映画『10万分の1』ネタバレ感想|ALSにどう向き合いますか?

10万分の1 タイトル画像
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こんにちは。織田です。

10万という単位を聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。

英語ではOne hundred thousand。
人口でいうと、長野県佐久市や福岡県糸島市、広島県三原市、神奈川県伊勢原市といったあたりが大体人口10万人の自治体です。

今回ご紹介するのは、「10万人に1人」の確率で起きるある運命をテーマにした『10万分の1』
これは年末ジャンボ宝くじの3等(100万円)の当選確率と同じです。
日本で一番人口の多い市町村が神奈川県横浜市の370万人なので、横浜市民のうち37人に該当する、それくらい確率の低いものですね。

映画『10万分の1』は三木康一郎監督のもと、白濱亜嵐さん平祐奈さんが主演を務める青春作品です。
個人的に応援している優希美青さんが出演しているとあり、劇場で鑑賞してきました。



『10万分の1』のスタッフ、キャスト

監督 三木康一郎
原作 宮坂香帆
脚本 中川千英子
桐谷蓮 白濱亜嵐
桜木莉乃 平祐奈
橘千紘 優希美青
比名瀬祥 白洲迅
莉乃の祖父 奥田瑛二

原作は宮坂香帆さんのコミックス。
映画で使われている「1/100000」のデザインはコミックスと同じですね。

あらすじ紹介

高校剣道部のマネージャーを務める桜木莉乃は、中学時代からの友人である剣道部の人気者・桐谷蓮に思いを寄せていた。しかし自分に自信が持てない莉乃は、学校中の生徒たちの憧れの的である蓮に気後れしてばかりで、告白して気まずくなるくらいなら友達のままでいようと思っていた。そんなある日、思いがけず蓮の方から告白され、2人は付き合うことに。誰もがうらやむ幸せな日々を送る莉乃と蓮だったが、やがて「10万分の1」の確率でしか起こらない残酷な運命が2人に降りかかる。

出典:映画.com

「10万分の1の確率で起こる残酷な運命」の内容については、映画紹介サイトをはじめ、予告編でもデカデカと登場してきます。
なので、多くの方はこの残酷な運命がどういったものかは知った上での鑑賞になったのかなと思います。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

ALSを知っていますか

いきなりネタバレを言いますと、「10万分の1でしか起こらない残酷な運命」とは、ALS(筋萎縮性軸索硬化症)という国指定の難病です。
2020年現在、根治的な治療法は見つかっていません。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)だけが障害をうけます。その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。
出典:難病情報センター

2014年に「氷水をかぶるか/ALS協会に寄付をするか/その両方を行うか」を選択する「アイス・バケツ・チャレンジ」が流行したことで、ALSという病名を覚えている方もいるかもしれません。

賛否両論
アイス・バケツ・チャレンジは一時的とはいえ、有名人も多く行なったことでALSの認知度が上がったことは確かです。
一方で悪ノリと見る見方や、ただの売名行為として批判する声が多かったのも事実ですね。

今回の映画『10万分の1』は、ALSという難病の存在を周知させるという意味では、大きな役割を果たしていたと思います。

莉乃(平祐奈)の身体に起きる異変、痛みの伴う検査、診断までの過程、そして具体的な症状。
症状の進んだ莉乃が、彼氏の桐谷(白濱亜嵐)に、今の自分と「したい?」と聞いたり、思うように身体が動かせないがゆえにトイレで恥ずかしい思いをしてしまったり、厳しいところも全部ありのままに見せていきました。

この映画を観た後に「ALS 治療法」と検索したのは、きっと僕だけではないはずです。

主人公の二人には乗り切れず

莉乃(平祐奈)の症状が進行していく中でも桐谷(白濱亜嵐)は彼女を信じ、支え、同じように愛しました。

難病の彼女に対して自分がどういう選択をすべきか?本当は別れた方がお互いのためではないか?とか思っても仕方がないとも思いますがそんなこともなく、莉乃と桐谷が精神的にすれ違うところもありません。
「ALS」とか「難病」という悲劇的な要素に寄りかかることがありません。

個人的に病気をテーマにした作品が苦手なのは、「薄幸」や「悲劇」として病気を捉え、可哀想とか終末を意識させる作りのものが多いからです。

でも『10万分の1』はそうではなかったですし、病気の難しい部分を示した上で、どうやってALSと付き合いながら生きていくのか、を明示していました。

重たいテーマ設定と、そのテーマへの向き合い方は結構好きだったんですが、一方で莉乃(平祐奈)桐谷(白濱亜嵐)のラブストーリーには最後まで乗り切れませんでした。
主演二人に乗り切れなかったという言い方のほうが正しいでしょうか。

外見的なところでは白濱亜嵐の制服姿はさすがに厳しいと思いましたし、桐谷や莉乃をどういうキャラクターとして演じたいと役者さんたちが思っていたのかがよくわかりませんでした。

共感、感情移入ができない以前に、何か異質。表情やセリフに温度が感じられないんですよね。お互いがお互いに隠し事をしてるんじゃないかと思いながら観ていました。結局二人とも凄くいい素直な子でしたけど。あんまり伝わってきませんでした。

一方で、桐谷&莉乃カップルを見守る比名瀬(白洲迅)千紘(優希美青)のカップルには現実味を感じました。

付き合ってもう結構長いんだろうなという信頼感と若干のマンネリ感を漂わせながら、莉乃たちの初々しさを引き立てようとしていたと思います。

やりたいことを追求した結果

エピソードの詰め込み方という点では、主演の二人が気の毒だった気もしました。

ALSと診断された莉乃(平祐奈)は「やりたいこと」をノートに羅列します。

「蓮くんとデートしたい」
「おじいちゃんに感謝のプレゼントを贈りたい」
「運動会のリレーを走りたい」
「みんなで千紘の誕生日をお祝いしたい」

ストーリーもそれらを叶えてあげようとエピソードを物語に組み込んでいくわけですけど、少し詰め込みすぎだった気もします。

学校屈指の人気者であるハイスペ男子・桐谷と何でこんなブス(莉乃)が付き合ってるの?とやっかむ女子トリオとの和解回収も結構雑でしたし、そもそも彼女たちが莉乃に攻撃しなくなるのは、莉乃が明らかに普通の生活を送れないようになったからです。多分同情とか良心の呵責とかによるものです。

桐谷が頭の固い教師連中に掛け合って実現したであろう二人三脚リレーも、恐らくクラス全員でサプライズを計画したであろう莉乃の少し遅れた卒業式も唐突に始まり、感動に浸るだけのプロセスがバッサリと省かれていました。

極論してしまうと莉乃と桐谷が東京旅行からの雪山(戸隠)への愛の逃避行をしたシーンは要らなかったのではとすら感じます。
旅行は桐谷がやりたがってたことですし、雪山で星空を眺めるのは莉乃の思い出をなぞる作業だったから作品の優先度としては高かったと思いますけど。

雪山登山に向かう前に立ち寄った山小屋で、出発する二人にロッジの夫婦は「あったかいもの作って待ってるからね。いってらっしゃい」と言って送り出しましたけど、結局二人が下山してくるシーンはありません。
じゃあこれ必要だった?っていう話です。

教室でみんなに「私はALSなんです」と莉乃が打ち明けるシーンもおそらく映画の山場なんでしょうけど、彼女が発言するまでの流れ、教室のザワザワ、みんなと一緒に卒業したいという莉乃の言葉を聞いた後の生徒たちの反応など、典型的なお芝居感が拭えませんでした。
そもそも事情を知らない生徒たちがいきなり「ALS」って聞いてもポカンでしょうし。

前提として莉乃桐谷は高校生です。高校生にとっては、しかも彼らのように部活に入ってる子たちは学校での時間が普段の生活の大きな割合を占めているわけです。

そんな二人の、学校での過ごし方がよくわからない。
部活のシーン含めて、学校生活の描写があんまり良くなかったなと思います。

高校生活が「線」で繋がってるのではなくて、「点」が点在するような感覚。「あそこのシーン良かったよね」と瞬間的なモーメントを求めている人向けなのかなと感じました。

ロケ地・足利と上毛電鉄

舞台の軸となったのは栃木県の足利です。
群馬と栃木を結ぶ上毛電鉄を取り入れたり、高校の垂れ幕に「関東大会出場」と書かれていたり。

ただ物語的に地方都市としての意味はそれほどなく、莉乃と桐谷が初めての東京旅行をするという部分くらいですかね。

栃木の足利で撮られている映画はそれこそたくさんあるわけですが、思い出すのは『虹色デイズ』(2018年)。
佐野玲於、中川大志、高杉真宙、横浜流星といった面々が共演した、高校生活を描いた作品です。

『10万分の1』では桐谷が自転車に乗って莉乃を探し、駅で見つけるシーンがありましたが、『虹色デイズ』でも佐野玲於演じる主人公が自転車に乗りながら、駅にいるヒロインを見つめているシーンがあります。

また、主人公たちが通う高校のロケ地も、同じ旧足利西高校ですね。
旧足利西高校は『虹色デイズ』だけではなくて、『ちはやふる』や『一週間フレンズ』、また多くのドラマやMVなどでも使われていて、使用実績は100作品を超えています。

足利のロケ地情報についてはこちらをご覧ください。

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莉乃の川柳について

最後に、『10万分の1』で莉乃(平祐奈)が詠んでいた川柳について少しご紹介します。

ムカついた時に詠む「呪いの句」をはじめとして、莉乃は映画序盤で内面告白を5・7・5の川柳という形で表現しました。

映画で莉乃が詠んだ句

  • リア充を 集めて川に 流したい
  • 二人きり どうしていいか わからない
  • 至近距離 心拍数が やばすぎる
  • いよいよだ 生まれて初めて 告られる
  • ブスブスと 言ってるアンタも 鏡見ろ
  • 初彼氏 パパママ何て 思うかな

桐谷への恋慕を募らせたり、心の奥底にあるフラストレーションを吐き出したり。
自分の思いをポエミーに表現する莉乃の川柳は、彼女の一人称視点も兼ねていて面白かったんですが、桐谷を家に上げた「初彼氏〜」を最後に彼女の川柳は終わります。
ALSの症状が出始めてから、莉乃が川柳を詠むことはなくなり、莉乃視点の内面告白もなくなります。

莉乃がALS患者となって以降、映画は常に客観を貫きました。
莉乃が本心でどう思っているのか、彼女の目に世界がどう見えているのかはわかりません。

これは観ている側が、桐谷や千紘やおじいちゃん(奥田瑛二)の立場になって「自分ならどうやって莉乃と向き合うか」を試されているような気もします。

Twitterアカウント【映画 10万分の1】キャラクター特集では川柳のツイートがたくさん紹介されているので、莉乃の5・7・5に興味を持った方はご覧ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。