映画『町田くんの世界』ネタバレ感想|前田敦子vs高畑充希の口撃戦が最高に面白い

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こんにちは。織田(@eigakatsudou)です。

今回は2019年公開の映画『町田くんの世界』をご紹介します。
石井裕也監督。主演に細田佳央太さん、関水渚さん。

情けは人の為ならずを地でいく超絶ギブ&ギブの男子高校生・町田くんが施す愛を描いた作品です。

全力で抱きしめたくなるような、愛すべき映画でした!



あらすじ紹介

町田くん(細田佳央太)は運動や勉強が不得意で見た目も目立たないが、困っている人を見過ごすことのできない優しい性格で、接する人たちの世界を変える不思議な力の持ち主だった。ある日、町田くんの世界が一変してしまう出来事が起こる。

出典:シネマトゥデイ

スタッフ、キャスト

監督 石井裕也
原作 安藤ゆき
脚本 石井裕也、片岡翔
町田くん 細田佳央太
猪原さん 関水渚
氷室くん 岩田剛典
さくらさん 高畑充希
西野くん 太賀
吉高 池松壮亮
吉高の妻 戸田恵梨香
町田の父 北村有起哉
町田の母 松嶋菜々子
栄さん 前田敦子

新人俳優だった細田佳央太さんはこの映画に抜擢された形だったんですが、非常に良かったですね。顔がめっちゃ小さくてびっくりしました。

1989年生まれの岩田剛典さん、1991年生まれの前田敦子さん高畑充希さん、1993年生まれの太賀さんが高校生役を演じています。年齢を感じさせない、というかそんなのどうでもよくなるような作品の世界観も素敵でした。

太賀さんと高畑充希さんの共演は『アズミ・ハルコは行方不明』(2016年)を思い出しました。あの映画では二十歳という設定でしたね。
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



草の連続

冒頭に述べたように、『町田くんの世界』は抱きしめたくなるような愛おしい映画でした。

その一因として、テンポの良い強烈なセリフの言い回しがあるのではないでしょうか?

最初の1時間は笑いっぱなしでした!

特に町田くんを取り巻く女子生徒たちの言葉の応酬が凄かったです。劇中のセリフを引用しながら見ていきましょう。

高畑充希vs前田敦子

まず印象に残ったのが、さくらさん(高畑充希)栄さん(前田敦子)がバトる昼休みのシーンです。学年的にはさくらさんは後輩にあたります。

学校の貴公子・氷室くん(岩田剛典)と別れて失恋中だったさくらさん。そこに町田くんお得意の他意なき親切が炸裂します。

ミルクティーを片手に、元気出して、と頭ポンポン。
キラキラ映画でもなかなかお目にかかれないレベルの王子さまっぷりです。

その町田くんを見て、栄さんは苦々しげにこう呟きます。

「あんの野郎とんでもねえな。全人類が自分の家族だと思ってる」

町田くんの施しに救われたさくらさんは、町田くんに手作り弁当でアタック。アーンして、と町田くんに呼びかけます。

「町田ァ、ダメだぞ。ダメだダメだダメだダメだ…」

上から眺めていた栄さんの念も虚しく、町田くんはアーンと口を開けてさくら弁当のおかずをパクリ。
しかしながら、頭ポンポンのアゲインを期待したさくらさんを置いて、突如町田くんはまた別の無償の愛の施しへと走り去ってしまいました。

「何で?町田先輩全然ドキッてくんないんだけど。男っすか?つか人間?」(さくら)
「ついに尻尾を出したな。つか私らがここに居たこと、お前気づいてただろ。マジ恐ろしいな」(栄)
「そうすか(食い気味)」(さくら)
「あぁ?」(栄)

ここは何回観てもやばいですね。

この女狐め、ついに本性を出したかと迫る前田敦子先輩を、「そうすか」の一言であっさりとスルーする高畑充希さん。笑
「わからない」町田くんを振り回し、振り回される登場人物が多い中で、冷静な視点を貫いていた栄さんに浴びせられた痛烈な一撃でした。

痛快な会話劇でいうと、『婚前特急』(2011)、『まともじゃないのは君も一緒』(2021)あたりが素晴らしいんですけど、本作品もまったく引けを取らないんじゃないでしょうか。

キャラ崩壊していく猪原さん

前田敦子と高畑充希が織りなしたバトルを横で見ていたのが猪原さん(関水渚)

クラスでも浮き、孤高の問題児だった彼女には町田くんへの恋心が芽生え始めていました。

冷静を装いながらも、猪原さんの脚はカタカタと貧乏揺すりが止まりません。
さくらさんとの弁当アーンを目撃してしまった彼女は、その日の放課後、町田くんの自宅の前で待ち伏せします。よく家知ってたな。

「…猪原さん(何でここに?)」(町田)
「町田ァ……じゃなくて、町田くん、遅かったね(イライラ)。で、何?(イライラ)」(猪原)
「えっ、逆に何…?猪原さんここで何してたの?あっ、会えたことはすごく嬉しいんだけど(困惑)」(町田)
「はっ?嬉しい?あっ、いや、私もう、まったくわけがわからなくなってまいりました(イライラ)」(猪原)

「あのさぁ、いいんだよ別に。いいんだけどさ、何?今日?何が、どうなったの?説明お願いします(イライラ)」(猪原)
「今日?特に何も」(町田)
「はぁぁぁ?!あ〜そう、しらばっくれる感じですか?!で、これから私たちどうなっていく感じですか?!」(猪原)

誰にもなびかず孤高を貫いていた、かつての猪原さんはもうありません。キャラ崩壊です。浮気現場を目撃した恋人目線です。

猪原さんが恋する女の子にどんどん変わっていく様が面白かったですよね!

「猪原さん、一緒に帰ろ」って言われたときの猪原さんの笑顔よ…。
好きってどういうこと?と思い悩む思春期の青さといったら…。気づいてあげて町田くん!

しかし、そんな猪原さんのキュンキュンとは裏腹に、町田くんは他者への愛をそこかしこに振りまいて行きます。
町田ァ!!!!!

残酷なまでの無垢な愛

本記事の冒頭で触れたように、町田くんは優しさで出来た無償の愛を振りまきまくる、ギブ&ギブの少年です。

「俺は人が好き」と言っていましたが、ちょっと常軌を逸するレベルの人たらしです。

「やば、さすが町田くん」
「えっ、誰?」
「えっ、町田くん知らないの?劇的にいい人で有名じゃん。なんか一部でキリストって呼ばれてるみたいだよ」

バスの中ではモブ生徒たちが町田くんを見てディスり気味に話しています。

そう、劇的にいい人なんですよ。「いい人止まり」とかそんな次元を超越した、100パーの善意で構成されたいい人です。

町田くんは困っている人や悲しんでいる人がいれば、真っ先に駆け寄って言って手を差し伸べます。そこにお節介かもしれないなんて躊躇や、相手への下心なんてものは存在しません。ヘルプを全く厭いません。

ただ、その純度100%の善意は、いいことばかりではありません。

勘違いの誘発

町田くんみたいな常人を超越した存在を除き、人には誰しも独占欲というものが存在します。

愛や施しというものは誰にでも平等に分け隔てなく与えられるものではなく、普通その施しには相手への好意だったり何がしかの意図があります。
「オネシャス!!」がいささかうるさすぎる西野くん(太賀)が猪原さんにお花を買ってきたことがいい例ですよね。

だから失恋で傷心している時にミルクティーを持って現れた町田くんに、さくらさん(高畑充希)は胸キュンしたわけです。「私のために」慰めてくれたと捉えるわけです。

けれど、町田くんの場合、施しを与える対象は全人類です。重そうな本を運んでいる人がいれば手伝うし、掲示物に苦労している人が手伝うし、片付けで困っている人がいれば手を差し伸べる。

町田くんの優しさは自分(さくら)にだけ向けられたものではないんですよね。だから町田くんが他の人に優しさをふりまいてるとやきもきする。このジレンマは猪原さんも同様です。

「ねえ、どうしてそんな誰に対してもそんなに親切なの?自分のことは後回しで、誰かのために生きてるみたい。」

猪原さんはこう町田くんに問いかけました。
町田くんは「みんなそうじゃないの?」とピントのずれた回答を返してきたわけですけど、こんな町田くんを見ると「自分がダメ人間に思えてくる」と言う猪原さんの気持ちがよくわかります。

そして町田くんが自分に対して好意を持っているのでは?と思うことは勘違いなんじゃないかという自己嫌悪へとつながります。

町田くんの平等な愛は時に残酷なんですよね。
他の人に施しを与えている姿を見るのは、(さくらさんや猪原さんにとって)もはや無差別なテロかもしれません。

ただ『町田くんの世界』は、町田くんが「ギブ」を施した人たちからきちんと「テイク」を受けていて安心しました。

物語の展開からすれば至極当然のこととは思いますが、常人を超えた町田くんの「いい人」ぶりからすると本当にギブ&ギブで終わってしまうのではないかとも思いましたからね。

前田敦子がもたらす保護者視点

最後に栄さん(前田敦子)がもたらした一つの視点について考えてみます。

「恋愛ドラマだったら…」の枕詞を使い、時に驚き、大体は呆れながら町田くんを見守る栄さん。

無償の愛を振りまき、また本当の愛とは何かを見つけに行く町田くん、また彼からの愛を受け取り、彼に翻弄される人たちが当事者として描かれる中、栄さんの立ち位置は保護者的な視点をこちらに与えてくれると思うんですよね。

「やっぱり始まってるのかな、あの二人のラブ」
「あたしらこんなとこで唐揚げ棒食ってる場合じゃねえな。青春がものすごい速さで過ぎ去っていってる」
「わかる。でもあたし今日彼氏できたんだよね」
「まじか。やべーな青春って」
「ほんと。青春やばい」

友達(日々美思)と語り合う栄さんでしたが、自分はやべー青春の一歩外から傍観して、映画を見ている我々と同じような視点で町田くんたちを見ています。
町田くんとはまた一味違った神の視点です。

この栄さんの視点があったからこそ、神様にも暴走にも見える町田くんを僕は「愛しい」という一歩引いた視点で見ることができたんだと思いますし、そこに「抱きしめてあげたい」という保護者的観点も生まれたと思うんですよね。

『くれなずめ』でもそうでしたが、前田敦子さんは強烈かつ冷静かつ正論の一撃を放つキャラクターに自分を染め上げるのが本当に上手い。
本作『町田くんの世界』ではもはや達観しているといっていいレベルの女子高生でした。それでも「こんな達観している高校生いないよね」にならないのは、彼女の醸し出す強烈なキャラクターの賜物です。

「まじか町田」

栄さんと一緒に、「まじか」な町田くんと彼に翻弄される猪原さんを愛でることができて本当に良かったです。
心底愛すべき映画でした。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。