映画『花とアリス殺人事件』ネタバレ感想〜キミ呼びの緊張感〜

2015年の作品『花とアリス殺人事件』を鑑賞。原作、脚本、監督すべて岩井俊二氏。

04年に公開された実写映画『花とアリス』の前日譚だそうです。

映画『花とアリス』ネタバレ感想〜後年の『殺人事件』と合わせてどうぞ〜

2019年12月29日

『花とアリス殺人事件』のスタッフ、キャスト

スタッフ、キャスト

監督・原作・脚本:岩井俊二
アリス:蒼井優
花:鈴木杏
湯田:勝地涼
萩野先生:黒木華
堤ユキ:木村多江
黒柳健次:平泉成
有栖川加代:相田翔子
陸奥睦美:鈴木蘭々
朝永先生:郭智博
新井友美:キムラ緑子

蒼井優、鈴木杏は『花とアリス』に続いて同じ役でキャスティングされています。

あらすじ紹介

石ノ森学園中学校に転校してきた中学3年生のアリスこと有栖川徹子は、1年前に「ユダが、4人のユダに殺された」という3年1組に関するうわさを耳にする。彼女は自分の家の隣の屋敷が「花屋敷」と呼ばれ、この辺りの中学生たちを怖がらせていることも知る。隣家の住人のハナならユダについて何か知っていると聞かされたアリスは、花屋敷へ足を運び……。

出典:シネマトゥデイ



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

アリスと花

石ノ森学園中学校に転校してきた徹子(cv.蒼井優)。両親が離婚し、黒柳から有栖川と苗字が変わっている。

そんな彼女の転入した3年2組では一年前に「ユダが4人のユダに殺される」事件があったとされていた。

徹子の席は「殺されたユダ」の座っていた席であり、彼女は結界を破ったとしてクラスメートから忌避の目で見られてしまう。

さらに徹子の越してきた家は「殺されたユダ」が住んでいた家ということが発覚する。

同級生の陸奥睦美(cv.鈴木蘭々)には大掛かりなお祓いをされるなど、学園の怪伝説に翻弄される毎日。

隣人の引きこもり生徒・荒井花(cv.鈴木杏)が何か事情を知っているのでは?と考えた徹子は、花の家に向かう。

「キミ」呼びが心地よい

岩井俊二監督というと、わかる人にはわかる感覚的な美しさを求める作品という印象があった。

ぼんやりして実感の伴わない美意識。
正直僕は岩井監督の良さがわからない類の人間であったと思う。

ただし本作では、アプローチがとてもわかりやすい。

向こう見ずな徹子と、彼女をサポートする花。

徹子について言えば、男勝りな言動や俊足の部分、二千円しか財布に入っていないところなどが彼女のキャラクターづくりや中学三年生の実像として描かれている。


女の子同士の自然な、それでいて緊張感に満ちた関係性をカッコつけることなく描いている岩井監督。
「キミ」と呼び合う二人。(特に花→徹子

距離感と警戒心に始まり、仲良くなってからも呼称への慣れが染みついている。

「君の膵臓を食べたい」でも触れたが、「キミ」という呼び方には余計な感情を排除する作用がある。

有明地区であろう、ユダの父の職場や、「我孫子方面」という言葉で現実感を補強しつつ、少しおかしく描かれた世界の中で淡々と過ごす日常。

それを自然なものとして成立させる「キミ」の関係性。

この作品に光とか色味とか美意識の強調は、ほとんどない。

これまでのイメージからすると岩井監督の背伸びをしない世界観は少し意外だった。で、その意外性はとても心地よい。

リアルな中学生がそこに

徹子役の蒼井優と、花役の鈴木杏。

二人の演じたキャラクターも素晴らしかった。

蒼井優はぶっきらぼうな口調と、困った時の幼児性が、子供っぽさを上手に表現している。

「ねえ母ちゃん、この家引っ越そうよ〜」
自分の住んでいる家は、以前ユダが住んでいた家だと知って、引っ越したいと駄々をこねる徹子。

その混乱ぶりで、僕らは彼女がまだ未熟な中学生であることを理解する。

日常では少々のことに臆せず、自他を客観的に見ることのできる徹子だが、実年齢が一つ上の花との会話は年下感が拭えない。

早とちりして突っ走ってしまうのも、やはり徹子の役割。

学校にいるときとテンションが異なるのが面白い。

一方の花も花で、徹子に劣らずサバサバ系。鈴木杏が低いトーンで声を演じる。
この作品において「女子っぽさ」は二人にあまり感じられない。
むしろ、向こう見ずな少年の冒険譚のイメージかもしれない。

でも少し考えてみると、映画の「少女っぽさ」「少年っぽさ」なんていう概念は作り手や我々が勝手に規定しているもので、実際の女の子は映画の台詞よりももっと男性的で、映画よりもっと女々しい男の子だってたくさんいるはずだ。

少なくとも僕の周囲には確かにそういう中学生がいた。

絵柄の特徴とキャラクターの細かな設定で上手に引き算した良作。

岩井監督の新たな守備範囲に気づいた90分だった。

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