映画『クイーンズ・オブ・フィールド』ネタバレ感想|女子サッカーが映すフランスの実情

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この記事では作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2021年日本公開映画『クイーンズ・オブ・フィールド』をご紹介します。モハメド・ハムディ監督のフランス映画で、仏題は「Une belle équipe」。英語にすると「ビューティフルチーム」です。

消滅危機に立たされたフランスのアマチュアサッカークラブを、女性たちがプレーヤーになって救おう!というお話。
ジャンルとしてはコメディなのできちんと笑えるところもあります。

サッカーだけでなく社会の日常生活における女性と男性について描かれている映画ですが、サッカー好きの観点から感想を書いてみました。よろしければお付き合いください。



あらすじ紹介

サッカーが盛んな町、北フランス・クルリエール。
90年の伝統を誇る名門チームSPACの試合中にまさかの乱闘騒ぎが起き、なんと主要メンバーの男性たちが出場停止となってしまう!?このままでは残りのリーグが戦えずにチームは崩壊、町にも大打撃が訪れてしまう。。。そんな彼らの窮地を救ったのは、奥様達だった!!チームを、そして町全体を救うために専業主婦、シングルマザー、セレブ妻、女子高生達もが次々と立ち上がった。今までサッカーは見る専門だった彼女たち。家事や育児に代わりサッカーを始める事になった彼女たちに待っていたものとは…?そして夫たちはどうなるのか…。

出典:公式サイト

スタッフ、キャスト

監督 Mohamed Hamidi
脚本 Alain-Michel Blanc
Camille Fontaine
Mohamed Hamidi
マルコ
(監督)
Kad Merad
ステファニー Céline Sallette
サンドラ Sabrina Ouazani
カトリーヌ Laure Calamy
ミシェル
(カトリーヌの夫)
Frédéric Pellegeay
フランク
(ステファニーの夫)
Guillaume Gouix
レア
(マルコの娘)
Myra Tyliann
パピー
(マルコの父)
André Wilms
ミミル Alban Ivanov

フランス代表選手が参加

この映画では技術指導として、元フランス女子代表選手のコリヌ・プティ(Corine Petit)さんが共演しています。日本だとコリヌ・フランコという表記をされていたかもしれません。

このコリヌ選手、フランス代表で89試合に出場し、国内のクラブでは世界ナンバーワンの強豪・リヨンに所属。リヨンでは日本代表の熊谷紗希選手とも同僚でした。

リヨンで主力を張り続けてる熊谷選手は本当に凄い!日本サッカー史上、一番の世界的プレーヤーだと思います

映画撮影時はまだ現役で、2018年に引退。
ネシブ選手やルナール選手など、有名選手がひしめくサッカー強豪国・フランスの中でもレジェンドな存在です。日本に置き換えると、(現役時代の)澤穂希選手が映画に協力したと考えてもいいかもしれません。

ツイート内の画像で前列の女性(レア役のMyra Tyliann)が着ているのが、リヨンのユニフォームです。

資料を読むとコリヌさんは技術指導には苦労したそうですが、出演者が上手くなりたい、サッカーを楽しむという情熱を増していったことが何より嬉しかったとのこと。
その中でサンドラという選手を演じたサブリナ・ウアザニと、クリステルという選手を演じたマリオン・ムザドリアンは能力が高かったと話しています。(参照:SportBusiness.Club

サンドラは映画内でも10番を背負い、リフティングやシザースなど鮮やかなテクニックを披露していました。また最後の試合でサイドチェンジを綺麗にトラップする選手(後ろ姿)もいて、ところどころにレベルの高い役者さんがいるなという感じですね。

正直サッカーのプレーシーンのレベルは、女性男性問わず低かったとは思います。ただこの映画の肝はそこでは無いし、凛と強く輝く女性たちと、その挑戦をサポートする数少ない男性・マルコパピーを描いた良い物語でした。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



選手全員出場停止

舞台はフランスのサッカーが盛んな町・クルリエール(架空)。1988年にフランス杯を5連覇したこともある名門の町クラブ・SPAC(スパック)は創立90周年を迎えていました。

クラブの会長・ミシェル(Frédéric Pellegeay)が音頭をとるパーティーでは、監督の主人公・マルコ(Kad Merad)が紹介され、マルコのパピー(André Wilms)への感謝も伝えられます。

フランスらしく「Allez Le SPAC」と彩られたタオルマフラー。「Allez」っていうのはよく日本のサッカーの応援で使われる「アレ」ですね。

そんな伝統ある町クラブのSPACは、自前のグラウンドもクラブハウスも持ち、熱心なサポーターもついているクラブ。
いいですね。ああやって地元の人に応援してもらいながらプレーする週末は実に気持ち良さそうです。実に気持ち良さそうなんですけど、強くない。いや、弱い。笑

お腹の出たおじさんたちがのそのそとプレーする試合で、SPACは下位に沈んでおりました。降格するとクラブが消滅するらしい。シビアです。

そんな大事な状況の中で迎えた終盤戦、SPACは鮮やかなゴールを奪いますが、オフサイドで取り消しに。これに激昂した選手(おじさん)たちが審判につかみかかり、相手選手を殴り、乱闘騒ぎを巻き起こします。
下された裁定は選手全員残りの3試合出場停止。

試合ができなければクラブ消滅。
サッカー協会に若い選手たちはいないの?(ユースチームってことでしょうね)と言われたものの、マルコ監督の答えは「いない。みんな隣町に移籍した」。悲しいですね。

ただSPACは少人数ながら女子チームも持っているようで、マルコの娘・レア(Myra Tyliann)はお父さんに「自分たちが女子チームとしてリーグ戦の残りに出る」と提案。マルコは無茶だと否定しましたが結局それ以外に道はなく、クラブの全員を集めて女子チームでの参加を説明します。

おっさん選手のワイフたちは「時代は変わった」「私たちのクラブ」と意気上がりますが、会長のミシェルはマルコにブチギレて会場を後にしました。チームの先が思いやられます。

経験者少々、素人多数

日本における女子サッカーというと、日本代表(なでしこジャパン)が2011年にワールドカップを優勝したことで爆発的(かつ一時的)に人気が高まりました。

「Lリーグ」として発足したトップリーグは「なでしこリーグ」と名前を変え、さらに今年2021年秋から「WEリーグ」という国内最高峰リーグが始まります。「WE」は「Women Empowerment」の略です。

自分が小学生時代に所属していた町のサッカークラブは、男女混合の小学生世代に加えて、シニアチーム(高校生以上の男性)とレディースチーム(中学生以上の女性)を持っていました。

レディースチームでは小学生の子どもを持つ母親だったり、卒業生のOGだったり、小学生チームコーチの彼女さんや奥さまがプレーしていました。当時はそんなに女子チームが多くなかったこともあって、まあまあ強かったようです。

うちの母親も若い頃はレディースチームでプレーしていたんですけど、彼女たちはこの映画におけるレア(マルコの娘)や、10番のサンドラみたいな経験者側の存在だと思うんですよね。

で、映画『クイーンズ・オブ・フィールド』ではそこにど素人の選手たちが組み込まれました。
男性チームの選手の妻の皆さんです。クラブ会長・ミシェルを夫に持つカトリーヌ(Laure Calamy)もそうですね。

今までは週末に公式戦を戦う夫をスタンドから眺めていた彼女たちが、公式サイトのフレーズを引用すると「パンプスをスパイクに履き替えて、主婦、出陣!」するわけです。主婦だけじゃなくてレアのような高校生や警官、シングルマザーの選手も加入します。未経験者が多数派です。

つまりこの映画は、クラブチームの女子部が男子部の代わりに戦う話ではないんですよ。浦和レッズレディースやベレーザが男子チームの代わりにJリーグに出場するとかそういう次元じゃない。
サッカー未経験の女性がチームを結成して、既存の経験者チームに挑むお話です。女性か男性かという性別以前に高い壁ですよね。

即席の女子チームでシーズン残り3試合を戦うことになったSPAC。チーム存続(=リーグ残留)条件には1ゴールが必要とのことです。

1点取れば存続という条件が映画内で出ていましたが、そこには疑問を感じました。1点取っても負けちゃったら勝ち点ゼロなわけですからね。引き分けで勝ち点を1ポイント取れば、という話ならわかるんですけど。

車で颯爽と練習場に現れ、意気揚々とトレーニングウェアに着替え、「男子と同じ練習をさせて!」とマルコに要望するクイーンたち。かっこいい。

しかし彼女たちの前には、本来応援者であり、立ち上がった彼女たちに感謝すべきであろう男性たちが、障壁として立ちはだかります。

勇敢なフェミニスト映画

一番の邪魔者というか、挑戦を理解してくれない存在として描かれていたのが、クラブの会長であり、カトリーヌの夫でもあるミシェルです。

「これは選手じゃない、女性だ」
「なぜダメなのか?女性だからだ」

ほう………。

卑劣な会長

豪邸に住むブルジョワのミシェルは、「俺たちのSPAC」が女性チームとして戦うことがどうしても許せず、あの手この手を使って活動を妨害します。相手を屈服させるためには面と向かって論破するのではなく、外堀を埋めて選択肢を無くしてしまうというやり方ですね。

女子チーム初めてとなる試合の当日、彼はクラブのマネージャー的存在・パピー(André Wilms=マルコの父)からユニフォームを強奪。チームは結局ボロボロの練習着で試合に臨むことを余儀なくされました。彼いわく「クラブのユニフォームは使わせたくない」と。

練習場の照明も自分名義の契約に全て変えて、夜間練習中に明かりを消してしまいました。
周りの男子選手を女子チーム反対派へ囲い込むことにも時間を惜しみません。

一方で対面となると臆病で、妻のカトリーヌに愛想を尽かされても自分から和解を切り出すことができない男でもあります。

やることがいちいちセコいんですよね。
しかも資金力とコネをバックに結構大掛かりなレベルで妨害してくるからタチが悪い。

まあ今まで多額の私費と時間をクラブに投資してきて、伝統あるSPACを支えてきた彼なりの愛情とも捉えられなくもないんですけどね。

良心に見えるミミルも…

選手集めに奔走し、どうにかして選手たちを勝たせようと一生懸命指導に取り組む監督のマルコとともに、この映画ではミミル(Alban Ivanov)というおじさんがマルコ側の貴重な協力者として登場します。

男子チームのFWであり、乱闘事件の原因になった男。女子チームに加入したシンディ(Manika Auxire)の彼氏でもあります。

このミミル、4本線のレアル・マドリーのパチユニ(本物のアディダスは3本線ですよね笑)を着ていたり、一周回ってもみんなの空気を読まないトンチンカンなことを言ったり、合宿所の女子部屋に一人紛れ込んでいたり、愉快で可愛いおじさんでした。

そんな彼でさえも、彼女のシンディが本格的にサッカーをやるとなると、マルコにこう言い放ちます。

「(シンディが)レズビアンになられると困る」
「女子サッカー選手はレズが多い印象だ」

ミミルが「印象」と言っていた中で、女子サッカーにおいてLGBTの選手が多いのは事実です。

過去に女子サッカーを取材させていただき、実際に選手や元選手の方とお話する中でもこの話を聞きました。このテーマで論文を書いた選手の方もいます。

LGBTという言葉が一般化する前から、女子サッカーの世界では「メンズ」という独自のセクシュアリティがありました。普通に。

だからミミルが言っていた、女子サッカー選手はLGBTが多い印象だというのは別に良いんですよ。おそらく事実だから。でも、「困る」という単語が出てきたのは残念というか、ああ貴方もかと思ってしまいます。

使えない男性

それにしても衝撃的だったのが、これが女子サッカーの強豪国・フランスを舞台にしていることだったんですよね。

なぜか代表の国際大会だとそんな上位に行かないんですが、UEFAチャンピオンズリーグではリヨンが2015-16から5連覇中、やっているサッカーの質も高いですし、世界的なタレント選手も多く輩出していて、フランスは間違いなく女子サッカー強豪国なんですよ。男子も強いですけど。

2000年-2019年のW杯・五輪成績

国名 1位 2位 3位 4位
アメリカ 5 2 2 0
ドイツ 3 0 3 1
日本 1 2 0 1
ノルウェー 1 0 0 1
フランス 0 0 0 2

繰り返しになりますが、SPACは小さなクラブながらサポーターも付いていて、ホームゲームにはスタンドで選手の家族が熱心に声援を送り、町の象徴、生活の一部となっている素晴らしいクラブです。草サッカーをやったことがある人なら憧れが止まらないのではと思えるほどに良いところです。

そんなフランスでも、草の根の女子サッカーを取り巻く環境はこうなんですよね。

家事・育児をやっていた妻が外に出てサッカーを練習し、その間に家庭を任された夫たちは全然使えない。
クラブの新代表に就任したステファニー(Céline Sallette)の夫・フランクは「家事も育児も僕一人では無理です」とお手上げ状態です。

On a tendance à dire que la société évolue parce qu’on voit quelques hommes changer une couche ou faire un peu la vaisselle, alors qu’en fait une étude montre que nous avons gagné seulement quelques minutes de ménage en moins avec toujours la même charge mentale.

引用元:SportBusiness.Club

こちらの引用はカトリーヌ役を演じたLaure Calamyのコメント。
要は「男性が生活レベルを変えたりお皿を洗ったりすることで社会は変わったと見られがちだけども、研究によれば精神的な負担は変わらないし、家事の時間は少ししか短縮できていない」ということです。

映画でも男女問わずタスクを尊重し、共有することの大切さは描かれていますが、その共有は残念ながら妻を助けることにはあまりなっていません。ダメンズばっかりなんですよ本当に。男たちは何もできない。調味料の場所さえも知らない。
彼女たちの携帯電話は練習中も鳴り続けるわけですね。

いやはや痛烈でした。この映画に共存とかタスクのシェアによる成功は無いんですよね。だからこそ、パピーが見せた一世一代のシミュレーション芝居が本当に清涼剤でした。

美しき敗戦の上書き

サッカー/家庭で生活の層が逆転した中、使えない男性たちとは対照的に、女性たちは信念、サッカーへのひたむきさ、チームワークによってフィールドのクイーンズになっていきます。

2試合目で(マルコが八百長を持ちかけた)相手に善戦し、相手チームの監督が「いつでもウチのグラウンドを使ってくれ」と言ったシーンは泣けましたね。(お言葉に甘えて使わせてもらえばよかったのにと思ったのは内緒)

楽しいとか、夢中とか、それだけじゃなくて強いんですよ。

そして彼女たちのSPACは最終戦に臨みました。勝負に負けて試合に勝った的な感じでしたね。

ここで気になるのが、マルコがミミルとの会話で何度か引き合いに出していた試合。
1982年ワールドカップ、フランスが西ドイツと対戦した準決勝です。

この試合は前後半90分を1-1で終え、延長でフランスが2点を追加したものの西ドイツが追いつき、PK戦の末に西ドイツが勝ったんですが、1-1の後半にプラティニのスルーパスに抜け出したバティストンが西ドイツのGKシューマッハーに体当たりをかまされ、動けなくなってしまいます。歯を折り、脊髄を損傷する重傷でした。

現代だったら間違いなくGKに一発レッドどころか、複数試合の出場停止が課されるであろうラフプレーなんですが、反則すらも取られませんでした。

この一件でフランスの国民の怒りを買い、西ドイツの首相がフランスの大統領に謝罪、両者が声明を出すほどの国際問題に発展したそうです…。

マルコは、倒れるバティストンに駆け寄ったプラティニを「美しいシーンだった」と称え、想起します。フランスは試合に負けたわけですけども、マルコにとって動けないバティストンに寄り添うプラティニは美しい大切な記憶だったんですよね。

SPACに話を戻します。

最終戦、マルコに率いられたフィールドのクイーンたちは待望のゴールをもぎ取り、勝利を収めましたが、その試合は協会の規定により無効となっていました。結局クラブの降格(=消滅)を防ぐことはできなかったんでしょう。

けれどもそんな「勝って、負けた」歴史的な一戦はきっと彼女たちの人生に刻まれるだろうし、1982年のプラティニを思い焦がれ続けてきたマルコの「美しいシーン」を上書きするものだと思うんですよね。美しく勇敢な敗者として。勝者に限りなく近い敗者として。

ミミルとシンディの結婚式で、出席者みんながボールを蹴って戯れているラストは最高でした。

上手いとか上手くないとか、そんなのどうでもいい。
窮地を救う勇気。逆境をはねのけるしたたかさ。目標に向かって突き進む覚悟。フットボールを愛する心意気。

全部ひっくるめて女性たちが最高に強く輝いているパワフルな映画でした。

女子サッカーに携わったことがある人はもちろん、一生懸命に輝いている人には観てほしいですね。

個人的にはマルコの娘のアタッカー・レア(Myra Tyliann)がベストアクトだったと思います。高校生だった彼女がこの先も良いサッカー人生を送ることを楽しみに想像させていただきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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