映画『名も無き世界のエンドロール』ネタバレ感想|冷徹な“黒衣”の岩ちゃんに圧倒された

タイトル画像
※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

この記事では、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

 

こんにちは。織田です。

今回は2021年公開の映画『名も無き世界のエンドロール』についてご紹介していきたいと思います。

岩田剛典さん新田真剣佑さんが共演し、『キサラギ』などを手がけた佐藤祐市監督がメガホンをとって製作されました。

名も無き世界のエンドロール ポスタービジュアル

©行成薫/集英社 ©映画「名も無き世界のエンドロール」製作委員会

出典:CINRA.NET

「ラスト20分」の衝撃が大きく宣伝されており、観る方も身構えて鑑賞することになりそうですよね。



あらすじ紹介

複雑な家庭環境で育ち、さみしさを抱えて生きてきたキダとマコトは幼馴染み。そこに同じ境遇の転校生・ヨッチも加わり、3人は支え合いながら家族よりも大切な仲間となった。しかし20歳の時、訳あってヨッチは2人の元から突然いなくなってしまう。

そんな彼らの元に、政治家令嬢で、芸能界で活躍するトップモデルのリサが現れる。リサに異常な興味を持ったマコトは、食事に誘うが、全く相手にされない。キダは「住む世界が違うから諦めろ」と忠告するが、マコトは仕事を辞めて忽然と姿を消してしまう。

2年後。マコトを捜すために裏社会にまで潜り込んだキダは、ようやく再会を果たす。マコトは、リサにふさわしい男になるために、死に物狂いで金を稼いでいた。マコトの執念とその理由を知ったキダは、親友のため命をかけて協力することを誓う。以来、キダは〈交渉屋〉として、マコトは〈会社経営者〉として、裏と表の社会でのし上がっていく。そして、迎えたクリスマス・イブの夜。マコトはキダの力を借りてプロポーズを決行しようとする。しかし実はそれは、10年もの歳月を費やして2人が企てた、日本中を巻き込む“ある壮大な計画”だった─。

出典:公式サイト

スタッフ、キャスト

監督 佐藤祐市
原作 行成薫
脚本 西条みつとし
キダ 岩田剛典
マコト 新田真剣佑
ヨッチ 山田杏奈
リサ 中村アン
安藤 石丸謙二郎
宮澤社長 大友康平
川畑 柄本明
幼少期のキダ 島田裕仁
幼少期のマコト 宮下柚百
幼少期のヨッチ 豊嶋花

岩田剛典さんの出演作品は主人公の逃亡犯をしたたかに追い詰めていく警察役を演じた『AI崩壊』、タワマンに住む売れっ子芸能人を演じた『空に住む』を昨年鑑賞したんですが、演じるキャラクターにとても色気を感じさせてくれる役者さんだと思っています。

その色気というのは岩田さんの声だったり目線の流し方だったりするわけですけど、『名も無き世界のエンドロール』においては、大好きで大切な人たちを見守る男性として、優しい色気がにじみ出ていたと思います。目を細めた時の表情がなんとも言えず素敵!

また出演者でいうと、マコトの小中学生時代を演じていた宮下柚百さんは、ぱっちりした二重が印象的で高校生以降のマコト(新田真剣佑)との共通性を感じさせてくれましたね。ナイスキャスティングだと思います。

この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

ラスト20分の衝撃度

冒頭で紹介した通り『名も無き世界のエンドロール』ではラスト20分の真実という触れ込みで、終盤の展開が宣伝されていました。

ミスリードや手のひら返しを誘う展開ではなかったため、個人的には「衝撃を受けた」というわけではありませんでした。
けれど、なぜマコト(新田真剣佑)リサ(中村アン)にあれほどまでに固執したのか、なぜヨッチ(山田杏奈)は高校卒業後のシーンで出て来ないのか、という疑問の回収は確かに終盤で行われていました。

コピーライティングの見せ方って意味では「ラスト20分の真実」というチョイスは仕方ないのかもしれませんけど、疑問の種明かしは丁寧だっただけに、もう少し違うプロモーションの表現はなかったかなというのが正直なところです。

映画の時間軸

この映画は6つの時代設定から描かれています。確認していきましょう。

①小学生時代(2001年)

キダ(島田裕仁)マコト(宮下柚百)が通う小学校に、ヨッチ(豊嶋花)が転校してきます。
ヨッチは髪を金髪に染めた出で立ちで、いじめられていたという過去を明かしました。彼女の赤いランドセルは傷だらけでした。

自己紹介で担任教師から意地の悪い仕打ちを受けたヨッチでしたが、マコトの機転(コーラを使った悪戯)により担任教師に一泡吹かせます。これによって、ヨッチはマコトを信頼するようになり、またキダがマコトとヨッチと同じように親がいないという境遇を明かして、ヨッチはキダにも心を開くことになりました。

②中学生時代

中学に進学した3人は、依然として3人一組で仲良く遊んでいます。

キダに対してマコトとヨッチが仕組んでコーラのドッキリを仕掛けたり、ヨッチを昔いじめていた奴らに仕返しをするため急襲したりというシーンが描かれました。

③高校時代

高校に進学しても3人は一緒でした。
朝からファミレスでだべり、タバスコと粉チーズを大量にかけたナポリタンを食するヨッチ(山田杏奈)を愛しげに見つめるキダ(岩田剛典)と、そのキダの思いに気づくマコト(新田真剣佑)

放課後には3人で海辺に繰り出してはしゃぐマコトをヨッチとキダが温かく見つめたり、カラオケでマコトとヨッチがキダにドッキリを仕掛けるなど、印象的なシーンが描かれます。
キダがヨッチに告白するシーンもこの高校生の時期のものだと思われます。

ナポリタン
ヨッチが食べていたナポリタンは、トマトアンドオニオンで撮影されたもの。2月末までの限定で「ヨッチのナポリタン」というスペシャルメニューが登場しているので、ご近所に店舗がある方は行ってみてはいかがでしょうか?

④自動車修理工時代

高校卒業後、キダとマコトは宮澤社長(大友康平)が営む板金塗装屋さんに就職します。
キダがタバコを吸うシーンがあったので、法に照らし合わせれば成人後と考えられますね。

この時間軸になってから、二人の生きる世界にヨッチが出てこなくなった一方で、リサ(中村アン)という社長令嬢が、事故った赤い高級車をキダたちの店に持ってきます。

ここでどうやらマコトはリサに対して興味を持ち、自分たちとは分断された煌びやかな世界に生きる彼女に釣り合う男になるために行動を始めました。マコトは宮澤板金工場を辞めて、姿を消します。

⑤それから2年後

不条理な道路拡張計画で板金塗装屋が潰れることになり、仕事を失ったキダは宮澤社長の紹介で、裏社会の川畑(柄本明)という男のもとで「交渉屋」として働くようになります。マコトの所在もつかみ、2年ぶりに再会すると、マコトは必死にお金を貯めて輸入ワイン会社の買収を目論んでいました。

キダは引きこもりになってしまったある男の部屋に乗り込み、彼のID(=個人情報、経歴)を600万円で買い、そのIDをマコトへ。マコトは以後「オノセマコト」として成功を収めていくことになります。

⑥さらに8年後(現代)

ワインの輸入業者社長として表社会で上り詰めてリサと恋人関係になったマコトは、クリスマスイブの「プロポーズ大作戦」を画策。
キダは彼の作戦を成功させるべく、裏でひたすら手を回します。

 

ここで紹介した⑤と⑥の間には約8年という歳月があり、キダがリサの元恋人を脅すシーンや、マコトがリサと彼女の父親・安藤議員(石丸謙二郎)に近づく場面もこの間のものだと思われます。壮大な大作戦は、10年間をかけて、マコトとキダが作り上げたわけですからね。入念な下準備がされていたことが想像できます。

時系列が順番に描写されるわけではなく、キダ視点の世界の日常の間に過去のシーンが挿入されていきました。ヨッチに至ってはマコトに告白されたシーンの回想を除き、全てキダが絡む視点でした。それだけヨッチがキダの世界にいつも一緒にいたということですね。

ヨッチの金髪

この映画で鍵を握る存在として、ヨッチ(山田杏奈/豊嶋花)という女性が出てきます。

ヨッチは豊嶋さんが演じた中学時代までは金髪のボブ、山田さんが演じた高校時代以降はミディアムヘアで毛先に明るい金髪が残ったスタイルで登場しました。

この山田杏奈版ヨッチの、黒髪+金髪というヘアスタイルがとても印象的でした。

外見的なことで言えば、髪の毛を半分金髪に染めたりして、見た目的にちょっと外れた感じを出しました。

出典:ザテレビジョン

中学生までのヨッチと高校生以降のヨッチを繋ぐキーとして金髪が使われているんですけど、高校生のヨッチは毛先だけが金髪であとは地毛の黒なんですよね。

髪が伸びる長さは1年に平均12cmと言われています。
山田杏奈版ヨッチと豊嶋花版ヨッチの黒髪部分の長さの違いは、そのままヨッチが経てきた時間を意味しています。

中学生時代のヨッチは根元が少し黒い、いわゆるプリンでした。
恐らくそれ以降、彼女は根元の黒髪をリタッチすることもなく、トレードマークの金髪をやめました。

そのトレードマークだった金髪はもしかしたら反骨心のしるしとか、自分の存在を忘れさせないように示すためのものだったのかもしれないし、確固たる居場所を見つけた今は、その部分で尖る必要がなくなったのかもしれませんね。

配色から見るヨッチ

この映画を見終わってからヨッチに抱く色の印象と言うと、どんな色が思い浮かんだでしょうか?

一つは金髪のイエローゴールド。
もう一つはではないでしょうか?

キダとマコトが通う小学校に転校してきた当時の赤いランドセルにはじまり、高校の通学バッグは赤いリュックを、キダと二人で傘をさして歩くシーンでは赤いパーカーを、ヨッチは着ています。

山田杏奈が主人公の野咲と言う少女を演じた『ミスミソウ』という作品も赤がかなり印象的に使われていたんですが、『ミスミソウ』の赤が「血の色」「攻撃性」の側面が大きかったことに対して、『名も無き世界のエンドロール』でヨッチが身にまとっていた赤は「視覚、記憶に残る色」という意味合いが強いと思うんですね。

タイトル画像

映画『ミスミソウ』ネタバレ感想|どうしてこんなに痛いの?凶器一覧と赤・白・黄色

2020年6月20日

ヨッチは「自分が忘れ去られてしまうこと、ないものにされてしまうこと」を何よりも恐れていました。

この映画では視覚的に強い作用のある赤を印象的に使ったことで、観ている側にヨッチの存在を「忘れさせない」ように意識づけたのではないでしょうか。

配色から見るキダ

一方で、岩田剛典が演じるキダのイメージカラーとしては、「黒」の印象が強かったはずです。
特に川畑(柄本明)の会社で「交渉屋」として働くようになり、表社会には戻れない立場となってからは、一貫して黒い衣装を着ていました。

表情からも感情が消え、冷徹な交渉屋として淡々と仕事をこなしていきました。川畑との掛け合いで微笑みは見せていたものの、あくまであれは愛想笑い。
ヨッチとマコトと笑いあっていた頃のような無邪気な表情を見せるのは、マコトがキダの椅子にドッキリを仕組んだシーンまで待たなければいけませんでした。

「くろこ」【黒子・黒衣】という言葉がありますけど、交渉屋としての人生を選んだキダの生き様は容姿、行動ともに「くろこ」がふさわしいものでした。暗躍という言葉がよく似合います。

表社会で社長として成り上がるマコトが「陽」だとしたら、裏社会のキダは「陰」。
プロポーズ大作戦に向けて陰で仕込みを続けるキダに対して、川畑は「危ない橋っていうのは自分のために渡るものだ」と忠告していました。キダが“誰かのために”あれこれと動いていることがわかっていたんでしょうね。

そんな「くろこ」のキダを演じた岩田剛典の演技がまた味わい深かったですね。
交渉屋となったキダに彼の感情的な意志はほぼ介在していませんし、社会的な道義も捨て去っています。

引きこもりのオノセマコトからIDを買収したときも、リサの恋人だった男を脅迫したときも、彼の行なったことは明確に道義に反しています。オノセもリサの恋人も言わば一般人ですよ。悪事を犯しているわけでもありません。
もし自分が二人の立場だったらと思うとたまったものではありませんよね。

それでもキダの岩田剛典は冷酷非情に彼らの選択肢を奪い取っていきます。有無を言わせず。

本物のオノセマコトとお母さんは、その後自ら命を絶つことに。完璧主義だった彼が転落してしまった顛末や、彼自身にはなんら罪がないことを考えると、とても悲しい最期でしたね。死んだことすら抹消されたわけですから。ある意味安藤がヨッチにしたことと同じですよね。

チート的な仕事人を演じるのって、難しいと思うんですよ。

恫喝の要素を含めれば「冷徹」から逸脱してしまいますし、相手の危機を楽しむ要素を入れればサイコパスになりかねません。

そんな中でキダが見せた冷たさは、彼自身が自分の感情的な一面を排してたどり着いた冷徹さだと思います。リサの元恋人に対して見せた威嚇射撃のシーンなんて本当に凄かった。あのミッションを遂行する上でキダに襲いかかる重圧とか非人道的な行為への後ろめたさとか、そんなもの微塵も感じさせなかったですよね。

この映画をまだ観てない人に紹介するとしたら、一番の見どころはキダを演じる岩田剛典の多面性という風に紹介したい。そう思えるほど圧倒的でした。

岡山観光WEBさんのサイトでは映画のロケ地情報も掲載されています。
印象的なあのシーンのロケ地など、見応え十分でした!興味のある方はどうぞ!

こんな映画もおすすめ

最後にこの映画をご覧になった方に、合わせておすすめしたい作品を紹介します。

22年目の告白 私が殺人犯です

時効を迎えた連続殺人事件の犯人を名乗る男(藤原竜也)が突如として殺人手記を出版。被害者の心を踏みにじるような卑劣な行動に、刑事・牧村(伊藤英明)は憤りを隠せず…。劇場型サスペンスとしてとても完成度の高い映画です!

サヨナラまでの30分

『名も無き世界のエンドロール』で「表側」のマコトを演じた新田真剣佑ですが、北村匠海と共演したこの作品でも「陽」と「陰」の陽側を演じています。衣装さんのセンスも含め、時代の流れを的確に紡ぎ出した丁寧な青春作品でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。