98年の映画『D坂の殺人事件』を観ました。
実相寺昭雄監督、真田広之、嶋田久作ら出演。江戸川乱歩の原作は未読ですが、明智小五郎シリーズなのですんなりと。
明智小五郎は嶋田久作
贋作の絵師を真田が演じているが、縛られた女を描く上での彼の自己陶酔と艶やかなる倒錯がたまらない。
顎を上げて、鏡の中の自らを誘うように目を流し、自らを縛り上げて美しき自分を鏡のキャンバスに作り出す。
ナルシシズムと言えばそれまでかもしれないが、ラストシーンで小林少年(三輪ひとみ!幼い!)がこぼしたように性的倒錯に走ってしまう人間の深みと実際を描いていると思う。
なお、江戸川乱歩シリーズでしばしば女装をする小林少年は節々でまんざらでもない風な描写が多かったので、この映画も小林少年のキャラクター付けという点ではあながち間違っていないのかなとも考えた。
原作を読んでいないのでなんとも言えないが。
ストーリーの本筋とは関係ないところで被虐の快楽を描いたり、主人公の性障害(恐らく)を描いたりと乱歩ならではのアブノーマルな性が強く押し出された作品。
謎解きとしては面白みもなく、推理を楽しみたい人にとっては物足りなく映るかもしれないが、今作において名探偵・明智小五郎の重要度は高くない。
その中で嶋田久作の明智小五郎は新鮮であり、また彼の若さもあいまって良かった。
多少変人、あるいは自信過剰な風に表現されることの多い明智探偵だが、嶋田の明智は淡々とクールで僕の中のイメージに近かった。
嶋田久作でもう少し明智がフィーチャーされ、二十面相と不気味に笑いあったり、警察を煙にまいたりする話をみてみたいものである。
余談だが、D坂とは東京の千駄木にある団子坂のこと。
谷根千にはふらっと散歩に行くことがあるが、あの坂が殺人事件の小説の舞台になったことは不思議であり、また納得でもある。
紙模型でシーンを区切った演出も芝居らしくて可愛かった。
妖艶な和風エロティシズムが好きな人は良いかも。