映画『彼女がその名を知らない鳥たち』ネタバレ感想|やばい奴しか出てこない

タイトル画像
※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2017年に公開された『彼女がその名を知らない鳥たち』の感想をご紹介していきます。

原作は沼田まほかるさんの小説。蒼井優さん阿部サダヲさんを主演に、白石和彌監督で映画化されました。
Amazonプライム・ビデオでの鑑賞です。

個人的にはあまりスタンスが好きじゃない展開ではあったんですが、一番最後まで観ると阿部サダヲさんのセリフの重みがじんわりとしみて来る作品でした。

2回目の印象が全然違いますね…。



あらすじ紹介

15歳年上の佐野陣治(阿部サダヲ)と共に生活している北原十和子(蒼井優)は、下品で地位も金もない佐野をさげすみながらも、彼の稼ぎに依存し自堕落に過ごしていた。ある日、彼女は8年前に別れ、いまだに思いを断ち切れない黒崎に似た妻子持ちの男と出会い、彼との情事に溺れていく。そんな折、北原は刑事から黒崎の失踪を知らされ、佐野がその件に関係しているのではないかと不安を抱き……。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督 白石和彌
原作 沼田まほかる
脚本 浅野妙子
北原十和子 蒼井優
佐野陣治 阿部サダヲ
水島真 松坂桃李
國枝 中嶋しゅう
國枝カヨ 村川絵梨
黒崎俊一 竹野内豊

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。



何かが欠落した登場人物たち

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。

この映画はモラルが欠如しているというか、人間として持つべきものがどこか欠けているキャラクターが多かったんですよね。
「共感度ゼロの最低な女と男が辿りつく“究極の愛”とは」という触れ込みもうなずけます。

基本やべぇ奴しかいない。あたおか。ドン引き。
こんな言葉を使いたくなるくらいにはやばかったですね。見ていきましょう。

十和子(蒼井優)のちょろさ

まずは主人公の十和子(蒼井優)から。

ガサツで金も品性もない15歳上の男・陣治(阿部サダヲ)と暮らす十和子ですが、陣治に対して「一緒にいてあげている」風な主導権を持つようで。

仕事から帰ってきた陣治にマッサージをさせ、「マッサージだけは褒めてもらえる」と言った陣治に「何でかわかる?陣治の顔が見えへんからや」と結構ひどいことを言い放ちます。

挙げ句の果てには寝込みを襲おうとした陣治に対し、こう罵ります。

「あんたみたいな不潔な男にそんな触り方されたら虫唾が走る!
男やなくて真っ黒なドジョウや。能無しの種無しの色真っ黒なドジョウや。
あんたいてたら空気が腐る、ドジョウくさい!出て行け!」

陣治の色が黒いのは現場で汗水垂らして働いているからですけども、この言い様はやばいですよね。人権を踏みにじる言葉のオンパレード。小学生の口悪いいじめっ子でもこんなこと言えないですよ。
きっかけは陣治が悪いかもしれませんが、それに対しての反撃がひどすぎます。

彼女の怒りは陣治だけにとどまりません。
3万5000円の時計の修理で百貨店に電話で詰め寄り、レンタルビデオ屋にはディスクの不調を訴えて、時間を返せと迫ります。

お店からすれば厄介なクレーマー案件ですね。「時間を返せ」とか勘弁してほしい。お店のマニュアル通りの平謝りがまた気に入らないようで、湯沸かし沸騰器ぶりが露わになる序盤でした。

能無し種無しの真っ黒なドジョウや!と差別用語を尽くして陣治を罵った十和子でしたが、彼女も彼女で職も甲斐性もなく自堕落にテレビの前で過ごす人間です。彼女の携帯はガラケーですけど買い換えることもできていないんでしょう。あえてしてないのかもしれませんが。

黒崎(竹野内豊)という男と恋に落ちた数年前の記憶を美化しては現状の負け組人生に舌打ちをする毎日。
電話帳に残った黒崎の番号にワンコ(死語)することくらいしかできない。

そんな彼女が“勝ち”を実感できる瞬間、それが(イケメンの)男に愛される時だったのだと思います。
黒崎との過去に未だ甘い夢を捨てきれない十和子は、百貨店の時計屋で管理職として働く水島(松坂桃李)と関係を持つことに。

水島がどんな男かをあらかじめ外から見定め、家に訪問するとわかってからは念入りに掃除をし、化粧をして待ち構えます。陣治に対しては絶対に見せない女の顔。ちょろいですね…。

水島(松坂桃李)。良いのは顔だけ

気合いを入れた十和子が部屋に迎えた水島(松坂桃李)という男。
形式的な詫びの言葉を尽くし、壊れた時計の代替品を並べる彼は、顔良し、地位良し、作法良し。

少し声を震わせ、言葉を選ぶ姿からは、「お客さま」に対する緊張感がとって見えます。この段階では場のイニシアチブを客側の十和子が握っていました。『孤狼の血』でも思いましたが、白石監督作品で松坂桃李さんが見せる青さはいいですね!

それでも納得がいかずに不誠実だといって落ち込む十和子。その唇を、水島桃李は前触れもなく奪いました。
「こうするほか無いと思いまして…」
!?
は!!?

こんな横暴、松坂桃李しか許されませんよ。いや、松坂桃李でも許されない。

自分がいい男であることも、自分に相手が好意を持っていることも全てわかった上での行動。実際十和子は水島に対して「不潔」とも「虫唾が走る」とも「出て行け」とも言いません。

主導権が逆転した後は、完全に水島のターン。

自分の働く店が入ったデパートのカフェで逢い引きをするという大胆な行動に出ると、あとはメロメロの十和子をいなしながら不倫関係を楽しんでいきます。

陣治のことは「物盗みそうな名前だな」と。ひどい。コンプラ大丈夫かこの映画。笑
タクラマカン砂漠の秘話を一人旅上級者的っぽく聞かせ、妻との関係がやばくなると十和子のせいにして関係を清算しようと試みます。

小せえ。覚悟が小さいっすよ…水島さん。
タクラマカン砂漠のエピも全部本の受け売りでしたね。

仰々しく十和子にプレゼントした時計は中国製の3000円。それはすなわち彼にとっての十和子の値段。
陣治が言うには「家族は家族、性欲は性欲。腐った男や」。ゲス男その1。

黒崎と國枝。ゲスの継承

一番やばかったのは、十和子が甘美な記憶を抱いたままの黒崎(竹野内豊)とその義父にあたる國枝(中嶋しゅう)でしたね。あたおかオブあたおか。

俺を助けるためだと思って、と吹き込んで恋人を義父に差し出す黒崎も、その十和子を愛撫する國枝も極めてゲスい。
黒崎に至っては暴力振るうわ、ハメ撮りするわで最悪でしたね。こいつ顔以外全部やばすぎんよ。なぜわからない十和子。いいかげん目を覚ましてほしい。

そんな下衆・黒崎の妻であり國枝の実子であるカヨ(村川絵梨)は、高級マンションで娘に英語教育を施しながらちゃんと子育てをするマトモな人に見えましたけど、彼女も彼女で明らかにやばそうな老人・國枝と客人の十和子を二人にして家を出る意味不明な挙動を見せます。

初対面の相手、しかも夫の元恋人を家に残して出るとかありえなくないですか?カヨ側からしても怖いと思うんですけど。

姉貴(赤澤ムック)は正論だけども…

いやぁ、やべえやつしかいないんですよ。この映画。

十和子の姉・美鈴(赤澤ムック)「浮気する男なんて死ねばいいのに」とさらっと言ってましたけど、本当それ。その事実しかないんですよ。

この姉貴、テレビの前で自堕落な毎日を送っている妹(とんちゃんと呼んでいる)を外の世界に連れ出し、自らの人生経験も踏まえて、黒崎はやめとけ、佐野さん、いい人じゃないのと十和子を正しい道へ導こうとしています。
黒崎のことは「刑務所行きでもおかしくない奴」と評しました。圧倒的正論。

ただし、お姉ちゃんはお姉ちゃんで、十和子のことを監視したり、十和子が幸せになるためにはこうしなきゃダメ!という思い込みが激しかったりする人でありました。若干めんどくさい。

干渉度が高いんですよ。妹がああだから気持ちはわかりますけど。

陣治の愛は歪んでいるのか

欠落している人たちが織りなすゲスな人間関係の中で、陣治(阿部サダヲ)はどう映ったでしょうか?

汗の染み込んだVネックのドライTシャツを着替えることもせず、食卓で靴下を脱ぎ、足のゴミを取る男。フーフーせずに食事を掻き込み、熱いと何度も言う男。箸の持ち方も若干怪しい。

がさつで下品と言うとちょっと言葉が悪いかもしれませんが、人と共同生活をする上でする最低限のマナーのラインが低いですよね。この陣治。

家の中でだけでなく行動面も結構やばくて、一日に何度も十和子に電話をかけては彼女の行動を確認し、十和子が外に出たら尾行してつけ回す。人を殺した話をした後に、けろっとして肉を焼いて食べる。
執着とか束縛とかじゃなくてね、異常です。

彼の異常性の理由

「僕知ってるんです、十和子を幸せにできるの僕だけなんです。十和子のためだったら何でもできる」

この異常性は十和子の過去が明かされた後に、理由が理解できるようになりました。

歪んだように映る彼の監視も尾行も生命保険も、正当化されるわけではないけどその理由がわかります。

誰かを愛することって、こんなにも痛くて重くて犠牲を伴わなければならないのでしょうか。愛されることもなく、自分が愛することも許されない陣治よ。最初から最後まで陣治の発し続けた依存性の高い言葉たちの意味がよくわかる。
全部、十和子を守り抜くための言葉だったんですよね。

けれど陣治の最後も単純に美談というわけではなくて「お前、子ども産め」発言は(陣治が“種無し”であることを踏まえたものであっても)引きましたし、女性への見方、執着の仕方が結局黒崎と同じなんじゃないかなと感じましたね。

十和子の十字架を自分が背負う代わりに、自分を十和子に背負わせるんですよ。それでなお、お前は生きなきゃいけないって言って実体としての自分はさよならするわけですね。この逃げ方はずるいと思いますし、彼もやっぱりだいぶ何かが欠落した自分本位の愛しかできない人間だと思いました。

 

「子どもをつくる」などの幸せの尺度や、女とは、男とは、みたいな嫌な価値観がぐちゃぐちゃと渦巻いた展開はあんまり好きじゃなかったですが、ラスト5分の回想で少し救われました。
陣治を見てアホやなぁと微笑む十和子の姿に、救われました。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

こんな映画もおすすめ

オーバー・フェンス

百万円と苦虫女

どちらの作品も蒼井優が圧倒的な存在感を見せています。強くて儚くて、でもやっぱり強い。主人公のキャラクターに深さを持たせる演技は必見です!ストーリー面でも好き。

夢売るふたり

小料理屋を営む夫婦を阿部サダヲと松たか子が好演。ある事件をきっかけに、この二人の生活は全く違うものに変わっていきました。「ゆるす」ことって何だろうと、自分に問いかけたくなる作品。

奇跡のリンゴ

りんご農家に婿入りした主人公を演じるのは阿部サダヲ。農業の持つ希望と厳しさに加え、菅野美穂、山崎努との家族の絆に泣きました。
タイトル画像

映画『オーバー・フェンス』ネタバレ感想〜タバコを愛する気怠き男たち〜

2019年12月7日
タイトル画像

映画『夢売るふたり』感想〜二人は体を重ねない〜

2016年2月18日
タイトル画像

映画『奇跡のリンゴ』感想〜家族の繋がりが泣ける〜

2015年3月14日

関連記事

映画見るならAmazon Prime Video