12年の映画『ふがいない僕は空を見た』を鑑賞しました。
永山絢斗、田畑智子、窪田正孝。
監督は『百万円と苦虫女』のタナダユキさん。
あらすじ紹介
助産院を営む母に女手ひとつで育てられた高校生の卓巳は、友人に連れられて行ったイベントで、アニメ好きの主婦・里美と出会う。それ以来、卓巳と里美はアニメのコスプレをして情事を重ねるように。そんなある日、同級生の七菜から告白された卓巳は、里美と別れることを決心するが……。
スタッフ、キャスト
監督 | タナダユキ |
原作 | 窪美澄 |
脚本 | 向井康介 |
斉藤卓巳 | 永山絢斗 |
里美(あんず) | 田畑智子 |
卓巳の母 | 原田美枝子 |
福田良太 | 窪田正孝 |
田岡良文 | 三浦貴大 |
あくつ純子 | 小篠恵奈 |
里美の夫 | 山中崇 |
映画のネタバレ感想
以下、感想部分で作品のネタバレや展開に触れていきます。未見の方はご注意ください。
なんだこれ⁈⁈⁈
制服を着た斉藤卓巳(永山絢斗)ががちゃりとドアを開ける冒頭。
次のシーンでアニメの女キャラクターにコスプレしたあんず(田畑智子)がベッドで待っており、こちらもなにやら紫の色の髪とナポレオンジャケット風にコスプレを施したムラマサ様なる男が言葉をかけ、あんずと重なっていく。(モザイク有り)
??
これはファンタジーか?
全く事前情報を入れずに再生したのでまず面食らった。
コスプレ?それともファンタジーのパラレルワールドなのか?
ムラマサは誰だ?斎藤工か?瑛太にも見えるぞ?
と思ったら永山絢斗で。まあ瑛太の兄弟ですしね。
卓巳がコスプレをしていたという話。
ちぎったノートに書いた台本の通りに二人は果て、旦那が帰ってくるからまたね、早く冬休みにならないかな、そしたら朝から会えるのに、と、あんずは卓巳にお金を渡す。
ここで不倫関係とあんずの趣味によるコスプレプレイが補完された。
このコスプレに関してはあんずと卓巳の出会いは同人サークルの即売会であり、あんずのアプローチが匂わされる描写がなされる。
撮影も実際の即売会で行われたのかなと思わせるものだった。(エンドロールに記載)
しかし、思いを寄せていた同級生(田中美晴)に(しかも向こうから)告白された卓巳はあんずとの決別を決意。
件のコスプレをして待っていたあんずを押しのけて部屋を出て行き、卓巳にあんずは呪ってやると叫ぶ。
ところがところが、同級生の彼女との精神的な差異を感じたのか、あるいはスーパーで妊娠グッズを探すあんずを見つけたからか。
卓巳は再びあんずの部屋へと向かう。
チャイムを押し、「オレ…です」
おもむろにリビングで二人は愛しあい、
その日から、俺の頭の中は
あんずでいっぱいになった
との字幕でシーンが替わる。
馬鹿なので見終わってから気づいたが、ここまでが卓巳視点のパートである。
二度見せトリック
シーンは替わり、人工受精の失敗を告げられるあんず(本名・里美。ただ卓巳は多分本名を知らない)。
次々と描かれるあんずの里美としての家庭の顔。不妊。重圧。過去の罵り。
何故彼女が自分への罵詈雑言を書きたくられたルーズリーフをいまだ持っていたのかは謎だが、あんずはムラマサ様の卓巳を見つけたことで、過去のルーズリーフを捨てた。
里美はムラマサ様の卓巳を見つけたことであんずとしての世界を見つけた。
しかし、夫に卓巳との不倫を隠し撮りされ、離婚させてくださいと土下座するも、別れたら世界中に動画をばらまく!と泣きわめく夫(山中崇)。この夫もまた実に幼児性の高い男として描かれていた。
悪い人じゃないんだけど。
最後に卓巳とのリビングでのセックスで里美のターンは終了。観葉植物に覗くカメラは知っていて里美はやったのか、知らなかったのかは定かではない。
ただ、僕は鑑賞時はこの二つのパートを別々として見ていなかったので、
コスプレプレイから卓巳の決別宣言、そしてリビングでの再訪に至るまで時間軸が巻き戻され続けた感覚を受けた。実際はパート内ではほとんど戻っていないのだが。
『百万円と苦虫女』でも思ったけど、タナダユキ監督は時間を操る能力に長けた作り手である。
性と生、よりも
同じように里美の次は卓巳の幼なじみ・福田(窪田正孝)にロールが回り、あんずと卓巳のハメ撮りが流出してからを描く。
貧困層のやるせなさを小篠恵奈(あくつ)とともに好演した窪田正孝。
完全に主人公としての描き方をされていたが、そのなかでも卓巳や卓巳の母親(原田美枝子)は福田と切っても切れない関係として少しずつ登場する。
卓巳の母のパートも含めれば大きく4つに分かれる本作だが、キャッチコピーにある『性と生』よりも僕は「施し」というキーワードが頭に残った。
あんずは卓巳によって施しを受け、また卓巳もあんずの存在が施しとなる。
福田は文字通り食や田岡(三浦貴大)らが施しであり、チロルチョコが彼からの施し。
卓巳の母親は子供たちの命が生まれるお手伝いをして、一方でその命により施しを受けている。
しばしば出てくる神様というキーワードにはそんなニュアンスがあるのではと思ってしまうのである。
謎多き良作
2時間20分を超える長い作品だった。
卓巳とあんずの話かと思いきや卓巳の幼なじみの福田にまで話を広げ、しかもそれがメインストーリーとなっていく。お腹いっぱいの詰め込みぶりである。
視聴者に委ねられる謎も多かった。
なぜ福田は卓巳のハメ撮りの写真を嬉々としてばらまいたのか。
弱さを持つ人間を叩くことで現実逃避というか自らの鬱屈を一時的にでも晴らしたのか。
また福田とともに団地住まいの貧困層である、あくつ(小篠恵奈)はなぜあれほど卓巳のスキャンダルに拘ったのか。彼女もまた鬱屈する日々の当たるべき場所を探していたのか。
さらにリビングで卓巳とした後のあんずは果たして本当にアメリカに行ったのだろうか。
学校に再び登校して「ムラマサ様~」と級友に野次られ、彼のもとへ迫る卓巳は何と言ったのか。
謎だらけである。
それでも、この映画はとても素晴らしく、またやるせない人間たちを描いたものだった。
どん底に堕ちた人間の這い上がる未来は視聴者の想像のなかに……
失敗を犯した人間や社会的に立場の弱い人間を蔑むことはたやすく、それはまた人間の本質であるのかもしれない。
ただし、である。
助産師の母親を手伝うミッちゃん先生(梶原阿貴)は言った。
間違った恋愛をしたことないやつなんていんのかよ、と。
最近の話題で言えば、東京オリンピックのエンブレム問題。
僕は元々オリンピックを東京に招致することに反対だったので意見を述べる権利もないが、人々は佐野さんを叩きに叩いた。
マスコミの報じ方ももちろんだけど、何かを叩かないとニュースにならない、世論が盛り上がらない、そんな世論とやらが少し悲しい。
叩かれるべき存在を叩くこと、弱いものを嗤うことで得られるもの。それは本当に生産的なのでしょうか。
田畑智子と窪田正孝が本当に本当に良かった。