映画『ぼくたちの家族』感想~長塚京三に涙した~

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2014年の『ぼくたちの家族』を鑑賞。
石井裕也監督、主演に妻夫木聡。原作は早見和真。

呆け始めた母親に脳腫瘍が発覚し、父親(長塚京三)長男・浩介(妻夫木)次男・俊平(池松壮亮)の男三人が奮闘するお話。

あらすじ紹介

ごく平凡な一家の母・玲子は物忘れがひどくなり、病院で検査を受けると、末期の脳腫瘍で余命1週間と宣告される。玲子は家族がバラバラになることを恐れながらも認知症のようになり、家族にひた隠しにしてきた本音を吐露。突然訪れた事態に父は取り乱し、社会人の長男は言葉をなくし、大学生の次男は平静を装おうとする。残された男3人はさまざまな問題と向き合いながら、最後の「悪あがき」を決意する。

出典:映画.com

スタッフ、キャスト

監督・脚本 石井裕也
原作 早見和真
浩介 妻夫木聡
俊平 池松壮亮
玲子 原田美枝子
克明 長塚京三
深雪 黒川芽以



お父さん、頑張って!

池松壮亮に関しては『横道世之介』『愛の渦』などで高評価している通り、安心して見られる俳優の一人。
奔放で行動力のある次男を演じた彼もよかったが、長男・浩介を演じた妻夫木がさらに凄い。

浩介は恐らく一番家族でまともでありながらも、一番十字架を背負わなければいけなくなってしまった人間である。

父親は頼りないし借金まみれだし、弟は自分勝手な子供だし、婚約者との時間もなかなか取れないし…で責任感に押しつぶされそうな長男を演じる妻夫木。

基本的に感情を押し殺すようにして落ち着いている雰囲気が素晴らしかったが、病室で付き添っている父親が夜遅くから明け方にかけてひっきりなしに電話をかけてくるシーンでは(浩介は翌朝から仕事である)さすがにストレスを隠せなかったようであった。
お母さんより長男が危ないのではと心配になるくらいの心労が妻夫木の表情に刻まれていた。

病気でネジが外れかけたお母さんがしきりに「家族だから」と帰るべき場所の家族を強調するが、作品全体としては意外と家族の絆の押し付けがましさはなかったのも好印象。

若菜家のシーンが主に暗がりや自然光の中で撮られ、浩介の同棲先のシーンは明るい蛍光灯の下で白く映っているコントラストも良かった。
お金に対しての白さを投影したのかな。

実は一番凄いと思ったのは、長塚京三。
あんなにだらしなくて情けない父親を、しかも長塚京三が演じていることで作品にリアリティが上積みされた。
本当に我々からしたらこの親父(おふくろも)だめだな…と思うわけだけれど、妻夫木も池松も家族だから受け入れて付き合っていくしかない。

人物に色々とバックボーンの描写はなされているが、潔く回想シーンはなし。

前に、前に、前に。進むしかない。

精度の高い脚本、演出に、役者の悲壮感が混じり合った素晴らしい作品だった。