映画『二重生活』ネタバレ感想〜ある日突然、尾行がついた〜

二重生活 タイトル画像

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

2016年公開の『二重生活』を鑑賞しました。脚本、監督は岸善幸。小池真理子の同名小説を原作にして、主演は門脇麦が務めています。

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

『二重生活』のスタッフ、キャスト

スタッフ、キャスト

監督・脚本:岸善幸
原作:小池真理子
白石珠:門脇麦
石坂志郎:長谷川博己
鈴木卓也:菅田将暉
篠原弘:リリー・フランキー
マンションの管理人:烏丸せつこ

『愛がなんだ』で主役のテルコを演じた岸井ゆきのも出演しています。ぜひ探してみてください。

あらすじ紹介

大学院に通う25歳の珠(門脇麦)は、19歳のときに遭遇したある出来事をきっかけに長い間絶望のふちをさまよっていたが、最近ようやくその苦悩から解放された。彼女は一緒に住んでいる恋人卓也(菅田将暉)と、なるべくもめ事にならないよう、気を使いながら生活していた。あるとき、珠は恩師の篠原(リリー・フランキー)から修士論文の題材を提示され……。

出典:シネマトゥデイ

門脇麦が演じる>白石珠(タマ)はアニメーターの鈴木卓也(菅田将暉)とマンションで二人暮らしをしている大学院生。ある日、ベランダから近所の豪邸の石坂一家を見たタマは、篠原教授(リリー・フランキー)の勧めもあり、修士論文の「実存とは何か」を石坂家の主人(長谷川博己)を尾行し、生活習慣を観察することによって解析し、書こうと決めます。

対象自体に興味を持つがゆえの尾行ではなく、対象の行動に興味を持ったがゆえの尾行です。

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以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

主観と客観と傍観

石坂(長谷川)を尾行するタマ(門脇麦)。彼女の視点から撮られた作品なので、我々もタマと同じ目線から石坂や他の登場人物の行動を探っていきます。

修士論文を書くにあたって、タマは「探偵入門」など適当な資料を物色していた本屋で石坂を偶然発見。対象者Aとして尾行を開始します。

石坂は大手出版社に勤める腕利きの編集者で、妻子がいるにもかかわらずデザイナーの津村(篠原ゆき子)と不倫をしている……これは物語の中でタマが石坂を追跡し、知り得たことです。こうして、タマの目を通して石坂の情報を拾っていくのは非常に主観的で面白かったですね。

(尾行自体、普通じゃないのかもしれませんが)普通、尾行した対象に不倫相手がいた場合、調査者はその会話を探ろうとするはずです。

しかし、この作品で石坂と不倫相手の津村の会話はほとんど僕らに聞こえません。タマが窓の外から見ている時はもちろん聞こえませんし、カフェで観察している時はタマはイヤホンをつけていました。

最初に書きましたが、彼女が必要としているのは石坂の個人的な女性関係ではなく彼の生態だったのです。とはいえ、タマが客観的に見ているつもりの石坂の生活は彼のいち側面に過ぎません。


写真説明
恐らくビラ配りを禁止する
「みだりに当ビルに立ち入り、を行うことを禁止する」
の張り紙が意味深です。

視聴者に与えられる石坂についての情報はタマが知りうることだけに限られ、その一方で僕らは、対象者を尾行するタマが周りにどう見られているのかを引きの画面によって知ります。ロビーで張り込みを行うタマを怪訝に見るホテルマンや、マンションの大家さん。どこで誰が見ているかわからないという怖さが身にしみる作品です。

タマの主観による観察眼と、そんなタマを傍観する世間の目。「実存」という小難しい哲学的テーマを色々な視点で考えさせてくれました。

彼氏・卓也が気の毒でした

『二重生活』にはタマの彼氏・卓也役で菅田将暉が出演しています。

髪をかきあげたりじっと相手を見つめたり、挙動で感情やテンションを表すのはさすがでした。

アニメーターの彼は机に向かうシーンが多くて『キセキ』のヒデ役を思い出させ、音や展開の少ない部屋の中でもリアルさとキャラクター性を再現するのはすごいなと再認識。しかし、展開的に演技面では少し勿体無いかなとさえ思いました。

卓也は哲学を実証する手段として「尾行」を用いる修士論文のことで頭がいっぱいのタマを訝しみます。「尾行」の対象者とホテルに入る姿を目撃した彼の胸中やいかに。

外出時に嘘をつかれ、部屋で背中合わせに呼びかけてもタマは音楽を聴いていて返事をしない。これではないがしろにされていると感じても無理はありません。それでもタマに訊けば彼女は被害者面。倫理面が関わる尾行は置いておいても、タマに精神的な置いてきぼりを食らった卓也は単純に気の毒でした。

でもこれって、仕事や学校や夢中になっている対象への濃度を間違えると、どこのカップルにも起きうることなんですよね。

印象的な役者といえば、教授役のリリー・フランキーもイメージを覆すシックな紳士でした。

大根仁監督作品のリリー・フランキーは”どうなの?やっちゃうの?”的なファンキーな役が多く、印象が強かったんですが、この作品の彼は最初から最後まで淡々と穏やかに演じていきます。

黒幕のような雰囲気も醸し出しつつ、恋心を忘れないところや、電話をするときの物腰の低さなどが好きなキャラクターでした。

菅田将暉の卓也はほとんど単独のシーンがないので、篠原教授はこの作品でタマを除いて唯一、カメラが客観的に撮影している「対象」です。タマの目が介在しないシーンが多く、その意味では感情移入しやすかったのかもしれません。

カメラが客観的に捉えている点では、大家さんがマンションのゴミ捨て場につけた監視カメラの映像もまた一役買っていました。

尾行を行うことでタマの帰宅が不規則になっていることや、卓也がゴミ捨て場にタバコの吸殻の空き缶を捨てたりというシーンを通じてカップルの2人が大家さんにマークされているのでは?と勘繰ってしまいます。

烏丸せつこが演じた大家さんは石坂にタマや卓也の個人情報を開示したりと作品の中でも怖さが際立っていましたね。

感情移入

自分の論文を完成させるために卓也との仲を反故にし、石坂に色仕掛けに近い懇願をしたタマには正直、感情移入できかねました。

修士論文を書き上げることによって、認められたい。自分の実存に対して近づきたいという思いはわかりますが、彼女は色々なことを犠牲にしてしまいました。

「私の頭の中は論文のことでいっぱいなの」と卓也に話すタマ。もちろんこの「論文」はイコール尾行ではありません。でも、卓也からしたらそうではないですよね。

妻子と豊かな生活を送りながらなお不倫をして、タマをホテルに連れ込んだ石坂もまた然り。

けれど、自分がタマの立場に、石坂の立場になってみたとき背徳の誘惑に抗うことができるのか?そう考えた時に心の奥がむず痒くなるような感覚を受けました。

タマが石坂の生活を覗き見て擬似的な「二重生活」を実感したように、「二重生活」を地で行く石坂もまた、尾行されたがゆえにタマと特別な関係になっていると錯覚したのかなと。ベランダ越しに上から見られていた石坂がタマと接触し、脚にすがりついて懇願するタマを見下ろしてマウンティングする逆転現象。

長谷川博己の話し方がまた石坂の薄っぺらさと、なんとも言えない高圧感を漂わせていていいですね。

コナンの少年探偵団を重ね合わせた

『二重生活』の好きだったところは上でも書いた通り、尾行するタマの目になってこちらもドキドキしながら観察をしていくところです。

探偵につきものの「推理」はタマの論文内で展開されてるであろう推論に任せるとして、リスキーな調査をしていくタマを見るのはコナンの少年探偵団を見ているかのような気持ちでした。このあたりは単純に冒険譚として楽しいです。最初の1時間は本当に時間が進むのが早かった…

あとは、この映画にはボケが綺麗なカットがたくさんあります。書店で本を物色するタマを捉えたシーンは思わず声が出ました。菅田将暉の卓也を撮る長映しやベランダから石坂家を覗くタマのシーンも印象的。

困った時に髪を触るタマの癖もこちらがわかる程度には明示しつつ、それが何なのかを作品内で明らかにしないところも視聴者に委ねていて好きです。

こちらに考えさせると言えば、研究室の飲み会でタマの論文が評価されていると聞いたときの友人の表情も。あれからタマは孤立してしまったんでしょうか。

伏線を匂わせる描写が多く、明かせない謎がいろいろありました。

この映画が好きだった方には高良健吾主演の『アンダー・ユア・ベッド』もおすすめです!

タイトル画像

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2019年9月10日

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