映画『空中庭園』

小説を読み終わるやいなや、映画版『空中庭園』を再生。

母親・エリコ役に小泉今日子、父親・貴史役に板尾創路、長女・マナは鈴木杏、長男・コウは広田雅裕、ミーナ役にソニン、エリコの母親役に大楠道代。豊田利晃監督。

■ミーナのソニンとコウの広田
まず第一に、キャスティングが素晴らしい。主人公となりうるエリコの仮面ぶりを描くのに小泉今日子はうってつけ。張り付いた笑顔と、明るい「ママの顔」、そして無表情と全てが原作のイメージ通りである。
板尾、鈴木杏、大楠もまさに小説のキャラクターが出てきたようなハマリぶりで、さらに特筆すべきはソニンと広田である。

ミーナはこの物語で最も肉感的に描かれ、男性目線でいえば、最もエロティックな存在である。京橋家を掻き回すとまではいかないまでも、静かな食卓の池にぽちゃんっと小さな波紋をもたらすような役柄で、その上でもソニンはとても魅力的に演じていた。
豊田監督の撮り方もまた男性的で、ややミーナが悪役になってしまった感は否めないものの、僕はあれで正しいと思う。

コウを演じた広田くんに関してもまた素晴らしい人選である。
引きこもりの一歩手前、声変わりが終わった野太い声、時折見せる母親へのささやかな抵抗。公開当時、まだ16歳だったというのもいい。

大人びて見えるが、役者の実年齢がリアリティを引き出させる。主役級の6名は最高のキャスティングといっていい。

■ラストシーンは裏の裏

小説と映画では明らかに段取りが異なる。
これは豊田監督が『空中庭園』から何を伝えたかったのかに起因するのだろう。ラストシーンは小説を読んだ人なら恐らく”えっ”となるだろうし、でもその一方で納得もするだろう。小説でそのシーンに僕は”えっ”と思ったので裏の裏を突かれた感じである。

段取りを変更し、さらに原作を覆す”事件”が起こり、2時間の枠で勝負する映画ならではの仕上がりになっている。

ミーナの映し方や、ヒステリックになるエリコなど、何度も言うように男性的な目線で撮られた映画である。ラブホテルのベッドカバーと京橋家のクッションカバーの柄を揃えたり、コウのパソコン画面に団地の町をうつしこんだりと細かいギミックも豊富にある。

原作の世界観が大好きだという人には壊しすぎという声もあるかもしれない。
ただ僕は、2時間という尺を考えれば、成功した「破壊」であり試みに思える。

豊田監督が原作から象徴的なシーンをすくいあげ、それにアレンジを加えたとしても、原作の根幹にあるテーマは揺るがないのだ。

■女性的な原作から男性的な実写へ

何度も述べるが、女性的な視点は薄れ、男性的かつ極端な描写がなされているのが本作である。原作では先を濁しているところの先に色をつけているのが映画版である。
したがって小説のレビューで示したような明度がどうこうというのはあまり感じられない。

豊田監督の積極的な改変に拍手。
評価は★★★★★。


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