映画『名前』ネタバレ感想|愛すべきおじさん映画!茨城県南民必見!

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こんにちは。織田です。

今回は2018年の映画『名前』をご紹介していきます。

『カラスの親指』などの人気作家・道尾秀介さんが原案を手がけ、戸田彬弘監督のもと映画化。
主演は津田寛治さん駒井蓮さんが務めました。

(作品の情報を探すに当たって、とても検索に不利な「名前」ですよね…笑。検索でこの記事をご覧になってくれた方、見つけていただき本当にありがとうございます!)

今回はAmazon・プライムビデオで配信されていたので鑑賞したんですが、予想以上に楽しめた作品でした!
ストーリー面も、登場人物の演技面もハイレベルな映画だと思います。終わり方も秀逸でした。

あらすじ紹介

様々な偽名を使い分けながら、身分を偽って過ごしていた男(津田寛治)。そんな偽名がバレてしまいそうになったある日、彼の前に「お父さん」と呼びかける女子高生(駒井蓮)が現れました。彼女は一体何者なのか、そして彼は一体何者なのでしょうか。

事前情報なしで観よう!
いつもは色々な映画サイトさんからあらすじを引用していますが、ネタバレが含まれているものばかりだったので今回はやめました。未見の方は是非あらすじを読まずに鑑賞することをおすすめします。
この後、本記事はネタバレ部分に入ります。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください。



スタッフ、キャスト

監督 戸田彬弘
原案 道尾秀介
脚本 守口悠介
中村正男 津田寛治
葉山笑子 駒井蓮
笑子の母 西山繭子
香苗 筒井真理子
正男の飲み友・門 池田良
正男の飲み友・結衣 内田理央
笑子の友達・理帆 松本穂香
笑子の友達・榎本 勧修寺保都
森本工場長 波岡一喜
工場の同僚・水井 アベラヒデノブ
住宅展示場社員 川瀬陽太
正男の恋人・亜未 木嶋のりこ
槙田 田村泰二郎

映画『名前』では映画序盤に25人の俳優陣の名前が羅列されます。
ここで挙げた以外でも、笑子(駒井蓮)の友人役として比嘉梨乃真広佳奈。また演劇部の部員として金澤美穂藤原真緒小槙まこ戸畑心といった方々が出演しています。

この映画では高校生役の方たちがみんな自然体で魅力的でしたよね。

映画のネタバレ感想

以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。

  • 男が偽名を使っていた序盤
  • 「名前」を持つ意味の無効化
  • ロケ地となった茨城について

本記事ではこの3点を中心に感想を書いていきます。

お前は誰だ?

映画は真新しい家に「ただいま」と言って帰ってくる男・津田寛治のシーンで始まりました。

津田の前に恰幅のいい男(川瀬陽太)が「コート、お持ちしますよ」と言って部屋を案内し、そこが津田の自宅ではなくモデルルームであることを私たちは知ります。

子供の性別を聞かれて「…女の子です」、家族構成を聞かれて「3人、ですかね」と答え、アイフルホームのアンケート用紙に「鈴木太郎 43歳」と氏名欄のテンプレみたいな名前を書く津田寛治。何やら怪しいですね。

この後に
「名
 前」
とタイトルクレジットが出て、出演俳優25人の名前が羅列されていきます。

横書きのカギカッコ「」と縦書きの名前という文字を組み合わせていて独特でしたよね!

オープニングが終わると、津田寛治、またの名を鈴木太郎は、飲み友の女(内田理央)と男(池田良)から「吉川さん!!」と呼ばれます。
もう一軒いきましょうよという誘いをニューヨークで商談があるから今日は早く帰ると言ってやんわりと断る吉川さん。彼の生業はやり手の営業マンなのでしょうか?

そんな吉川さんが薄暗い家に戻ると、今度は部屋にいる女(木嶋のりこ)から「石井さん」と呼ばれます。
もう来ない方がいい?と聞くあたり、「石井さん」と関係を持っている愛人のようですが、「ゴミあるから帰るときに出しといて」とあしらわれて出ていきました。

すると翌朝、石井さん・またの名を吉川さんを、「ちょっちょっちょっちょっ!」と呼ぶじいさん(田村泰二郎)の声があります。
町内会の方でしょうか、大家さんでしょうか。よく喋るこのじいさんはゴミ出しのマナーの悪さを咎め、津田寛治のことを「中村さん」と呼びました。

お前は誰だ?

『君の名は。』の瀧くんじゃなくてもそう聞きたくなりますよね。

英語タイトル「THE NAME」のジャケット画像

出典:映画『名前』Twitter

俺の名前は

スーツに身を包んだ中村さん/石井さん/吉川さん(津田寛治)が多摩ナンバーの車で向かった先はペットボトルの回収工場。

よく喋る同僚(アベラヒデノブ)「久保さん」と呼ばれているようですが、「久保さん」は工場長(波岡一喜)に呼び出しを受けてしまいました。

どうやらこの久保さん、工場近くの病院に入院している奥さんの看病のために東京からわざわざ出稼ぎのような形でアルバイトをしているらしいのですが、それがデマカセであることがバレたようで。

窮地に追い詰められた久保さんでしたが、そこで「久保さん、お客さんです」と、来客を伝えられます。

出てみると「父がお世話になっています。久保ミナコと申します」と挨拶をする女子高生(駒井蓮)が。

お母さんの病院18時までだよ、ほら転院して変わったのやっぱり忘れてる、と言って久保を連れ出す女子高生・ミナコ。

久保さん娘さんいたんだ、奥さんの入院ってマジだったのか、と呆気にとられる工場長たちを尻目に、嘘つき男・久保はその場の流れを読み、ミナコと退散します。

ピンチを救った救世主ではあったものの、この女子高生は何者なのか。
なぜ久保が、妻が入院していると嘘をつきながら働いていたことも、その嘘がバレたことも知っているのか。

「久保ユキヒコさんだっけ?ここでは」

車の後部座席でニヤリと笑いながら問うミナコはなぜか久保の家を知っていて、彼の家に着くとずかずかと中に入っていきました。何者なんだこの女。美人局か?俺の秘密をどこまで知っている?

偽りの男・久保が動揺する中、帰り際に女子高生ミナコは「葉山笑子」(ハヤマエミコ)と名乗り、問いかけます。

「教えて。久保でも石井でも吉川でもない、おじさんの本当の、名前」

笑子、そして私たちはここで津田寛治の演じている男が本名・「中村正男」であることを知ります。

そして映画は、(津田寛治演じる)この男が「誰なのか、何という名前なのか」というテーマからあっさりと離れていきました。



納得の伏線回収の連続

この映画の面白いところは、時にこちらの予想を上回りながら、丁寧に伏線を回収していくストーリーでした。

原案を書き下ろした道尾秀介さんは直木賞も受賞したミステリー作家。
素晴らしいトリックで「そうだったのか!」と唸らせてくれる伏線回収、構成力が本当に凄いんです。この映画では谷本賢一郎さんとともに主題歌も担当していましたね。

おすすめ作品
個人的には『ラットマン』『カラスの親指』が特に転がされました!

『名前』でも緻密な伏線の回収はお見事でした。

正男(津田寛治)の家が「霊が出るらしい」ことも、彼の家の裏にゴミが捨てられていたことも、怪しげな人影を目撃したことも、家族がいないはずの彼の家に仏壇があることも。小さな疑問の数々は丁寧に解き明かされていきます。

笑子(駒井蓮)が好きなものとして挙げていたモーツァルトも、彼女の鼻歌として、またオープニングや彼女の独白シーンで用いられた挿入曲として、「トルコ行進曲」が使われています。

笑子が、実はワケありの過去を持っていそうな正男の娘なのではないか?という薄い予測は携帯の着信画面から確度が強くなっていき、そして裏返されます。仏壇や「霊」というシーンを回収しながら丁寧に。

正男が数々の偽名を使っていたこととか、その嘘がバレてしまわないかどうかとか、そんなことはあっさりと捨て去られていきました。

名前なんてどうでもいいんですよ

そうなんです。「名前」という題名を持ち、主人公が偽の名前を駆使している映画でありながら、正男(津田寛治)と笑子(駒井蓮)の間では「名前」はどうでもよくなるんですよね。

二人はお互い本名を知っているわけですけど、呼び合う呼称は「おじさん」「お前」
この呼び方、距離感がたまらなく気持ち良いんですよ。

生活に突然闖入してきた笑子に正男は心を許すようになり、二人はボウリングに行ったり、釣りへ出かけたり、一緒に夕食を食べたり、様々な時間を擬似家族として過ごします。

正男目線で見れば、わけのわからない謎の存在だった女子高生の来訪をいつの間にか楽しみにしている自分がいましたし、笑子側から見れば自分の父(かもしれないおじさん)が好きなことを知れたり、家族とのつながりが希薄な自分と様々な時間を共有してくれるのが日々の楽しみになっていきました。

駒井蓮の透明感に魅了された

女子高生が呼ぶ「おじさん」や、大人の男が使う「お前」って、結構攻撃的であったり相手を不快にさせる可能性のある単語だと思うんです。

というかそもそも、独身のおじさんと高校生の女子が関わり、デートしたりおじさんの家に上がってご飯を食べたりだなんて、倫理的には厳しいんですよ。

でもこの映画は、そういうネガティブな印象を感じさせません。正男が一歩間違えてロリコン最低おじさんになることもありませんでした。(本当によかった)

笑子が前に進むために自分で選択をした終盤や、「お父さん」から卒業したラストシーンは前向きになれる別れが詰め込まれていましたよね。
津田寛治の少し子供っぽい「おじさん」感も効いていましたし、何より笑子を演じた駒井蓮が抜群でした。

同世代(高校)の中でどこか冷めた感じで浮き立つ偽物感。その偽物感を一番わかっている自分。
「おじさん」との擬似的な親子ごっこが心地よい一方で、演劇部、友達関係といった学校生活のジレンマ、家庭の物足りなさをどうやって突破していけば良いのか悩む思春期の高校生。

難しい役どころだったと思いますがそんなことも全く感じさせず、透明感のある演技力でこなした姿は圧倒的としか言いようがありません。
ちなみに劇中の「中村正男」、「葉山笑子」などの手書きの「名前」も駒井さんの自筆。

この先も色んな作品での活躍を見たい役者さんですね!

取手、守谷、つくばみらい

映画『名前』はその多くのロケを茨城県で行なっていて、茨城の取手、守谷、つくばみらいといった県南地域の都市が舞台になっています。

茨城県の地図

公式サイトをはじめとして、各所のあらすじでは「茨城」に正男がやってきたというくだりがあるんですが、映画本編では舞台が茨城であることはほぼ明示されません。
ペットボトルリサイクル工場の工場長が「東京からわざわざ」と言っていたくらいですね。

車のナンバーが土浦だったり、ボウリング場が取手だったり、笑子と正男が初めて本名を交換した駅が稲戸井駅だったりと、「茨城県の地理を知ってる人にはわかる」程度ではないでしょうか。

取手と守谷に至っては、利根川を挟んだ南側がもう千葉県。
この利根川は映画内で渡し舟のシーンで象徴的に使われていました。小堀の渡し(おおほりのわたし)というそうです。

エンドロールでクレジットされていたお店や施設を一通り調べたところ、ヘラブナ釣りをしていた湖(さくら湖)も、同窓会の会場も、飲み友と入り浸っていたバーも、正男の家も、笑子たちの通っていた高校(県立取手松陽)も、笑子が化粧品を万引きしたドラッグストアも全て守谷や取手、つくばみらいといった県南地域のものでした。

正男の家
正男の住んでいた日本家屋はコワーキングスペースとして一般利用できるようです。合同会社フロンティアファームさん

都会ではないけど田舎でもない、自然も残る郊外の街並みに、ノスタルジーを覚える人も多いのではないでしょうか。これだけ地元密着で映画を撮ると、もう少し郷土色を出してもおかしくないように思える中で、淡々と描かれる日常。

主張しすぎない舞台設定も大好きでした。

こんな映画もおすすめ

最後にこの映画を観た人におすすめしたい作品をいくつかご紹介します。

恋は雨上がりのように

「おじさん」の大泉洋に「女子高生」の小松菜奈が恋をする映画。年の差どうなるの?社会的にどうなの?という年齢のカベが純粋な2人にまとわりつくのかと思いきや、キャラ描写が細かくて面白いです!

嘘を愛する女

女(長澤まさみ)が愛する男(高橋一生)は経歴を詐称していました。彼は一体誰なのかを、長澤まさみが探偵と一緒に探しに行く作品。多分好みは分かれる映画だと思います。

君が世界のはじまり

大阪の郊外で鬱屈を抱えながら暮らす高校生たちを描く、素晴らしき青春群像劇。『名前』と同様に等身大のティーンが素晴らしく、松本穂香が主人公を演じています。副題は「My name is yours」。「名前」に着目しながら観ると面白いと思います。エモいという単語がよく似合う作品。

鑑賞済みの方は感想記事も読んでいただけたら嬉しいです!

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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