
我妻暖人 上村海成
乾聡太(和臣の兄) 古川雄輝
山本家の母 戸田菜穂
山本家の父 貴山侑哉
ケーキ屋の店長 野間口徹

再婚した両親の連れ子という設定の朱里と理央ですが、お母さん(戸田菜穂)の連れ子が朱里、お父さん(貴山侑哉)の方が理央です。
お母さんは理央のことを君付けで呼んでいます。
そんなお母さんを演じた戸田さんは先日鑑賞した『私がモテてどうすんだ』でもヒロインのお母さん役を演じていました。等身大の母親を演じる役者さんとして個人的に注目していきたいと思います。

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2020年8月6日
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

この記事では『思い、思われ、ふり、ふられ』をキャラクター別に読み解きながら感想を書いていきます。
まず前提条件として、序盤における4人の関係を相関図にしてみました。

両親の再婚、そして二人の高校進学も契機になったことでしょう。
由奈(福本莉子)和臣(赤楚衛二)たちも住んでいるマンションに、春から朱里(浜辺美波)理央(北村匠海)が引っ越してきました。

(おそらく春休みに)駅で財布、携帯を忘れて由奈にお金を借り、仲良くなった朱里と由奈。
学校が始まると、由奈は“私の王子様”に似ている人を見つけたと朱里に報告します。また、その場で朱里は、由奈の幼馴染みという和臣と初めて挨拶を交わしました。

その後に由奈が朱里の家を訪ねると、ドアを開けたのは何と“私の王子様”でした。

えっ、朱里ちゃんの彼氏?って思いますよね。由奈もそう思いました。
ところが遅れて現れた朱里は、王子様のことを「私の弟」と紹介します。

部屋で理央と朱里と3人でお勉強をすることになり、呆気にとられながら赤面する由奈。
朱里のお節介(※後述)により由奈は理央と部屋で二人きりになり、一方でコンビニに買い出しへ出かけた朱里は同級生・和臣と公園で出くわします。

部屋に戻ってきた朱里と理央、そして二人のお母さん(戸田菜穂)の言葉、態度で由奈、そして僕たち観る側は4人の大まかな関係や矢印を知ることになります。開始10分とか15分くらいですかね。

映画の序盤で物語の設定をこちらが理解できるようになっています。ここからが「思い、思われ、ふり、ふられ」の幕開けでした。
以下、キャラクターの考察です。

由奈:告白して出会えた新しい私

自分に自信がなく、恋に消極的な女の子。
理央のことが好きだが、告白できずにいる。

引用元:『思い、思われ、ふり、ふられ』公式サイト

一人目は自分に自信がなく、人付き合いもちょっぴり苦手な由奈(福本莉子)から。
3つの側面から見ていきましょう。

恋とは自然と落ちるもの

王子様に似ている人(=理央)を見かけて朱里に報告した由奈は、恋に落ちるためには自分が動くこと、と恋のカケヒキについてレクチャーを受けます。

朱里は経験者は語る的な口調でしたね。高1の時って中学で恋人を作ったかどうかで持つ経験値が結構変わってくると思うんですが、自分の周りにも無邪気に恋愛指南してる女の子がいたのを思い出します。

納得する一方で、由奈は「そういうの人工的で嫌だなぁ」と苦笑します。彼女の中では、恋とは自然に芽生え、育まれていくものだという意識だったんでしょう。それが“夢見がちで引っ込み思案”な由奈ちゃん像を形づくる一因だったかもしれません。

ただし朱里に言われたことで、さらに朱里が気を利かせて(お節介ともいう)勉強会を一人抜け出して理央と二人きりになったことで、由奈は理央のことを知り、“王子様”から“好きな人”へと、つまり現実的な恋愛対象として見ていくことになります。

止まらない想いと優しさ

図書館で勉強を教えてもらう機会もあり、理央への恋慕が増していく由奈。
由奈も勉強ができる子という設定でしたが、彼女の意識はもはやノートに綴られた数学からは離れていたはずです。

理央が朱里に対して、決して叶わない恋心を持っていることを知っている以上、由奈は自分の想いにブレーキをかけようとするものの「好きになっちゃダメだ。でも“好き”のやめ方がわからない」と恋煩いに陥ります。

「嬉しいと思った気持ち全部が、次の瞬間には切なくなる」

この脳内独白には痺れましたね。
想いを抑えきれない由奈は、勇気を振り絞って理央に告白し、ふられます。引きずらないために、自分のために、ふられると分かっていて、ふられます。
小さなトンネルに響く、理央のゴメン。

告白した後に由奈からも理央に謝るわけですが、これは「ふる側」も傷を負うことを彼女が知っているからです。もちろんふられた由奈も傷を負いますが、彼女はふられたことで次に進むことができるのです。
そして、その「ふられたらまた新しい好きを探しに進めばいい」というのは理央が教えてくれたことです。

序盤から泣ける展開です。
そして、自分の想いに正直に動いた由奈の「告白」は、中盤以降の映画の中で、「想う」人たちの道しるべとして重要な意味を持っていきました。

今の私が気に入ってるんだ

言えなかった弱い私にさようならをした由奈は、理央に振られて以降変わっていきます。

自己肯定と言えばいいのでしょうか。
一歩踏み出す自分のことが好きになり、メイクも朱里に教えてもらうようになりました。

伏し目がちに、いつも下を向いて歩いていた市原由奈はもういません。

映画冒頭では、入学間もなくして友達をつくっていた朱里ちゃんが眩しく映っていた由奈ですが。傍目からは明るくなったように見えて、友達も増えていきました。
そんな、私を好きになれた自分を「気に入っている」って表現する由奈。また名言。

同性からも人気のある女子は、男子からも魅力的に映ります。映画中盤からは、夏祭りで出くわした我妻(上村海成)という同級生の男の子(理央の友達)が明らかに好意を寄せ始めました。

結果的にはフラれ役となってしまった我妻くんですが、恋敵にありがちな引き立て役感がなく純粋に良い子だなと思いました。文化祭でフラれた後もちゃんと振る舞っていたことも彼の強さを物語りますし、きっと由奈ちゃんは彼が前に進めるような優しいふり方をしたんでしょうね。

ちなみに我妻くんを演じた上村さんは『ホットギミック』で桜田ひよりさんとドーナツを食べてた彼です。

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2019年8月25日

変わった由奈は、彼女をふったはずの理央の心をも動かしていきます。

理央:由奈をふり。そのあと彼は

朱里の義理の弟。
親同士の再婚により、
朱里に言えない思いを抱えている。

引用元:『思い、思われ、ふり、ふられ』公式サイト

続いては、血の繋がっていない朱里に密かな思いを寄せていた理央(北村匠海)についてです。

ハイスペ王子様と突然の告白

通学中に他校の女の子からラブレターをもらったり、図書館で女子のグループに言い寄られたりと、明らかにモテている理央。
勉強もできますし、由奈じゃなくても夢中になるほどの大人気男子ですね。

引っ込み思案でうつむきがちな由奈には、
「なんでいつも下向いてんの。オレこっち」
とほっぺをむにゅっと掴んで引き寄せたり、朱里への報われない自分の恋心を察した由奈に「シーッ」と指を立てたり、とにかく王道の王子様な強烈なシーンを見舞ってきます。

そんな彼は、好きな人がいると言う由奈に対して彼なりの恋愛論を授け、背中を押したわけですが、押し出された「好き」が自分に対してのものとは想っていなかったようでした。自分への好意に対しては鈍感だった、ということなのか、全く恋愛対象として考えていなかったのか。

由奈の告白を理央は、彼の持論通りに優しく断りました。
彼女が次に向かうために。

想いの変化

その後は理央と朱里の雨の帰り道と彼のルール違反(キス)理央の謝罪中学生時代の回想と、二人の“叶わない恋”や“家庭での振る舞い方”といった部分が明らかになっていく中で、理央は次の恋へと進み出していきます。

4人で向かった夏祭りの待ち合わせシーン。女の子二人は浴衣で現れました。
カメラは浴衣の朱里、続いて理央が見つめる瞳を映していたと思いますが、あの時理央はおそらく朱里を見ていた、という風に僕には見えました。
理央は朱里の浴衣姿に見とれているのだろうと。その時は。

でも、それより前の時点で理央は朱里のことは整理をつけていたはずなんですよね。
そう考えると理央が由奈へ対しての意識を、浴衣姿を見たことで強めた、というシーンなのかもしれません。

夏祭りの最中に理央は、我妻に声をかけられる由奈を目にします。彼の目には、きっと微かな嫉妬が芽生えていたはずです。
そもそも夏祭りで女の子一人で場所取りしてちゃ危ないよねっていうのもありますが。

前向きに変わった由奈に対して理央が「好意」を持ったということは事実でしょうが、夏祭り以降も遠くから大きな声で挨拶をしてコミュニケーションをとったり、真っ直ぐに由奈へのアタックを続ける我妻に触発されたところも大きかったでしょう。
気になっている子が、他の誰かにも好かれていることで、より好意が増していく。一種の独占欲に近い部分もあったはずです。

オレ、由奈ちゃんが好きだ

文化祭でついに由奈と巡り会い、しっかりと伝えた「オレ、由奈ちゃんが好きだ」。伝え終わった後のスッキリした、清々しい表情。
「もう一度、オレのこと好きになってほしい」

指立てシーッに始まった数々の北村匠海さん名場面が、史上最高を更新しました。何回でも見れますわ、あのシーン。

ただ、理央が由奈に告白してから(付き合ってから)は、この二人は急速に物語からフェードアウトしていったのは残念でした。
付き合ってからの幸せな由奈の内面告白とかノロケ話とかもう少し見たかったですけど、しょうがなかったですかね。




和臣:名言を繰り出す天然男子

天然で捉えどころのない男の子。
ある秘密を目撃してしまい、
自分の気持ちに蓋をしてしまう。

引用元:『思い、思われ、ふり、ふられ』公式サイト

続いて、由奈の幼なじみであり、朱里に好意を寄せる和臣(赤楚衛二)について。
家を出て大学もやめて夢を追う兄(古川雄輝)を持ち、家庭内がギスギスしていることから、自分のやりたい夢(映画監督)も言い出せずにいるという、家庭環境のジレンマが色濃く描かれているキャラクターですね。

由奈からは「カズくん」、理央からは「カズ」、朱里からは苗字で「乾くん」と呼ばれています。

俺のジャッジ

物語序盤、コンビニ帰りに朱里と出くわした和臣は、公園でおしゃべりをします。

引っ込み思案な由奈のことを「いい子」と評する朱里に、「そう言う山本さんもいい子だと思うよ」と立てる和臣。これはわかります。良い回答です。

謙虚を含んだ「私のこと知らないからだよ」で返す朱里。これもわかります。

それに対する和臣の返し。

「知っても多分俺のジャッジ変わらないよ」(決め顔)

??
何だこいつと思ってたら、(さらっと凄いこと言うな…天然かな?)と朱里が心の声でツッコミを入れてくれましたね。

その後も和臣はさらっと大胆なことをして朱里の意識の内側へ侵入してきます。
朱里が体育の時間に倒れた時は、お姫様抱っこで保健室へ運び、アフターケアのアクエリも欠かさない徹底ぶりです。

僕の友達も高校の体育祭で、熱中症で動けなくなった彼女を見るやスタンドから飛び出してトラックとピッチを横切ってお姫様抱っこし、救護室に運ぶという伝説を全校生徒の前でやってましたけど、その彼の場合はそいつの彼女でしたからね。
体育祭っていう場でアドレナリンが高まってたこともあるでしょう。

それをシラフで、しかも彼女でもないのにやってのけるんだから凄いぞ乾くん。

君のそばにはいつでも駆けつけるよ的スタンス。圧倒的コミュ強。
それなのに。

夏祭りで彼は朱里に「女の子と連絡先交換するの、初めてなんだ…(由奈ともしてない)」ですと?嘘でしょ?

これすらも山本さんを落とすためのトーク術の一つでは?と勘ぐりたくなるほどの意外な事実。
恋愛経験、というか女の子とのコミュニケーション経験が乏しいようなのです。これは意外でした。完全にクラスの人気者だからこそできるモテテクだと思っていました。
これまでの行動は下心なしでやってたのか。まじですか。

映画とカズくん

終盤にも朱里から「アバウト・タイム」のDVDをもらって「今日からこれが俺の一番好きな映画になった」と言ったり、告白が成就して「やっとつかまえた」(クリスマスの鬼ごっこに対するアンサーですね)と言ったり、何とも歯が浮くようなセリフを連発してくる中で、彼のこの芝居掛かった天然の言動は、映画をよく観ていることが一因としてあるのではないかなと想像します。

僕もTwitterで映画好きの皆さんのタイムラインを眺めていると、ドキッとする様な詩的な言い回しや言葉やウィットに富んだツイートをよく目にします。

映画のセリフにはやっぱり劇中会話としての独特な言い回しがあると思いますし、そういうものに触れて自分の言葉も研ぎ澄まされる事ってありますよね。

一方で和臣は朱里との血縁関係をカミングアウトした理央に対して、「あ、そうなの」的な大人の対応を見せています。
「引かねぇの?」と訊かれても「そんなのにワーワー言うやつほっとけよ、雑魚キャラだから」と言い放つ和臣くん。朱里への決め台詞とはまた違いますが、こちらもかっこいい。

そもそも朱里への恋心に嘘をついた(蓋をした)のも理央と朱里のただならぬ関係を目撃したからですし、天然の一方で空気を読めすぎてしまう部分もありましたね。

アバウト・タイムと二人の未来

先ほどの「なぜ芝居掛かったセリフをシラフで言えるのか」の想像ついでにもう一つ、未来の想像をします。

朱里に貸すはずだったはずなのに機を逃して貸すことができずに、挙句の果てには親に捨てられてしまった『アバウト・タイム』のDVD。

結局“コレクションリスタートの一作目”という形で朱里からプレゼントされて和臣にとって「一番好きな映画」になったわけですが、上で述べたようにこれは元々和臣’sセレクションとして朱里に貸すための映画でした。
朱里も観る気でいたはずです。
でも、借りることが(物理的に)できなくなってしまいました。

朱里が贈った“新たな一本目”としての『アバウト・タイム』。
自分が観るはずだった、でもまだ観てない映画。

そこにあるのは「また貸してね」を超えた「一緒に観ようね」ではないでしょうか。
二人が一緒に『アバウト・タイム』を鑑賞する。そんな未来がくることを願います。

朱里:懐に忍ばせる“冗談半分”

現実的な恋愛をする女の子。
次第に和臣に惹かれていくが…

引用元:『思い、思われ、ふり、ふられ』公式サイト

4人目は朱里(浜辺美波)についてです。

先ほど引用した公式サイトの紹介にあるように、朱里は「現実的な」恋愛をする女子として描かれています。
夢見がちだった由奈と対比させた部分もあるかもしれません。

和臣との初対面で、朱里は彼の後ろ姿にゆっくりと手を振り続けます。おそらく姿が見えなくなるまで。
あの余韻が残るバイバイに、男子の扱い方知ってんな〜と思いましたし、彼女のカケヒキが少し見えた気がします。

由奈のところでも書きましたが、朱里は恋愛に奥手というわけではありません。相手の出方を見て動くことができる女子なんでしょうね。

提案的告白

そんな朱里は夏祭りで和臣に告白し、断られます。
(もちろん和臣がふったのは本意じゃなかったんですが)

「私たち、付き合ってみませんか?」
「乾くん、私のこと好きじゃないですか」

意地悪な見方をすると、朱里の告白は“提案”“告白を決断した自分への理由付け”特に後者が強烈です。

もしこれが「付き合ってください。私、乾くんのことが好きです」であれば、そこにあるのは“お願い”と“お願いをした理由”です。
でも朱里の告白には、断られた時に「やっぱりそうだよね〜」とノリで流せるような逃れ道が作ってあります。それはもちろん自分が受ける衝撃を和らげるためであり、まあガチじゃなかったし的な、自分を立て直す予防線でもあります。

のちに文化祭で元彼の亮介(三船海斗)から、自分が傷つかないように上から目線で話してかっこつけている、とコテンパンに言われてしまうわけですけど、実は朱里の使った婉曲的な告白は僕たちも普段使っているものではないでしょうか?

例えば、人を何かに誘うとき、
「今度の土曜日、○△に行ってみたかったりしない?」
という言い方をしたことはありませんか。

「○△に行こうよ」ではなく「〜たりしない?」と相手に否定されることを想定した誘い方です。
その場合断られた時には「そっかー、残念」だけでなく「だよね〜」が使えます。

自分が傷つかない言葉選びをしていた朱里と対照的だったのが由奈です。
彼女は自分の理央への想いにまっすぐ向き合い、ぶつかります。

全力でガチ恋をする由奈のことが、朱里には眩しく映っていたはずです。

壊さないためにできること

そんな朱里ですが、特に家庭では理央との距離感に気を遣っていました。

理由は再婚した親(主に母親でしょうね)が朱里と理央のことを、女と男と見ているからです。

家では理央と他愛ないふざけ合いもできない。
壊れてしまう。

理央が告白するために公園へ呼び出した時も。
理央が雨の中で唇を奪った後も。

朱里は告白以前の“誘い”の時点のメッセージを(携帯を使えなくすることで)消去します。
理央のキスを「ノリ」という言葉で片付けて「なかったこと」にし、「想い、想われ」が介在する以前の次元の話にします。

つまり「そんなこと最初から存在しなかった」ことにします。
きょうだいだからダメとか断るとか以前に、「理央が私を好きだということ」自体、そもそもないものとします。
誰も傷つかないようにするために。家庭のバランスを保つために正しい選択をして、優しい嘘をついて。

両親の離婚話が浮上した時も、彼女は家族が壊れないための適切な判断を下しました。一人だけ先回りをして。

 

高校生の子供を持つ親が離婚話とか、子供が大事にしてるDVDコレクションを勝手に全部捨てるとか、全体的にオトナたちが親としてどうなの?なところはかなり突っ込みどころとしてあったんですが、この映画では朱里や和臣が家庭の話をするときに出てくる(自分の)「立ち位置」「振る舞い」「バランスの取り方」という言葉たちが印象に残りました。サッカーでもよく出てくる単語です。

朱里と和臣は、両親の間を取り持つ発言をしたり、自分の気持ちを隠したり、優しい嘘をついたりして、家庭崩壊のピンチにつながる芽を摘むための適切な判断をしてきました。
周りがうまくいくように、いつだって考えながら立ち位置を探していました。自分の意志を静かに押し殺して。

けれど、そんな朱里と和臣も、高校を卒業したら自立と自由を手にするはずです。
その時、彼女たちはどんな風に振る舞うのか。

「ここではない、どこか」を見つけた二人の未来へ思いを馳せたくなる余韻が残りましたね。

ロケ地となった神戸のデートマップはこちら

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