映画『トイレのピエタ』〜入院生活のリアル〜

2017年最初に観たのは松永大司監督の『トイレのピエタ』。RADWIMPSの野田洋次郎が俳優デビューを果たした2015年の作品である。

原案は手塚治虫。胃がんに苦しんだ自身の晩年に、書き残した日記に同作品がある。
それを元に松永監督がオリジナルストーリーで脚本化した。

胃がんで余命を宣告される園田(野田洋次郎)の余生、また彼自身の生への考え方。

28歳になってもビルの窓拭きのアルバイトとして生活する男の有り様。

母親と祖母に怯えながら暮らす女子高生。

この作品に何を感じるかは観た人次第だが、ポスターのキャッチコピーとなっている「世界にしがみつくように、恋をした」は違うんじゃないかな。

コピーって大事だけど、耳当たりの良い言葉を切り貼りしたいがために映画を都合よく解釈してしまうのはね。

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入院するということ

▲園田を演じる野田洋次郎。倦怠感を醸し出す演技が素晴らしい。 (C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

主人公の園田は入院して横田(リリー・フランキー)と出会う。
採血、MRI検査(CTかな?)、点滴、病院食などよくありがちな病院の描写。
ただ、そこに絶望感とか、お涙頂戴の演出がほとんどない。
あまり愛想の良くない看護師役でMEGUMIが出ているが、結構看護師さんなんてあんなものである。

▲病院の描写には悲壮感がなくてとても良い。 (C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

僕は一昨年の冬、10日ほど検査入院をしている。

味付けの薄い食事、隣のベッドとの仕切りのカーテン、やたらペタペタと鳴るスリッパ。

作品内で園田と横田は少し不自由な形で廊下を歩いていたが、あれが「身体が悪い」という演出でないとしたら見事だと思う。
あまりにもベッドの上に長い時間いるものだから、歩くという行為に身体がついていかないのである。これは本当。

早く仕事に戻らなきゃという気持ちもわかるし、横田の後輩が「あの人いなくても会社は回る」と陰口を叩いていたシーンもわかる。

この作品の好きなところは、病院を悲劇的な場所、あるいは希望を与える場所と捉えずに「元気じゃないからここにいる」人たちの場所として客観的に描いている点だ。

これは入院したことがある方ならわかると思う。

その一方で入院という行為に何か日常からの脱出を重ね合わせる少女(杉咲花)の視点もまた、入院を経験したことのない人々の代弁者として機能している。

▲すぐ「はぁ?死ねよ」と言う杉咲花。生と死に対して実感が薄いと言っては簡単だが、案外あんなもんでは。 (C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

キャスティングも正解

この作品については公開前から、『恋の渦』出演の松澤匠さんの告知で知っていた。その松澤匠はビル清掃員の同僚として登場。

結構台詞も多く、ゲスい笑い方も健在で満足でした。露出の割にエンドロールの名前が小さいので、皆さん覚えてくださいね。

杉咲花は元々好きな顔なので終始好印象。少し子役時代の名残りがあって大人に甘えるような口調なのが反省点かな。

しかしまあそれにしても前前前世の野田洋次郎、凄い。
倦怠感を醸し出し、感情を表に出さないキャラクターというのを差し引いても、十分に成功した主演と言えると思う。
あとは園田の父親の言葉が良かったなあ。

▲現実感の強いテーマ設定の中にもバランス感覚が上手い。 (C)2015「トイレのピエタ」製作委員会

設定も含めて結構リアリティが高い形に仕上がっている中で、プールのシーンなどを使って少しガスを抜いたり、作品のバランス感覚も良い。

★★★★★。

本年もよろしくお願いします。

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