映画『この世界の片隅に』〜戦争映画の真実〜

片渕須直監督の『この世界の片隅に』を観てきました。

こうの史代の漫画が原作。

各方面から称賛されているのは知っていて、観に行きたいなと思っていたがなかなか地元近辺での上映がなかった。

徐々に上映館が増えたので仕事の合間に銀座で鑑賞。

結構地下鉄の音が響く。

結論から言うと、同じように高評価を耳にして鑑賞した『君の名は。』に比べると心を揺さぶられるインパクトは弱かった。

確かに泣いた。

確かにのん(能年玲奈改め)の声はすずにぴったりだった。

でも、何だろう。
そんなに絶賛するほどなのかな?
というのが鑑賞直後の印象だった。

あまり得意な絵面ではなかったというのもある。

▲正直、得意なタッチではなかったけど… (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

出典:映画.com

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押しつけがましさの排除

鑑賞から二日経って。

本作を観たという同僚と話し、いろんな場面を思い出していると、やはりいい映画だったんだなとしみじみ実感してきた。

これまでの戦争を題材にした作品は、勇敢に戦った兵士や彼らを待つ人たちの戦記。
一方で戦争の恐ろしさ、核兵器の残酷さを表に出した映画の二つに分かれていたと思う。

当時の日本が歩んだ太平洋戦争(に限らずだけど)の実情を知ってほしい、とか、後世に語り継いで行きたい、っていう思いでもちろん作り手側は製作している。

でもこうして「二つに分かれて」と線引きをする僕のような鑑賞者がいるのは、その映画にあまりにもメッセージ性が込められ過ぎていることを意味しているのではないか。

▲家族の食事のシーン。そこに悲壮感はない。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

出典:映画.com

「この世界の片隅に」は戦時中の生活を描き、確かに主人公のすずたちは一生懸命生きている。

でも、彼女たちは「どうしても生き延びたい」わけでも「どうしようもない、ただ生きるしかない」というわけでもない。

そこに絶望や生への執着は感じられないし、戦争賛美の趨勢に染まっているわけでもない。

戦況が悪化し、砂糖が配給で手に入らなくなった時も町の人たちに絶望感や哀しみは描かれていなかった。

「砂糖が手に入らなくても生きていかなくてはいけない」ではなく、「砂糖が手に入らないならどうすべきか」と。

限られた食糧でも知恵を使って食事を摂り、その量が少なくても、子供たちが「白米が食べたい…」などとは言わない。

この映画にはこちらに同情をさせるような描写がない。

戦争映画なのに押し付けがましさが、全くない。

▲あくまでその日その日を生きているすずたち。お涙頂戴でも戦争賛美でもない。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

出典:映画.com

昭和前期の日常

すずは、嫁いだ先の北條家のために自分ができることをし続ける。

国のために、生き抜くために、というこれまでの作品とは異なり、家のために生きるのがこの映画の原点だと思う。

だから、すずたちが暮らすのがこの世界の片隅だとしても、その片隅の「おかえりなさい」はとっても温かい。

すずは、よく二へ〜ッと笑う。糸を引く細い目で。料理をしながら、空を見上げながら、すみちゃんと話しながら。

その笑顔が、のんびりとした彼女が僕たちに伝えるのは紛れも無い昭和の一時代の日常。
戦争はいま起きている。だけど、自分が日々することは変わらない。
自分の生き方も、変わらない。

戦争中だって毎日楽しいことがあり、笑顔がある。

▲すずのニヘ顔。のんびりとした笑顔に、のんの声がよく似合う。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

出典:映画.com

北條家でいえば旦那の周作とすずが本当の夫婦になっていく様と、義姉の径子とすずとの関係の変化も印象深い。

周作と径子のキャラクターは実に丁寧に描かれていて、径子はある種この映画の主人公なのではないかと思えるほどだった。

あとは北條の父親が軍備品の一部を作っている自分の仕事を誇らしげに語るシーンは好きだったな。

▲周作とすず。周作の男らしさはとっても日本人的。ぜひ見てください。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

出典:映画.com

いろんな感想を聞いてみたい

戦時中の映画なので人は死ぬし、当然悲しみは存在する。

ただ、すずたち家族が兄を失った時の反応に僕は驚いた。

すずの旦那である周作は無事に帰ってきたものの、一見無味な対応にはこの時代に家族を戦線に送るということへの覚悟が透けて見えた。

もちろんその後に父親のフォローはあるんだけど。あれは衝撃的なシーンだった。

最後に、僕は鑑賞後に人と話し、またいくつか感想や考察のページを見てたくさんのことに気づいた。

例を挙げれば原爆症の描写は鑑賞時にはそれだと全くわからなかった。

大根仁監督はTwitterでもっともっと観ていたい映画だと評している。

同感である。
すずたちの終わらない日常をもっと長く一緒に見守りたい。

▲観る人の素養や感覚によって色々なものが見えてくる映画。戦時中の日本と世界という相入れない言葉にもきっと意味が込められている。 (C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

出典:映画.com

きっと、鑑賞してから他の人の見方に触れるといろいろなことに気づける映画。

そしてそれは、自分があの時代を知るということにつながっていくんだと思う。

★★★★★。

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