映画『秒速5センチメートル』〜帰り道の幸福〜

僕は小さい頃から一人で電車に乗るのが好きだった。

小、中学生の頃はまだSuicaやPASMOなんてなかったから、路線図で駅を探して切符を買って、時刻表でなんとなく到着時刻を計算して。

小学四年生の時に初めて横浜駅から東横線に乗り換えたときは本当にドキドキした。

普段と違う風景が窓の外に見え、その風景は電車が進むごとに表情を変える。

そしてその表情の変化は、時が経ってからの普段の通勤、通学では全く気づかなくなる。

『君の名は。』で印象に残ったのは中央・総武線を始めとする電車と車窓の描写だった。

今回観た新海監督の『秒速5センチメートル』でも効果的に電車が使われている。

2007年公開、新海誠監督。

15年がかりの恋物語

連作短編アニメーションという通り、三章で約1時間の物語を結ぶ構成。

『ほしのこえ』と同様地理的に引き剥がされた男子と女子を、人生の3地点に渡って(中1、高3、社会人)描いた作品である。

詩的な独白調は相変わらずで、中1にしては大人びた言葉遣いではあるが、その言葉と風景が美しいので許容できる。

というより、僕は心を洗われるほどだった。

秒速という速さと、距離と、時間。

距離には地理的な距離と心理的な距離があるが、手紙という媒体、メールという媒体を使いながら色々な距離と時間が比例していく様を描いている。

(C)Makoto Shinkai / CoMix Wave Films

出典:映画.com

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圧倒的な描きこみ

ストーリーを追うだけでも十分に面白く、主人公・貴樹(声・水橋研二)の成長と変化に飽きないが、背景描写がたまらなくノスタルジーを刺激する。

前述の電車は都内→栃木の移動で登場。

武蔵浦和や小山といった駅も乗り継ぎで出てきて、大宮を越えると一気に田園風景が広がるシーンは多くの人が共感できるのではないだろうか。

『君の名は。』でも指摘した通り、電車のドアや部屋のドアの「開閉」という動きに対するこだわりはやはり随所に感じられた。

また、画面内の電車の移動方向によって栃木へ「行く」のか栃木から「来る」のかという意図もあるのかな、と考えてみたりもした。

そして、第2章で描かれる帰路が胸に突き刺さりすぎて凄い。

好きな男の子と帰りの駐輪場で鉢合わせるために時間を調節する女子高生。

思いに気づきつつも、それには応えることなく彼女に優しくする貴樹くん。

各々のカブに乗った二人はコンビニに寄り、90円のジュースを買って、家路につく。

この帰り道がどれだけ彼女(澄田=声の出演は花村怜美)にとって幸福な時間だったか。
そして同時に澄田は、隣にいる貴樹にどれほどの距離を感じていたのか。

その時、貴樹は別に想い続ける運命の女性にどれほどの距離を感じていたのか。

僕はこんなキラキラした青春を過ごしていないが、彼らの、特に澄田の精神状態はよくわかる。

わかりすぎて、だからこの作品は痛みを伴う。甘酸っぱい思い出と痛みを。

ある種ベタベタな青春の物語だったが、引き込まれたのはやはり圧倒的な映像美。
フィクションにしてフィクションに思えないほどの背景。

雲の影、風の音、季節の匂い全てが画面を通して伝わって来る。

悦に入った表現や言葉が嫌いではない人はぜひ観てほしい。

構成や象徴的なシーンなどで『君の名は。』との共通点はいくつもある。

あとは東京都心の西側が多くて、東東京に住む身としては少し寂しい。

終わり方は賛否両論かと思うが、美しい切れ方ではあったかな。

★★★★★。

ちなみに冒頭では消しゴムが「NOMO」だったが、その後のシーンでは「MONO」でトンボのロゴも入っていた。詳しい人いたらコメントで教えてください。

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