映画『水上のフライト』ネタバレ感想|大塚寧々の愛情・支えが涙を誘う

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2020年公開の映画『水上のフライト』についてご紹介します。

テーマとなるのは「パラカヌー」パラリンピックで行われるカヌーの種目です。カヌーというのはパドルで舟を漕ぐ競技ですね。

『水上のフライト』は、不慮の事故によって脊髄を損傷し、競技人生を閉ざされた走り高跳びの選手が、パラカヌーを通して新たな夢を追いかけていく、スポーツ映画。
土橋章宏さんが実在のパラカヌー選手との交流から着想を得て企画し、主演は中条あやみさん、監督は兼重淳さんが務めています。

はじめに感想を記しておくと、アスリートの苦しみや内面、アスリートを支える人たちの思いを丁寧に再現し、予想をはるかに上回る素晴らしい映画でした!
仕事柄、スポーツ選手のストーリーを見聞きする機会が多いんですけど、『水上のフライト』はアスリートの実情に寄り添った、誤魔化しのない正統派の作品だと思います。

この記事ではその理由を探っていきますので、よろしければお付き合いください!




『水上のフライト』のスタッフ、キャスト

監督 兼重淳
脚本 土橋章宏、兼重淳
藤堂遥 中条あやみ
加賀颯太 杉野遥亮
遥の母 大塚寧々
タツヤ 高村佳偉人
里奈 平澤宏々路
朝比奈麗香 冨手麻妙
村上みちる 高月彩良
宮本浩 小澤征悦

兼重監督と杉野遥亮といえば、『キセキ あの日のソビト』での共演が印象的です。

GReeeeNを題材にした『キセキ』は、歌詞の通り、観た人がきっと笑顔になって明日を迎えることができるような素晴らしい作品でした。家族、友人、夢と現在地。様々な葛藤を滲ませながら前に進む青年たちの、まぎれもない青春作品です。
未見の方は是非!VODでも観れます!

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映画『キセキ -あの日のソビト-』ネタバレ感想|GReeeeN好きの心を震わせる大傑作!

2017年2月4日

あらすじ紹介

将来性の高い走り高跳び選手として活躍し負け知らずだった遥(中条あやみ)は、ある日、不慮の事故に遭遇する。命は取り留めたが下半身はまひし、将来の夢を断たれた遥は心を閉ざし自暴自棄になってしまう。しかし周囲の人々に支えられ、パラカヌーという競技に出会った彼女は、新たな夢を見つける。

出典:シネマトゥデイ

予告編

正直なところ、予告編やあらすじを観ていた段階では惹かれませんでした。怪我で夢に破れたアスリートが自暴自棄になり、独善的に振る舞いながらも、周囲の説得でパラカヌーに挑戦するという、負傷の悲劇性とか、大怪我からの復活の奇跡とかにフォーカスした“痛みの側面”を前面に押し出すものだと思っていました。

でもマジで、いい意味で裏切られました。

この映画にとって「怪我」という悲劇性は単なるきっかけにしか過ぎません。「かわいそう」とか同情を誘う演出は無いと言ってもいいと思います。
個人的な感覚ですが、この映画のあらすじ、予告編だけでは本編の魅力はわかりません。
ぜひ映画を観て、感じて欲しい。たくさんの感動が詰まった作品でした。

モデルは瀬立モニカ選手

『水上のフライト』には明確なモデルが実在します。
企画の土橋さんが交流し、着想を得たと表現されている瀬立モニカ(せりゅう・モニカ)選手です。

瀬立モニカ選手

  • 中学時代からカヌー部に所属し、国体出場を目指していた
  • 高校1年時(2013)に怪我をして車椅子生活に
  • 1年間のリハビリを経てパラカヌー選手として競技復帰
  • 2016年にリオデジャネイロ・パラリンピックに出場、8位入賞
  • 東京パラリンピックの出場権を獲得。本大会でメダル獲得を目指す

参考:オフィシャルサイト

実績面を見ても日本パラカヌー競技のトップアスリートです。そんなモニカ選手の辿った経歴をモデルにしながら、『水上のフライト』は主人公・遥(中条あやみ)のストーリーを紡いでいきます。

モニカ選手と遥の描写

もともとカヌーの選手で、高校1年性の時に怪我を負ったモニカ選手に対し、本作の遥(中条あやみ)の場合は、陸上の走り高跳びでオリンピックを狙える体育大学の選手だったことが描かれています。なので怪我をしたのも大学時代。
カヌーは小学生時代にやっていたという設定です。

モニカ選手は1年間のリハビリを経てパラカヌー選手として世界に羽ばたいたわけですが、この点では遥もおそらく同じくらいのリハビリ期間(トレーニング期間)があったと思います。映画内で怪我をしたのが平成29年、パラカヌーの選考会が令和元年と表記されていたと思います。

パラカヌー競技は脊髄損傷、下肢切断、片麻痺、二分脊椎など、主に下肢に障害のある選手が参加。カヤック競技と、ヴァ―競技という二つの種目があり、モニカ選手や遥はカヤックにあたります。

競技は障害の程度によって3つのクラス設定が分かれていて、カヤック競技であれば「KL1」、「KL2」、「KL3」と分類。
モニカ選手は胴体を動かせず、肩と腕の機能だけで漕ぐことができる選手の「KL1」
遥は胴体と腕を使って漕ぐことができる選手が該当する「KL2」というクラスに相当します。
参考:一般社団法人 日本障害者カヌー協会

パラカヌー競技についてはこちらの日本障害者カヌー協会さんのページで詳しく解説されていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

 

映画『水上のフライト』のあらすじ、評判などについてはMIHOシネマさんの記事でもネタバレなしで詳しくご紹介されています。鑑賞前に見ておきたい映画も紹介されていますので、ぜひ見てみてください。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

パラスポーツへの転向

自分の体験談を書くと、スポーツメディアで働いていた時にパラリンピックに代表されるパラスポーツ選手をテーマにした企画や記事は比較的多く目にしてきました。

その際、パラスポーツ選手を取り上げる際に語られるのが、その選手がどうしてパラスポーツに転向したかということです。
この映画の主人公・遥のような事故だったり、骨肉腫などの腫瘍だったり、怪我だったり。

苦しい時期をどう乗り越えたのか、また自分の今までやってきた競技に折り合いをつけて、新しいパラスポーツ競技にどうやって向き合っていくかというのは、その選手のストーリーを描く上でとっても大切なものです。

ただし、『水上のフライト』では、遥(中条あやみ)が現況に絶望し、自分の新たな可能性に向き合うことがなかなかできないというような、あらすじで書かれていた「自暴自棄」の部分は実はあまり見られませんでした。

遥が負傷した後に、自分より格下だった後輩のみちる(高月彩良)の活躍を見て走り高跳びへの未練をのぞかせたり、颯太(杉野遥亮)に「私の何がわかるの?」と強く当たったりする部分ももちろんあったんですけど、「自暴自棄」というまでには程遠く、この映画はそれよりももっと大切なことを描こうとしているのが伝わってきました。

あらすじのところにも書きましたが、怪我で競技への夢が破れた「悲劇性」にフォーカスした映画ではありません。このバランスがとても素晴らしかったと思います。

では、この映画で我々が知ることができたのはどんなところだったのでしょうか?

負けず嫌い

遥(中条あやみ)のパラカヌー挑戦に火をつけたもの。それは彼女の「負けず嫌い」な部分でした。
彼女はしぶしぶ連れられてきたブリッジスクールで、カヌーと再会し、少年・タツヤ(高村佳偉人)の「女だから(カヌーはできないか)」という挑発的な言葉で、負けず嫌いの心に炎が灯ります。

ブリッジスクール

不登校児童・生徒に、個別の学習指導、体験活動、相談活動を通して学ぶことの大切さを知らせるとともに自立心や社会性を身につけ、学校に復帰させることを目的としています。出典:江東区

この「負けず嫌い」という要素はアスリートにとって凄く大事なものです。
遥の場合、「前を走られるのが嫌い」という表現をしていましたが、競技の魅力に気づくとか云々の前に、「勝ちたい」という渇望があるわけです。特に個人競技の陸上で日本のトップクラスにいた遥は、それが強かったのも納得です。

大学時代に仲良くさせていただき、プロのサッカー選手になった方がいましたが、その人は対戦ゲーム(ウイニングイレブンやマリオカートなど)を一切やりませんでした。理由は負けると嫌だから。
これは極端な例かもしれませんが、スポーツをすることにおいて「負けたくない」の気持ちは「上手くなりたい」と同じくらい原動力となるものですね。遥が宮本(小澤征悦)たちの厳しいトレーニングメニューにも音を上げずに取り組み、目標に向かって努力する根源となったのは、やっぱり「負けず嫌い」というアスリートにとって一番大切な資質だったと思います。

母役の大塚寧々が抜群

はお母さんとの二人暮らし。カヌーをやっていて宮本(小澤征悦)と仲が良かったお父さんはすでに他界していることが何となく描かれていました。

この映画を語る上で、もちろん遥からの視点も大事なんですが、同じくらい心に刺さったのが、大塚寧々の演じたお母さんの存在です。

翻訳家として生計を立てながら、大学に通う遥を育てているお母さん。
彼女は家に閉じこもってしまった遥を外の世界に戻そうと、夫の旧友である宮本に懇願して、きっかけを与えます。

また一方で遥に対して「(車椅子から)手を離すわよ」とか、こまめに連絡をとったりとか、手取り足取りのサポートを行い、そのサポートを受ける遥を颯太(杉野遥亮)や、タツヤ(高村佳偉人)里奈(平澤宏々路)たちはじっと見つめます。言外に「世話しすぎでしょ」の思いもちょっぴり込めて。実際に颯太は「過保護で育った」と遥をからかいました。

描き方によっては、お母さんのサポートを本当に「過保護」として捉え、「過保護から自立する遥」を描くこともできたと思います。
でも、『水上のフライト』では、そんな手取り足取りで尽くすお母さんを圧倒的に肯定しました。なぜならば、過保護にも映るサポートは、遥が前に進むために絶対必要なことだったからです。

お母さんのありがたさ

スポーツをやるということには、お金がかかります。宮本を通じて語られていましたが、大会に出るのだって馬鹿にならないお金がかかります。

競技者としてパラカヌーに挑戦するためには、宮本たちのコーチング費用がかかります。颯太がこしらえた、アスリートが戦うためのオーダーメイドの装具だって、妥協をしなければ相当なお金がかかります。
遥のマンションは、部屋の間の段差がなく、玄関もフラットな形でバリアフリーに描かれていました。もしかしたらあのマンションも、遥が車椅子生活となった後にリフォームしたり、あるいは引っ越したのかもしれません。

遥自身も活動費をアルバイトで賄っていた描写もありましたが、やはり金銭的な援助の柱となっていたのは保護者であるお母さんです。
これは陸上の走り高跳びをやっていた時も同じこと。孤高の女王みたいな触れ込みでしたが、一人でやっていけることなんてないんです。SUPER BEAVERの主題歌「ひとりで生きていたならば」は、そのまま遥の心情に当てはまる楽曲といえます。

だから、お母さんの手厚いサポートを圧倒的に肯定していたからこそ、レースを終えた遥がお母さんと抱き合ったシーンが胸に響きました。
個人的に『水上のフライト』を一番観ていただきたいのは、子供を持つ親御さんです。

応援されることの喜び

遥側の視点でも考えてみます。
「ひとりで生きてきた」と自負する彼女でしたが、怪我をしてから思い出す走り高跳びの光景には、必ず応援の声がありました。後輩部員たちの「遥先輩!!」という声が。
そして遥が部を去って以降、その声援の対象はみちる(高月彩良)へと変わります。

大学の部活というのは、エリートの集合体です。高校でももちろん強豪校は選りすぐりの選手が揃っていますが、大学はそこからさらに選りすぐりの精鋭たちが競技続行を決断して入ってくる場所です。みんなが仲間でありながら、ライバルです。
そのライバルたちが、部内のエースに自分たちのしてきた努力を乗せて、けれどその舞台に立てなかった思いを乗せて、応援しているわけです。

車いす生活になった遥があの時、陸上競技場で背中に受けていた声援を鮮明に思い出すのは、競技への執着とともに、彼女が誰かの夢を背負って戦うことにプライドを感じていたからだと思います。だから結局、ひとりで戦ってなんていなかったんですよね。走り高跳びの時も。

一方でカヌーへ転向した後も、遥の背中を押すサポーターは現れます。
見守るお母さんはもちろん、宮本が、颯太が、タツヤが、里奈が、遥に向かって「やれる」「頑張って」を絶え間なく送り続けます。

ブリッジスクールの子供たち、スタッフたちは遥のカヌーに手形を押して思いを、夢を乗せます。それを背負って挑むことができる幸福感を漂わせた中条あやみの表情は、もう最高としか言いようがありません。

ブリッジスクールの生徒たち、タツヤ(高村佳偉人)里奈(平澤宏々路)の存在感、説得力は圧巻でした。車いすで登場した遥に気をつかうこともなく、一方で努力をしっかりと認め、仲間として応援していく。
宮本が「子供たちに教えられてばっかりです」と言っていましたが、遥も同じように、子供たちに導かれていったのではないでしょうか。特に思ったことをズバっと口にするタツヤは宮本以上のコーチングスタッフと言ってもいいかもしれません。

カヌーシートについて
映画では颯太が手がけた競技用のカヌーシート。
実際に瀬立モニカ選手の競技用シート製作をサポートした川村義肢株式会社さんの記事がパシフィックニュースさんの方で読めます。お時間のある方はどうぞ!

パラリンピック(パラカヌー)を支える技術(1)

映画のロケ地・旧中川

最後に少し、映画の舞台設定の話をします。

『水上のフライト』で遥たちがカヌーの練習を行なっていたのは、東京都江東区と江戸川区の境界となっている旧中川
映画に出ていた「もみじ大橋」「さくら大橋」の河岸には、「江戸川カヌークラブ」さんの艇庫があります。

この旧中川は、映画のモデルとなった瀬立モニカ選手が実際に練習を行なっている場所です。
映画でも宮本が言っていた通り、旧中川を上流に向かって進んでいくと、見えてくるのは東京スカイツリー。モニカ選手にとっては地元であり、練習拠点の旧中川に本社が隣接していたことからパラマウントベッドさんのスポンサー支援を受けることになった縁もあります。

ゆかりの地という意味でも、モニカ選手がこの映画にどれだけ投影されたのか、説得力がありますよね。

『水上のフライト』は支えてくれる人、応援してくれる人への感謝を改めて再確認できる真っ直ぐな映画でした。
スポ根作品としても、ヒューマンドラマとしても綺麗な作品。ありきたりなテーマかな?と思っていた自分を恥じます。

 

ちなみに旧中川では、競技者でなくてもアウトドアのアクティビティとしてカヌーを体験できます。
遥やブリッジスクールの子たちと同じ水路を進むスカイツリーツアー(Outdoor Sports Club ZACさんHP)もあります。

もう少し沿岸の方に行った江戸川区のエリアもカヌーの名所で、新左近川親水公園で、カヌーを体験することができます。興味のある方はぜひ体験してみてください。

アフィリエイトとか宣伝ではなく、自分がこのあたりに住んでいたという理由です(笑)。江東区も江戸川区も水上の心地よい空気を感じられるいいところです!

個人的なところでもう一つ書くと、高跳び選手としての遥、パラカヌー選手としての遥を取材するメディア人らしき二人の描写はあまり必要性を感じませんでした。一方で僕もああいう立場から、学生アスリートの方に取材をした経験があります。その意味では、遥に魅了される彼らの気持ちがよく分かったりもしました。

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